子どものオンラインゲーム高額課金トラブルの解決策は?取り消せる?【弁護士が解説】

トラブル対応

誕生日やクリスマス用のプレゼントとして子どもから「ゲーム課金」をリクエストされる方は多いと思います。「ゲームのことはよくわからない」と何となく子ども任せにしていたら、ある日、高額請求に驚くというトラブルが後を絶ちません。未成年の取引なら取消せるはず…、しかし問題はそれほど単純ではないのです。

本記事では、まず、

子どものゲーム課金トラブルの実例とその原因

を探っていきます。

 そして、高額課金に対する解決策として、

未成年者取消権の要件
「詐術」にあたるかどうかの判断基準
取消す場合の注意点

についても解説していきます。

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櫻井弁護士

学校法人中央大学の法務全般を担当している中央大学「法実務カウンセル」(インハウスロイヤー)であり、千代田区・青梅市の「弁護士法人アズバーズ」代表、弁護士の櫻井俊宏が執筆しております。

1 子どものオンラインゲーム課金トラブル

外出自粛が求められたコロナ禍の下、子どもがオンラインゲームを楽しむ時間が増えたと同時に、保護者の許可なく課金してしまったというトラブルも急増しています。いくつか例を見てみましょう。

以下は国民生活センターに寄せられたオンラインゲームの課金トラブルに関する相談事例です。

友達に勧められて

小学生の子どもが友達に「キャリア決済を使うとお金がかからない」と教えられ、スマホでオンラインゲームに高額課金していた。

決済完了メールを削除

子どもが150 万円以上もゲーム課金していたが、子どもが決済完了メールを削除していたため気付かなかった。

年齢確認画面でのミス

使わなくなったスマホを小学生の子どもにゲーム用として与えていたが、課金するために一度だけクレジットカードを登録したところ、1か月半で30万円以上も課金してしまった。年齢確認画面で「20 歳以上」を選択していたようだ。

2 オンラインゲーム高額課金トラブルの原因

オンラインゲーム課金の支払い方法にはプリペイドカード購入、クレジットカード決済、キャリア決済の3種類があります。プリペイドカードは「前もって代金を支払う」という行為があるためトラブルは起こりにくいのですが、後の2つが課金トラブルの温床となっています

ここでは親、子ども、システム別に原因を探ってみましょう。

原因1:親

まず目立つのが、両親や祖父母等のアカウントが登録されたスマホ、保護者用のアカウントでログインした家庭用ゲーム機を子どもに使わせている点です。通常、ゲーム課金はプラットフォーム(App Store、Google Play等)のアカウントを通じて行われます。

保護者のスマホや保護者用のアカウントでログインした状態の家庭用ゲーム機から課金すれば、たとえ子どもが勝手にしたものであっても、保護者自らが決裁したものと判断されてしまいます

また決済時のパスワードやクレジットカードの管理に問題がある事案も多く見られます。課金時に子どもが保護者のパスワードを勝手に入力する、クレジットカードを持ち出すという方法以外にも、パスワードを入力せずに決済できるように子ども自らがプラットフォーム上の設定を変更して、数回タップしただけで課金できたという事例も報告されています。

原因2:子ども

「友達が言っていた」「みんなやっている」という言い訳に象徴されるように、知識・経験・判断力の不足が主な原因です。その一方で、保護者に見つかる前に決済完了メールを削除していたという例もあります

「子どもはお金がかかることをわかっていない」、「だから課金するはずがない」という親の思い込みも大きく作用しているようです。

原因3:ゲームのシステム

「廃課金」、生活に影響が出るほどソーシャルゲームに課金をすることを言いますが、子どもも無縁ではありません。とくにのめり込んでしまうのがガチャシステムです。

ゲーム内アイテムやキャラクター等を手に入れるためにはガチャを回す仕組みになっており、そのためのゲーム内通貨を購入するべく課金を繰り返すようになります。ガチャ1回分は数百円程度ですが、ガチャを回した回数に応じてレアアイテムが入手できる確定枠を設けられているため、ユーザーは「引くに引けない」という心理状態に陥り、結果的に何十万円も費やしてしまうのです。

3 子どもの高額課金の解決策は?取り戻せる?

