最近、持ち自動車離れが進み、タクシー料金も低下し、タクシーが呼べるアプリ等も普及しそうな中、タクシーの重要性が増していると言えます。
タクシーと交通事故に遭った場合、普通の交通事故の示談と違うところがあるのでしょうか?
・タクシーに轢かれた場合の示談【タクシー共済】
・タクシー乗車中に事故に遭った場合の示談【共同不法行為、二自賠】
・タクシー内のトラブル
という観点から解説していきます。
学校法人中央大学の法務全般を担当している中央大学「法実務カウンセル」(インハウスロイヤー)であり、千代田区・青梅市の「弁護士法人アズバーズ」代表、弁護士の櫻井俊宏が執筆しております。
1 タクシーに轢かれた場合の示談【タクシー共済】
タクシーと交通事故に遭った場合、例えば、タクシーに轢かれた場合、誰に賠償請求すれば良いのでしょうか?
もちろん、原則としてはタクシー運転手です。しかし、業務中の事故であれば、タクシー会社にも「使用者責任」(民法715条)といって、運転手本人と同じ責任が生じます。
そうだとすると、タクシー会社は、自賠責保険(いわゆる強制保険)の他に、任意保険としての「タクシー共済」に通常加入しているので、損害賠償を受け取りやすいと言えます。
もっとも、このタクシー共済は、事故が頻繁にあるから全部にきっちり賠償していると経営が成り立たないせいなのか、経営基盤がもともと貧弱だからなのかわかりませんが、
「本当にそんな事故はあったのか。」とか、
「これぐらいの車のへこみであれば、怪我をするような事故ではなかったから、怪我をしていないはずだ。」
等の賠償をしない、賠償額を少なくしようとするというようなひどい内容の交渉を行ってくることが多いです。
被害者の方は、被害を受けているのにそんな心無い交渉をされては、精神的に参ってしまいますね…。
そのような精神的な負担を減らすためにも弁護士の利用をおススメしたいです。特に、自分の損害保険に「弁護士費用特約」がついていれば、保険会社が代わりに弁護士費用を支払ってくれますから負担なく依頼できます。
https://as-birds.com/media/traffic-accident-2/
なお、怪我をした場合は、上記のように「そのような事故はなかった。」などと言われないために、すぐ警察に連絡をして、実況見分等をしてもらいましょう。
そして、警察に、事故があったことの証明になる「事故証明書」を後日発行してもらいましょう。
「事故証明書」については一点懸念点があります。
最近、警察が、人損事故における過失運転罪等の事件処理を面倒がってなのか、怪我をしたにも関わらず「人損事故」(怪我のある交通事故)扱いではなく、「物損事故」扱いにしようとする場合が多いようです。
気をつけて対応をし、しっかり「人損事故」であることを伝え続けましょう。
人損事故の場合は、治療の費用、通院の慰謝料、後遺症が残る場合は、その程度に応じて1級から14級が認定され、多額の賠償を得ることができます。
2 タクシー乗車中に事故に遭った場合の示談【共同不法行為、二自賠】
タクシーに乗客として乗車中、タクシーが壁にぶつかる等して自損事故を起こし、自分が怪我をした場合はどうなるでしょうか?
この場合は、加害者は、同乗のタクシー運転手ということになります。そこで、前述のタクシー共済と示談し、賠償を受けることができます。
自車のタクシーと相手の自動車が衝突し、自分が怪我をした場合はどうなるでしょうか?
この場合、通常は、どちらか一方が悪いという関係にはなく、自車のタクシー運転手、相手方運転手の両ドライバーが加害者であり、30:70とか50:50というように、過失割合が設定されます。
このように、過失割合が100:0でない場合には、両ドライバーの「共同不法行為」(民法719条)と言って、両ドライバーに全額の賠償を請求できるという関係になります(「不真正連帯債務」といいます。)。
そこで、請求しやすい方に請求できるということになります。前述のように、タクシー共済の方が賠償に対して渋い対応をしてくるので、もう一方に対しての請求の方が良いかもしれません。
二自賠とは
なお、この場合、両加害者の自賠責保険(強制保険)が利用できます。これを通称「二自賠」といいます。
この場合、例えば後遺障害等級14級が認定された場合は、後遺障害慰謝料として、通常75万円の賠償をしてもらえるのですが、二自賠の場合、自賠責保険会社から、2倍の150万円まで出してもらえます。
といっても、2倍の賠償を受けられるわけではないので、75万円を超える部分は、他の賠償費目として支払われることになります。
ですが、自賠責から受け取ることができるので、加害者が任意保険に入っていない場合等は、損害賠償の回収可能性が上がるという意味で、二自賠の場合は有効です。
3 タクシー内のトラブル
タクシー運転手が最短ルートでない道を通ったことに対して、クレームをする乗客がいると聞きます。正にそのような事例において、目の前のシートと防犯ボードを蹴りつけたという事案、なんと加害者乗客は弁護士で、1か月の業務停止という懲戒処分を弁護士会から受けました。
モラルの問題だけでなく、「暴行罪」や「器物損壊罪」で逮捕される危険もあります。
運転手の態度が悪いということで腹をたてて、こちらが逮捕されるなんて、非常に残念な事態です。
そこで、もし、タクシー運転手がわざとと思われるような形で遠回りをする場合や、態度が非常に悪いと感じた場合は、何も言わず、目の前にあるエコーカード(今は名前が違うかも。この前乗車したときは「タクシーカード」というものがありました。)をこれ見よがしに手にとると良いでしょう。これはクレームを入れるためのカードなので、タクシー運転手もクレームをされないように慎重な態度になると思われます。
4 まとめ
タクシー関係の交通事故は、当事者が増え、少し内容が複雑になるので、示談をするのが普通より大変と言えます。また、前述のように、タクシー共済との交渉は負担が大きいです。
特に、自分が弁護士費用特約付きの損害保険に加入している場合は、負担を減らすために、迷わず交通事故事件に慣れている弁護士に相談してみましょう。
【2023.10.9記事内容更新】