消滅時効の改正|「更新」「完成猶予」とは?離婚・不倫慰謝料への影響は?

離婚・男女法律問題

2020年の民法改正で消滅時効が大きく変わりました。年数が変わった上に、「更新」「猶予」といった新しい用語も出てきました。この改正は、私たちの生活にどのような影響があったのでしょうか?

 本記事ではまず、

新しくなった時効期間と起算点
「更新」と「完成猶予」という新概念

の概要について説明します。

 後半では具体的に離婚時慰謝料を取り上げ、

慰謝料を請求する側
慰謝料を請求された側

双方の消滅時効に関する注意点を解説していきます。

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櫻井弁護士

学校法人中央大学の法務全般を担当している中央大学「法実務カウンセル」(インハウスロイヤー)であり、千代田区・青梅市の「弁護士法人アズバーズ」代表、弁護士の櫻井俊宏が執筆しております。

1 時効期間と起算点の改正による見直し

時効期間と起算点の見直し

 時効には取得時効と消滅時効があり、今回改正されたのは消滅時効です。滅時効とは一定期間の経過によって債権や所有権以外の財産権(地上権や地役権等)が消滅することをいいます。

【改正法】

権利 起算点
(主:主観的起算点 客:客観的起算点)
期間
一般の債権
(主)債権者が権利を行使することができることを知った時 5年
(客)権利を行使することができる時 10年
生命身体の侵害に基づく
損害賠償請求権
(主)損害及び加害者を知った時から 5年
(客)不法行為の時から 20年

2 改正による時効期間の統一

2 時効期間の統一

①一般的な債権は「5年又は10年」

改正前は原則10年としながら、当事者の職業等によって、1、2、3年という短期消滅時効が設けられ、商事時効は5年と複雑な構造になっていました。

そのため持っている債権が何年で時効消滅するのかがわからず、うっかり期間が経過して権利が消滅することもめずらしくありませんでした

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櫻井弁護士

そこで、時効期間が原則として「5年又は10年」に統一されることになりました(民法166条1項)。

②生命身体侵害による損害賠償請求は「5年又は20年」

生命身体侵害は交通事故のような不法行為のみならず、労働災害のように契約関係からも発生します。

そして損害賠償請求権の消滅時効は、債務不履行責任の場合は5年又は10年(166条1項)、不法行為責任の場合は3年又は20年(724条)ですが、それぞれに生命身体侵害における特則が設けられました(「10年→20年」167条、「3年→5年」724条の2)。

これらの新規定があいまって、いずれの構成によっても「5年又は20年」と時効期間が統一されることになります。

3 改正法ではいつからカウントされる?(起算点)

いつからカウント(起算点)

権利の状態(客観的起算点)と債権者の主観(主観的起算点)にズレが生じる場合は、より早く期間が満了する方を選択する規律になっています。

客観的起算点とは債権者が法律上の障害なく権利行使できる状態となった時点、主観的起算点とは債権者がその状態を認識した時点のことです。そして債権者が実際に権利行使するには権利の発生だけでなく、債務者が誰であるかを知っている必要があります。

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櫻井弁護士

この二つの時点が一致する場合、一致しない場合をそれぞれ見ていきましょう。

①権利行使できる時と知った時が一致する債権

たとえば「〇月□日に引き渡す」というように権利行使の期日が明確に決められている場合(確定期限付債権)は、「権利の客観」「債権者の主観」のいずれにおいても約束期日を起算点に置くことになります。

債権者は期日を知っていて当然ですから、失念したという事情は考慮しません。そして両起算点からカウントを始め、早く到来する5年で時効消滅すると考えます。

多くの債権では主観的・客観的起算点は一致するため、これまで10年だった時効期間が5年へと大幅に短縮されることになります。

権利行使できる時と知った時が一致する債権

 

②権利行使できる時と知った時が必ずしも一致しない債権

これに対して、以下のような場合には客観的起算点と主観的起算点が一致しないことが起こり得ます。

不確定期限付債権 …「祖父が亡くなったら買う」
停止条件付債権 …「合格したらもらえる」
期限の定めない債権 …不当利得返還請求権(誤振込、過払い)
安全配慮義務違反による損害賠償請求権 … 医療過誤

これらの権利は「祖父の死亡」「合格した」「誤振込をした」「損害を受けた」といった事実があった時点で行使自体は可能です(客観的起算点)。

しかし実際に権利行使するにはその事実の有無や権利の内容、誰が債務者であるかを知る必要があるのですが、いつ知ったかは債権者によることになります(主観的起算点)。仮に主観的起算点だけだといつまでも消滅時効が進行を開始しない可能性があるので、客観的起算点から10年の消滅時効を設ける二重構成となっているのです。

その上でより早く到来する方を選択することになります。

(知った時から5年で時効消滅)

知った時から5年で時効消滅

(権利を行使できる時から10年で時効消滅)

権利を行使できる時から10年で時効消滅

 

4 時効完成を妨げる事由の改正による整備・追加

4 時効完成を妨げる事由の整備・追加

改正法では言葉の意味と語感を一致させるべく、概念の整理と新設も行われています。

(1)時効の「更新」と「完成猶予」

以前の中断が「更新」に、停止が「完成猶予」にと変更されました。

更新
進行中の時効が一定の事由により更新されること
完成猶予
一定事由が生じた場合に、その事由が終了するまで時効が完成しない

 法定の更新事由及び時効完成猶予事由は以下の通りです。

事由 更新 完成猶予
裁判上の請求(147条)
強制執行等(148条)
仮差押え等(149条)  
催告(150条)  
承認(152条)  
天災等(161条)  

(2)協議による時効の完成猶予

上記時効完成猶予事由とは別に、協議を経た双方の合意で1年を超えない範囲で消滅時効の完成を猶予することができるようになりました。

期間を定めず合意した場合は合意後1年間の猶予がされます(151条1項1号2号)。この合意は書面あるいは電磁的記録によってする必要があります(4項)

期間中、再度時効完成猶予の合意をすることができますが、本来の時効完成時より通算して5年を超えることはできません(2項)

5 離婚や不倫における慰謝料の場合はどうなるか?

