しつこい営業電話は違法にならないの⁉ 遅い時間にかけてきたら? 関連する法律と正しい断り方

教養・雑学
櫻井 俊宏

櫻井 俊宏

「弁護士法人アズバーズ」千代田事務所・青梅事務所の代表弁護士。 中央大学の法務実務カウンセルに就任し11年目を迎える。


数ある営業スタイルがある中で、電話営業だと不快と感じてしまうのは何故でしょうか?

もししつこい営業電話に根負けして契約してしまったら?

そもそも営業電話を上手に断る方法は?

本記事では、「営業電話を迷惑に感じる理由」を明らかにした上で

営業電話を規制する法律
クーリングオフ

営業電話の断り方

について解説します。

営業電話を迷惑に感じる理由

営業電話を迷惑に感じる理由

契約するかしないかは、本来当事者が自由に決めることです。しかし営業電話には以下の特徴があり、勧誘を受けた側の自由な意思形成が妨げられる恐れがあるため不快に感じるものと思われます。

不意打ち

電話をとると突然かつ一方的に勧誘が始まる。

匿名

電話の向こうが見えず、相手の素性や目的を確かめられないまま契約交渉に引きずり込まれる。

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櫻井弁護士

こちらの代表者と知り合いだと嘘をついて、強引に電話を繋がせようとする場合も多いです。

密室

録音しない限り会話内容が第三者に聞かれず、オーバートークや威圧的営業が横行するおそれがある。

執拗

事業者は店舗開設や訪問販売の必要がない上に、インターネット回線電話等を利用すれば安価な料金で継続できるため、断っても何度でも電話をかけてくる。
うちの事務所に多いのは、インターネット広告業と不動産業の執拗な営業ですね。

拒絶が困難

勤務中であれば業務の電話かも知れず、電話に出ざるを得ない。
あまりにもしつこい会社なら、迷惑電話として番号を登録しておくのもよいかもしれません。

即決の強要

商品の現物や資料を検討する機会もなく返答を求められる。

契約内容があいまい

書面の作成や現物の確認がないため、ずるずると事業者側に有利へ運ぶことを阻止しにくい。

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事務員

営業電話だ、と気が付くと途端に時間を無駄にした気持ちになります・・・。

営業電話と法律による規制

営業電話と法律による規制

執拗な営業電話については目的物に応じて、宅地建物取引業法金融商品取引法商品先物取引法などが規制していますが、ここでは違法・悪質な事業者から消費者を守る特定商取引法を中心に解説します。

特定商取引法

営業電話は特定商取引法(以下、特商法)の「電話勧誘販売」(2条3項)にあたります。

事業者が消費者に電話をかけ、又はかけさせて商品やサービスを売り込み、郵便や電話、メール、振込等によって消費者が契約を締結又は申込を行うという形式の取引です。

禁止行為の例

禁止行為の例

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櫻井弁護士

特商法では20項目に及ぶ禁止行為を規定していますが、得に問題となる行為を紹介しましょう。

氏名等の明示義務違反(16条)

事業者が営業電話をする場合、次の事項について明示しなければなりません。

・事業者の氏名または名称
・販売しようとする商品の種類

・この電話が勧誘を目的としていること

これらは勧誘行為を始めるに先立って伝えるべき事項です。

架空の名称や通称名を告げただけでは「氏名または名称」を名乗ったことになりません。また営業目的であることを告げずに、世間話やアンケート等を通じてコミュニケーションをとった後で勧誘をすれば違法となります。

違反すれば行政処分(指示、業務停止命令、業務禁止命令)の対象です(22条、23条、23条の2)。

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櫻井弁護士

雑誌社から「御事務所を〇〇の分野が得意ということで取材して掲載させていただけますでしょうか。」というところから話をはじめて来ながら、最後に聞くと、こちらがお金を支払って載せてもらう契約の勧誘であるという電話が弁護士法人アズバーズにもよくあります。

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事務員

「この電話が勧誘を目的としていること」という要件に反しているのではないでしょうか!?

