木村花さんの母親はテラスハウス番組側に裁判をすることはできるのか【弁護士が解説】

最新時事問題の法的考察
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こんにちは。千代田区・青梅市の法律事務所,弁護士法人アズバーズ,代表弁護士の櫻井俊宏です。

誹謗中傷を受けて自死した木村花さんの母親が,心無い誹謗中傷した者達に断固責任をとらせる決意を固めているとのことです。
以前述べたように,まずは加害者の所在を見つけることが大変です。IPアドレス開示請求→発信者の情報開示請求という2回の裁判手続を経る必要があります。

これをもとに民事上の賠償請求,刑事上の名誉毀損罪(刑法230条)等の告訴を行うのでしょう。
これについては警察も事件化の意向があるようです。

更に母親は,「テラスハウス」という番組について,BPO(放送倫理・番組向上機構)に,人権侵害があったとして審議を申し立てたそうです。
これと共に,母親は,テラスハウス側を民事の訴訟で訴えることはできるのでしょうか。

1 どのような請求が考えられるか

母親は,木村花さんについて相続していれば,権利を請求する地位も相続して引き継ぐので,木村花さんに,テラスハウス側に対する何か請求権が発生していれば,民事裁判を行うことも可能です。

では,どのような権利が発生していることが考えられるか。

テラスハウス側と木村花さんとの間の出演契約は,一説によると奴隷契約とも言える一方的な内容であったとの報道もあり,誹謗中傷による自死という不測の事態が起こった場合に木村花さんに何か保障するという契約には当然なってはいないでしょう。

このような契約に基づいた請求は難しいのであり,やはり交通事故等と同様に不法行為(民法709条)に基づく損害賠償請求でしょうか。

具体的な内容としては,
①木村花さんの意思に反して,「こういう振る舞いをした方がいい。」と執拗に迫ったことに対するパワーハラスメント
②SNSを炎上させて自殺等に追い込むようにしないという安全配慮義務違反
等が考えられるように思います。

2 パワーハラスメント?安全配慮義務違反?

パワーハラスメント,すなわちパワハラとは,

①同じ職場で働く者に対して,職務上の地位や人間関係などの職場での優位性を背景に,
②業務の適正な範囲を超えて,
③精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為,

を言います。

②はやらせの扇動が結構頻繁に行われたのであり,またやらせというのは適正な業務と言い難いことからも認められうるでしょう。
③も結論として当てはまりそうです。

問題は①であり,パワーハラスメントとは,通常,雇用契約で同じ職場でいる場合を前提にしているように思います。今回は雇用契約とは言えないでしょう。
ただ,
・今後は同じ職場内でも業務委託の契約が増えていくのであり,そのような場合でもパワハラが認められるケースが増えてくること
・木村花さんが22歳と若く,また同じエンターテインメント業界では,変な評判がたつのも困るのであり,テラスハウス側の優位性が強かったこと
等から,①の要件も認められる可能性はあると思います。

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安全配慮義務に関しては,本件のような安全配慮を必要とする度合いが低い契約については,簡単には認められないでしょう。
雇用契約等のように,一方の用意する環境下にいるとは言い難いからです。

例えば,大学においては,大学側が用意している学校内ではある程度の安全配慮義務が発生しています。
しかし,学内で自死したからといって,なかなか安全配慮違反とはなりません。
そこまで発生を未然に防ぐのは困難であるからです。

3 死亡との因果関係

では,パワーハラスメントが仮に成立して,それによって死亡させたといえるでしょうか。
因果関係という問題です。
これについては,やらせを扇動した→SNSが炎上し,木村花さんに誹謗中傷が集中した→傷心のあまり自死したというのは,「やらせの扇動によりSNSが炎上する」なかなか客観的に予測可能性が高いとは言えず,死亡の結果を引き起こしたとなるのは,かなり難しい戦いになりそうです。

では,加害者達の誹謗中傷が,死の結果を引き起こしたといえるでしょうか。
誹謗中傷によって傷心のあまり自死したという因果関係であれば,単純にいじめによる自殺とほぼかわらない構図であり,認められる可能性はありそうです。

4 まとめ

いずれにしろ,この件は,こういったインターネット上の誹謗中傷の件の大きなターニングポイントになる事件であり,また,TVからインターネットの変遷の時代の中,TV番組というものの在り方が問われている事件であると思います。

被害者を慰撫するためにも,法的に断固たる結論が出ることを願います。

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櫻井 俊宏

櫻井 俊宏

「弁護士法人アズバーズ」新宿事務所・青梅事務所の代表弁護士。 中央大学の法務実務カウンセルに就任し7年目を迎える。

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