5 離婚における慰謝料の場合

以上を前提に離婚事件を見てみましょう。

離婚における慰謝料には大きく分けて、離婚原因慰謝料と離婚自体慰謝料の2種類があります。

前者は不貞行為や家庭内暴力等、離婚の原因となった不法行為についての慰謝料、後者は離婚を余儀なくされたこと自体を不法行為とする慰謝料です。いずれも根拠は不法行為責任に求められますが、請求する相手、起算点、時効期間が若干異なります

離婚原因慰謝料 離婚自体慰謝料

 


請求相手

不貞行為 暴力等 原則
配偶者及び
不倫相手

配偶者

配偶者のみ
離婚原因が不貞である場合の例外
離婚させることを意図して不当な干渉をする等して当該夫婦を離婚に追い詰めたような事情があれば、不倫相手にも請求可

起算点と時効期間
損害及び加害者を知ったときから

離婚成立時から3年

3年 5年
不法行為時から20年

6 慰謝料を請求する側の注意点

6 慰謝料を請求する側の注意点

①慰謝料の内容

離婚原因慰謝料と離婚自体慰謝料は内容的に重なる部分が多いため常に両方を獲得できるとは限りませんが、両者は性格が異なりますので、一方のみ又はまとめて請求することが可能です。

②いつからカウント?

離婚原因慰謝料のうち不貞慰謝料では、配偶者に対しては過去の不貞事実を知った時から、不倫相手に対しては相手を特定できた日から3年です。もし行為後19年目で気付いた場合は早く到来する「行為時から20年」によって判断にします。

そして長期間に及ぶ不倫関係については、最終行為を知ってから3年、又は最終行為時から20年です。

一方、離婚自体慰謝料請求権は離婚成立時から3年で時効消滅します。

③時効の完成猶予・更新

・不倫相手に対して

時効消滅を止める(完成猶予)ための手段としては訴訟提起や調停申立、又は相手の承認を得る(公正証書が望ましい)ことが第一義的です。裁判や審判が確定した時、相手が承認した時をもって時効がリセット(更新)された状態になります。

そのような手段をとる余裕がない場合は、内容証明郵便等にて慰謝料を請求する旨相手に伝えます。これが時効完成事由の「催告」にあたり、その後6か月間は時効がストップするため、この間に上記手段をとるなどして時効の更新を目指します。

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櫻井弁護士

なお、期間中再び催告を繰り返してもストップ期間の延長にはならない点注意が必要です。

・配偶者に対して

婚姻関係にある夫婦のうち一方が他方に損害賠償請求するというのは現実味がなく、とくに家計を同じにする夫婦では難しいでしょう。

そこで夫婦の一方が他方に対して有する権利については、婚姻解消時から6か月を経過するまでの間は時効が完成しない旨の定めがあります(159条)。したがって離婚成立時より6か月以内に上記手段をとれば、不倫相手への慰謝料請求権が時効消滅していても、離婚後の元配偶者には慰謝料請求できる場合があります。

④時効期間経過後でも諦めない

3年や5年の時効期間が経過していても望みはあります。

時効期間満了をもって権利が自動的に消滅するわけではありません。債務者の「支払わなくてよい」という効果はその効果を受けようとする者が時効を「援用」という意思表示をすることによって初めて生じます。

つまり時効期間満了後であっても請求すること自体は可能であり、相手が真意であれ勘違いであれ、これに応じる可能性があります

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よって相手が援用しない限りは、まず催告することをお勧めします。

7 慰謝料を請求された側の注意点

7 慰謝料を請求された側

①慰謝料の内容

離婚後3年経過しているのに離婚自体慰謝料を請求されたといった場合は支払う必要はありません。まずは請求された慰謝料の種類と時間経過を確認しましょう。

②確実に「援用」

請求された慰謝料の内容と時効期間の経過を確認できたのであれば、支払う意思がないことを表明します。これが「時効の援用」にあたり、特別な要式はいりませんが、証拠として残すため内容証明郵便を利用します。

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「相手にしない」「放置する」だけでは消滅時効の効果は受けられないことに注意して下さい。

8 まとめ

消滅時効は、もともと存在した権利を消滅させることができるという強い効果を持つ制度ですが、法律を勉強してない方は意外とその仕組みを知らないものです。

いつのまにか時効が成立してしまったり、本当は消滅時効を主張できたのに「更新」の効果により消滅できなくなってしまったりしたら目も当てられません。

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櫻井弁護士

時効の問題等がありそうなときは、まずは私達の事務所(03-5937-3261)にご連絡いただければと思います。

【2023.5.31記事内容更新】

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櫻井 俊宏

櫻井 俊宏

「弁護士法人アズバーズ」新宿事務所・青梅事務所の代表弁護士。 中央大学の法務実務カウンセルに就任し7年目を迎える。

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