仮差押とは、相手方に対して訴訟を行って金銭を請求していく際に、結局相手方に金銭がなくなって回収できなくなることを防ぐために、先に相手方の特定の財産を動かせなくする手続です(民事保全法)。
いわゆる「凍結」の手続です。

この仮差押は、預金口座・保険等の流動資産の他、不動産に対してもすることができます。
私達の弁護士法人アズバーズがやったことがあるケースでも、以下のように様々なケースがありました。

  • 企業間の売買や請負契約の代金
  • マンション管理費の請求
  • 個人間の貸金の請求
  • 離婚問題における慰謝料請求等

このうち、不動産の仮差押を中心に、

①マンション管理費請求の際の不動産仮差押
②離婚の問題の際に不倫の損害賠償請求権を保全するための仮差押
③貸金請求権を確保するための不動産仮差押

ということについて、これまで体験した事案に沿ってご説明したいと思います。

https://as-birds.com/media/wp-content/uploads/2020/09/CW_6152793-01-460x460.jpg
櫻井弁護士

学校法人中央大学の法務全般を担当している中央大学「法実務カウンセル」(インハウスロイヤー)であり、千代田区・青梅市の「弁護士法人アズバーズ」代表、弁護士の櫻井俊宏が執筆しております。

1 マンション管理費請求の際の不動産建物仮差押

一度、マンション全体の管理を行っていた不動産屋さんが、マンションのオーナーが2年間管理費を支払ってくれないというケースを担当したことがあります。
依頼者である不動産屋が、マンションのオーナーともともと仲が良く、また、マンションのオーナーの体調が悪くなっていたということで強く請求できず、2年で230万円ぐらいの管理費が未払となっていました。

通常、相手方に不動産があるかどうかを探すのは大変ですが、マンションのオーナーなので、もちろんそのマンションという不動産はあるわけです。

https://as-birds.com/media/wp-content/uploads/2020/09/CW_6152793-03-460x460.jpg
櫻井弁護士

そこで、私は、このケースは事前の仮差押をするべきであると考えました。
未払になっているということは、このオーナーが現金や預金の余裕がない可能性が高いからです。

不意打ちである必要性

仮差押は「不意打ち」であるのが重要なので、相手方に先に書面を送ったり、取り立ての電話をすることはタブーです。

仮差押に際しては、訴訟と同じような資料一式を作って裁判所に申立てをします。
しかも、固定資産評価証明書・不動産登記簿・法人の場合は法人登記簿謄本等も添え、必要な部数の不動産の目録、当事者の目録等も用意する必要があります。

https://as-birds.com/media/wp-content/uploads/2020/09/CW_6152793-03-460x460.jpg
櫻井弁護士

また、請求権がほぼ確実に存在するということを証明(保全の場合は「疎明」というやや弱い証明をすることになります。)する証拠も添付する必要があります。

https://as-birds.com/media/wp-content/uploads/2021/05/CW_623907-案03-removebg-preview.png
事務員

本件の場合は、マンション管理契約書と不動産会社本人の陳述書その他の書類ということになりますね。

https://as-birds.com/media/wp-content/uploads/2020/09/CW_6152793-03-460x460.jpg
櫻井弁護士

申立てた後、霞が関の東京地方裁判所の場合は、できるだけ早い段階で裁判官と面接して判断してもらうことになります。
弁護士なしには難しい複雑な手続です。

相手方に知られないように行わないと、例えば預金の場合は全部引き出してしまうというように結局財産を隠されてしまい、やる意味がないので、相手方に気づかれない形でこっそりと素早く裁判所に申し立てて進めることになります。
先に「支払わないと預金口座を差し押さえるぞ」等と脅すことはかえって失敗してしまうことになってしまうということです。

高額な担保金が必要

このことから、支払わない相手方の意見を聞かずに、裁判所が認めるかどうかを決定することから、万が一もともとの請求権が真実でなかった場合等、その相手方(手続上「債務者」といいます。)に損害を与えてしまう恐れもあります。
そこで、仮差押の申立人は、担保として、裁判所の決めたお金を事前に法務局に納付する必要があります。
動かせないようにしたい相手方の財産の金額の10~30%程度が通常です。
つまり、1000万円分の預金を凍結させるためには、100~300万円ぐらいの担保金が必要ということです。

https://as-birds.com/media/wp-content/uploads/2020/09/CW_6152793-03-460x460.jpg
櫻井弁護士

