日大アメフト部は大麻と覚せい剤で逮捕者続出。廃部は妥当!?林理事長は日大を改革できるのか【弁護士が解説】

最新時事問題の法的考察

元理事長の脱税等の問題で、昨年大いに揺れた日本大学で、また大きな問題がおきました。
日大アメフト部の中野の寮で、警察により捜索が行われ、大麻のみならず、覚せい剤が発見されたとのことです。

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櫻井弁護士

これ程のマンモス大学で、よくあれもこれもいろいろと出てくるものです。

日大アメフト部は、2018年でも試合中の悪質タックル問題で、スタッフがそれを指示していたということで大問題になっています。
そして、11月には遂にアメフト部員が3人目逮捕、連盟による廃部が決まってしまいました。
日本大学は、この一連の不祥事でどうなってしまうのか?
以下のことについて解説します。

・日大アメフト部はなぜ廃部となってしまうの?
・日大は、脱税問題・薬物問題でどうなってしまうのか?林真理子理事長は?
・薬物を持っていたアメフト部員は逮捕・起訴されるのか?大学の責任は?
・「理事長」等の学校法人の仕組みと問題点

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櫻井弁護士

学校法人中央大学の法務全般を担当している中央大学「法実務カウンセル」(インハウスロイヤー)であり、千代田区・青梅市の「弁護士法人アズバーズ」代表、弁護士の櫻井俊宏が執筆しております。

1 日大アメフト部は大麻・覚せい剤問題でなぜ廃部になるの?

日大アメフト部は、チーム名を日本大学フェニックスといいます。甲子園ボウル21回優勝の名門です。
私も応援団時代、1回応援にいったときが中大×日大戦でしたが、とても強かった覚えがあります。

その名門日大アメフト部の中野の寮で、2023年7月上旬に大学関係者により植物片と錠剤が見つかりました。その後、7月中旬、警察が捜索・差押えを行い、大麻と、覚せい剤成分の混じった錠剤を押さえました。

その後、8月5日、部員は逮捕となりました。

それにしても、田中理事長問題において、背任罪で先に逮捕となった元理事の井ノ口氏は、日大のアメフト部OBのようです。
そしてその日大のアメフト部は、悪質タックル問題のみならず、今回の薬物問題でも関わっていそうであるわけです。
意識高い系ということで、就職等でトップクラスに人気のあるアメフト部でさえこれでは、日大の体育会系はどこを見ても違法行為であふれているのではないかと疑ってしまいたくなる惨状です。

このような立て続けの不祥事で、2023年11月、遂に、連盟により、日大アメフト部フェニックスの廃部が決まりました。

「廃部」という事態になることは妥当なのか、議論がされています。

これまで、実際には、有名大学の体育部が不祥事により廃部にまで至った事態はほとんどありません。
少し知られているのは、2007年7月の明治大学応援団リーダー部廃部事件です。
これは、部員がいじめにより自殺にまで至ったというものです。
また、近畿大学ボクシング部も、2009年6月の強盗事件(懲役9年)により、廃部解散となりました。

同じアメフト部だと、京都大学アメフト部が、集団準強姦(最も重かった者が懲役4年6月の実刑)という重い犯罪行為を行いましたが、これは、行った者達を退学させ、大会の出場辞退といった処分にとどめました。

また、同じ日大では、スキー部員が強姦致傷(懲役4年の実刑)をしましたが、退学処分と監督辞任・無期限インカレ出場停止処分(連盟によるもの)にとどまりました。

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櫻井弁護士

これらからすると、強盗や強姦(現在は「不同意性交罪」)のように、人を傷つける犯罪ですら、なかなか廃部にはならないですね。だけど、今回の日大アメフト部について、廃部が決まったのは、複数人の逮捕によって、部全体が汚染されており今後の浄化は不可能である、という判断があったのでしょう。

2 日大は脱税問題・薬物問題等でどうなってしまうのか?林真理子理事長は?

