チラシを手に取ってもらいやすい上に配布地域を限定できるポスティングは、業者にとっては効果的な宣伝方法です。一方の住民は、地域情報は得られるが郵便受け周りが散乱するのは困る、という方も少なくありません。

家人の知らぬ間にされるポスティングですが、違法とはならないのでしょうか?

 本記事では、「ポスティングの違性性」を確認したうえで「違法となるケース」について解説します。

 そして後半では、

ポスティングする側
ポスティングされる側

の各注意点についても言及します。

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櫻井弁護士

学校法人中央大学の法務全般を担当している中央大学「法実務カウンセル」(インハウスロイヤー)であり、千代田区・青梅市の「弁護士法人アズバーズ」代表、弁護士の櫻井俊宏が執筆しております。

ポスティングって違法じゃないの?

ポスティングって違法じゃないの?

まずポスティングは違法ではないのでしょうか。

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事務員

迷惑している住民のみならず、業務として会社からポスティングを命じられた従業員にとっても気になるところです。

結論から言うと、ポスティングは違法ではありません。

マスメディアを通じた表現手段を持たない個人や零細企業にとっては、ポスティングは手軽にそして柔軟な対応ができる宣伝方法、そして受け手である消費者にとっても生活に密着した情報を得る重要なツールです。

商品やサービスの売込み、広告の配布といった活動は、表現の自由の一環である営利的言論の自由として憲法によって保障されており(憲法21条1項)、ポスティングもこの営利的言論に含まれると考えられます。

したがってポスティング自体は憲法上の権利であり、違法と評されるものではありません。実際にも住宅等の郵便受け等に広告物を投函する行為について取り締まる法律はないのです。

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櫻井弁護士

ただし、権利だからといって他人への害悪が許されるわけではありません。

配布物の内容や行為態様によっては違法となるケースがあります。

ポスティングが違法となるケース

ポスティングが違法となるケース

営利的言論の一環として憲法上保障されるポスティングですが、以下の場合は違法として処罰の対象となります。

チラシの内容

見る人に不快感を与えるピンクビラは、各自治体が条例で取締まっています。

たとえば東京都の迷惑防止条例では、ピンクビラの配布や掲示、配置、差入れを禁止しています。違反した場合は、50万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処せられます(東京都迷惑防止条例7条の2第1項、8条4項(6))。

行為態様

①住居侵入罪(刑法130条前段)

郵便受けに投函するために他人の居住エリアに立ち入る行為は住居侵入罪が成立する可能性があります。

住居侵入罪については次の章で詳しく説明します。

(住居侵入等)

第百三十条 正当な理由がないのに、人の住居若しくは人の看守する邸宅、建造物若しくは艦船に侵入し、又は要求を受けたにもかかわらずこれらの場所から退去しなかった者は、3年以下の懲役又は10万円以下の罰金に処する。

刑法 | e-Gov法令検索

②立入禁止場所等侵入の罪(軽犯罪法1条32号)

軽犯罪法違反が問われるケースもあります。

第一条 左の各号の一に該当する者は、これを拘留又は科料に処する。

三十二 入ることを禁じた場所又は他人の田畑に正当な理由がなくて入つた者

軽犯罪法 | e-Gov法令検索

囲繞の程度が低い駐車場や工場の敷地、廃墟などは住居侵入罪の対象とはなりませんが、これらに無断で立ち入った場合は軽犯罪法の立入禁止場所等侵入の罪が成立します。

刑罰は拘留(1日以上30日未満の刑事施設拘置)又は科料(1000円以上1万円未満)です。

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櫻井弁護士

なお住居侵入罪とは補充関係にあるため、他人の住居等に立ち入った場合は住居侵入罪のみが成立し、本罪の適用はありません。

ポスティングで住居侵入罪になるケース

ポスティングで住居侵入罪になるケース

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事務員

ポスティングで住居侵入罪が成立するケースをもう少し詳しく解説していきます。

他人の住居

一軒家だけでなく、アパート・マンションの一室、一時的に利用するホテル等の客室も「住居」に含まれます。

また、集合住宅のエントランス、エレベーター、廊下等の共用部分、さらに門塀等を設置して外部との交通が制限された庭や駐車場といった囲繞地は、「邸宅」の一部として本罪の客体となります。

正当な理由がない

「正当な理由」は、立入り目的について管理権者の承諾を得ているか若しくは承諾を得られると推定される場合、又は法的に正当な根拠がある場合に認められます。

例えば、居住者の依頼した荷物を届けるために宅配業者が玄関先まで運ぶ場合や、捜索差押令状を得た捜査機関が立ち入る場合は「正当な理由」があることになります。

侵入

「侵入」とは、管理権者の意思に反して住居等に立入る行為をいいます。

具体的には住居の構造や管理状況、立入り目的等の事情を考慮して、当該立入りを管理権者が容認するかどうかを判断していきます。

【判例】

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櫻井弁護士

ポスティング目的の立入りについて、住居侵入罪の成否が争われた最高裁判例を紹介します。

立川反戦ビラ配布事件
最判平成20年4月11日
葛飾政党ビラ配布事件
最判平成21年11月30日
住宅の種類 立川自衛隊官舎 分譲マンション
時間帯 正午頃 午後2時過ぎ
配布物 「自衛隊のイラク派兵反対」と表題したA4判大のビラ 日本共産党都議会報告やアンケート、返信用封筒等の4種
投函口 各室玄関ドアの新聞受け 各住戸のドアポスト
立入り場所 宿舎の敷地内に入り、複数の棟1階出入口から4階の各室玄関前まで立入り 玄関ホール奥ドアを開けて7階から3階までの廊下、外階段に立入り
禁止事項の表示
その他
1か月前にも同様の立入りがあったため管理者が警察に被害届を出すとともに、ビラ貼り・配り等を禁止する内容の貼札を官舎の出入り口付近に掲示 投函目的等による立入りを禁じたはり紙が玄関ホールの掲示板にちょう付
罪刑 3名の被告人が住居侵入罪で有罪
罰金20万円ないし10万円
住居侵入罪で有罪
罰金5万円