実は、この「高額の担保金」が仮差押等の保全手続の最大のネックなのです。

本件のマンション管理費の事例では、オーナーの「建物」のみ仮差押で凍結させることにしました。
建物の方が大きく安いので、担保金が削減できるからです
また、建物のみでも仮差押できれば、土地と一体となって財産的価値がなくなるので、債務者であるマンションオーナーは困るから、支払ってくれる可能性が高まるわけです。

現に、本件では、150万円ぐらいの担保金で、無事、裁判官に仮差押を認めてもらいました。
仮差押が認められて、法務局に担保金を入金し、裁判所にその旨を伝えると、裁判所から法務局に要請があって、その不動産登記簿に「仮差押」されている旨が記載されるのです。
この仮差押状態では、登記を移せないことになるので、実質的に他に売り払うことはできないということです。

引用:イクラ不動産HP

その後、マンション管理費の裁判を改めて提起し、相手方はくさびを打ち込まれた状態でどうすることもできず、分割でほぼ250万円全額を支払ってもらうという内容で裁判上の和解をすることができました。
オーナーは、なんとかどこからかお金を用立てて、最後まで管理費の未払分を支払いました。

2 離婚の財産分与で財産隠しを防ぐ仮差押

https://as-birds.com/media/wp-content/uploads/2021/06/CW_6239073-案03c-removebg-preview.png
事務員

離婚の財産隠し問題における仮差押はどのようなときに行うのでしょうか。

https://as-birds.com/media/wp-content/uploads/2020/09/CW_6152793-01-460x460.jpg
櫻井弁護士

相手の財産隠しの恐れについて、離婚調停中であれば、「調停前の仮の処分」という手続を申立てることができます。

しかし、この手続には強制力はありません。

裁判官と調停委員で構成させる調停委員会が、財産を隠そうとしている当事者に対し、何らかの処分を告知するだけの手続です。

そこで、離婚の財産隠しに対しては、1と同様、一般的な民事上の仮差押を行う必要があります。

財産隠しに対抗するため、財産の分与請求権を守るために仮差押を申立てるのが通常であると思います。

ケース①不倫した夫が家を売却しようとしたが、仮差押で対抗

私達が手掛けた、離婚で不動産仮差押が問題となった事案では、不倫した夫が自分から家を出ていって、その持ち家(一軒家。夫の単独名義)には妻がまだ居住しているにも関わらず、夫が強引にその家を売ろうとしたケースがありました。

このケースでは、夫が、妻に弁護士である私達が入っていて離婚調停が行われていたにも関わらず、強引に妻が居住している家を売ろうと、(おそらく闇の業者である)ワールドなんたらいう不動産屋に相談していました。

その不動産屋から、こちらの依頼者である妻が住んでいる家に、
「すぐ出ていくプランなら何円で売れる、あなた(妻)が居住したまま売却するプランでは何円で売れる。出ていかないならそのまま売るプランで進めます。」
というような説明書みたいな書面が届いたのです。

https://as-birds.com/media/wp-content/uploads/2020/09/CW_6152793-08-460x460.jpg
櫻井弁護士

いわば間接的な「住んでいてもそのまま家を売るぞ」という脅迫です。
夫もひどいですが、この不動産屋もひどいものです

このケースでは、夫が不倫を認めていました。

ということは、妻が夫に対して慰謝料損害賠償請求権を有しています。そこで、その損害賠償請求権を確実に実行するためという名目で、仮差押を行いました。

裁判官も、「このままでは売られてしまう,早く仮差押を実行した方が良いですね。」と快諾してくれました。

仮差押は実行され、登記簿謄本に「仮差押」がされた旨が記載されることにより、不動産会社も買いたくなくなるので、夫の方で家を売ることができなくなりました。
次の調停期日以降打つ手がなくなった相手方は、妻にきちんと慰謝料と財産分与をするように話してきて、その後,有利な条件で和解をすることができました。

