女子会やコンパニオンとの飲み会にホテルの部屋を利用!人数をごまかしたら違法⁉それ以外の宿泊が拒否されるケースも解説

最新時事問題の法的考察

連日某お笑い芸人の性加害疑惑が報道されていますが、性加害の真相はさておき、「飲み会」と称してホテルの部屋を不特定多数人で使用することに問題はないのでしょうか?

また「おもてなし」文化に象徴される日本の宿泊業ですが、宿泊客のわがままはどこまで許されるのでしょうか?
最近では、神戸大学のバドミントン団体BAD BOYSが、旅館の天井を壊したり、障子に顔で穴を開けるという暴挙に出た事件が炎上しており、宿泊客の暴走について考える機会となりそうです。

本記事では、

宿泊者の特定を求める旅館業法
宿泊者の定員を定める消防法

についてまず解説し、

人数をごまかして宿泊した場合に成立する犯罪についても言及します。

後半では、人数ごまかし以外の宿泊拒否される事由についても紹介します。私たちがホテルや旅館に宿泊する場合、法律による規制があります。

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櫻井弁護士

学校法人中央大学の法務全般を担当している中央大学「法実務カウンセル」(インハウスロイヤー)であり、千代田区・青梅市の「弁護士法人アズバーズ」代表、弁護士の櫻井俊宏が執筆しております。

1 宿泊者の特定を求める法律~旅館業法

宿泊者の特定を求める法律~旅館業法
旅館業法では宿泊者全員に、氏名等を宿泊者名簿に記載することを求めています。

目的

旅館業法は、旅館業の適正な運営を確保し、旅館業の健全な発展を促進するとともに、利用者のニーズに対応して国民生活を向上させることを目的として定められた法律です(1条)。

とくに同法が規定する宿泊者名簿は、感染症発生時における感染経路の把握によって公衆衛生を確保し国民生活の安全を守ることを目的としています。昨今の新型コロナウイルス感染症の拡大時には、「宿泊者名簿」という言葉を見聞きした方も多いでしょう。
また平成17年同法改正では宿泊者名簿にテロ防止目的も加わり、訪日外国人も記載が必須となっています。

内容

ホテル等の営業者は宿泊者名簿を備える必要があり(6条1項)、宿泊者は求められれば、所定事項を記載又は回答(フロント係員が聞き取って記入してもよい)しなければなりません(同条2項)。

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櫻井弁護士

注意が必要なのは、宿泊者全員分である点です。代表者だけで済ませるケースも見られますが、宿泊者全員の記載が正しい運用の仕方です。

○宿泊者名簿

宿泊者名簿の記載事項は以下の通りです。

宿泊者の氏名、住所、連絡先
日本国内に住所がない外国人は、その国籍と旅券番号
その他都道府県知事が必要と認める事項

○罰則

ホテル等の営業者については、宿泊者名簿を設置せず、保健所や警察署からの提出に応じられない場合は、最大で50万円の罰金が科されます(11条1号)。これに対して、偽名を用いたり人数をごまかしたりした宿泊者については、拘留(1日以上30日未満)又は科料(千円以上1万円未満)が科される可能性があります(12条)。

なお、宿泊者名簿は感染予防やテロ防止を目的とする書類であり、私人間の権利義務や事実証明に関する文書ではありません。したがって虚偽を記載しても、刑法の私文書偽造罪は成立しません。

宿泊者以外の入室はNG

感染症やテロといった有事が発生した際の追跡調査のためには、宿泊者名簿に記載された人だけがホテルに宿泊するのが大前提です。したがって、宿泊者名簿を記入しなかった者がこっそり入室することは認められない行為であり、旅館業法に違反します。

また宿泊者名簿には災害時の身元確認や忘れ物の連絡時に役立つといった機能があり、名簿に記載されていない利用者はホテル側からの適切な対処が期待できません。自身にとっても不利益が生じかねない行為なのです。

そうだとすると、お笑い芸人が女性を呼んで行っていた飲み会や、いわゆるデリヘル等も厳密にいえば違法ということになります。

2 定員を制限する法律~消防法

定員を制限する法律~消防法

また、ホテルの各部屋には収容人数の制限があり、これを超える人を宿泊させることは消防法に違反します。

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櫻井弁護士

なお、旅館業法にも収容人員の算定方法に関する規定がありましたが、消防法が1人当たりの床面積を定めていることから、平成29年旅館業法改正の際に削除されています。

目的

消防法は火災の予防や被害の軽減、救急搬送などを通じて、人の生命や財産を保護することを目的とする法律です。

とくに不特定多数の人が出入りするホテル(消防法上「防火対象物」と言います)は常に火災の危険と背中合わせであるため、消防設備の維持管理や避難方法の策定は所定の人数を想定した上で構築されています。つまり、各部屋の定員は防災設計の基本ということになります。

内容

消防法が規定する定員は次のとおりです(法8条、消防法施行令別表第1(5)イ、消防法施行規則1条の3、)。

○定員

洋室 ベッドの数が定員

・シングルベッド1台⇒1人
・セミダブルベッド1台⇒1人
・ダブルベッド1台⇒2人
・エキストラベッド利用の部屋は当該ベッドの数を加算して算定する
⇒定員2人の部屋にエキストラベッド利用のトリプルユースは不可

[東京消防庁 収容人員の算定要領より]
審査基準1(目次~設置単位) (funabashi.lg.jp)

和室 床面積を6㎡(およそ2畳)で割った数
※但し、簡易宿所や団体客用の宿泊施設は3㎡(およそ1畳)で割った数

以上の定員に対して、自治体が地域の事情に応じて条例で厳しい定員にすることができ、さらに、各ホテルが必要に応じて約款でより厳しくすることも可能です。いずれにせよ、消防法が定める定員は各宿泊施設が最低限守るべき数となります。

