チアリーダーを撮影してYouTubeにアップすると犯罪!?撮影罪の創設 肖像権侵害等で損害賠償請求できる?

最新時事問題の法的考察

中央大学の法務全般を担当している法実務カウンセル(インハウスロイヤー)の弁護士櫻井俊宏です。

今年も箱根駅伝は熱い戦いでした。私は応援団出身で、現在も応援団のOBOG会の幹事長をしているので、その立場からいろいろ大会をバックアップしております。
そのような中、法的に気になることがあります。チアリーダーのみなさんを足を上げているときをフォーカスしている動画等を中心に、性的な対象としているような内容の動画がYouTubeにアップされていることです。多いときは400万以上も再生されているようです。このような動画は違法ではないのでしょうか?

高校生チアリーダーだと児童ポルノ的になり、より違法になりやすいと思われますが、特に大学生チアリーダーに関しては違法性か強いかどうか、法的には悩ましいところです。この記事では以下の3点について解説したいと思います。

チアリーダーを性的な対象として撮影してアップしているYouTube動画を差し止めるには?
チアリーダーを性的な対象として撮影してアップすることは犯罪ではないのか?
チアリーダーを性的な対象として撮影してアップする者に対し損害賠償請求できるのか
チアリーダーを撮影する者に対する具体的な対策は?

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櫻井弁護士

中央大学の法務全般を担当している中央大学法実務カウンセル(インハウスロイヤー)であり、
千代田区・青梅市の「弁護士法人アズバーズ」代表、
弁護士の櫻井俊宏が執筆しております。

1 チアリーダーを性的な対象として撮影しアップしているYouTube動画を差し止めるには?

チアリーダーを性的な対象として撮影しアップしているYouTube動画を差し止めるには?

チアリーダーを性的な対象として撮影しアップしている動画を差し止めるにはどのようにしたら良いのでしょうか?
もちろん、裁判所を通した法的手続を行うのが確実です。しかし、YouTubeのチャンネルは、芸能人や本業ビジネスのために行っている人等を除いて、通常本名等の本人の情報がわからないアカウントであることが多いです。
すると、まず相手の個人情報を手に入れるだけでも裁判所を通さなくてはならず、とんでもない弁護士費用がかかることになります。

そこで、まずは、YouTubeを運営するグーグル社に申立てをして、動画を削除したりチャンネルを凍結してもらえるか試してみるのが良いでしょう。
具体的には、個々の動画について「報告」を行うと良いと思います。

そして、その報告内容は、グーグル社のYouTubeポリシーを参考にして、そのポリシーに反するということをしっかりと説明するべきです。下記がYouTubeにおけるヌードや性的コンテンツに関するポリシーです。
YouTubeのヌードや性的コンテンツに関するポリシー

この中に「着衣、非着衣を問わず性的満足を目的とする性器、胸部、臀部の描写」があるコンテンツは投稿しないように、とあります。
着衣であっても性的満足を目的とする臀部の描写、と言えるのではないでしょうか。
また、「痴漢行為、キス、公共の場でのマスターベーション、スカート内盗撮、のぞき行為、露出、同意なしに相手を性的対象化するその他のコンテンツ」は認めていません、とあります。
チアの衣装であっても「スカート内盗撮」であるようにも思えるので、これに抵触するという意見もありえます。

これらのポリシー違反を報告で申し立ててみるとよいでしょう。できれば、複数の人から申立てると、より動画が削除される可能性も高まると思います。周りの人達にも協力してもらいましょう。

それでも動画が削除されない場合には、裁判所を通した法的開示請求に移行するしかありません。
2022年に開示請求方法について法改正があったので、旧来の開示請求方法と、法改正について、下記で言及します。

法的開示請求の流れ

発信者情報開示請求の旧法下でのおおまかな流れについて説明します。

①      コンテンツプロバイダ等に投稿者のIPアドレスやタイムスタンプを開示してもらう

コンテンツプロバイダが任意にIPアドレス等の開示に応じることはほとんどないため、発信者情報開示仮処分を裁判所に申し立てます。

②      ①で取得した情報から投稿者が経由したアクセスプロバイダを特定する

③ アクセスプロバイダに対してアクセスログの保存を要請する

④ アクセスプロバイダに対する発信者情報開示請求訴訟

実際に発信者情報を開示してもらうには④の訴訟を提起し勝訴判決を得る必要があります。

それまでにプロバイダにおけるログ保存期間(3~6か月)が過ぎてしまわないように、書面で保存を要請し、応じなければ、発信者情報消去禁止仮処分を裁判所に申し立てることになります。

アクセスプロバイダも発信者情報開示に任意に応じることはほとんどないため、訴訟手続きを経て開示を実現し、投稿者を特定することになります。

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櫻井弁護士

IPアドレスから順にたどって最終的に住所氏名が開示されるまで4~8か月が目安です。

結局、これらの手続を全部やるだけで、弁護士への依頼の料金は50万円前後もかかることになります。
しかし、2022年の改正法により、これらのコンテンツプロバイダに対するIPアドレスを得るための仮処分と、アクセスプロバイダに対する発信者情報を得るための訴訟の内容が、一緒になった「非訟手続」(訴訟よりも裁判所の裁量の広い手続)が創設されました(改正法8条以下)。
これにより、大幅に手間が減り、時間が短縮されることになります。

相手方の情報が得られた後は、その相手に対し、内容証明郵便等で警告を出すわけですが、それでも止まらない場合は、差止請求、損害賠償請求等の訴訟を提起することになります。

2 チアリーダーを性的な対象として撮影してアップすることは犯罪ではないのか?

