ぶつかりおじさんは逮捕される?ぶつかりおじさんの心理と対処法!過剰防衛や自招侵害について解説

トラブル対応


街中や駅構内でわざと他人に体当たりをする男性のことを「ぶつかりおじさん」「体当たり男」と呼ぶそうです。

連日SNSで話題となっており、目撃したり実際に被害に遭ったりした方も多いのではないでしょうか。

本記事では、まず

ターゲットにされやすい人
ぶつかる人の心理

について考察します。

そして、

ぶつかり行為の法的責任
反撃した場合(正当防衛)
再反撃された場合(自招侵害)

について解説していきます。

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櫻井弁護士

本記事は、学校法人中央大学の法実務カウンセル(インハウスロイヤー)として知的財産問題を含む法務全般を担当している、千代田区・青梅市の弁護士法人アズバーズ、代表弁護士 櫻井俊宏が解説します。

1 ぶつかる人、ぶつかられる人

ぶつかる人、ぶつかられる人

まず、ぶつかられやすい人や状況を見ていきましょう。

ターゲットにされやすい人

周りの中年男性に「ぶつかりおじさん」を知っているかと尋ねると、「何それ?」と不思議そう。

それもそのはず、SNSで報告される被害者はほぼ女性、しかもおとなしい雰囲気や地味目のファッション、若い女性に多いようです。

男性も被害に遭っているのですが、共通するのは小柄でおとなしい雰囲気という点です。

また、被害に遭った状況で圧倒的に多いのが歩きスマホです。それ以外にもキョロキョロとよそ見をしていた、持っていた花束やケーキの箱めがけて体当たりしてきたといった体験談も寄せられています。

場所は通勤時間帯の駅構内やホーム、交差点といった人混みが大半ですが、ぶつかり方は多様です。正面から来るパターンや後ろから追い越し際にぶつかる、時には同じ人に何度もぶつかりに行くこともあります。

わざとぶつかるおじさんの心理

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事務員

では、わざわざぶつかりに行く理由は何なのでしょうか?

○ストレス発散

日常生活のストレスは、時に不適切な方法で発散されます。その一つがわざと他人にぶつかる行為です。直接的な対話や適切なストレスマネジメント技術を身につけていない人によく見られ、内面の圧力を外に向ける手段として「体当たり」という方法を選んでしまうようです。

○女性軽視

「女性ばかりが得をする」「女のくせに道を譲らない」などの嫌悪感から女性を狙ってわざとぶつかりに行きます。仮に文句を言われても勝てそうだし、反撃されるおそれが少ないといった打算も働いているようです。また、ぶつかったふりをして被害者の身体に触れるという痴漢目的のケースもあります。

○わが道をいく

雑踏の中を急ぐという緊張感で高揚した気分となり、攻撃的になる人もいます。譲ると負けたような気になってしまうのは、あおり運転にも見られる心理です。他者を排して自己の優位性を誇示するために、無意識に“ぶつかっても大丈夫な人”を選んでいるのかもしれません。

2 体当たりすることの法的責任

体当たりすることの法的責任

わざとぶつかる行為は、次のような法的責任が発生します。

刑事責任

他人にわざとぶつかる行為は「暴行」に該当し、身体に直接触れないが所持品等に体当たりしてヒヤッとさせる行為も、有形力の行使にあたるものとして、暴行罪です(刑法208条)。
ぶつかった結果、相手が転んでケガをしたような場合は、ケガをさせるつもりはなくても傷害罪が成立します(同204条)。

また、性的な目的でぶつかり胸やお尻などに触れた場合には、痴漢行為にあたるとして迷惑行為防止条例違反、悪質であれば不同意わいせつ罪が成立します(同176条1項)。

それぞれの法定刑は以下の通りです。

暴行罪 2年以下の懲役もしくは30万円以下の罰金または拘留もしくは科料
傷害罪 15年以下の懲役または50万円以下の罰金
迷惑行為防止条例違反 6月以下の懲役又は50万円以下の罰金、常習であれば1年以下の懲役又は100万円以下の罰金(例、東京都条例5条1項1号、8条1項2号、8号)
不同意わいせつ罪 6月以上10年以下の懲役

刑法 | e-Gov法令検索

公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例 (tokyo.lg.jp)

民事責任

ぶつかるという不法行為の結果、相手が転んでケガをした場合や所持品が破損した場合には治療費と修理代、さらに慰謝料請求の対象となります(民法709条、710条)。金額については交通事故の賠償の場合と同様の取り扱いになるでしょう。

3 ぶつかりおじさんに反撃したら

ぶつかりおじさんに反撃したら

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櫻井弁護士

理不尽なぶつかり行為に泣き寝入りでは納得がいきません。そこで被害者が反撃したらどうなるのかを考えてみましょう。

正当防衛

過失であれ故意であれ、突如のぶつかり行為は他人の身体や財産を侵害する不正な行為です。このような急迫不正の侵害に対しては正当防衛することが認められており、その防衛行為から生じた結果については責任を問わないというのが日本の法律です(刑法36条1項、民法720条1項)。つまり、犯罪は成立せず(無罪)、賠償責任もないということです。

○「やむを得ずにした行為」の判断

問題はどのような場合に正当防衛となるかです。

刑法は人の行為を規律するものであり、基本的には結果責任を問いません。正当防衛についても、行為当時の状況で判断するのが原則です。したがって防衛の結果、予想外の重大な結果が生じたことをもって、直ちに正当防衛が否定されるわけではありません。

たとえばAに羽交い絞めにされ顔面等を殴打された甲が、攻勢の構えを見せるAの顔面を手拳で殴打し、頭部を踏み付けくも膜下出血等の傷害を負わせて死亡させた事案では、甲の反撃行為は防衛の限度を超えず正当防衛が成立するとして、無罪とした判例があります( 東京高判平27.7.15)。

