弁護士に相談するということは、統計的に普通の人が一生に1回ぐらいが平均とのことであり、なかなかないことではあります。
それなりの金額がかかることもあり、弁護士を選ぶのにどのようにすれば良いか、頭を悩ませることが多いでしょう。
そのような本人にとっては大事なことなのに、最初から依頼をきっちり遂行する気もなく、お金をほぼ騙しとるような弁護士もいるのです。許せませんね。
今回は避けなければならない弁護士の選び方について、着手金を詐欺的に騙し取る弁護士や報酬の過大請求をする弁護士のこと、そしてその弁護士からの取返しの可否を解説します。
・一般的な弁護士の報酬システム 着手金・報酬金
・着手金詐欺と報酬過大請求について
・実際に私が目にした着手金をだまし取られた等の事例
学校法人中央大学の法務全般を担当している中央大学「法実務カウンセル」(インハウスロイヤー)であり千代田区・青梅市の「弁護士法人アズバーズ」代表、弁護士の櫻井俊宏が執筆しております。
1 弁護士の一般的な報酬体系 着手金・報酬金
弁護士の契約は民法の委任契約(民法643条以下)といいます。
建物を建てる請負等の契約と違い、もともと成功が困難な場合もあるので、勝利が条件でなく、最善を尽くすことが仕事の内容であるのが特徴です。
医師の契約も「準委任契約」といい、ほぼ同じです。
医師の仕事において、必ず患者の回復ができるとは限らないのと同じ感じなんですね。
着手金と報酬
料金体系で一番多いのは、着手金(初期費用)と報酬(成功報酬)の二本建てのものです。
一般的に弁護士の依頼業務は期間が長くなり、長いときは年単位になるので、終わりのみしか報酬がもらえないと厳しいことから、初期費用が発生するのです。
着手金は、代理人として相手方と交渉をする場合、一般的には10万円以上となります。
請求額が大きくなると着手金も大きくなり、以前存在していた弁護士報酬基準(旧)では、請求額の8%となっています(300万円以下の請求について)。多くの弁護士はこの基準をベースとしています。
離婚や相続等、また、裁判所を通した調停や訴訟の手続は、業務量が多く期間が長いので、着手金が30万円以上になることが通常です。
また、事件が終わった後の報酬は、相手に請求して、相手方に払ってもらった金額又は請求された際は相手方の請求してきた金額の16%が通常です。
なお、私達の弁護士法人アズバーズでは、事案を聞いて、請求する側のご依頼において、勝利がわりと見込める場合は、その相手方から得た金額から報酬がいただけるので、着手金なしまたまたは低額でお受けする場合もあります。また、成功報酬についても、相手の請求が過大に過ぎる場合には、減額分の8~10%など、低い成功報酬割合でお受けすることもあります。
タイムチャージ
もう一つの報酬体系として、タイムチャージというのがあります。
業務量1時間あたり20,000円~が通常です。どちらかというと、離婚や相続等の一般民事と呼ばれるものより、企業関係の企業法務で行う場合が多いです。
なお、この企業法務事件でタイムチャージの場合、弁護士の人数で費用を掛け算にする事務所もあるようなので注意してください。
2人ミーティングに参加したら2倍、3人参加したら3倍です。
ある公共団体との裁判で、とても小さな事案であったにも関わらず、相手方代理人がズラズラと4人ぐらい裁判所に参列してきた事案がありました。
タイムチャージ欲しさに過大な人数を揃えて出廷してきたようにしか思えませんでした、、
タイムチャージのメリット
私の事務所では、事案についてまだ不明確な場合で代理まで付かずコンサルタントをする場合等は、月額3万円のタイムチャージで依頼をお受けする場合もあります。
また、交通事故事件で、被害者の方の損害保険に弁護士費用特約がある場合は、タイムチャージでお受けすることがあります。
実際に争う金額が低い車体の損傷の件や、交通事故の過失割合の争いのとき等、依頼者の方が弁護士費用を自ら手出しする場合には、争う金額より弁護士費用の方がかかってしまう場合が多いのでお受けしにくいですが、このタイムチャージだとお受けしやすいです。
三井住友海上や損害保険ジャパン等は、この弁護士費用特約でタイムチャージの利用を認めています。
弁護士としてもご依頼を安心して受けやすい弁護士費用特約ですね。
2 着手金詐欺と報酬過大請求の事例
