【刑法改正】不同意性交罪・不同意わいせつ罪とは?性交前に同意書!?立証責任は!?

最新時事問題の法的考察

2023年7月13日改正刑法が施行され、強制性交等罪・強制わいせつ罪が不同意性交等罪・不同意わいせつ罪へと変わりました。
この影響もあるのか、最近、松本氏の件や、サッカーの伊東選手等、有名人・芸能人がだいぶ前に行った性的行為について、同意がなかったから犯罪・損害賠償請求の対象となるという告発や週刊誌報道が相次いでいます。

これらの改正はどのような内容なのでしょうか。今後は、性交渉をするために同意書ば必要なのか!?
本記事では、まず、

改正のポイント
犯罪の構成要件

を解説します。

 そして後半では

性交前に同意書がいるのか?立証責任は?
不同意性交等罪の問題点

についても言及します。

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櫻井弁護士

学校法人中央大学の法務全般を担当している中央大学「法実務カウンセル」(インハウスロイヤー)であり、千代田区・青梅市の「弁護士法人アズバーズ」代表、弁護士の櫻井俊宏が執筆しております。

不同意性交罪等の改正のポイント

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事務員

これまでも被害者の意思に反する性行為は強制性交等罪、強制わいせつ罪(以下まとめて強制性交等罪と言います)として罰せられていましたが、今回改正された不同意性交等罪(177条)、不同意わいせつ罪(176条)(以下まとめて不同意性交等罪と言います)と何が違うのでしょうか?

従来の強制性交等罪と準強制性交等罪を統合して「不同意性交等罪」に一本化

 性犯罪は被害者が望まない状況で行われる点に本質があります。どういった場合に意思決定が困難であるかについて、従来の強制性交罪では「暴行」「脅迫」という手段準強制性交罪では「心神喪失」「抗拒不能」という被害者の状態を基準に判断していました。これらの概念には幅があるため、証拠によって慎重に認定しなければなりません。

しかし性犯罪は密室で行われることが多く、目撃者が少ないという特徴があります。そのため要件ごとの証拠を得るには被害者供述に頼らざるをえず、結果的に「暴行等が認定できないから性犯罪でない」といった取りこぼしが多いことも問題となっていました。

 そこで今回の改正では「同意がないのは性犯罪である」という本質に立ち返り、「同意がないというのはどのような状況か」という統一的な要件を設けて、従来の強制性交等罪及び準強制性交等罪を「不同意性交等罪」に一本化したものです。

性交同意年齢の引き上げ

性行為について自ら判断できる「性交同意年齢」が、従来の13歳から16歳に引き上げられました。

当事者が行為の性的意味だけでなく、相手との関係でその行為が自分に与える影響について判断し対処することができてはじめて性的行為に関する自由な意思決定が可能となります。これが可能になるのが16歳からというわけです。したがって16歳未満との性的行為は同意の有無にかかわらず処罰されます。

ただし16歳未満でも同世代間の行為は罪に問われず、13~15歳の場合は5歳以上年上の加害者(対等性がない)を処罰対象とします。

配偶者間でも成立することを明示

従来も性犯罪の成否に婚姻関係の有無は影響しないと考えられていました。改正法ではこのことを確認するために「婚姻関係の有無にかかわらず」と明記されています。

公訴時効の延長

不同意性交等罪の公訴時効(一定程度の時間が経過すると起訴できなくなる時効制度)が強制性交等罪の「10年」から延長し、「15年」となりました。他の犯罪と比べると被害が表に出にくいことが理由です。

さらに犯罪行為終了時に被害者が18歳未満の場合には、被害者が18歳になるまでの期間が上記時効期間に加算されることになります。たとえば12歳の時に被害に遭った人の場合、公訴時効期間15年に18歳になるまでの6年間が加算されます(15+6=21)。したがってその人が33歳(12+21=33)に達する日、つまり誕生日の前日まで公訴時効は完成しません。

不同意性交罪・不同意わいせつ罪の構成要件

「同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態」の原因となり得る行為・事由として、176条1項では以下の8つの類型が示されています。

意思表明困難の8つの類型

以下の事項はあくまでも原因となり得るものであり、それ自体の程度は問いません。これらが原因となって、被害者が「同意していない状態」になっているかどうかがポイントです。

(1) 暴行若しくは脅迫を用いること又はそれらを受けたこと
「暴行」とは、人の身体に向けられた不法な有形力の行使をいい、「脅迫」とは、他人を畏怖させるような害悪の告知をいいます。
(2) 心身の障害を生じさせること又はそれがあること
「心身の障害」とは、身体障害、知的障害、発達障害及び精神障害であり、一時的なものを含みます。
(3) アルコール若しくは薬物を摂取させること又はそれらの影響があること
「アルコール若しくは薬物」の「摂取」とは、飲酒や、薬物の投与・服用のことをいいます。
(4) 睡眠その他の意識が明瞭でない状態にさせること又はその状態にあること
「睡眠」とは、眠っていて意識が失われている状態をいい、「その他の意識が明瞭でない状態」とは、例えば、意識がもうろうとしているような、睡眠以外の原因で意識がはっきり   しない状態をいいます。
(5) 同意しない意思を形成し、表明し又は全うするいとまがないこと
性的行為がされようとしていることに気付いてから、性的行為がされるまでの間に、その性的行為について自由な意思決定をするための時間のゆとりがないことをいいます。
(6) 予想と異なる事態に直面させて恐怖させ、若しくは驚愕させること又はその事態に直面して恐怖し、若しくは驚愕していること
いわゆるフリーズの状態、つまり、予想外の又は予想を超える事態に直面したことから、自分の身に危害が加わると考え、極度に不安になったり、強く動揺して平静を失った状態をいいます。
(7) 虐待に起因する心理的反応を生じさせること又はそれがあること
「虐待に起因する心理的反応」とは、虐待を受けたことによる、それを通常の出来事として受け入れたり、抵抗しても無駄だと考える心理状態や、虐待を目の当たりにしたことによる、恐怖心を抱いている状態などをいいます。
(8) 経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益を憂慮させること又はそれを憂慮していること
「経済的・・・関係」とは、金銭その他の財産に関する関係を広く含み、「社会的関係」とは、家庭・会社・学校といった社会生活における関係を広く含みます。また、「不利益を憂慮」とは、自らやその親族等に不利益が及ぶことを不安に思うことをいいます。