○正当防衛の限界

しかし、防衛のためであれば何をしても許されるのではありません。

急迫不正の侵害に対して「やむを得ずにした行為」であることが求められます。「やむを得ずにした」とは言えない行為は過剰防衛が成立し、違法です。犯罪が成立し(有罪)、賠償責任も発生することになるのです(民法709条)。

過剰防衛

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事務員

では、どのレベルから過剰防衛となるのでしょうか。

過剰防衛には質的過剰と量的過剰の2種類があります。

○質的過剰

防衛の手段が質的に相当性を欠いている場合で、防衛行為の始めから「やりすぎ」の状況です。

(例)

素手や棒などの攻撃に対し凶器を用いて防衛する(大判大9.6.26)
下駄での殴打に対し匕首で刺し死亡させた(大判昭8.6.21)

○量的過剰

反撃を始めた時はやむを得ずにした行為であったが、反撃を続けるうちに相手の侵害の程度が弱まり又は止んだのに、それまでと同様又は更に強い反撃を続けた場合は、量的過剰です。ポイントは当初の防衛行為から過剰結果が生じた行為までが「一連一体」であれば、過剰防衛の対象です。

(例)Aから折り畳み机を押し倒された甲が同机を押し返したところ、倒れて反撃や抵抗が困難になったAにXがその顔面を手拳で数回殴打した(最決平21.2.24)

一方、当初の防衛行為から一連一体性が認められず、もはや独立した行為と言える場合は過剰防衛すら問題になりません。

たとえば、口論になったAから灰皿を投げつけられた甲が、Aの顔面を殴打しその場に転倒させたところ(①)、後頭部を打ち付け動かなくなったAを、甲は憤激の余りなおも暴行を加え(②)、Aに肋骨骨折等の傷害を負わせ、6時間後にくも膜下出血によって死亡させた(死因は①)という事案です。

最決平20.6.25は、①については正当防衛として無罪、②については、正当防衛はもとより過剰防衛を論ずる余地もないとして傷害罪の有罪判決を言い渡しています。

○過剰防衛の責任

過剰防衛となった場合は有罪であり、違法です。ただし、刑罰については情状により刑が減軽または免除される場合があり(刑法36条2項)、損害賠償については相手の落ち度が考慮されます(過失相殺 民法722条)。

もっとも量刑や賠償金額を決めるのは裁判所であり、目撃者の証言等から行為当時の状況や当事者の力関係も含めて総合的に判断します。本人達の心情だけで決まるものではありません。

4 ぶつかりおじさんが再反撃してきたら(自招侵害)

ぶつかりおじさんが再反撃してきたら(自招侵害)

では正当防衛のために反撃したところ、おじさんが再反撃してきた場合その責任はどうなるのでしょう?

自招侵害

わざとぶつかるなど自から相手の侵害行為を招いていながら、それに対して防衛行為を行うことを「自招侵害」と言います。

自招侵害の図解

判例

自招行為に関する最判平20.5.20を紹介しましょう。
Aと言い争っていた甲がいきなりAの左ほおを手拳で1回殴打、直後に走り去ったところ、現場から約90m先まで自転車で追いかけてきたAに後方から殴打された甲は、護身用に所持していた特殊警棒でAを数回殴りケガを負わせたという事案です。

Aの攻撃は甲の暴行に触発された一連一体の事態ということができ、自らの不正行為によりAによる侵害を招いた甲は、何らかの反撃行為に出ることが正当とされる状況にないとして正当防衛を否定、傷害罪として有罪判決を下しています。

諸説ありますが、自ら事態を招いたのだから、もやは「急迫」とはいえないと理解しているものと思われます。

5 適切な対処法

適切な対処法

「ぶつかられたらやり返す」つもりでいた場合、心配なのが自身の過剰防衛と相手の逆ギレでしょう。ここまで確認してきた内容からすると、過剰防衛については刑の減免という効果が期待できるのに対して、自招侵害は単なる犯罪です。法理論的に言えば、過剰防衛の方が優勢であり、ひるまずに対抗すべきということになるでしょうか。

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櫻井弁護士

しかし、正当防衛は計算尽くで出来るものではなく、裁判沙汰にしてまで白黒つけるのも非現実的です。そこで実際には以下のような対処法をお勧めします。

○目線を高くしっかり前を見る

周囲の状況を注意深く観察し不審な動きをする人物を見つけたら進路方向を変えるなどして、まずは自衛することが大切です。また、こちらがしっかりしているような動きをしている方が、然るべき対応をされると考え、ぶつかりの対象としにくいと考えるでしょう。

○大柄の男性のすぐ後ろを歩く

大柄の男性は被害に遭いにくいようなので、こういった男性を盾にして防御します。

○被害に遭ったら大声をあげる

反撃するにせよ、通報するにせよ、証人の有無がその後の軍配を分けます。周囲の人に気付いてもらえるようにできるだけ大きな声で「痛い」「何?」と言いましょう。周囲の注目を集めれば相手の再反撃への牽制にもなります。

○もめた場合は通報を(110番映像通報システム)

相手ともめた場合は身の安全を確保した上で、駅員や警察への通報を行いましょう。

2023年4月からは映像による110番通報が導入されており、通話中だけでなく事前に撮影した映像等を送信することが可能です。証拠を確保しつつ冷静に立ち返ることができるでしょう。

110番映像通報システム|警察庁Webサイト (npa.go.jp)

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櫻井 俊宏

櫻井 俊宏

「弁護士法人アズバーズ」新宿事務所・青梅事務所の代表弁護士。 中央大学の法務実務カウンセルに就任し7年目を迎える。

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