継続勧誘、再勧誘(17条)

相手が契約をしない意思を示した場合、事業者はさらにその電話で勧誘を続けたり(継続勧誘)、改めて勧誘の電話をしたり(再勧誘)することが禁じられています。

契約を締結しない意思とは「興味がない」「お断りします」と明示的に意思表示した場合だけでなく、応答せずにそのまま電話を切ることを繰り返すといった黙示による場合や、「電話しないで」「話したくない」のように電話勧誘自体への拒絶も含まれます。

違反すれば明示義務違反と同様、行政処分の対象となります。

不実告知・事実不告知、威迫・困惑(21条)

勧誘を行う際に消費者に契約を締結させ、又は申込みの撤回(契約の解除)を妨げるために、事実と違うことを告げたり又は知らせなかったりすること、及び消費者を威迫して困惑させることは禁じられています。

これらの行為があっただけで違法となり、消費者が実際に錯誤に陥るなどして契約を締結してしまった又は撤回できなかったという結果は不要です。

違反すれば上記行政処分のほか、刑罰の対象にもなります(3年以下の懲役又は300万円以下の罰金、又は併科(70条))。

迷惑を覚えさせる勧誘、解除妨害(22条1項5号、省令)

 上記禁止行為以外でも経済通産省が定めるものについては行政処分の対象となります。

その中に「迷惑を覚えさせるような仕方」で勧誘し、又はクーリングオフ等を妨げる行為が含まれています。

特定商取引に関する法律等の施行について【令和4年6月22日付通達】(一式) (caa.go.jp)15、49頁

迷惑を覚えさせる勧誘、解除妨害とは

迷惑を覚えさせる勧誘、解除妨害とは

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事務員

特定商取引法22条の「迷惑を覚えさせる仕方」とは一般に次のようなものです。

長時間、執拗

・夕食を準備しなければならない時間帯に約40分にわたり電話をかける。

・毎日、複数回の電話を執拗にかけ、留守番電話に脅すような大声でメッセージを残す。

時間帯

・正当な理由がなく午後9時〜午前8時に電話してくる。

契約前の履行の着手

・断った消費者に商品を送付し、代金の支払いを催促する。

煩わせる

・断っているのに「いつまでも電話が来ることになる」と告げる。

恩に着せる

・商品の注文を受けたと称して電話をかけ「私が1本を何とかするから2本を2万円で買ってもらえるか」と恩を売って断りにくい状況にする。

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事務員

読んでいるだけで嫌な気分になってきました・・・

クーリングオフ(24条)

クーリングオフ(24条)

電話勧誘により消費者が契約の申込又は締結をした場合でも、消費者は一方的に撤回又は解除をすることができます。

後日事業者から特商法18条で決められた書面(商品種類、販売価格、支払方法、クーリングオフに関する事項等が記載)が送られてきますが、これを受け取った日から数えて8日以内であれば、消費者は事業者に対して書面又は電磁的記録によりクーリングオフをすることができるのです。

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櫻井弁護士

クーリングオフは上記禁止行為があった場合はもちろん、迷惑を覚えさせる勧誘があった場合や何ら理由がない場合でもすることができます。

ただし乗用自動車、化粧品・殺虫剤等使用されると商品価値が失われるもの、代金が3,000円未満のものはクーリングオフの対象外です。

営業電話と刑法

営業電話と刑法

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櫻井弁護士

行き過ぎた営業電話は以下の犯罪が成立する可能性があります。

業務妨害罪:3年以下の懲役又は50万円以下の罰金(233、234条)

勤務中の相手に電話をかけて相手の勘違いを誘う場合(偽計)や、相手を困惑させるような勢いを示す、断っても再びかけてきて長時間にわたり電話を切らせないといった場合(威力)には業務妨害罪が成立する可能性があります。

