裁判傍聴がブームになっているようで、最近では裁判所で一般の方が多く見られるようになりました。多くの方が司法に関心を持つのは歓迎すべきことです。
そこで本記事では裁判傍聴が初めての方に向けて
・傍聴できる裁判の種類
・傍聴の手順や持ち物等
について、まず確認します。
そして、どの裁判を傍聴するかについて
・おすすめ事件
・見どころのポイント
・傍聴する上での注意点
についても触れていきます。
【初めての裁判傍聴】傍聴できる裁判は?
まず傍聴できる裁判を確認しましょう。
裁判の種類
裁判の公開は憲法82条により保障されており、21条で保障される知る権利と相俟って、我々は自由に裁判を傍聴することができます。
ここにいう「裁判」とは、裁判所が法律を用いてトラブルを最終的に解決する手続きのことです。裁判所が扱うのは民事、刑事、行政、家事、少年等の各事件であり、管轄する地域や事件内容によって最高裁判所、高等裁判所、地方裁判所、家庭裁判所、簡易裁判所に分けられます。
裁判の公開と例外
基本的にすべての裁判が公開されていますが、一部例外があります。
裁判所が争いの勝敗を強権的に決めるのではなく、当事者の話し合いを促して円満解決を目指し、またプライバシーにも配慮すべきケースもあります。そこで家庭裁判所の「調停」「審判」、簡易裁判所の「調停」は非公開となっています。
また公開されるのは「対審及び判決」です。開廷表には刑事事件では「新件」「審理」「判決」、民事訴訟では「弁論」「判決」と記載されています。
「公判前整理」「弁論準備」は非公開の手続きですので、これら表示のある法廷には立ち入らないようにご注意ください。
傍聴できる日時、年齢
傍聴するのに許可は不要で、黙って入場して構いません。年齢制限もなく未成年の方でも傍聴できます。
ただし、いつでも傍聴できるというわけではありません。
どの裁判所も午前9時には開門されますが、法廷が開かれる時間帯は午前の10時から12時頃まで、午後は1時過ぎから4時過ぎくらいまでです。
また土・日・休日、年末年始は裁判所も休みとなります。それ以外の日程は、裁判所にもよりますが、毎日何らかの開廷予定があるでしょう。なお1月前半や4月初旬、7月下旬から8月中は開廷数が少なくなります。学生の方が長期休み期間の課題に傍聴する場合は、この時期は避けた方がいいかもしれません。
【初めての裁判傍聴】傍聴の手順と方法・持ち物や服装
では傍聴の手順や持ち物を確認しましょう。
傍聴の手順
開廷予定がネット上で確認できるのは次の3つです。
・最高裁判所開廷期日情報
・裁判員裁判開廷期日情報
・傍聴券交付情報
〇スケジュールの確認
上記以外の開廷予定は直接裁判所に出向いて出入口付近にある「開廷表」で確認します。
電話での問い合わせも不可能ではありませんが、せっかく裁判所を訪れるのですから、複数の裁判を傍聴することをお勧めします。
開廷表は通常「刑事」「民事」の2種類が備えられており、それぞれに法廷番号、時間帯、事件名、ステータス(進行状況)等が記載されています。
事案内容については、上記最高裁開廷期日情報以外は「窃盗事件」「損害賠償請求事件」といった事件名で推測し、実際に傍聴して確認するしかありません。
少しでも興味を感じたものをメモ用紙や持参したPC等へ書き落とします。なお、開廷表は撮影禁止です。
〇途中入退場
傍聴はしたいが途中で出てもいいのかが気になる方は多いと思いますが、個人であれば、途中の入退場をすることができます(団体は不可)。ただ審理の妨げとならないように静かに出入りする配慮が必要です。また扉にある小窓から中の様子を窺うことができるので、入場時には空席の有無を確認してから入るといいでしょう。
立ち見は禁止となっています。この小窓の開閉も静かに行います。
〇服装や持ち物
服装は自由ですが、裁判の妨げにならないように落ち着いた服装が望ましいとされています。過去にはハチマキやゼッケン、政治的なメッセージを記載した服を身に着けた傍聴人が退去を求められた例があります。また法廷内では帽子を脱ぐことを指示されます。
所持品については危険物の持ち込みは当然禁止されており、建物に入る際にセキュリティーチェックがあります。
それ以外に注意が必要なのは長い傘です。法廷内には持ち込めないので1階の傘立てを利用しましょう。
裁判の傍聴は面白い?裁判の見どころとおすすめの事件
ここからは求めるシーン別におすすめの裁判を紹介します。
(1)ドラマや映画のような白熱したシーン
争う当事者が対峙し、お互いの言い分を出し合うという法廷ドラマのようなシーンを希望するのであれば次をお勧めします。いずれの証人尋問も、主尋問(当該証拠調請求をした側の尋問)と反対尋問(相手側)を通して、一つの事象の異なった側面が見えてくるはずです。