2 チアリーダーを性的な対象として撮影してアップすることは犯罪ではないのか?

チアリーダーを性的な対象として撮影してアップすることは犯罪ではないのでしょうか?

迷惑防止条例違反

これまでは迷惑防止条例違反によって処罰されていました。
迷惑防止条例は、国の制定した法律ではなく、地方公共団体の条例なので、都道府県によって内容が違います。ですが、各都道府県間の条例において、共通する部分も多いので、例として東京都の迷惑防止条例をあげて説明します。

【参照】東京都迷惑防止条例第5条

次のいずれかに掲げる場所又は乗物における人の通常衣服で隠されている下着又は身体を、写真機その他の機器を用いて撮影し、又は撮影する目的で写真機その他の機器を差し向け、若しくは設置すること。
イ 住居、便所、浴場、更衣室その他人が通常衣服の全部又は一部を着けない状態でいるような場所
ロ 公共の場所、公共の乗物、学校、事務所、タクシーその他不特定又は多数の者が利用し、又は出入りする場所又は乗物(イに該当するものを除く。)れた著作物は、営利を目的とせず、かつ、聴衆又は観衆から料金を受けない場合には、公に上演し、演奏し、上映し、又は口述することができる。ただし、当該上演、演奏、上映又は口述について実演家又は口述を行う者に対し報酬が支払われる場合には、この限りではない。

これに反する場合は、1年以下の懲役または100万円以下の罰金です。

上記の条文で、「通常衣服で隠されている下着又は身体を」とあり、チアリーダーのスカートの下は、一応通常衣服で隠されていると言えるように思うので、この迷惑防止条例上の盗撮行為にあたる場合もあるでしょう。

現に、チアリーダーに対する撮影で逮捕されているケースもあるようです。

まずは、2017年2月8日に書類送検されたケースについての記事です。
野球場で女子大生「チアリーディング」撮影して書類送検
このケースでは、カメラに上着をかぶせ、太もも等をアップで撮影していたことが重視されたとのことです。盗撮としての態様であったことが大きいのでしょう。
女子大生チアリーダーとのことで、社会人よりもまた未成熟な若者の保護の要素が大きかったのではないかという見解も記載されています。

また、2020年10月の撮影行為に関して、2023年2月8日逮捕されたケースについての記事です。
「スリル忘れられなかった」チアリーダーをペン型カメラで撮影容疑

ペン型カメラを自分の靴に差し込んで撮影していたということで、これも盗撮的態様で行われたことは重視されたと思います。

なお、この両方の件について、気になるのは、京都の「わかさスタジアム京都」で行われた件であることです。

京都府警が特にチアリーダーの盗撮について力を入れているのでしょうか。それとも、スタジアム又は特定の大学チアリーダー団体が重点的に対策をしているのでしょうか。
ここに、チアリーダーの撮影対策のヒントが隠されているように思います。

 

撮影罪(性的姿態等処罰法違反)

つい最近の2023年7月13日、刑事上、撮影罪が新たに成立しました。性的姿態撮影等処罰法(性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律)という独自の法律です。
これにより、今後は迷惑防止条例違反ではなく、この撮影罪によって処罰されていくことになります。

【参照】性的姿態撮影等処罰法第2条

次の各号のいずれかに掲げる行為をした者は、三年以下の拘禁刑又は三百万円以下の罰金に処する。

正当な理由がないのに、ひそかに、次に掲げる姿態等(略)を撮影する行為

 人の性的な部位(略)又は人が身に着けている下着(略)のうち現に性的な部位を直接若しくは間接に覆っている部分

 イに掲げるもののほか、わいせつな行為又は性交等(刑法(明治四十年法律第四十五号)第百七十七条第一項に規定する性交等をいう。)がされている間における人の姿態

この法律ができたことによって、迷惑防止条例よりも「性的な部位」という表現等、対象範囲が広がり、より犯罪が成立しやすくなったと言えます。

また、3年以下の拘禁刑又は300万円以下の罰金と、罪もより重くなっております。

【参考記事】撮影罪と同時に成立した不同意性交罪等の改正についての記事はこちら

他にも軽犯罪法等が考えられますが、軽犯罪法の盗撮は、家の中やお風呂等を対象としており、本件では当てはまりにくいように思います。

3 チアリーダーを性的な対象としてアップする者に対し損害賠償請求できるのか?

チアリーダーを性的な対象としてアップする者に対し損害賠償請求できるのか?

