皇族と一般国民の人権の違い 【小室圭さん・眞子様の結婚 平成天皇の退位】

最新時事問題の法的考察

平成から令和へと時代が変わり、天皇を中心とする皇室にも多くの動きがありました。その中には国民に好意的に受け入れられたものもありましたし、物議を醸すものもありました。

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櫻井弁護士

最近では小室眞子さんと小室圭さんとの結婚等も話題となりましたね。

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事務員

天皇・皇族にしかできないことがある一方で、一般人は当然にできることが天皇・皇族はできない、あるいは制限されることがあるようですね。

本記事ではまず「象徴」としての天皇とその権能を確認した上で、天皇・皇族は「国民」に含まれるのか、含まれるとすれば一般人とはどのような違いがあるのかを解説していきます。

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櫻井弁護士

学校法人中央大学の法務全般を担当している中央大学「法実務カウンセル」(インハウスロイヤー)であり、千代田区・青梅市の「弁護士法人アズバーズ」代表、弁護士の櫻井俊宏が執筆しております。

1 天皇と皇族

 

「天皇」「皇族」「皇室」、それぞれ内容が異なります。

⑴ 天皇と皇族

 「天皇」とは、日本国憲法(以下、単に「憲法」といいます。)において日本国及び日本国民の統合の象徴と規定される地位、又はその地位にある個人を指します。

 「皇族」とは、天皇の親族のうち既婚の女子を除く男系の嫡出の血族及びその配偶者の総称をいいます。

宮内庁のホームページによりますと「皇室は、天皇陛下と皇族方で構成されています」とあり、天皇は皇族には含まれないという理解です。

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櫻井弁護士

今日現在、皇室は徳仁天皇を中心に17名の皇族から成り立っています。

⑵ 象徴としての天皇

天皇は日本国及び日本国民の統合の象徴(憲法1条)ですが、ここにいう「象徴」とは、わかりにくい抽象的なものをイメージしやすい具体的なものに置きかえて表したという意味です。
つまり、日本という国や自分たちが日本人だという共通認識を象徴するものが天皇だというわけです。

その意味では昔から天皇は象徴であったといえます。しかし、現憲法下における象徴天皇制は天皇が国政に関する権能を全面的に否定された結果、象徴以外の役割を持たない点に特徴があるのです。

⑶ 天皇の権能

国事行為

 天皇は憲法が定める国事行為のみを行い、国政に関与することはできません(憲法4条1項)。

この国事行為とは何でしょうか?
国事行為の例としては内閣総理大臣や最高裁判所長官といった国政の重要なポストの任命(憲法6条)以外にも、憲法改正や法律等の公布、国家の召集、衆議院の解散といった内政の局面、あるいは外国大使等の接受といった外交、さらには儀式を行うなど、その内容は多岐にわたります(憲法7条)。
天皇が象徴としての役割をよりよく果たすために国政の重要な局面で天皇の存在を印象付けるという仕組みを、憲法がとっているのです。

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櫻井弁護士

ただし象徴としての印象付けが果たされれば十分であり、その実質的な決定権は国会や内閣にあり、天皇にありません。

私的行為

天皇・皇族も一人の人間であることにかわりなく、私人としての私的行為をするのは当然です。たとえば学んだり、友人と交流したり、スポーツを楽しむ、音楽を嗜むといった個人の活動や、宮中祭祀を行うことなどです。

2 天皇・皇族の人権

 

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事務員

天皇・皇族も私的行為をしますが、我々と同様の権利自由が保障されているのでしょうか。

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櫻井弁護士

憲法第三章の「国民」に天皇・皇族が含まれるかが問題となります。

⑴ 否定説

天皇・皇族には憲法上の権利や自由など初めからなく、ただ身分に伴う特権や義務があるだけだと考える立場です。特権や義務の履行に支障のない範囲でしか私的行為ができません。したがって、婚姻はおろか交友関係ですら皇室会議の許可がいるとして行動を縛ったとしても憲法違反の問題は生じないことになります。

当然「気の毒だ」「残酷」という反論が出ますが、この説は「だからこそ、憲法を改正して天皇制を改変又は廃止すべきだ」という考えに至ります。

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櫻井弁護士

学説では有力な説です(佐藤幸治、長谷部恭男、他)。

⑵ 制限付き肯定説

 天皇・皇族も日本国民であり「国民」として認められる権利自由は保障されていることを肯定する立場です(芦部信喜、他)。ただし象徴天皇制を憲法自身が定めており、象徴としての役割からくる必要最小限の制約は認められると考えるのです。

学説では通説とされており、政府見解もこの立場をとっています。

3 人権の違いの具体例 

 

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事務員

天皇・皇族のもつ権利について、もっと具体的に知りたいです。

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櫻井弁護士

通説である制限付き肯定説に沿って以下の権利自由を見ていきましょう。

戸籍・住民票

天皇・皇族ともに戸籍法や住民基本台帳法の適用を受けません。戸籍にあたるのが皇統譜で、「愛子」「悠仁」というように名前だけが記載され名字はありません。

国籍離脱の自由(憲法22条2項)

