「最大料金」につられて入庫したら予想外の高額請求、というトラブルが増えています。
本記事では
・コインパーキングの料金体系
・トラブルの数々
を紹介します。
そしてわかりづらい料金表示は不当景品表示法違反のおそれがあり、トラブル時の対応についても解説します。
学校法人中央大学の法務全般を担当している中央大学「法実務カウンセル」(インハウスロイヤー)であり、千代田区・青梅市の「弁護士法人アズバーズ」代表、弁護士の櫻井俊宏が執筆しております。
コインパーキング料金体系の仕組み
まず、コインパーキングの看板に表示されている言葉を確認しましょう。
通常料金
通常料金とは「30分〇円」「60分△円」のように、あらかじめ設定された利用時間あたりの料金に基づいて加算される料金のことです。
利用する時間帯によって複数の料金設定から合算されることになります。
最大料金
最大料金とは「24時間」「夜間」など、事業者が設定した時間帯における料金の最高額を指すものです。「上限」「打止」「打切」と表現されることもあります。
最大料金の適用には入庫時間の条件がある場合や、特定の曜日や時間帯のみに適用される場合、さらに指定スペースのみが対象となる場合など、駐車場によって様々な条件が設けられています。
繰り返し適用
長時間にわたって利用した際には、上記の「最大料金」が何日にもわたって繰り返し適用される場合と、利用開始時の初日のみ適用される場合(繰り返しなし)があります。
特別料金
イベント開催時、年末年始、ゴールデンウィーク等の混雑時に設定される料金です。通常料金と比べると割高となっています。
コインパーキングの料金トラブル事例集
コインパーキングの料金に関するトラブルの例を紹介しましょう。
最大料金の適用条件(繰り返しかどうか)が表示されていない
「最大24時間2000円」と表示され24時間経過後は通常料金が加算されるが、そのことが表示されていない駐車場を、最大料金の繰り返し適用があるものと誤解して3日間利用したところ、6000円ではなく数万円請求された。
最大料金の適用条件が書かれた文字が小さく、読みにくい
看板には「1日最大500円」と大きく表示されるも、小さな文字で「最大料金は当日限り」と書かれた注意書を見落とした利用者が、最大料金の繰り返し適用があるものと誤解して5日利用したところ、2500円ではなく2万円以上請求された。
最大料金が適用されないスペースに駐車
看板に「24時間最大2000円」と表示、さらによく見ると「区画によっては割引なし」と書かれ車止めにもその旨が書いてあった。しかし車止めは駐車した後は車に隠れるため、これに気づかなかった利用者が10時間駐車したところ、5900円請求された。
特別料金に気付かなかった
いつもは1日駐車しても1000円なのに、大晦日から元日の夜まで駐車したところ約1万円を請求された。特別料金については貼り紙で小さく表示されているだけだった。
「有利誤認表示」(景表法5条2号)にあたるおそれ
トラブルの多くが最大料金に関するものですね。
時間を気にせず定額の料金で駐車できる最大料金の設定はドライバーにとって魅力的ですが、運転中は時間帯と料金の確認が精一杯であり、看板の全表記を熟読して細かな条件を正確に理解するのは困難と思われます。
その結果、重要な条件の見落としや誤解を招くことになるのです。
小さな文字による表記や離れた箇所での記載など、消費者の誤認を招く表示は「有利誤認表示」(不当景品類及び不当表示防止法5条2号)にあたる可能性があります。
打消し表示について
「最大料金」と表示する一方で、最大料金の利用に一定条件を満たす必要がある旨を表示することは「打消し表示」と呼ばれます。
健康食品の宣伝で「体重が5kgも減り、周りからほめられました!」と個人の感想を紹介しながら、「※効果には個人差があります」といった記載も打消し表示にあたります。
「やせる」「月額○円のみ」「見放題」といった強調表示だけでは、消費者に過大な期待や誤解が生まれ、その結果、自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあります。
そこで宣伝する側が強調表示からはわからない重要な考慮要素を適切に表示して、強調の度合いを軽減させる必要があるのです。
適切な打消し表示が行われない場合は、その強調表示が有利誤認表示にあたることになります。
適切な打消し表示
打消し表示をするにあたっては、強調表示と打消し表示を合わせた表示物全体から、商品やサービスの内容及び取引条件が消費者に正確に理解されるようにしなければなりません。
適切かどうかの判断は広告方法(静画、動画等)にもよりますが、一般には以下の要素から判断されます。
・打消し表示の文字の大きさ
・強調表示の文字と打消し表示の文字の大きさのバランス
・打消し表示の配置箇所
・打消し表示と背景との区別
「時間貸し駐車場の料金表示」についてのガイドライン
ではコインパーキング料金については、どのような表示が「適切」な打消し表示と言えるのでしょうか?