ケース②不倫した医師の夫の預金口座を仮差押

もう1件、夫が医師で不貞をしていたケースの離婚で、預金口座を仮差押したケースがあります。

・相手方である夫が長期間にわたってひどい不貞を行っており、その証拠も多数
・財産も全体として査定が難しいものが多く含まれていて、すぐに財産分与請求権を守るための仮差押の書類を作成することが難しい状況

https://as-birds.com/media/wp-content/uploads/2020/09/CW_6152793-03-460x460.jpg
櫻井弁護士

上記の状況で、急ぐ必要もあったことから、やはり不貞に基づく慰謝料請求権を守るためという目的で、預金口座に対して仮差押の申立てを行い、認められました。

このケースは立川の裁判所での申立てでした。
立川は、東京市部の事件を全部担当するわりに人員が少なく、事件の処理が大変であるということもあるのでしょうか。霞が関と違い、申立書類一式を見てもらって、その後連絡をいただき、修正するところや補完するところを指定され、それを行った結果、申立てが認められました。
1000万円の請求権につき、担保金は200万円でした。

ひょっとすると、コロナの影響で、直接の面接を避けた結果かもしれません。

大きく慰謝料が認められるようなケースは、迅速性を重視して、慰謝料請求権を保全するというやり方も有効であると思います。

3 貸金請求における不動産の仮差押

もう一つのケースとして貸金のケースがあります。
しかし、貸金と言っても、350万円ぐらいのお金を一切返済していない、ほぼ寸借詐欺の事案でした。

https://as-birds.com/media/wp-content/uploads/2020/09/CW_6152793-03-460x460.jpg
櫻井弁護士

この件は非常に悩みました。相手は、夫婦の妻なのですが、話を聞いていると、人からお金を借りまくっているようでお金がなさそうなのです。


https://as-birds.com/media/wp-content/uploads/2021/06/CW_6239073-案03c-removebg-preview.png
事務員

不払の事案は、結果的に裁判に勝訴しても相手方に財産がなければ意味がありませんよね?

https://as-birds.com/media/wp-content/uploads/2020/09/CW_6152793-03-460x460.jpg
櫻井弁護士

そうです。このように、金銭を請求する場合には、まず、最終的に強制執行できるかどうか、相手方の財産を調査することが重要です。


その中で、特に相手方の住所の不動産を調べるのは常套手段です。

すると、びっくりしたことに、数日前まで夫の所有物だったマンションが、その妻に贈与で移転していたのです。
夫は、なにか不動産を所有できない理由ができたのでしょうか。

なので、すぐに依頼者に仮差押をした方が良い旨を告げ、数日の間にマンションを仮差押えしました。

https://as-birds.com/media/wp-content/uploads/2020/09/CW_6152793-01-460x460.jpg
櫻井弁護士

後で裁判を提起して、裁判中に相手方が言うところでは、あと何日かで売るところだったということなのです。ギリギリセーフといったところです。

いずれにしても、そのケースでも、相手方はどこからか350万円を調達して、和解が成立し、350万円を支払ってもらうことができました。

4 まとめ

仮差押は財産隠しを防ぐには有効です。

ただ、それなりの金額の担保金が必要なので、ご注意ください。これは仮差押等の保全のネックな点です。

なるべく早く申立てが認められるように、最初の資料集めをしっかりやりましょう。

【2022.6.13 記事内容更新】

幻冬舎GOLD ONLINE 身近な法律トラブル

人気記事




関連記事

特集記事

最近の記事

  1. 自民党熊本県議の賭けゴルフは賭博罪告発で書類送検 原元監督の疑惑は?犯罪となる相場は?【弁護士が解説】

  2. スポーツ法務|スポーツ選手のスポンサー契約を成功させるには?雛形と注意点も解説

  3. 家族間でのクレジットカードの貸し借りトラブル|親(子)や夫(妻)名義のカードを使ったらどうなる?

TOP