故ジャニー喜多川氏の性的虐待には本来どんな犯罪が成立するか 強制わいせつ罪は?【弁護士が解説】

最新時事問題の法的考察

イギリスの公共放送BBCで、ジャニーズこと株式会社ジャニーズ事務所の創設者であり今は亡きジャニー喜多川氏が、自社のジャニーズJr.の未成年達に性的虐待を続けていたという報道が流れ、世界に衝撃を与えています。

これはそもそも、元ジャニーズJr.のオカモト・カウアン氏が、逮捕されるかもしれないという報道でますます注目されているガーシー氏と対談し、これらの事実について語ったことがきっかけとなっているようです。

この問題は、法的にはどのようなことが問題となるのでしょうか?
本記事では、

ジャニー喜多川氏のように既に死亡した人の法的責任 ジャニー氏への名誉棄損罪は?
ジャニー喜多川氏が生きていた場合の法的責任 強制わいせつ罪は?グルーミングとは?
その後の経緯や他の法的問題

について解説していきます。

https://as-birds.com/media/wp-content/uploads/2020/09/CW_6152793-01-460x460.jpg
櫻井弁護士

学校法人中央大学の法務全般を担当している中央大学「法実務カウンセル」(インハウスロイヤー)であり、千代田区・青梅市の「弁護士法人アズバーズ」代表、弁護士の櫻井俊宏が執筆しております。

1 ジャニー喜多川氏のように既に死亡した人の法的責任|ジャニー氏への名誉棄損罪は?

ジャニー喜多川氏のように既に死亡した人の法的責任

ジャニー喜多川氏のように、死亡した人に法的責任はあるのでしょうか。
この点、もちろん、刑事手続としては、死亡した人への犯罪は成立しません。
立件された場合も、よくニュース等で報道されるように、被疑者死亡ということで書類送検され、被疑者死亡により不起訴になるだけです。

民事手続については、どうでしょうか。本件のような性的虐待は、ハラスメント等と同様に、民法上の不法行為(民法709条)にあたりうるので、もし不法行為が成立した場合には、賠償責任を問われることになります。
この場合、賠償額としては、数百万円から、実際に「姦淫」と言える行為があった場合には、頻度と程度によっては1千万円を超える場合もありうるでしょう。
そして、その故人の賠償債務は、相続放棄等がない限り、債務も相続人が承継することになります。
このことから、本件でも、ジャニー氏の相続人がいる場合で相続放棄をしていない場合には、債務を負担する可能性があるでしょう。
ただし、消滅時効といって、身体に対する不法行為では、権利を行使できるときから5年で、権利が消滅します(民法724条の2)
なので、ジャニー喜多川氏は2019年7月に死亡しているので、ほとんどないしは全部のケースについては消滅時効が成立していることになります。

https://as-birds.com/media/wp-content/uploads/2021/06/CW_6239073-案03c-removebg-preview.png
事務員

逆に、ジャニー喜多川氏について、ジャニーズJr.の人や第三者が過度な暴露話をした場合にはどうなるのでしょうか?

この点、刑事上、名誉棄損罪(刑法230条)の成立が考えられます。

名誉棄損罪は、生きている者に対しては、その公にする内容が真実であっても成立する可能性がありますが、死者に対しての名誉棄損罪は、その内容が事実と異なる場合にしか成立しません(230条2項)。
よって、ジャニー喜多川氏に対する論評等も、その内容が真実である限りは、名誉棄損罪は成立しないということになります。

2 ジャニー喜多川氏が生きていた場合の法的責任
強制わいせつ罪は?グルーミングとは?

ジャニー喜多川氏が生きていた場合の法的責任

もしジャニー喜多川氏が生きていた場合は、どのような法的責任が成立するのでしょうか。
前述のように、民事上の不法行為の賠償責任は成立する可能性があります。

刑事責任はどうでしょうか。

(1)強制わいせつ罪、強制性交罪

まず、ジャニー喜多川氏は、ジャニーズJr.の人達に対して口淫行為を自ら行っていたとされているので、そうであれば、まず強制わいせつ罪(刑法176条。6月以上10年以下の懲役)の成立は問題となるでしょう。
更に、もし、肛門性交までやっていた場合には、強制性交罪(刑法177条。5年以上の懲役)まで問題となります。

ただ、強制わいせつ罪及び強制性交罪の「強制」というのは、暴行または脅迫を用いた場合をいいます。
もし相手を押さえつけて無理矢理ということであれば、暴行があるので当然成立はしますが、そのような暴行がない場合はどうなのでしょうか。

「我慢しなければタレントとして用いない。」というような明示的な話があればもちろん脅迫しているといえますが、本件の経緯からすると、ジャニー喜多川氏が、相手に対して自宅の鍵を渡し、入り浸らせて徐々に仲良くなっていき、マッサージ等をする中で、なりゆきで行為に及んでいたようです。
このように、わいせつ目的を隠してだんだんと子供をてなずけていく手法を、海外では「グルーミング」というそうです。
このことからすると、そのような脅迫はないように思います。