弁護士事務所であっても、当然経営が立ち行かなくなる場合があります。そのような事務所は、いわゆる自転車操業をするしかなくなります。
弁護士事務所において、この自転車操業の典型は、仕事をしなくてももらえる着手金をもらいまくることです。
このことから、他の事務所で散々断られるような事案を受けてくれる弁護士は注意です。着手金をかき集めている場合や、そこまでではなくても、相手方に勝利しにくい事案でも経営のためにやむを得ず受けている可能性があります。
また、着手金が他の事務所に比べて異様に安い場合も、とにかく着手金を受け取ろうとしているケースが多いと思われるので、要注意でしょう。
結局その後、何もしないという事案がまず多くあります。
着手金詐欺の手口 国際ロマンス詐欺は危険
実際の着手金詐欺の事案として、2017年には、東京で、集団訴訟のために着手金をかき集めて、そのまま仕事をしなかったという事案がありました。
他にも、依頼を受けながら何もしてくれないという事案は、それなりにあるようです。
着手金は、他が受けてくれないような事案こそ集めやすいということになります。依頼者は、何とか代理人依頼をしたいと思っているからです。
例えば、最近多く目にするのですが、国際ロマンス詐欺等の広告を大々的にしている事務所は危険な場合は多いです。国際系の事案は、かなり高度なスキルが要求される上、詐欺の事案は、結局加害者が、騙し取ったお金を、背後の大ボスである誰かにお金を流す、すぐ使ってしまう等して、取返しは困難な場合が高いです。
つまり極めて難易度が高い案件なのです。
そうであるにも関わらず、それを大々的に広告しているということは、成功報酬が見込めなくても、着手金だけもらおうとしている可能性が高いです。
私であれば、国際ロマンス詐欺等の事例は、事案をじっくりと聞いた結果、相手方に強制執行で取り返せる財産等があらかじめ判明している場合には受けるという感じで、依頼を受けるのは慎重になります。こちらも回収ができない場合には成功報酬がないので困るし、依頼者の方ももちろん不満に思うからです。
そして、最近では、実際に国際ロマンス詐欺の着手金詐欺の事例が後を絶ちません。
大阪弁護士会所属の弁護士が、弁護士でない者と手を組んで、1800人から合計9憶円以上の着手金をかき集めたそうです。
国際ロマンス詐欺の被害回復で弁護士法違反か 依頼者1800人から9憶円超える着手金
これについて、大阪弁護士会は、国際ロマンス詐欺の弁護士からの二次被害について、声明を出して注意を促しています。
国際ロマンス詐欺や投資詐欺等を取り扱う弁護士の広告にご注意ください! 大阪弁護士会
それにしても、なぜ国際ロマンス詐欺なのでしょうか?
国際ロマンス詐欺とは、日本語が片言の女性を装った者が、恋愛感情があるかのように装い、相手を惚れさせ、お金を騙し取る手法です。
これに引っかかってしまう方は、やはりカモと言えてしまうような人を信じやすい一面があります。
そのような人を信じやすい一度は被害者となった人は狙いやすいからなのでしょう。
遺産相続の着手金が500万円?|過大請求の事例
一方、過大な報酬請求事例の裁判例として、横浜地裁平成21年7月10日裁判例があります。
遺産相続の案件において、初期費用である着手金が500万円の件でした。弁護士は、約2年間、相続税の申告、他の当事者との協議、遺産分割調停を遂行したが、300万円を超える部分は,消費者契約法9条又は10条により無効となりました。
その争う金額にもよりますが、その弁護士が最後まで遂行できるとは限らない(死亡すること、事務所が閉鎖することだって考えられます。)ですから、数百万円の着手金の件は、よくよく吟味して依頼をした方がよいでしょう。
私の事務所であれば、相続問題の着手金は、よっぽど大きい事案でない限り、数億円の争いであっても、着手金は上限額を100万円として、長くなる場合に備えて月額の報酬を数万円設定させていただくようにとどめます。
3 実際に私が目にした弁護士に着手金を騙し取られた等の事例
「詐欺」というのは、お金を受け取るときに詐欺であるという意思、つまり騙し取ることの故意が必要となります。
実際、経営がまわっていない弁護士であれば、詐欺の意思ではなく、とにかく「まずは事件依頼をうけなければ」という心理になり、闇雲に依頼を受けるのでしょう。この場合には、詐欺をしようとしているとまでは言えないので、明確に詐欺の故意があると証拠上認定できる場合は少なそうです。