引用:法務省

故意犯

 不同意性交等罪は故意犯です。ここにいう「故意」とは、犯罪に該当する事実であることを認識し又は犯罪となるかもしれないと予見している心理状態のことです。

不同意性交等罪であれば「被害者の同意がない又は同意することが困難である状態を認識した上で性交等を行う」という認識、又はそうであるかもしれないという認容です(未必の故意を含む)。

 そして故意犯において故意を欠く場合は、過失犯ではなく無罪となります。

性交前に「同意書」が必要になったのか? 立証責任は?

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事務員

犯罪の成否が被害者の同意の有無によるのであれば、後から「同意していなかった」と言われたら不同意性交等罪が成立してしまうのでしょうか?

同意の確認

相手の自由な意思決定に基づく性的行為であることを確認するため、事前に同意書や音声メモをとるというのも1つのアイデアでしょう。

しかし裁判で有罪とするには合理的疑いを要れない程度の立証、つまり「常識的に見れば黒」というレベルの立証が求められます。不同意性交等罪であれば、当事者の年齢や身体的特徴、関係性、過去の性行為経験、また性行為に至った経緯や行為当時の状況、行為後の被害者の状態、被害が発覚した過程といった幾多の事情から、被害者が同意したのか、そのことを加害者は認識していたのかを丁寧に認定していくことになるのです。

したがって被害者の内心だけで有罪無罪が決まるわけではありません。「メモがないから有罪」、逆に「同意メモがあるのだから何をやっても無罪」というのも違います。

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櫻井弁護士

改正によって処罰範囲が広がるわけではないのです。

処罰「漏れ」を防ぐ

裁判における立証活動にも変化が生じます。

犯罪事実の立証責任は検察官にありますが、従来の強制性交等罪では被告人(加害者)から合意の存在が主張された場合、検察官がこれを否定するために「被害者が同意をしなかった」ことを立証しなければなりません。その関連証拠を被害者に求めることになるのですが、そのことが結果として被害者を苦しめ、立証が困難となるケースも少なくありませんでした。

しかし不同意性交等罪では、審理開始当初から検察官が「被告人は被害者の同意を得なかった」との主張を行います。その際、被告人に対して「どのように同意を確認したか」という点についての説明も求めます。これに対して被告人は「被害者から同意を得た」と反論し関連する証拠を提出することになるでしょう。

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櫻井弁護士

「ない」ことを証明するより「ある」ことを証明する方がはるかに容易であるため、立証困難を理由に無罪となるケースが減ると同時に、被害者を無為に傷つけるおそれも減少すると思われます。 

今後は、同意書すらも「半強制的に書かされた」という告発や争いが出てきそうですね…

不同意性交罪等の8つの類型の問題点

 加害者目線から被害者目線へと大きく転換した不同意性交等罪ですが、以下の問題点が指摘されています。

行動を決めるルールとしては不明確

裁判では被害者・加害者の内心だけで有罪・無罪が決まるわけではなく、内心を裏付ける証拠から客観的に認定していく以上は処罰範囲が不当に広がることはないでしょう。

しかし個々人が性的行為をする際にどのような行為がセーフ・アウトかを示す基準としては不明確と言わざるを得ません。たとえばアルコールをどれだけ摂取すれば自由な意思決定が阻害されるのかは示されておらず、極端な話、1滴でも飲んだ相手とは性的行為ができないということになりかねません。結果、国民の私生活を委縮させるおそれがあるのです。

同意についての錯誤

 不同意性交等罪は故意犯であり、加害者は相手が不同意であることを少なくとも未必的に認識している必要があります。この認識を欠く場合は過失犯ではなく無罪であることは上述しました。

 そこで加害者が何らかの理由で被害者の同意があったと誤解した場合、どこまで加害者が責任を負うのかは議論になるかと思われます。「すすんでということはなくても受け入れていた」「本当に嫌ならもっと抵抗するはず」と加害者が考えて同意(未必的な同意)があったものと誤解した場合に、完全な故意責任が問えるのかは議論の待たれるところです。

もちろん故意の有無は加害者の内心だけで決まるものではありません。それを推認させる間接証拠によって認定されるわけですが、とくに夫婦や恋人といった親しい関係において「未必的な同意」を打ち消す証拠を集めるのは容易ではないでしょう。そのため従来のように暴行脅迫という手段の有無で判断するより処罰範囲が狭まるのではないかという指摘もされています。
この改正は、これまで犯罪とは言い難かった故ジャニー喜多川氏が行ったとされる、手なづけて性的行為を行うケースに影響を与えるように思います。

【参考記事】


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櫻井弁護士

今後、ますます性被害の告発や週刊誌の報道が活発になるのでしょうか。新しい不同意性交等罪、今後の適用状況を見守りたいと思います。

【2024.2.1記事内容更新】

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櫻井 俊宏

櫻井 俊宏

「弁護士法人アズバーズ」新宿事務所・青梅事務所の代表弁護士。 中央大学の法務実務カウンセルに就任し7年目を迎える。

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