本件で被害に遭っているのはジャニーズJr.なので、13歳以下の年齢の方が被害に遭っている場合も考えられます。被害に遭った者が、13歳以下の場合は、法律上、同意があっても強制性交罪が成立します。

一方、14歳以上の方が被害に遭った場合には、前述のように、暴行・脅迫といった「強制」がなさそうです。強制わいせつ罪や強制性交罪は成立しないのでしょうか。

もし、ジャニー喜多川氏が、「自分の行為を受け入れなければアイドルとして用いない」と暗に思わせる欺罔によって、行為を行っていた場合には、準強制わいせつ罪、準強制性交罪(刑法178条)の成立を考えることになります。
準強制性交罪とは、被害者が、睡眠や泥酔、失神などの心神喪失又は抗拒不能の状態であることに乗じて、性交を行う犯罪です。「準」がつかない場合と量刑は同じです。
そして、欺罔を用いて錯誤に陥らせ、性交を行う場合には、「もし被害者が錯誤に陥っていなければ行為者に性的行為を許さなかったであろう」といえる場合には、被害者の承諾は無効であるとする裁判例があります(東京高判昭和31年9月17日等)。

そこで、そのような場合には抗拒不能状態を利用されたといえ、ジャニー喜多川氏に準強制わいせつ罪や準強制性交罪が成立する場合があるかもしれません。

なお、強制性交罪は、以前は強姦罪と呼ばれていたのですが、女性しか被害者になりえないということが問題ということで、2017年に法改正がされ、名前が変わり、男性も被害者になりうる内容となりました。
また、肛門性交、口腔性交もその対象となりました。
更に、3年以上の懲役であったのが、5年以上の懲役へと量刑が引き上げられました。
その上、これまでの強姦罪は、被害者のプライバシーに配慮して、被害者の申し出がないと捜査されない親告罪だったのですが、非親告罪となりました。

そして、このたび、強制性交罪は、不同意性交罪というものになるという案がまとまったようです。

この不同意性交罪は、同意しないことが難しい場合を列挙し、そのような場合も成立するという内容になる予定で、犯罪が成立する範囲が広くなるとのこと。

また、なんと、正に本件のためにあるような内容ですが、性的な目的のため子供をてなずけ、心理的にコントロールすることに対するグルーミング手法に対する罪も盛り込まれるようです。
本件は、この犯罪にあたりそうですね。

(2)青少年保護育成条例違反

本件のような経緯のもとでは、青少年保護育成条例の「淫行」があるものとして、処罰されるでしょう。2年以下の懲役又は100万円以下の罰金です。

3 その後の経緯や他の法的問題

その後の経緯や他の法的問題

この件については、これまでに雑誌等で報道されたり、それについての名誉棄損訴訟でジャニー喜多川氏が敗訴するなど、動きがあったものの、各日本のテレビ局等は沈黙を続けていました。
ジャニーズ事務所との繋がりを維持したかったからでしょう。

しかし、今回のBBCによる報道後、日本の民放でも、このことについての報道がされ始めています。
また、ジャニーズ事務所自体も、「この件について、問題がないとは考えてはいない。」という声明を発表しています。

今後、どのような対応がされるか注目です。

なお、その後、岡本カウアン氏は、AKBにおいてもいわゆる枕営業が常態化していたとカミングアウトしています。
実際には、そのようなことをしてもトップアイドルになりたいと考えている人がいてもおかしくないわけで、このように、なにもかも暴露されるのは困ると考える人も出てきそうです。
今後は、岡本カウアン氏のような暴露者が、その暴露の仕方が他のJr.であった人達がそのようなことをしていたということを想起させるようなものであれば、その被害者達が名誉棄損等を根拠として、カウアン氏を訴えるということもあるかもしれませんね。

4 本記事のまとめ

本件は、これまでの刑事犯罪の処罰体系では、重罪とはならないグルーミングという手法をうまく利用して行われており、新しい性犯罪問題といえます。
次の刑法改正等で、どのように対応がされていくのか、ジャニーズ事務所や芸能界がどのような姿勢で対応していくのか、とても注目される件であると言えましょう。

幻冬舎GOLD ONLINE 身近な法律トラブル

人気記事




櫻井 俊宏

櫻井 俊宏

「弁護士法人アズバーズ」新宿事務所・青梅事務所の代表弁護士。 中央大学の法務実務カウンセルに就任し7年目を迎える。

関連記事

特集記事

最近の記事

  1. 子供に相続させない方法【前妻の子 縁を切った子 事業承継等】

  2. 「懲戒される前に退職してやる!」先に辞職された場合に懲戒解雇はできる?退職金はどうなるの?【弁護士が解説】

  3. 自筆証書遺言の保管場所は自宅?法律事務所?法務局?

TOP