未払奨学金の返還請求の方法【学校法務弁護士が解説】

学校法務

大学等の学校においては、完全に返還しなくて良い奨学金の他、貸与制の奨学金制度があります。
「ひろゆき」こと西村博之氏は、貸与であれば「奨学金」ではなくて「学生ローン」ではないか、と述べていましたが、確かにそうですね。
さて、このような奨学金が未払となったとき、学校はどのように対応すれば良いのか、

・奨学金の時効について
・自己破産又は民事再生した場合
・支払われた金額の充当

という観点から解説していきます。

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事務員

学校法人中央大学の法務全般を担当している中央大学「法実務カウンセル」(インハウスロイヤー)であり、新宿・青梅・三郷の「弁護士法人アズバーズ」代表、弁護士の櫻井俊宏が執筆しております。

1 奨学金の時効について

(1)時効期間

学校法の債権回収においては、一般の民事債権と同様、5年が経過すると消滅時効期間が適用され、時効が援用されると債権は消滅します(民法第166条第1項)。

通常、支払期限が定まっている場合は、支払期限の翌日から時効の期間が進行します。

しかし、返済期限の定めが分割である場合、おのおのの分割期限から時効が進行します。

たとえば,平成16年11月15日期限である15,000円の債務の消滅時効は、平成16年11月16日から進行し、平成16年12月15日期限の15000円の債務の消滅時効は,平成16年12月16日から進行します。

(2)消滅時効の援用について

時効は,債務者が「援用」(時効をするという意思の通知)の意思表示をすることによって、はじめて効果が発生することが確定します。

なお、主債務者である卒業生が消滅時効の援用の意思表示をした場合、連帯保証人にも債務消滅の効果が生じます。

一方、連帯保証人が消滅時効の「援用」の意思表示をしたとしても、主債務者ににはその効果は及びません判例。民法第145条参照)。

(3)時効の更新について

時効は、その債権について、裁判上の請求等・差押等・仮差押・仮処分・催告・承認があったときはその進行が更新し、また一から時効期間を積み重ねなくてはなりません(民法第147条以下)。

「裁判上の請求」とは、時効の成立を阻止する者が、正に相手方に対して裁判を提起することです。その他、裁判所を通じた支払督促、調停等も更新事由となります(民法147条)。
 その他、裁判所を通した差押(例えば預金の差押)、仮差押(例えば預金の事前の凍結手続)等も時効の更新事由となります(民法148条、149条)。

催告(内容証明郵便を相手に送る等。民法第150条)もあります。

この内容証明郵便を債務者に送るという催告の手段では、時効の完成をそこから6ヶ月間止めるに過ぎません。その間に他の更新事由を行う必要があります。

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櫻井弁護士

なお、内容証明郵便で6ヶ月間時効の完成を伸ばしても、更に内容証明郵便を送れば時効の完成が伸びるわけではないので注意が必要です。

「承認」とは、債務者が債務の存在を認めることをいいます(民法152条)。

書面に限らず、電話で「確かに〇〇円借りましたので後で返します。」という承認する旨の発言を録音しても効力はあります。また、債務の一部でも債務者が支払えば、債務全体に対する承認となります。

そして、主債務者に生じた時効更新事由は、(連帯)保証人との間においても効力が発生します(民法第457条第1項)。これに対し、(連帯)保証人に生じた時効更新事由は、主債務者との間に効力を及ぼしません。

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櫻井弁護士

ただし、連帯保証人に対する裁判上の請求だけは、主債務者に対する債権の時効期間の進行を止めることができます(民法第458条、民法第434条)。 

            

時効の援用 時効の更新
主債務者 →(連帯)保証人 及ぶ(民法第145条)
及ぶ(民法第457条第1項)
連帯保証人 →主債務者 及ばない(民法第145条)
及ばない(民法第457条第1項)
例外:連帯保証人に対する請求のみ及ぶ(民法第458条,第434条)

