裁判所の調査嘱託に回答義務はあるのか ~弁護士会照会との比較~

離婚・男女法律問題

裁判が行われていて、ある情報が得たいと思う場合、裁判所に「調査嘱託」という手続を申し立てると、裁判所が第三者に対して調査を命じ、その情報を得られるときがあります(民事訴訟法186条)。
では、この調査嘱託がされた場合において、第三者は回答義務を負うのでしょうか。

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櫻井弁護士

千代田区・青梅市の法律事務所弁護士法人アズバーズ、代表弁護士の櫻井俊宏が解説します。

この点については、法人の顧問企業からも良くご質問があります。
以下、似た制度の弁護士会照会と比較しつつ、説明します。

1 調査嘱託を裁判所に申し立てる方法

調査嘱託を行う際には、【調査嘱託申立書】というものを裁判所に提出する必要があります。

ただ口頭で「~について調べてほしいので,調査嘱託を申し立てます。」と言っても裁判所は応じてくれません。
下記のような申立書になります。

調査嘱託の申立書が裁判所に提出された場合には、その申立に対する相手方の意見を聞き、

・その裁判との関連性の強さ、
・その裁判において開示を求める情報が結果を左右するか、

等から裁判所によって採否を判断されることになります。この調査嘱託の申立に応じるかどうかは、裁判所の裁量です。

例えば、離婚の裁判で、相手方である夫がみずほ銀行の口座を持っていることをわかっているのに開示しない場合、財産分与の対象財産がわからなくなるので、必要性は極めて強く、この調査嘱託は認められやすいということになります。
また、交通事故の実況見分調書等も、当然にその裁判に必要なので、通常、申立が認められます。

これら以外の必要性があるかどうか微妙な件においては、上記の申立書フォームにはありませんが、新たに「嘱託の必要性」を設け、その裁判に必要かどうかの「必要性」を詳しく明らかにしていくと良いでしょう。

これによって、例えば、銀行の預金口座における振込先の預金口座の情報や、珍しいところでは、不倫事件で、ラブホテルのポイントカードの番号から、ラブホテルに行った履歴を開示させたことがあります。

下記の記事では離婚の場合の調査嘱託の他、どのような場合に調査嘱託が認められるかを詳しく解説しています。

2 弁護士会照会(23条照会)とは?

弁護士会照会とは、弁護士が所属する弁護士会に対して申立をし、弁護士会が第三者に対して情報の提供を要請する手続を言います。
弁護士法23条に記載されているので23条照会とも呼ばれます。

①主体が裁判所ではなく弁護士会である点
②裁判中でなくても行われる点

において、調査嘱託とは違いがあります。

裁判をする前の段階で、例えば、携帯電話の番号から相手方の住所等の情報を探したりするために便利です。
ただし、弁護士会が提出された照会書をチェックし、問題なければ照会先に送るのですが、照会先も、すぐに開示してくれようとはなかなかしないので、結構時間がかかります。1ヶ月から、遅いときには3ヶ月ぐらいかかることもあります。

ちなみに、この23条照会において、弁護士会へ支払う費用は8500円程度です。
弁護士に対する依頼の中でこれを弁護士にしてもらう場合は、手間の費用も合わせて、もう少し費用がかかるのが一般的です。

3 調査嘱託・弁護士会照会に対する回答義務はあるか?

この点については、いずれもある程度の回答義務があると考えるのが、多数説となっています。
その中でも、調査嘱託の方が、裁判まで行われている状態であり、調査嘱託を行う者の権利を保護する要請が強いから回答の必要性がより大きいものとして、回答義務の強さが大きいと考えられているようです。

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櫻井弁護士

ただし、いずれの回答義務の肯定説も、「正当な理由」があれば回答拒否ができるのは同じように考えられています。

実際、回答された場合には、裁判で有効な証拠となることがほとんどです。
民事裁判中において、勝敗に影響を与える裏技のような手段というのは、この調査嘱託と「証人尋問中の弾劾証拠提出」ぐらいではないでしょうか。

回答がされなかった場合には、文書提出命令(民事訴訟法223条以下)という手続を執らざるを得ません。
この手続は、文書の開示を求める必要性があり、回答拒否できる場合にあたらなければ、回答義務があります。
「公務員の職務上の秘密」「刑事事件に係る訴訟に関する書類」等、公的な理由により開示できない性質のものであれば、相手方が、回答を拒否することができる場合があります(民事訴訟法220条)。

