スーパーでの転倒事故は店の責任?損害賠償責任は発生する?【弁護士が解説】

法律時事問題を考察

普段使っているスーパーで買い物をしている最中、床で滑って転んだことによってけがをした場合、あなたはどうしますか。

最近ニュースでも話題になっているように、利用したスーパーにおいて転倒をしたことによりけがをしたという事案で、相次いで裁判例が出されました。2つの裁判例は、スーパーの責任を認めるものと認めないものに分かれており、どのような判断が下されるか見通しが立てにくいという状況にあります。

そこで、今回は、スーパーにおける転倒事故について、民事上どのような責任が認められるのかという観点からお話していきます。

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櫻井弁護士

学校法人中央大学の法務全般を担当している中央大学「法実務カウンセル」(インハウスロイヤー)であり、新宿・青梅・三郷の「弁護士法人アズバーズ」代表、弁護士の櫻井俊宏が執筆しております。

1 スーパーの利用客がとることのできる手段

スーパーの利用客がスーパーに対してけがをしたことによる損害賠償責任を求める場合、以下のような手段を用いることが考えられます。

① 安全配慮義務違反による不法行為に基づく損害賠償請求権(民法709条)または債務不履行責任(民法415条1項)
② 工作物責任(民法717条1項)
③ 使用者責任(民法715条1項)

そこで、以下では①から③に分けて、それぞれの法的な問題点について説明していきます。

2 主な問題点

1 安全配慮義務違反

安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求を求める場合、大きな争点となるのは、「スーパーに安全配慮義務違反が認められるか」という点です。

安全配慮義務とは、ある法律関係に基づいて特別な社会的接触に入った当事者間において、当該法律関係の付随義務として当事者の一方又は双方が相手方に対して信義則上負う義務として一般的に認められるべき義務をいいます(最判昭50.2.25民集29巻143)。

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櫻井弁護士

このように、安全配慮義務とは、契約者間において本来的に生じる債権・債務に付随して生ずる義務といわれております。たとえるならば、グリコのキャラメルについてくるおまけのようなものです。

スーパーでは、通常、スーパーの利用客とスーパーとの間には、スーパーに陳列されてある品物の売買に関する債権債務関係が発生します(民法555条)。すなわち、利用客はスーパーに対して代金支払債務を、スーパーは利用客に対して目的物引渡債務を負うこととなります。両者に生ずる本来的債務からは、スーパーが利用客に対して、安全にスーパーで買い物をしてもらうよう、スーパー内の環境を整備する義務は生じないというのが原則となります。

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事務員

なるほど、安全な環境整備はあくまで「おまけ」ということですね。

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櫻井弁護士

そうです。では、スーパーは利用客に対して、上記のような安全配慮義務を負うのか否かについてみていきましょう。

スーパーは、その性質上不特定多数者が利用する場所です。スーパーを営業管理する会社は、一般的に、不特定多数の来客があるという施設内で発生が予想される各種の危険やこれに対する対策に関する検討をおこなう義務があるといえます(このような義務について、安全管理義務という用語を用いている裁判例がありますので、後ほどご紹介します。)。

その上で、スーパーを営業管理する会社は、上記転倒事故との関係では、以下のような措置を講ずる義務があります。

a)店舗の出入り口付近に足ふきマットを設置していること
b)商品の性質上水滴がたまりやすい売り場付近の清掃を定期的に行うこと
c)転倒が起きやすい売り場(油分が飛び散りやすい場所、冷蔵品を売っている場所、生鮮食品を売っている場所等)の近くで、滑りやすい旨の注意喚起をしているポスター等の掲示をすること
d)従業員による見回りを行っていること
e)滑りにくい材質を用いること

もっとも、スーパーを営業管理する会社は、aからeで挙げた措置をすべて講じることまで求められず、具体的状況のもとで、スーパーの利用客が転倒する危険の発生が具体的に予見可能であったか、予見可能であったとして、回避可能性が認められるかという観点から、安全配慮義務を尽くしているかが判断されます。

たとえば、雨が降っているような日であれば、特にa、b、dといった事情が考慮された上で、「店側にとって床が滑りやすいことが予見可能であったか」、「転倒という結果を回避することができたか」を判断することになると考えられます。他方、セールの日にセール商品売り場付近で転倒事故が起きた場合、特にc、dといった事情が考慮された上で、「店側にとって床が滑りやすいことが予見可能であったか」「転倒という結果を回避することができたか」ことになると考えられます。

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櫻井弁護士

以上のとおり、スーパーを営業管理する会社が安全配慮義務に違反していると認められた場合、不法行為責任または債務不履行責任を追及することができます。

2 工作物責任

工作物責任に基づく損害賠償請求を求める場合、大きな争点となるのは、「スーパーが損害の発生を防止するのに必要な注意をした」(民法717条1項但書)か否かという点です。

「損害の発生を防止するのに必要な注意をした」というのは、損害の発生を現実に防止する処置を講じることをいいます。具体的には、上記第3の1で述べたように、スーパーを営業管理する会社が、aからeに挙げるような措置を講じていたか否かにより判断されることとなります。