チアリーダーを性的な対象としてアップする者に対し、損害賠償請求はできるのでしょうか?
前提として、裁判をする場合には、相手の素性(名前や住所)が知れている必要があります。

この点、まずは肖像権(その者の容貌を保護する権利。憲法13条)は侵害しているので、この賠償請求はできるように思います。

最近、また肖像権に関する裁判例(東京地方裁判所令和4年10月28日裁判例)が出ました。
逮捕時の様子を動画で公表したという事案で、30万円の賠償が認められました。
この裁判例によると、公共の場における撮影について、肖像権侵害が認められるかどうかの基準は次のようなものです。

①…
②公的領域において撮影し又は撮影された情報を公表する場合において、当該情報が社会通念上受忍すべき限度を超えて被撮影者を侮辱するものであるとき、

③公的領域において撮影し又は撮影された情報を公表する場合において、当該情報が公表されることによって社会通念上受忍すべき限度を超えて平穏に日常生活を送る被撮影者の利益を害するおそれがあるとき

公共の場の場合、他人の目にさらされることが予定されている場であることから、少し成立するための要件が求められています。
チアリーディングの撮影に関しては、YouTubeで公表されることによって、特に視聴者が偏執的な嗜好を持っているように思うので、SNSや現実においてストーカー化される恐れが高く、「平穏に日常生活を送る被撮影者の利益を害するおそれがある」といえる場合が多いと思います(③)。
また、単にチアリーディングの演技のみではなく、侮辱するようなテロップ等の演出が加えられているような場合は、②にも反するといえるでしょう。

よって、肖像権侵害である可能性が高いです。

今後は、賠償額についても、上の侵害の程度によって決まるように思います。
そう考えると、特に偏執的な人達にさらされるリスク、見られることによる嫌悪感が大きいものをアップされることなどを重視して考えるのであれば、賠償額も大きくなるような場合があるかもしれません。
とは言え、大きくて数十万円、1つの動画ではなかなか100万円を超える賠償額は難しそうですね。

実際に、チアリーダーをYouTubeにアップした事例の裁判例の出現が待たれます。

4 チアリーダーを撮影する者に対する具体的な対策は?

チアリーダーを撮影する者に対する具体的な対策は?

このような撮影者に対して、具体的な対策法はあるのでしょうか?

最近は、スポーツの試合等で、男子の試合であっても、肖像権侵害等を重く見て、撮影は許諾のある者以外一切禁止という場合も多いようです。
最初からそのように設定されている場合は、撮影があった場合にカメラの没収等がなされています。

しかし前述のように、チアリーダーの演技は、体育館や競技場でのみ行われるわけではなく、駅伝の応援等の場合、公道で行うことも多いです。
このことから、前述のような全面禁止の空気を事前に作ることが大変です。
そこで、事前にプラカード等で、「撮影・インターネット等での動画アップ等をしないでください。」と掲げておくと良いでしょう。民事にしろ、刑事にしろ、事前にこのように周知させて、同意がない状態にしておくことは決定的に重要です。
現に、そのようにプラカードを掲げている大学の応援団も多いようです。

これにより、確実に違法となりうる場合が多くなると思います。
また、重ねて、その部のホームページやSNSにも同様の宣言をしておくとなお良いでしょう。

盗撮行為は、かなり常習性が高く、その嗜好がある人は、一度その味を覚えてしまうと、やめられない人が多いようです。
ただ、常習性があるといっても、薬物のような物理的なものではないはずです。そのようなものであるにも関わらず、自分の欲望を満たすために行う撮影者達の心理は、理解ができません。

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櫻井弁護士

本当に卑劣な行為です!


そして、そのような犯罪者のパソコンは、そのような画像であふれていることが多いです。

しかし、この盗撮行為は、相手を食い物にする卑劣な犯罪です。
また、一度アップしてしまうと、ネットに傷跡が残り続ける上、データなので、どこまでも拡散する恐れがあるという特色があります。
犯罪が発覚しても、全てを削除するのが事実上不可能になってしまうのです。

そこで、スポーツの盗撮も、取り締まりの必要が強くあるはずです。
それにも関わらず、法的対抗手段が少ないのは、このような撮影行為に対する法的な対応が過渡期にあるからではないかと考えます。

このようなときには、世論を動かしていくことも必要です。
学生スポーツ界が、学生同士等横の連携をもって、この問題に対し断固たる対応をしていくことが求められていると思います。
前述のように、京都等は特にその動きが活発なようなので、どのように対応しているのか機会があったら聞いてみたいです。

*弁護士法人アズバーズ代表弁護士櫻井俊宏がYouTube幻冬舎ゴールドオンラインチャンネルにおいて著作権等について解説しております。

5 まとめ

最近、女子陸上では、このような性的な部分を強調した撮影等に関して、逮捕される事案が多くなっているようです。これは一つのムーブメントであり、その火を絶やさぬように、他のスポーツでもこの問題が取り上げられていくこと、裁判例等が出されていくことを願いたいと思います。

 

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櫻井 俊宏

櫻井 俊宏

「弁護士法人アズバーズ」新宿事務所・青梅事務所の代表弁護士。 中央大学の法務実務カウンセルに就任し7年目を迎える。

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