この文書提出命令は、いったんその民事裁判を離れ、別途の申立が必要なものなので、時間もかかりますし、弁護士費用も通常は別途発生するでしょう。申立をする側の負担の大きな手続です。

なお、これらの制度に似たもので、警察が捜査に利用する「捜査関係事項照会書」というものがあります(刑事訴訟法197条)。捜査に関係する事項を回答して欲しいと送ってくる書面です。
これは、警察が送ってくるものだから回答義務があると思われるかもしれませんが、実際は、できるだけの協力で大丈夫です。企業の方は、その企業や所属する人のプライバシーの方が大事かどうかを良く吟味し、回答するかどうかを決めるべきです。

手続の主体 回答義務の程度 手続の手間
弁護士会照会 弁護士会に申立て
(裁判外)
弱い 2、3カ月の時間と8500円程度の費用がかかる
調査嘱託
文書送付嘱託
裁判所に申立て
(民事裁判)
弁護士会照会よりは強いと考えられる 裁判中であれば手間は少ない
文書送付嘱託 裁判所に申立て
(民事裁判)
原則開示義務がある
(除外事由あればなし)
裁判とは別途で申立てをしなくてはならない。時間・費用もかかる
捜査事項関係照会書 検察・警察
(捜査の一環であり、国民は申立てられない)
原則開示義務はない 公共団体の捜査のためのもの

4 調査嘱託・弁護士会照会に回答拒否をした者に対する損害賠償請求は認められるか?

この点、調査嘱託については、回答拒否について損害賠償を認めた裁判例はありません。
しかし、東京高等裁判所平成24年10月24日裁判例は、ソフトバンク社の顧客情報の回答拒否について損害賠償は認めていないものの、損害賠償が認められる場合もあるとしています。

下記の記事の5に詳しく記載しています。

弁護士会照会における裁判例

弁護士会照会については、裁判例が多いです。

  • 相続人が、遺言執行者(遺言に基づいて相続の後処理を行う者。弁護士等が良く就任する。)に遺言執行の状況を報告して欲しいと弁護士会照会をしたところ、これを拒否した京都地裁平成19年1月24日裁判例
    →15万円の賠償が認められた。
  • 相続人が、金融機関に対し被相続人の口座の取引履歴を弁護士会照会で開示請求したのに対して、金融機関が、相続人全員の同意がないと認めないと拒否した東京地裁平成22年9月16日裁判例
    →68,190円の賠償が認められた。

これらは、遺言執行に関しては、もともと報告義務があること(民法1011条、1015条参照)、金融機関の被相続人の口座に関する請求も一般的に相続人1人の請求で認められていることから、当然の権利を害されている側面が強く、損害賠償が認められやすいケースです。

これに対し、行方不明になった民事訴訟の被告の住所を調べるため、日本郵便に対し、弁護士会照会で問い合わせたところ、日本郵便が回答を拒否した名古屋高等裁判所平成27年2月26日裁判例では、弁護士会も日本郵便に対して損害賠償を請求して訴えていました。

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櫻井弁護士

住所を調べていた者の損害賠償は認められませんでしたが、拒否を受けた弁護士会の賠償請求は認められた(ただし1万円)点で画期的な判決と言えます。

YouTube幻冬舎ゴールドオンラインチャンネルで、弁護士法人アズバーズ代表弁護士櫻井俊宏が、離婚問題について解説しております。

まとめ

調査嘱託や弁護士会照会は、弁護士でなければなかなかなじみがない制度ですが、その概要について把握できましたでしょうか。
この問題について、今のところ、調査嘱託については弁護士会照会ほどには裁判例の前例がないので、今後の裁判例に注目したいと思います。

なお、弁護士法人アズバーズでは、調査嘱託や類似制度の文書送付嘱託、弁護士会照会等については経験が多いので、それらの扱いに困った方がいれば、03-5937ー3261までご連絡いただければと思います。

【2023.9.10記事内容更新】

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櫻井 俊宏

櫻井 俊宏

「弁護士法人アズバーズ」新宿事務所・青梅事務所の代表弁護士。 中央大学の法務実務カウンセルに就任し7年目を迎える。

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