3 使用者責任

使用者責任に基づく損害賠償請求を求める場合、大きな争点となるのは、①被用者に「過失」があるか否か②「使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をした」(民法715条1項但書)か否かという点です。

①被用者に「過失」があるか否か

①の点について、「被用者」とは、使用者に使用される者をいいます。スーパーであれば、当該スーパーの売り場責任者や、フロア担当者が「被用者」にあたります。

このような被用者に「過失」が認められるか否かは、被用者が上記第3の1で述べたような措置を講じていたか否かにより判断されることとなります。

②「使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をした」(民法715条1項但書)か否か

②の点について、裁判例は、「使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をした」か否かにつき、これを認めたものがほとんどありません。

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櫻井弁護士

特に、大企業になればなるほど、このような反論が認められにくくなる傾向にあります。

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3 裁判例

最後に、転倒事故に関する裁判例をいくつかご紹介します。

1 岡山地判 平25..14判時219699

【事案】
ショッピングセンターを利用していたXが、アイスクリーム売場前の路上で足を滑らせて転倒し大腿骨骨折等の重傷を負ったとして、ショッピングセンターの運営等を目的とするYに対して、不法行為に基づく損害賠償請求または工作物責任に基づく損害賠償請求を求めた事案です。

【判旨】

裁判所は、Yの不法行為責任を判断するにあたり、次のような判断枠組みを述べました。

本件店舗のようなショッピングセンターは、年齢、性別等が異なる不特定多数の顧客に店側の用意した場所を提供し、その場所で顧客に商品を選択、購入させて利益を上げることを目的としているのであるから、不特定多数者の者を呼び寄せて社会的接触に入った当事者間の信義則上の義務として、不特定多数の者の日常あり得べき履物、行動等、例えば、買い物袋を載せたショッピングカートを押しながら歩行するなどは当然の前提として、その安全を図る義務があるというべきである。

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事務員

このような判断枠組みに基づいて、裁判所は、以下のとおり、Yに不法行為責任があることを認定しました。

本件店舗を運営するYとしては、顧客に対する信義則に基づく安全管理上の義務として、少なくとも多数の顧客が本件売場を訪れることが予想される「〇〇の日」については、本件売場付近に十分な飲食スペースを設けた上で顧客に対しそこで飲食をするよう誘導したり、外部の清掃業者に対する清掃の委託を閉店時間まで延長したりYの従業員による本件売場周辺の巡回を強化したりするなどして、本件売場付近の通路の床面にアイスクリームが落下した状況が生じないようにすべき義務を負っていたというべきである。しかるに、Yが、これらの義務を尽くしていないことは明らかであり、これにより、本件売場付近の通路の床面にアイスクリームが落下した状況を生じさせ、本件事故が発生したのであるから、Yは、不法行為責任に基づき本件事故により生じた損害を賠償する責任がある。(下線は筆者によります。)

【分析】

第2の1で示した考慮要素を踏まえて説明すると、裁判所は、主にb、dの要素を重視して、Yに安全管理義務が生じることを述べた上で、このような安全管理義務を怠っていたとして、不法行為責任を認めました。

なお、本件は、①Xも、本件売場においてアイスクリームを販売しており、かつ、本件事故当時も約20名の客が行列を作っているような状態であったことを認識していたことから本件売場付近の通路上にアイスクリームの一部が落下して滑りやすくなっていることを予測できたにもかかわらず、足元への注意を怠っていたこと、②本件事故当時、Xは、買い物袋を載せたショッピングカートを押して歩行しており、前方の床面が見えにくい状況にあったことから、X20%の過失割合を認めています。

2 東京地判 令2.12.

【事案】
スーパーマーケットを利用していたXが、店舗内のレジ前通路を歩行中、床に落ちていたかぼちゃの天ぷらを踏んで転倒して、右ひざを負傷したとして、本件店舗を運営するYに対して、安全配慮義務違反に基づく不法行為責任または債務不履行ないし工作物責任に基づき損害賠償を求めたという事案です。

【判旨】

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事務員

裁判所は、Yの不法行為責任を判断するにあたり、次のように述べ、Yの不法行為責任を認めました。

本件店舗を運営する被告(Y)としては、利用客に対する信義則に基づく安全管理上の義務として、本件事故発生時のように、本件店舗が混み合い、相当数の利用客がレジ前通路を歩行することが予想される時間帯については、被告の従業員によるレジ周辺の安全確認を強化、徹底して、レジ前通路の床面に物が落下した状況が生じないようにすべき義務を負っていたというべきである。

本件事故発生時、被告の従業員がレジ周辺の安全確認を行っていたという形跡はなく、被告は、上記義務を尽くしておらず、これにより、レジ前通路の床面に天ぷらが落下した状況を発生、継続させ、本件事故を生じさせたのであるから、被告には信義則上の安全管理義務違反があり、不法行為責任が成立するというべきである。

【分析】

第2の1で示した考慮要素を踏まえて説明すると、裁判所は、主にdの要素を重視して、Yに安全管理義務が生じることを述べた上で、このような安全管理義務を怠っていたとして、不法行為責任を認めました。また、本件の特徴として、Y側から、