日本パーキングビジネス協会公表のガイドラインを紹介しましょう。
利用料金や利用条件などについて、独特な表現を多用せず、分かりやすく表示する
- 料金案内看板について、看板記載必須項目(通常料金、最大料金、曜日、時間、特定料金、繰り返し有無、問合せ先等)を定義する。
- サービス料金(最大、上限、打止、打切等)を表現する文言は、「最大料金」という文言の利用を標準とする。
- 特にトラブルになりやすい最大料金の「繰り返し有無」は、わかりやすく料金表示に併記する。
- 入庫曜日、時間ごとの料金や、最大料金適用有無、最大料金適用有りの場合の繰り返しの有無について、統一フォーマットで駐車場に掲示する。
【NG例】
- 「平日・休日」→土曜や年末年始が誤認されやすい。
- 「昼夜・夜間」「一日」→具体的な時間を明示すべき。
- 最大料金の繰り返しがなく「1回限り」であるにもかかわらず明記していない 、「△時間ごと」という表現になっている。
大きく理解しやすく表示をする
- 看板記載必須項目の文字については、最低文字高30mm以上とし、それ以外でも不利な注意書きを故意に見づらく表示せず、わかりやすく表示する。
- 色・配置などの指定は行わないが、看板全体バランスなども含めて各社わかりやすい表示に努める。
【NG例】
- 「□を除く」「△のみ」といった例外条件や限定条件など、料金が高くなるケースだけを著しく小さく表示する。
- 最大料金の繰り返しがなく「1回限り」であるのに明記していない、または著しく小さく表示する。
時間貸駐車場における表示・運用に関する ガイドライン (gia-jpb.jp)
違法事業者への措置
上記ガイドラインは一応の目安であり、違反すれば直ちに違法というわけではありません。
しかし適切な打消し表示を行わず、不当に顧客を誘引する表示がなされているという疑いがある場合は、景表法を根拠に以下の流れに沿って行政手続きが進められます。
①措置命令
消費者庁は、調査を実施した結果違反行為が認められた場合、当該行為を行っている事業者に対し、弁明の機会を与えた上で「措置命令」(同法7条)をします。
措置命令には以下のものがあります。
・違反事実を排除しそのことを一般消費者に周知させること
・再発防止策を講じること
・今後同様の違反行為を行わないこと
・違反行為をやめない場合には違反行為を差止めること
なお、都道府県知事も措置命令をすることができます。
②刑罰
措置命令に不服がある場合は審査請求や取消訴訟をすることができますが、これら不服申立てをしなければ、措置命令が確定します。
一方、確定後も命令に従わない場合、事業者の代表者等は以下の刑罰が科せられます。
法人等の代表者や代理人等:2年以下の懲役又は300万円以下の罰金(同法36条)
法人等:3億円以下の罰金(同法38条)
③課徴金
不当表示により莫大な利益を上げている事業者にとっては、措置命令だけでは抑止力として十分ではありません。
そこで、違反行為者が相当の注意を怠った者でないと認められるときや課徴金額150万円未満のときを除いて、措置命令とは別に、以下の課徴金の納付が命じられます(同法8条)。
原則として、不当表示を始めた日からやめた日までの期間における対象商品・サービスの売上額の3%
最大料金の不当表示等のトラブル時の対応
料金に関する重要な条件の記載がない、あるいは見えづらいのに予想外の高額請求は納得がいくものではありません。
「急いでいる」「もめ事は避けたい」と泣く泣く支払う利用者もいますが、相手はそこにつけ込んで利益を上げているのです。
そこで最後に、毅然と対応することで消費者の権利を守る方法を紹介しましょう。
看板の表示を写真で記録する
看板の全体や条件記載部分、車高からの眺め等、複数の写真を撮り保存します。
コールセンターに問い合わせる
看板記載の番号に電話をかけて問い合わせをし、通話内容は録音します。
一旦出庫することの許可を得る
駐車場の所在地、駐車番号を告げ、出庫することの許可を求めます。
とくにロック版やゲートがある駐車場で強引に出庫して器具を破損させると、器物損壊として責任を問われるおそれがありますので注意が必要です。
不当な請求には応じない旨、意思表示する
最も重要なのが、「不当な請求には応じない」と拒絶することです。
「高い」「気付かなかった」と理由を並べるだけでなく、はっきりと「支払わない」と告げましょう。
利用相当分の料金を支払うので、振込先を教えて欲しいと伝える
ただし、実際に利用した分は支払う必要があります。
看板表示から合理的に算出される金額を確認した上で、振込等で支払う、又は一旦全額を払うが後日払戻しを受ける等、支払方法について協議します。
駐車券や領収書を大事に保管する
入庫日時が刻印された駐車券や後日払い戻しを受ける場合は領収書が重要な証拠となります。
紛失しないよう大切に保管して下さい。
相談する
料金や表示についておかしいと感じたら消費者生活センター(局番なし「188」)に相談しましょう。
【2024.9.20記事内容更新】