そんな中、私は、これは「詐欺の意思」があったでしょうが!と思うような弁護士相手の事案を受けたことがあります。
それは、その弁護士Aが3日後に懲戒で業務停止3カ月になることがわかっていたにも関わらず、依頼者から着手金30万円を受け取った件です。
業務停止になったら、その期間、弁護士は依頼を遂行することができないので、業務停止になる3日前に着手金を受け取ったということは、少なくとも3カ月間は依頼の内容を進めることができないとわかっていたということになります。
しかもその事案は、弁護士費用の金額もひどく高額で、内容証明郵便を送るだけで30万円という事案でした。
また、消費税とかも気にせず、30万円を、契約書を作らず現金で受け取っている感じがあやしげです。
交渉の代理まで弁護士に依頼する場合は、高額にもなりますが、通常、内容証明郵便を送るだけだとせいぜい5万円前後の費用である事務所が多いところ、30万円は暴利ともいえる価格です。
結局、Aは3日の間に内容証明郵便を送らず、業務停止になったので、依頼者も他の弁護士に頼んで内容証明郵便を送りました。Aは仕事をしなかったということです。この着手金の取返しと慰謝料請求の依頼を受けました。
騙し取ったことを認めさせて和解を成立させた
一般的に、裁判は、請求額が140万円を超えると、簡易裁判所でなく、地方裁判所での審理になります。簡易裁判所の裁判官は、基本的に司法試験をクリアしている裁判官ではありません。このことから、高度な内容の裁判は、地方裁判所での審理の方が好ましいです。
この件は、弁護士に依頼する契約である委任契約(民法644条以下)の法的性質が争いになる少し高度なものなので、慰謝料請求額110万円、弁護士費用の取返し額を30万円として、地方裁判所に提起しました。
ちょうど合計額140万円ですね。
そして、地方裁判所で裁判を行い、相手方は委任契約の性質に基づいて一応の反論をしてきたのですが、こちらではきっちりと再反論をし、裁判所も私達の主張を後押ししてくれて、Aが騙し取ったと思われる30万円を少し超える金額を支払ってもらう内容で和解を成立させた記憶があります。
Aは手持ちのお金が当然なかったところ、なんとか工面して、裁判所まで和解金を現金で持ってきました。
Aは、その裁判の裁判所に提出する書面で「裁判所に和解を進めてもらえればいいなと思っている今日この頃である。」などとポエムな書面を出したりしていました。
面の皮が厚いですね。
懲戒処分されている弁護士を調べる方法
この弁護士Aは、複数回の弁護士会の懲戒を受けている弁護士でした。やはり弁護士に依頼をするときは、弁護士会から懲戒を受けているかどうかをチェックするのは不可欠ですね。
「弁護士懲戒処分検索センター」というページで、だいたいの弁護士が懲戒されたことがあるかどうかは調べることができます。
また、単純に「弁護士名 着手金」とかでググってみると良いと思います。
他に着手金詐欺の疑いある弁護士の被害者がいる場合には、その被害者がブログ等でそのことについて書いている場合もあります。
更に、下の2つのページは、弁護士の懲戒事例を詳しく調べていて、非常に有用なページです。
着手金詐欺は意外と多い?
それにしても、この1件だけであれば「そんなにひどい弁護士がいっぱいいるのかなあ」と思われるかもしれないですが、私が見てきた中で、もう1件同じような事例がありました。
それは、離婚事件で、相手方についた弁護士です。相手方が弁護士を変えたところ、変えた直後にその弁護士が業務停止の懲戒を受けてしまい、また弁護士を変えなくてはならなくなったとのことでした。
もちろん着手金を支払ったのに、ということです。
その弁護士についてググってみると、他にも同様に着手金詐欺をされた被害者が数10人いるという、所属の都道府県の弁護士会の公表がありました。
4 終わりに
弁護士法人アズバーズでは、弁護士と闘う事案についても、上の事案以外に、不動産代金を支払わない弁護士に対して差押や財産開示等の強制執行を行う等の件をいくつか体験しております。
大変な目に遭われている方の足元を見て、違法行為を行うのは卑劣だと思います。明らかに被害に遭ったと思われる場合には、ご連絡をいただければ、相手が弁護士であっても、事案に応じて対応させていただきます。
【2024.1.16記事内容更新】