日大は脱税問題・薬物問題等でどうなってしまうのか?林真理子理事長は?

今回の問題は、上で述べたように、7月中に大学内で発覚していました。
それにも関わらず、田中元理事長問題があって新理事長になった林真理子理事長は、8月2日、「違法な薬物が見つかったとかそういう事態はありません。」と、報道に対し、真っ向から薬物発見を否定しました。
上で述べたとおり、既に薬物は「大学関係者」により見つかっていたのですから、この発言は問題です。
虚偽のことを真正面から述べたことになりますし、そうでないとしたら、大学内部で起こった大事件につき、トップである理事長の耳に入っていないということになります。
このとき、せめて「今のところはそのような話は聞いていません。」ぐらいのあいまいな言い方にとどめておけばよかったのでしょう。

このようなことがあると、警察関係者に日大学閥は多いらしいので、それを利用して外に情報が出ないようにしたのではないかと疑われてしまう可能性があります。
ただでさえ、報道の内容では、21歳の学生が、覚せい剤について自分の物であると認めているとされており、覚せい剤について所持しているだけで覚せい剤取締法違反であることを考えると、既に逮捕されていてよいはずなのに、8月4日現在では、同学生が逮捕されていなかったのは不審に思います。8月5日になり、ようやく逮捕がされました。
この間に、日大の一部の者達で、この問題を公にするのか、それとも日大勢力を使ってどうにかもみ消そうとするのか、検討していたのではないかと疑いたくなってしまいます。

なお、昨年の田中元理事長問題では、日大は、管理運営が不適切ということで、2023年の補助金が不交付という事態になりました。
しかし、今回の事態は、あくまでも主体は学生であり、日大自体が直接的に法的責任を負うものではない可能性が高いと思います。
学生が問題を起こした場合の大学の安全配慮義務については、下記の参考記事で書いております。


しかし、このようなことが続いていると、事実上の日大の不人気化は免れないところであるように思います。

更に、2023年11月、林真理子理事長らは、学長、副学長の退任勧告をしました。
学長、副学長は辞任を決めたものの、検察出身の副学長は、林真理子理事長個人を相手どって、1000万円の賠償請求の裁判を提起しました。
林理事長から副学長に対してのパワハラという理由だそうです。このような、単なる報復的な裁判で、賠償が少しでも認められるのかどうか、注目です。

3 薬物を持っていたアメフト部員は起訴されるのか?大学の刑事責任は?

薬物を持っていたアメフト部員は起訴されるのか?

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事務員

薬物を持っていたとされる21歳の部員は起訴されるのでしょうか?

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櫻井弁護士

通常だと、そのようになる可能性が高いと思います。

大麻を所持していたことについては、大麻取締法違反で5年以下の懲役、覚せい剤を所持していたことについては、覚せい剤取締法違反で、10年以下の懲役です。
そして、薬物事案は、暴力団との繋がり等がもとになっている可能性があることから、厳しく取り締まらないと暴力団等を助長する可能性があるので、通常、早々に逮捕し、起訴までされる場合がほとんどです。その際には、暴力団等の影響がないか、背後の関係まで調べるため、20日間の勾留期間をぎりぎりまで使って取り調べをし、事情を聴取し、起訴をします。

その後は保釈請求すれば保釈をされる場合もありますが、初犯であっても執行猶予付きの懲役刑がつき、前科となる場合がほとんどです。

今回の日大アメフト部員のケースも同様になる可能性が高いでしょう。

今回の件では会見が開かれ、その後、警察の説明等もありましたが、それによると、どうも、大学により事件が発覚してから、警察に届けるまでにタイムラグがあるように思われます。
この場合、薬物の所持を知っていた大学の関係者にも責任はないのでしょうか。

この点、大学の関係者が、薬物の存在を知りながら、通報を遅らせたとすると、犯人隠避罪等(刑法103条、3年以下の懲役又は30万円以下の罰金)に問われる可能性もあります。
体内の薬物反応がなくなるために遅らせたのであれば、なおさらその危険はあるでしょう。