「本件事故のように、レジ前通路において、他の利用客が落とした惣菜を踏んで転倒するのは極めて例外的な事象であって、被告において、本件事故発生を具体的に予見することは困難であり、これを予見して、事前に特段の対応を取るべき義務を負うものではない」との反論がなされました。

これに対して、裁判所は、

①利用客自身が購入しようとする惣菜をパック詰め又は袋詰めし、これを惣菜売場からレジまで持参するという販売方法を採用する場合、利用客によるパック詰め又は袋詰めが、従業員が行う場合と比較して不完全なものとなり、運搬中に惣菜がパック又は袋から出て床面に落下することや、その場所がレジ前通路であることは十分想定される事態であること、

②消費者庁のニュースリリースによれば、消費者庁に情報提供のあった店舗・商業施設での転倒事故845件のうち、落下物による店内での床滑り事故は67と相当程度の割合を占め、落下物の例として「商品」が挙げられているから、本件事故の原因及び態様が異例であるとはいえないことなどを理由に、Yの反論を排斥しました。

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櫻井弁護士

以上のことから、第2の1で挙げた考慮要素を踏まえるとともに、消費者庁が発表するニュースリリース等の客観的な資料を踏まえ、どのような事故がどのような場所で起きており、本件事故は客観的な資料に照らして想定外といえるのかどうかという点も安全配慮義務違反を認定する根拠の1つとなっていた点が、本裁判例の特徴と考えられます。

3 東京高判 令3..4

東京地裁の判決に対して、東京高裁は、次のとおり述べ、東京地裁でなされた第一審判決を取り消した上で、請求を棄却する判決を言い渡しました。

控訴人において,顧客に対する安全配慮義務として,あらかじめレジ前通路付近において落下物による転倒事故が生じる危険性を想定して,従業員においてレジ前通路の状況を目視により確認させたり,従業員を巡回させたりするなどの安全確認のための特段の措置を講じるべき法的義務があったとは認められない。

東京高裁の判決は、地裁の判断と異なり、スーパーマーケットを運営するY側の安全配慮義務違反を認めませんでした。

4 東京地判令3.7.28と東京地判令2.12.8・東京高判令3.8.4との比較

東京地判令3..28は、スーパーマーケットを利用していたXが、店舗内の野菜売り場前を歩行中、同売場前に溜まっていた水が原因で転倒して負傷したとして、本件店舗を運営するYに対して、損害賠償を求めたという事案です。

同裁判例の判決文にアクセスができないため、ネット上の記事で書かれていた事実関係を踏まえますと、裁判所は、サニーレタスを買い物客が取り出すときに水が垂れることが繰り返され、その影響で床が濡れたと考えられること、店側が清掃をした形跡が窺えないことなどから、店側の安全配慮義務違反を認め、損害賠償責任を認めていました。

第2の1で示した考慮要素を踏まえて説明すると、裁判所は、主にdの要素を重視して、Yに安全管理義務が生じることを述べた上で、このような安全管理義務を怠っていたとして、不法行為責任を認めたものと考えられます。

他方、東京地判令2.12.8は、上記第2の1で示した考慮要素を踏まえて説明すると、裁判所が主にdの要素を重視して、Yに安全管理義務が生じることを述べた上で、このような安全管理義務を怠っていたとして、不法行為責任を認めていると考えます。

もっとも、同裁判例の上級審である東京高判令3.8.4は、①本件天ぷらが落ちていた場所は、レジ前付近であり、消費者庁のニュースリリースで注意喚起されている売場付近とは区別して考える必要があること、②レジ前付近は通路からの見通しが良く、仮に通路上に落下物があったとしても目につきやすく、混雑する時間帯でも落下物を回避することが困難な特段の事情がないことという理由から、店舗側の安全配慮義務違反を認めませんでした。

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櫻井弁護士

なお、本件では、Xが1人でバームクーヘン店を営んでおり、転倒によって腕に傷害が残り、仕事ができなくなったという事情があることから、2100万円という高額な賠償が認められたという点に注意が必要です。

5 おわりに

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事務員

転倒事故は、スーパーに限らず、様々な建物において起こりうる事故といえますよね。転倒した際の打ちどころが悪い場合、生命や身体に重大な結果を生じさせる危険があることから、利用する者の立場としては、滑りやすいところは注意深く歩くといった意識をもつようにしたいです。

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櫻井弁護士

他方、スーパーを営業管理する会社や、建物のオーナーといった立場からすれば、第2の1で示した考慮要素を筆頭に、日常的に転倒防止策を講じておくことが求められます。

転倒防止策といっても、難しいことが求められているわけではなく、雨の日はこまめにマットを確認する、滑りやすくないかチェックし、滑りやすいのであれば水や油を拭くといった誰にでもできる対応が求められています。特にフロアを管理する立場にある人は、このような意識を従業員間で共有できるよう、日頃から呼びかけ等を行うとよいでしょう。

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櫻井 俊宏

櫻井 俊宏

「弁護士法人アズバーズ」新宿事務所・青梅事務所の代表弁護士。 中央大学の法務実務カウンセルに就任し7年目を迎える。

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