2 自己破産等について

(1)自己破産の場合

自己破産には、同時廃止という手続と異時廃止という手続があります。

【同時廃止】                                                               債務者のそれまでの生活状況・財産状態等を裁判所がチェックした結果、問題なしと裁判所が判断した場合、破産申立と同時に破産手続を終了させます。そして、特段の問題がそれ以降発覚しない限りは、債務者の免責(債務が全てなしになること)が認められる手続をいいます。

最後に「免責審尋」という手続に債務者が参加し、免責となります。免責審尋は、実質的には債務者に破産するにあたって注意をうながすだけの手続なので、債務者が破産免責することは不相当であることを確実な証拠をもって指摘することができる場合等を除けば、債権者(本記事でいうと奨学金を貸している学校)が参加する意義は薄いです。

【異時廃止(管財事件)】                                                           債務者のそれまでの生活状況・財産状態等が全く問題ないとは言えないような場合に、弁護士等が破産管財人として選任され、債務者の財産状態等をチェックする手続です。 

同時廃止よりは時間がかかります。債権者は、「債権者集会」に参加し、破産管財人のチェックについて報告を受け、手続が終わってなお債務者の財産に余剰がある場合には、平等に一定程度支給されることになります(「配当」といいます。もっとも,配当が出る場合はかなり少ないです)。

ただし、債権者集会に参加する義務はなく、参加しなくても、債務者の財産に余剰がある場合には配当はなされます。

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事務員

裁判所の手続上で作成される債権者一覧表に債権者(学校)の名前がなく、特に連絡がないのにいつのまにか債権者が破産していたという場合では、債務が消滅したことになるのでしょうか?

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櫻井弁護士

これについては争いがありますね。神戸簡易裁判所平成元年9月7日裁判例は、破産債務者に、債権者名簿に記載しなかったことにつき免責の効果を認めないほどの過失があるかどうかという基準で判断しています。

(2)民事再生について

民事再生とは、裁判所を通した、債務が一定程度少なくなる手続です。

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櫻井弁護士

法人ではない債務者の場合、全債務の8割~9割前後がカットされることになります。

主債務者が個人再生手続を申立てた場合、そもそも民事再生手続認可されるか,されるとしても債権がどれだけカットされるかについて利害関係があるので、債権者は手続に関わっていくことになります。

主債務者が個人再生手続を申立てたとしても、連帯保証人に影響があるわけではないので、主債務者が弁済した分を除いた金額を連帯保証人に請求し続けることは何ら問題ありません。

3 支払われた金額はどのように充当されるか

学年 金額 連帯保証人
1年 30万円
2年 30万円
父(自己破産者)
3年 30万円
4年 30万円
父(自己破産者)

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事務員

例えば各学年に、上記のような奨学金の借り方をしたときに、既になされた20万円の返済はどの部分に充てられるのでしょうか。

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櫻井弁護士

もちろん、どの部分に弁済したいという債務者の指定があればそれに従います。指定がない場合、履行当時に父親の自己破産がされていなければ、債務者のための弁済の利益に差はないので、民法489条により、各学年5万円ずつの按分の返済となります。

母親が連帯保証している債務の残額

30万円+30万円-10万円=50万円、

父親が連帯保証している債務の残額

30万円+30万円-10万円=50万円

これに対し、父親の自己破産が履行当時に既にされている場合には、母親が連帯保証している債務に充当した方が債務者の利益になるのであり、民法489条により、母親が連帯保証した債務から弁済されます。

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櫻井弁護士

よって、母親が連帯保証している債務の残額は30万円+30万円-20万円=40万円となり、父親が連帯保証していた債務の残額は依然60万円となるわけです。

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事務員

なるほど、母親の方は自己破産しておらず債務がまだ残った状態なので、優先して充当するんですね。

以上、未払い奨学金の返還請求について解説しました。今後も学校法務に関する知識を紹介していきますのでご期待ください。

 

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櫻井 俊宏

櫻井 俊宏

「弁護士法人アズバーズ」新宿事務所・青梅事務所の代表弁護士。 中央大学の法務実務カウンセルに就任し7年目を迎える。

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