注意点

両判例とも政治的内容のビラが問題となっていますが、商業用ビラであればセーフなのかというと、そうではありません。

住居侵入は別の犯罪(窃盗やのぞき等)の手段として行われやすく、実際にはその別罪と合わせて起訴されるため、住居侵入罪だけで起訴されるケースはあまり多くありません。ただ、それ自体が違法でないポスティングは、住居侵入罪の成否だけが争点となるという特徴があります。

 そし住居侵入容疑で検挙された被疑者は、商業用ビラの場合は非公開の書類審査による裁判(略式手続)で済ませることが多いのに対して、政治的ビラの場合は公開の法廷(公判手続)で言論の自由を訴えるパターンが多いようです。

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櫻井弁護士

その結果、政治的ビラに関する判例が目立つのです。

略式請求又は公判請求されてその後有罪が確定すれば、いずれの場合も前科となります。

【する側】ポスティングする場合に注意すべきこと

【する側】ポスティングする場合に注意すべきこと

上記判例を参考にしながら、ポスティングする際の注意点を考察します。

お断りステッカーを無視しない

住居侵入罪は故意犯、つまり、立ち入ってはならないことを知った上であえて住居等に侵入する犯罪です。

マンション等の入り口付近に「ポスティングお断り」「投函目的の立入り禁止」といった表示がされている場合は、同罪の故意が認められやすくなるため、無視してはいけません。またステッカー等がない、あるいは気付きにくい場所に設置されていても、当該建物の構造や管理状況から部外者の無断立入りを禁じていると判断される場合にも故意が認められる可能性があります。

したがってポスティングする際は表示だけでなく、建物全体の様子や近隣の状況、さらには過去のクレーム情報にも気を配りましょう。

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事務員

また、禁止表示があるのにポスティングすれば「チラシに紛れ込んで大事な通知がなくなった」といったクレームに繋がるおそれがあるため、投函しないのが安全です。

立入り場所に注意する

建物内部はもちろん、門塀等で仕切られた庭や駐車場には立ち入らないように注意しましょう。塀の上も建造物の一部という判例(最判H21.7.13)があるので、ポスティングできるかを確認するために塀をよじ登るといった行為は避けるべきです。

また立入禁止場所等侵入の罪では侵入場所の限定がされていません。立札、縄張り、音声による警告システム等の設置がないか、また、これらがなくても当該場所の性質や客観的状況から立入りを禁止していないかを確認する必要があります。

夜間は避ける

夜間に見知らぬ人が住宅付近を歩き回れば、警察に通報されたり、職務質問されたりする可能性があります。

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櫻井弁護士

無用なトラブルを避けるためにも夜間のポスティングは控えましょう。

入れてしまったチラシは取戻さない

禁止表示に気付かずチラシを投函してしまった場合、クレームを恐れて取戻したくなりますが、取戻しは諦めましょう。

無理に取戻そうとして郵便受けを壊してしまったら器物損壊罪、一旦他人の支配下に移った物を取戻す行為は窃盗罪が成立する可能性があるからです。

【される側】ポスティングをやめてほしい場合の対応

【される側】ポスティングをやめてほしい場合の対応

 ポスティングをやめてほしい人がとる対応策です。

着払いで送り返す(期待薄)

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櫻井弁護士

一時期「着払いで送り返す」という方法が話題になりましたが、あまりお勧めしません。

まず、身元を知られたくないので無記名での送付という考えが浮かびますが、郵便・宅配サービス、いずれも差出人無記名の着払いは受付けないとのことです。

次に、差出人を記名した上で着払いにすることを検討します。しかし、相手業者が受取りを拒否する可能性があり、拒否された荷物は差出人の元へ送り返されます。結果として往復分の送料を差出人が負担することになるのです。

そこで差出人欄には偽名を使って送達するという方法が考えられますが、配達業者に損害を与えかねず、場合によっては業務妨害の責任を問われてしまいます。

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事務員

着払いにこだわるのはメリットが少なく、後述のクレーム電話がよいでしょう。

警察への通報(期待薄)

ポスティング自体は違法でない以上、警察に通報しても取り合ってはくれないでしょう。

しかし「近隣を不審者が歩き回っており不安」ということであれば、通報ではなく相談することをお勧めします。

お断りステッカー等、電話(おすすめ)

住居侵入罪等が成立する可能性があることをポスティング業者に周知させることが重要です。

そのためには「チラシ投函目的の立入り禁止。発見した場合は住居侵入罪及び軽犯罪法違反で刑事告訴します。」「監視カメラ作動中」といった内容の掲示物を入り口付近の目立つ場所に表示します。

また、チラシ掲載業者にクレーム電話を入れる方法も有効です。かかってきた電話は取引の可能性がある以上着払いのような「拒否」はなく、広告主であればポスティング業者へのクレーム引継ぎもあるはずです。

まとめ

今回はポスティングの違法性、またポスティングをする側、される側両方の立場から注意点や対処法を解説しました。

ポスティングはそれ自体が違法行為となるものではありません。しかし個人の所有地や公共の場に無許可で立ち入る場合、住居侵入罪が成立する場合があります。

無作為にポスティングするのではなく、「チラシお断り」のステッカーの有無や周辺環境等を十分に考慮しましょう。

またポスティングに悩まれている方は「お断りステッカー」が最も有効です。それでもやめてもらえない場合は、広告主に直接クレーム電話を入れる等、冷静に対処しましょう。

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