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櫻井弁護士

過去には、約3か月で約970回無言電話をかけるなどした事例において会社に対する偽計業務妨害罪が成立しています(東京高判S48.8.7)。

脅迫罪:2年以下の懲役又は30万円以下の罰金(222条)

 「しばくぞ」「車を壊してやる」などと告げて相手を怖がらせるような勧誘は、脅迫罪が成立する可能性があります。

傷害罪:10年以下の懲役又は30万円以下の罰金若しくは科料(204条)

相手を精神的に追い込もうと考えて執拗に電話をかけ続けたところ、実際に相手が心的外傷後ストレス障害(PTSD)等を発症した場合は、傷害罪が成立します。

営業電話と民法

営業電話と民法

架電行為が民法上の不法行為(709条)となって損害賠償請求の対象にはなることも考えられます。

東京地裁平成27年12月17日判決

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事務員

クレーム電話の事例ですが損害賠償請求が認められています。

近隣住民がマンション管理に関するクレームとして、警備会社のお客様サービスセンターに対し1日に合計47回にわたり電話をかけ、電話以外にもマンション入居者や管理員にクレームを述べたり突然本社を訪れて役員等との面会を求めたりするなどの一連のクレーム行為全体を不法行為と評価し、合計約250万円の損害賠償が認められました。

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櫻井弁護士

この判例のように常軌を逸したケースは格別、一日に数回かつ数分程度電話をかけてきてそれ以外に押し掛けるといった事情もなければ、単に「煩わしい」という理由で損害賠償請求するのは難しいでしょう。

営業電話の断り方

営業電話の断り方

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事務員

では、実際にかかってきた営業電話を断る場合、どのような点に注意すればよいでしょうか?

名前と要件を聞く

本来であれば事業者の方からまず名称や勧誘であること等を告げる必要がありますが、はっきりしない場合は、まず名前を確認した上で「勧誘ですか?」と聞くのがいいでしょう。

「勧誘です」との返答があれば「応じるつもりはないので電話しないで下さい。」、「勧誘ではない」との返事であれば「こちらに用はないので失礼します。」と切ってしまって大丈夫です。

きっぱりと断る

「忙しい」「外出中」と告げる、無言で切るといった不明瞭な態度は、さらなる勧誘の原因となりますので、明確に必要がないのでお断りします。」と告げましょう。

 また繰り返す勧誘には「以前も断りましたよね。再勧誘は禁じられているはずですが。」と違法性を指摘したり、「業務に支障が出ているため電話しないで下さい。」と被害を訴えるのもいいでしょう。

社内で情報共有し対策マニュアルを作る

一定数かかってくる営業電話を個々人の対応に任せるのは社員にとってストレスです。

頻回かけてくる相手の情報は職場で共有し、応対方法をマニュアル化するなどして、各社員が機械的に処理できるように対策を講じておきましょう。

着信拒否設定や録音

最善策は電話に出ないことです。電話機に着信拒否設定をする、留守番電話機能を使って必要なものにだけ応答する、迷惑電話フィルタサービスの利用、録音することを予めアナウンスする迷惑電話防止機能を付けるといった方法があります。

また会話内容は刑事告訴や損害賠償請求する際の証拠となるので、録音しておくのが望ましいでしょう。

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櫻井弁護士

この場合、あまりに執拗な場合等は「録音しているのですが」と告げると、ビビッてすぐに電話を切ってくれるので有効です。

関係機関に通報、警察に相談する

営業電話に煩わされて困っている場合は、消費者センター(特商法)国交省(宅建業法)金融庁(金融商品取引法)等、関係機関に通報することができます。

また業務を著しく妨害された場合や脅迫されたといった場合には警察に相談するのがいいでしょう。

相手に押し切られて不本意な契約を締結してしまった場合のクーリングオフの仕方や、不法行為責任を問いたいといった場合は弁護士に相談しましょう。

【2024.4.4記事内容更新】

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