学校においては、その高校・大学に所属する専門の寮、国際関係の寮、特定の体育部の寮等、いろいろな寮があります。
そのような寮に居住している学生・生徒が問題を起こした場合に退寮処分を一方的に通知して、明渡を求めることができるのか、
・寮についての法的な問題
・退寮処分により明渡はできるのか
・学生や生徒の身分を失ったとき等はどうか
という観点から解説していきます。
学校法人中央大学の法務全般を担当している中央大学「法実務カウンセル」(インハウスロイヤー)であり、千代田区・青梅市の「弁護士法人アズバーズ」代表、弁護士の櫻井俊宏が執筆しております。
1 寮についての法的な問題
まず、学校関係の寮に居住することについて、法的性質はどのようなものになるのでしょうか?
この点、もし、体育部の寮や、学内に寮がある等、学校との密接な関わりがあるとしても、その寮が学生や生徒の生活の拠点となっている以上、相当な対価が支払われていれば、寮に居住していることにつき、「賃貸借契約」(民法601条以下)が成立していると言える場合が多いと考えられます。
ただし、これは相当な対価を支払っている場合であって、相当な対価を支払っていない場合には、使用貸借契約が成立している場合が多いでしょう。
賃貸借契約であるとすると、その人の生活の根拠を守る必要が法的に要求されることから、寮の賃貸借契約につき、解約するのは、賃借人が信頼関係を破壊したといえるような特段の事情がある場合に限られるとする「信頼関係破壊の理論」が適用されるようになります。
これについては、貸している学校側にそのような意識がなく、簡単に退寮処分を出して明渡を要求できると思っている場合が多いので、注意が必要です。
2 退寮処分により明渡はできるのか
寮の規則に違反した場合、例えば学生が外部の者を一度中に招いてしまったという場合だとしても、それぐらいの違反では、賃貸借契約を解約することはできません。
このことから、一方的な退寮処分も認められないということになります。
どのような迷惑行為であれば、信頼関係が破壊されたといえるかについて、下記の記事を参考にしていただければと思います。
では重大な寮の規則違反があった際、学生を追い出したい場合にはどう対処すればいいのでしょうか?
まずは、任意で「寮を退寮します。」というような同意書に署名してもらうことを検討した方が良いですね。
なお、これについては、成人でない場合は、親権者法定代理人である(民法818条)親の署名・押印をもらうのが確実です。
書面を書いてもらえれば「合意解約」として有効になるので、出ていってもらうことに法的な問題は生じないということになります。
もし書面を書くことも拒否して、どうしても寮を出ていかない場合にはどうすればいいですか?
この場合は大学側から処分を下すことになりますが、厳重注意処分等の書面を学生が受け取ったことを証明できるように、書留郵便等で渡すと良いでしょう。
これにより、この書面が「警告」をしたことの役目を果たすので、また同じようなことや違反行為を繰り返すようであれば、信頼関係が著しく破壊されたものとして、退寮処分(賃貸借契約の解約)、明渡が認められるようになりやすいです。
警告⇒違反行為を繰り返させて、徐々に退寮に追い込むわけです。
労働関係の退職勧奨の方法と同じです。
なお、寮則が学校の正式な規則になっているのであれば、学校内での懲戒の問題にすることは可能です。
3 学生や生徒の身分等を失ったときはどうか?その他の問題は?
そもそも、その寮に居住する資格として、その学校の学生や生徒という身分があることを要求されている場合はどうでしょうか。
この場合は、大学側が退学処分などを下すことで身分が無くなれば、賃貸借契約の終了は認められやすいと思われます。
では、特定の部の体育寮で、その部に所属する身分を失った場合はどうでしょうか。
この場合もそこに住み続けられるとその体育部の規律を乱すことになるので、解約は認められやすいと思われます。
学生寮ってすごく安いですよね。賃料といっても、学生サービスの一環で、例えば相場では5万円ぐらいしそうな部屋に5000円で住めたり。そういう大学側の配慮で格安の寮に住めている場合はどうでしょうか。
このような場合は使用貸借であるとする横浜地裁昭和61年9月22日裁判例もあります。相場よりも格安賃料の場合、信頼関係破壊の理論は適用されず明渡が認められやすいということになります。
ただしこの裁判例は、学生運動が寮生によって激しく行われていたという特殊事情があるので、今そのまま考えて良いかは注意が必要です。
なお、国公立の学校は、公共団体である学校側に「管理処分権」があり、より退寮処分がしやすいようです。これについては下記のページを参考にしてください。
4 まとめ
寮の規則に違反した場合には、すぐに退寮処分を出せると考えるのはわからなくもありません。
しかし、民法上の信頼関係破壊の理論に阻まれる場合があるので注意が必要です。無理矢理退寮させた場合には、裁判上の損害賠償の対象になりえる法的リスクがあります。
労働関係の退職勧奨と同様です。まずは、同意を得て合意解約を検討しましょう。