○罰則

消防法は防火対象物及び消防対象物の管理者・所有者が守るべき法律であるため、定員を超えて宿泊した人を処罰する規定はありません。

しかし、消防法を根拠に宿泊約款等で定員が決められているのが通常であり、これに反して定員オーバーで宿泊した場合には、ホテル側から退去や追加料金の請求、今後の立ち入りを禁止される可能性があります。

互いの部屋を行き来することはNG

定員は火災から人命や財産を保護することを目的に決められており、料金支払の有無とは関係ありません。したがって、同じホテルに泊まった友人同士がシングルルームに集まって飲み会をするといった態様は、基本的にNGです。

宴会の後、二次会以降を他の部屋で行う場合等を禁止すると、誰も来なくなってしまうので、ホテル側は黙認することが多いようですが、深酒は避けて、せめて就寝は各々の部屋ですることが望ましいでしょう。

3 犯罪が成立するおそれ

犯罪が成立するおそれ

さらに無断宿泊・入室は刑法犯が成立する可能性があります。

詐欺罪

宿泊者が自分以外にも宿泊者がいるのに、ホテルのフロント係員に「一人で宿泊する」とごまかして、他の者を滞在させた場合は、他人に嘘を言って宿泊というサービスをホテル側に提供させたことになり、詐欺罪(刑法246条2項 10年以下の懲役)が成立する可能性があります。

建造物侵入罪

宿泊者名簿に登録せずに宿泊者に招かれてその部屋に入室する行為は、当該宿泊者の同意がある以上、住居侵入罪(ホテルの各部屋は「住居」に該当)は成立しないものと考えられます。

しかし、ホテル側は法律や約款を守ることを宿泊者に求めており、これらに従う気がない者に対してはホテルへの立ち入りを認めたくないはずです。したがって、無断宿泊した者には建造物侵入罪(刑法130条前段 3年以下の懲役又は50万円以下の罰金)、招き入れた宿泊者にその共同正犯(60条)又は幇助犯(62条1項)が成立する可能性が考えられます。

4 それ以外の宿泊が拒否されるケース

人数をごまかして部屋を利用しようとしたことにホテル側が気付けば、人数や空き室状況、利用形態によっては宿泊を拒否されるかもしれません。

それ以外にも、相次ぐ「迷惑客」の対応に苦慮するホテルや旅館は少なくありません。このような実情に照らして令和4年12月に改正されたのが旅館業法です。

特定要求行為

これまで宿泊拒否ができる事由として伝染病、とばく等の違法行為、受け入れる余裕がないといったケースに限られていましたが、改正旅館業法では次の事由が追加されました。

旅館業法5条1項3号
宿泊しようとする者が、営業者に対し、その実施に伴う負担が過重であって他の宿泊者に対する宿泊に関するサービスの提供を著しく阻害するおそれのある要求として厚生労働省令で定めるものを繰り返したとき

旅館業法 | e-Gov法令検索

新しく追加された行為を「特定要求行為」と言いますが、厚生労働省が公表している特定要求行為の例は以下のようなものです。

【特定要求行為の例】

①宿泊しようとする者が、ホテル側に対して次の事柄について他の宿泊者に対するサービスと比較して過剰なサービスを行うように繰り返し求めること

・宿泊料の不当な割引
・不当な慰謝料
・不当な部屋のアップグレード
・不当なレイトチェックアウトやアーリーチェックイン
・契約にない送迎など

② 宿泊しようとする者が、ホテル側に対して自身の泊まる部屋の上下左右の部屋に他の宿泊客を入れないよう繰り返し求めること
③ 宿泊しようとする者が、ホテル側に対して特定の従業員にのみ自身の応対をさせることや、特定の従業員を出勤させないよう繰り返し求めること
④ 宿泊しようとする者が、ホテル側に対して土下座などの社会的相当性を欠く方法による謝罪を繰り返し求めること
⑤ 泥酔して他の宿泊者に迷惑を及ぼすおそれがある宿泊者が、ホテル側に対して長時間にわたる介抱を繰り返し求めること
⑥ ホテル側に対して、対面や電話、メール等により長時間にわたって、又は叱責しながら、不当な要求を繰り返し行うこと
⑦要求する内容には正当だが、暴力をふるったり暴言を吐いたり(脅迫、中傷、名誉棄損、侮辱等)するなど、要求方法に問題があるものを繰り返し行うこと

不当な要求には応じないことを説明した上で宿泊拒否

上記特定要求行為があった場合でも、ホテル側は直ちに宿泊を拒否できるわけではありません。旅館やホテルは、宿泊を必要とする者が安心して利用できる安全な宿泊の場であるべきという公共的な役割が期待されており、そのような施設が一方的に宿泊を拒むことは特定の人々に対する不当は差別につながってしまうからです。

そこで5条2項では、ホテル等に対してみだりに宿泊を拒むことがないよう求めています。

実際には次のような対応になります。

宿泊拒否のケース

安全かつ快適なホスピタリティを提供してくれるホテルや旅館ですが、宿泊者とは主従関係になく、あくまでも宿泊契約の当事者同士です。宿泊する際には、様々な法律や利用上のルールの上に成り立っている関係であることを理解して、節度ある余暇を楽しみたいものです。

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櫻井 俊宏

櫻井 俊宏

「弁護士法人アズバーズ」新宿事務所・青梅事務所の代表弁護士。 中央大学の法務実務カウンセルに就任し7年目を迎える。

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