 象徴としての地位から認められていません。

思想良心の自由(憲法19条)

 世界観・人生観・主義・主張などの内面的な精神作用については、それが内心に留まる限り、天皇・皇族ともに一般人と同様に保障されます。

信教の自由(憲法20条)

 天皇は神道における祭祀の主宰者という立場にあるため、これを拒否したり、他の宗教の方式に変えたりすることはできないと考えられます。ただし、心の中で神道以外の宗教を信仰することは禁じられていません。

表現の自由(憲法21条)

 表現の自由には自分の考えを形にすること(自己実現)と表現活動を通じて国家の意思形成に参加すること(自己統治)という側面があり、とくに自己統治の面からは制約を受けることになります。たとえば、短歌を披露するといった程度であれば天皇・皇族も自由に行うことができますが、法改正や政権批判といった政治的発言については制限されます。

学問の自由(憲法23条)

 天皇・皇族も原則として学問の自由が保障されています。しかし、たとえば資本論や南京虐殺事件等といった特定の思想や歴史観と結びつくような研究は、象徴たる地位から制約されます。

参政権(選挙権、公務就任権。憲法15条)

 天皇・皇族は政治的中立性が求められるため、選挙権・被選挙権も認められていません。

婚姻の自由(憲法24条)

 天皇・皇族「男子」の婚姻は当事者の合意だけでなく、皇族会議の決議を経なくてはなりません。これに対して皇族女子の場合は、結婚と同時に皇族の身分を離れるため皇室会議の決議は不要となり、一般人と同様、当事者の合意で足りることになります。

職業選択の自由(憲法22条1項)

 天皇は世襲であり、かつ国事行為を全うすることが使命とされるため職業選択の自由はありません。一方、皇位継承者以外の皇族は公務に影響のない範囲で職業を選ぶことも可能と考えられます。

肖像権・プライバシー権(憲法13条)

 公務中の様子や姿の撮影・公表は公務そのものに折り込み済みといえ、肖像権の侵害にはなりません。これに対して、自宅でくつろいでいる様子の盗撮や私的な旅行の撮影・公表は、肖像権侵害やプライバシー権侵害に該当する可能性があります。

財産権・財産授受(憲法29条)

三種の神器や皇居等の皇室財産は、国に属すると規定されています。

また相当程度の価値の高い財産は、私有財産であっても国民を相手とする譲渡・譲受についての国会の議決が必要であるとして、経済面でも国が皇室をコントロールしています。もっともこれは対国民との財産の移転に関するもので、皇室内部の移転を制限するものではありません。

刑事・民事責任

 刑事裁判については皇室典範21条が「摂政はその在任中訴追されない」と規定しており、その整合性から天皇も刑事裁判権が及ばないと考えられています。ただし同条但書で「これがため訴追の権利は害されない」とされており、国務大臣の不起訴特権(憲法75条)と同様に捉えて、刑事責任自体が否定されるわけではないと考えられます。

 これに対して民事裁判では、象徴という地位から天皇には民事裁判権が及ばないとする判例があります(最判平成元年11月20日)。

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櫻井弁護士

民事責任については法律や判例はありませんが、一般人と同様に責任を負うと考えるのが通説です。

4 天皇・皇族をめぐるこれまでの諸問題

明仁天皇への共感、眞子さんへの反感

⑴ 平成・明仁天皇の生前退位

 前天皇が当時の皇太子への譲位の意向を、テレビ放送を通じて国民に語り掛けるビデオメッセージという形で表明しました。これを受けて皇室典範特例法が制定され「今回限り」という制限付きで生前退位が実現に至ったのです。

しかし、公の場で立法や法改正を促す行為は政治的行為以外の何物でもありません。当時国民の間ではこの点は特に問題とされず、法律が整備された後、祝賀ムードの中で令和の時代が明けたのでした。

⑵ 小室眞子さんの婚姻

女子皇族の結婚は「公務」「公的行為」ではなく、あくまでも私的行為です。テニスやチェロ演奏と同じです。しかし世論の猛烈な批判に遭い、結婚延期や一時金辞退という事態にまで追い込まれました。皇室典範が女子皇族は婚姻すれば皇族の身分を失うということだけを定めている点から考えると、皇族は「国民」に含まれないとする上記否定説であっても女子皇族の婚姻は自由であると考えるのが自然でしょう。

5 国民がどのような天皇制を望むのかが問われている

特殊な地位にある天皇・皇族ですが、その特殊性は憲法に由来するものです。我々は知人や親戚目線で彼らを見るのではなく、憲法を通して注視する必要があるのです。

地位の特殊性から制度の改変・廃止を望むのか、あるいは国民の一員であることを認めた上で特殊性ゆえの制約の必要最小限度性を、国民一人一人が確認する必要があるといえます。

【2022.11.21記事内容更新】
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櫻井 俊宏

櫻井 俊宏

「弁護士法人アズバーズ」新宿事務所・青梅事務所の代表弁護士。 中央大学の法務実務カウンセルに就任し7年目を迎える。

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