離婚の紛争において,お金のことで一番問題となるのが財産分与です。
離婚問題において,慰謝料はひどい不倫等があってもせいぜい300万円以下ぐらいになってしまうので,今後の人生に備えて大きな金額を確保したいのであれば,夫婦生活でできた財産を分け合う財産分与をしっかり進めていく必要があります。
夫婦財産が多い場合には,なおさら財産分与に力を入れる必要があります。
財産分与はどの段階で発生するか,
財産分与の対象財産は何か等,
解説します。
中央大学の法務全般を担当している中央大学「法実務カウンセル」(インハウスロイヤー)であり、
新宿・青梅・三郷の「弁護士法人アズバーズ」代表、
弁護士の櫻井俊宏が執筆しております。
1 財産分与の基準時はいつか
日本では夫婦の財産は別々となっていますが(「夫婦別産制」といいます。民法762条。),結婚時から離婚時までの間に形成された財産は,原則として半々に分け合うのです。
財産分与の2分の1ルールについて
厳密にいうと,「同居時から別居時」です。
このことからすると,夫婦の関係が既に悪くなっていて,例えば,夫が,財産分与上自分に利益になるように,財産をこっそりどんどん使われたり,隠したりされそうであったとすれば,妻は早めに自分から出て別居した方がよいということになります。
別居前に使われてしまった財産は,財産分与の対象にならないからです。
例えば,一度,別居時に夫が管理する金額が1000万円,妻が管理する金額が500万円という状態が確定すると,それを750万円ずつ分け合うのが原則となります。
その金額で固定されるイメージで,それ以降に両者が使ったお金は計算の基準に入りません。
預金や生命保険の解約返戻金等の財産を隠されそうになった場合には,裁判所に申し立てて,裁判所から銀行や保険会社に命令をしてもらい,預金や保険を動かせなくする仮差押等の「保全処分」が有効です。
離婚の財産隠しに対抗 仮差押
なお,「別居を言い出しにくい」といった相談を良く聞きます。
しかし,自分から家を出ていって別居したとしても,生活費(婚姻費用)をもらう権利はあり,不利とはなりません。
下記の記事参照。
自分から別居した場合も生活費(婚姻費用)がもらえる?
相手方が不倫やDVを行っている等の離婚理由がない場合,別居期間を5年以上積み重ねる必要があります。
このことからしても,別居がはじまらないとなかなか離婚には至らないのであり,できるのであれば思い切って別居をまずする必要があります。
2 夫婦財産ではない特有財産について
例えば,「結婚したときの同居時に自分は300万円持っていて,別居時に1000万円持っているから,夫婦生活によって増えた分は700万円に過ぎない!」
と主張するのであれば,同居時に300万円持っていたことを,当時の預金通帳等で,自分で証明する必要があります。
この300万円は財産分与の対象とはなりません。
これを「特有財産」といいます。
預金通帳の取引履歴は,銀行に取り寄せても10年分ぐらいしかデータが残っていないので,結婚時の預金の残高がわかる通帳等は,万が一離婚ということになったときのために残しておいた方がよいということになります。
なお,親から相続した財産も特有財産に入ります。
そうだとすると,相続分についても証明ができるように、相続財産も現金手渡しではなく,預金通帳に振込等の履歴を残しておいた方がよいということになります。
3 財産分与の対象財産
夫婦の同居中に形成された,務めていた会社の退職金も分割の対象となります。
しかし,これに関しては,必ずしも全て対象になるとは限りません。
退職金の財産分与についての記事はこちら
これとは別に,相手方に,他の口座等に振り込む方法等で財産隠しをされた場合に,通帳に移した履歴が残っていれば,振込先の隠し口座等を開示してもらい,財産隠しを暴くことができます。
もっとも,これに関しては,裁判所を利用した手続(文書送付嘱託や調査嘱託)でないとなかなか難しいです。
文書送付嘱託や調査嘱託についての記事はこちら
文書送付嘱託や調査嘱託は,相手に預金口座が存在することがわかっていても,金融機関の支店名までわからないと後々その口座の内容を開示してもらうことはできないので(ただしゆうちょ銀行は支店までわからなくても大丈夫です。),別居をするときは,相手の預金口座の金融機関・支店の情報をおさえておく必要があります。
その他,不動産はもちろん,生命保険や証券,自動車も財産分与の対象となります。
なお「年金分割」といって,同居していた期間に積み立てられた厚生年金等の公的年金も半々に分けることができます。
まずは別居をする際には,こっそりでもいいので,相手方の財産を示す資料の写し又は写真を集めておきましょう。
4 債務について
債務,すなわち借金については財産分与で分け合うことになるかは,「分け合わない」というところが原則です。
しかし,借金がプラスの財産とひもづいている場合等,財産分与の対象となる借金もあります。
詳しくは下の記事で解説しております。
借金はどのように財産分与されるのか
また,住宅ローンについては,まさにプラスの不動産にひもづいた借金として財産分与の対象となりますが,
その不動産を売却するのかどうか,
誰が住んで誰が今後ローンを支払っていくか
など,更に難しい問題をはらんでおります。
家の財産分与はどのように行われるか
5 まとめ
このように,離婚をする場合,紛争に備えて,財産分与を意識した初期行動をとる必要があります。
これができないと,相手方にイニシアチブをとられ,他の条件等も悪い条件を押し付けられることもしばしばです。
特に子供の養育権を持つ側は,今後の子供の生活のことも考えて,しっかり自分が本来もらえる財産は確保すべきだと思います。