更に、副学長が大麻を預かって管理していたという話もあるので、そうだとすれば、大麻所持の共犯が成立するのではないか、という意見もあります。

この澤田副学長は、元検察官であったとのことであり、このような人がいたり、危機管理学科がある大学にしては、コンプライアンスについてなんだかお粗末なような気がします。

私が中央大学で担っているように、インハウスロイヤー(学内弁護士)を入れるなど、法律的側面からも改革を進めていくべきではないでしょうか。

4 「理事長」「理事会」とは何か?学校法人の仕組み(ガバナンス)と問題点

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事務員

そもそも林真理子さんが担当する学校法人の「理事長」ってどういう立場なのでしょうか?学長や大学総長とは違うのですか?

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櫻井弁護士

理事長というのは、学校法人の経営のトップで、代表として、学校法人が外部と結ぶ契約等を締結できるほか、経営に関する大きな権限を持っています。学長は大学という教育機関の長であり、経営の権限はほとんどありません。

理事長は、一般の株式会社等で言えば、正に「代表取締役社長」です。

私立の学校法人の場合は、私立学校法によって、この「理事長」というものについて規定されています(私立学校法37条)。
理事長には、学内の教授がなる場合もありますし、外部の一般の法人の社長だったような人がなることもあります。

また、株式会社等の取締役にあたるものとして、「理事」、取締役会にあたるものとして「理事会」があります。
理事は株式会社でいう「役員」です。

学校法人は必ずしも大学だけの存在ではありません。日本大学も中央大学も、各付属校や他の施設があり、それを総合した組織体が学校法人です。
理事長は、この学校法人のトップであり、大学には大学で、「学長」という教育上のトップも置かなくてはなりません(学校教育法92条)。
このことから、大学には、理事長と学長の二本立てのトップが存在すると言えます。
リベ大の両学長は、経営上のトップではないということになっちゃいますね。

学校法人としての経営的・財産的なこと等に関する代表が理事長であり、その中にある大学の教育上の運営に関することの代表が学長です。例えば、大学の学生にあてる手紙等は、学長名で届くことが多いです。

また、学校法人によっては、「総長」という役職がある場合もあります。
我が学校法人中央大学もつい最近まで総長制度がありました。しかし、中央大学における総長は実権はあまり多くなく、やや名誉職のような色合いでした。しかし、例えば早稲田大学等は、総長が、理事長と学長の地位を持ち、トップとして強い権限を有するようです。

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櫻井弁護士

ちなみに、本件薬物発見問題は、学校法人の問題というよりは、大学の問題なので、林真理子理事長より、学長が前面に出るべき事案でした。しかしながら、林真理子理事長は、会見で中心になってしまっています。報道やSNSで「林真理子理事長はお飾り」という挑発に乗ってしまった面もあるのではないでしょうか…

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事務員

なるほど、学校法人の仕組み、ややこしいですね…。

学校法人は、その他、その公共性により、株式会社の「株」にあたる持分がなかったり、株主総会に近い存在として「評議員会」という組織等独自の組織があったり、大学には「教授会」という組織があったりと、いろいろと特殊性があります。

一般の株式会社等では、会社の所有者たる株主総会の権限がとても強いのですが、学校法人にはこの株主総会にあたる評議員会の評議員に株のような持分がなく、報酬もなく、強い権限と立場がないので、法人の代表者である理事長等、学内の者の力が事実上強くなりやすいのでしょうね

これが不正がおきやすい土壌であるといえるのではないでしょうか。
林真理子氏らが日大を本格的に浄化するためには、今後、株式会社における社外取締役や社外監査役のような、外部のチェックが強く入りやすい制度設計が求められていくと思います。

【2023.11.29記事内容更新】

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櫻井 俊宏

櫻井 俊宏

「弁護士法人アズバーズ」新宿事務所・青梅事務所の代表弁護士。 中央大学の法務実務カウンセルに就任し7年目を迎える。

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