・刑事事件の「審理」(証人尋問、被告人質問)
・民事事件の「弁論」(証人尋問、当事者尋問)
ドラマやゲームで「異議あり!」と威勢よく唱える場面を見たことがある方も多いと思います。
しかし実際の裁判では「異議あり」と表現するかどうかはともかく、異議を申立てる場面、申立方法に細かなルールがあります。
(刑事)
・証拠調に関する異議(刑事訴訟法309条1項)
刑事ドラマ等で見られる証人尋問途中の「異議あり」がこれにあたります。実際には立ち上がりながら「異議があります」と申し出るスタイルが多いのではないでしょうか。その際には簡潔にその理由を示し、直ちに行うことが必要です(規則205条の2)。たとえば個々の質問ごとに「誘導尋問」「関連性なし」といった形で即座に理由を示して、裁判所の指示(決定)を仰ぎます。
・証拠調に関する異議(刑事訴訟法309条1項)
裁判長の法廷警察権や訴訟指揮権に基づく処分についても異議を申立てることができます。過去には傍聴人のメモ行為を制限した裁判長の訴訟指揮権について異議申立がなされた事案(現在傍聴人のメモは問題なく認められています)もありましたが、こちらの異議を実際に見かけることは多くないでしょう。
(民事)
・裁判長に対して職権発動を促す異議
実際の民事裁判でよく見られる異議です。刑事と異なり細かな基準が民事訴訟規則で定められています。
尋問には主尋問・反対尋問・再主尋問の3種類があり、各尋問の範囲を超える質問は制限されます(民事訴訟規則114条1項)。また侮辱・困惑、誘導、重複、争点に無関係、意見を求めるといった各質問は原則としてすることができません(同規則115条2項)。
これらのルールを無視してなされた質問に対して、代理人である弁護人が相手の質問を制限するよう裁判所の職権発動を促すものです。
・裁判長の裁判に対する異議(民事訴訟規則117条1項)
たとえば裁判長が当初予定した順序以外のタイミングで証人・当事者尋問を許した場合などに異議が出されることがあります。ただその措置は裁判長が必要と判断した上で行われている以上、異議は通りにくく、実際に見かけることも多くありません。
〇おすすめ
傍聴するのであれば一度は「異議あり」を見てみたいと思うでしょう。それなら民事事件の「弁論」(証人尋問、当事者尋問)で1時間以上枠のものをお勧めします。刑事裁判のほとんどは自白事件で争点は量刑のみ、事件の概要についてはひたすら供述録取書等が読みあげられるため異議の出る場面が限られ、白熱した法廷というイメージからは遠くなります。
事件内容の理解は難しいかもしれませんが、99.9%有罪という刑事裁判よりも対立構造が鮮明で緊張感があるのは民事裁判です。
異議が出た際にはぜひ裁判長の采配にも注視して下さい。即座に異議を出す弁護人に負けない裁判長の瞬発力を見ることができるはずです。
(2)ヒューマンストーリー
ストーリー性を求めるなら刑事事件の新件(1時間枠)がお勧めです。新件ではその日から裁判が始まり、冒頭手続で検察官による起訴状朗読を聞くことができます。起訴状には事件内容が時系列に沿って書かれており、さながらシナリオのように思えるかもしれません。
(3)何をしているのかわかりやすく説明して欲しい
「一体何の手続きか説明して欲しい」という方には、刑事では裁判員裁判がわかりやすいでしょう。一般人の中から選任された裁判員に向けて、手続きごとに裁判長から丁寧な説明があります。また検察官や弁護人もモニターを利用するなどしてわかりやすさを心掛けている様子も見ることができるでしょう。
民事では簡易裁判所で行われるクレジット関係以外の裁判がお勧めです。簡易裁判所では本人訴訟が多く、代理人の付かない当事者に対しては裁判長がまるで先生のように手続きの説明をしてくれます。
(4)その他
どのような人が傍聴に来ているかを見るのも一興です。刑事裁判で被告人の家族や知人らしき人が来ていれば社会復帰に期待が持てるでしょうし、民事裁判でも原告被告の両関係者が挨拶を交わす姿を見れば礼節の大切さを感じるでしょう。
また法曹関係者の持つ資料の分厚さにも注目して下さい。
報道される内容は事件のごく一部に過ぎず、実際の裁判は法曹関係者が一言一句を紡ぐようにして成り立っていることがわかるはずです。
裁判を傍聴したら危険?
傍聴するにあたって記名等の義務はなく、通常は身元が知られることはありません。しかし最近では傍聴関連のSNSも話題となっており、傍聴に際しては無駄に個人情報を露出することは避けた方がよいでしょう。
また裁判では被害者と加害者、債権者と債務者が存在し、いずれもセンシティブな状態にあります。
どの裁判でも自分の身に投影しながら厳粛な気持ちで傍聴に臨んでいただきたいと思います。