解決策の一つとして、法定代理人(保護者)の同意を得ずに未成年者が行った法律行為は取消すことができます(民法5条2項)

しかし実際に取消すには満たすべき要件があり、かつ交渉する相手もケースバイケースです。

(1)プラットフォーム事業者へ返金申請

オンラインゲーム課金であれば、まずプラットフォーム事業者に返金してもらえるかどうかを確認します。課金したお金はゲーム会社にすぐには支払われず、一旦事業者に預けられるため、課金後すぐであれば課金したことを帳消しにしてもらえるというわけです。

しかし課金はゲーム会社との取引であり、事業者はアプリやその支払いを管理する第三者に過ぎません。つまり返金に応じるかどうかはあくまでも事業者次第であり、必ず返金してもらえるわけではないことに注意して下さい。

またクレジットカード会社や携帯電話事業者もゲーム課金の当事者ではありませんが、場合によっては支払停止や返金に応じてもらえる可能性があります。まずは所定のフォーマットにて問い合わせることをお勧めします。

(2)ゲーム提供会社へ未成年者取消

プラットフォーム事業者が返金に応じなければ、他の解決策として、ゲーム提供会社に対して未成年者取消権を行使することになります。その際、こちらの言い分をまくし立てるのは得策ではありません。

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櫻井弁護士

ここでは実際の訴訟におけるルールに沿って書き進めていきたいと思います。

4 未成年者取消権の要件と注意点

①未成年者取消権の要件

ゲーム提供会社に課金分の返金請求(不当利得返還請求 民703条)を行う前提として、又は支払義務不存在を確認するために、未成年者取消を主張します。

主張するべき事項は以下の通りです。

課金当時の年齢が18歳未満であること
未成年者取消を理由とする課金相当額の返金請求する旨の意思表示(通知書)

②ゲーム提供会社からの反論

上記の主張に対して予想されるゲーム会社からの反論は次の通りです。

親権者の同意がある
処分を許された財産
課金時に詐術があった

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櫻井弁護士

それぞれの内容と注意点を説明します。


【親権者の同意がある】

親が所有するスマホや親のアカウントでログインしたゲーム機から課金した場合、たとえ子どもの行為であっても名目上は親権者自身の課金であり、少なくとも親権者が課金に同意を与えたと反論される可能性があります

ただし「自分は同意していない」との再反論の余地は十分あり、しかもここでいう「親権者」とは婚姻中であれば父母双方です。「父(母)の名義だから」という理由で諦める必要はありません。十分な準備を整えて反論に備えたいところです。

【処分を許された財産】

子どもが自由に使えるお金、つまりお小遣いの範囲内であれば、親権者の同意なく子どもは処分することができるため、未成年を理由とする取消はできなくなります(民5条3項)。ゲーム会社はこの点を主張してくるかもしれません。

しかしお小遣いの域を超える財産の処分には改めて親権者の同意が必要であり、その同意を欠けば取消の対象となります。数千円程度の課金は小遣いの範囲内といえるでしょうが、1か月に10万円を超えるような場合には、各家庭の経済状況やこれまでの経緯にもよりますが、処分を許された財産とは言えず、取消せる可能性があります。

【課金時に詐術があった】

近時のオンラインゲームではプレイする前に年齢確認があり、一定年齢以下だと課金に上限が設定されることがあります。これに対して子どもが虚偽を申告して課金を行っていた場合は、「詐術」による申込をしたものとして取消せなくなる可能性があります(民21条)

しかし、対面型の取引行為で子どもが自らを成人と欺くこと、あるいは親権者の同意があったかのように装うことと、画面上の簡単な操作で年齢を偽ることは、同等には扱えないでしょう。経済通産省公表の「電子商取引及び情報財取引等に関する準則」においても「詐術」あたるかどうかは以下の要素を考慮すべきとしています。

未成年者の年齢
取引金額
商品、サービスが未成年者をターゲットにすることが想定されているか
確認画面の表示内容等が未成年者に警告の意味を認識させるものか
未成年者への誘引力に応じて不実の入力を困難にさせる年齢確認の仕組みになっているか

 したがって、単に「成年ですか」との問いに「はい」のボタンをクリックしただけ、利用規約の一部に「未成年者の場合は法定代理人の同意が必要です」と記載してあるのみ、といった事情がある場合は、未成年者の意図的な虚偽の入力が「人を欺くに足りる」行為(詐術)にあたらず、未成年者取消の余地があるということになります。

③注意点

取消権は追認できる時から5年間で時効消滅するため(民126条)それまでに未成年者本人又は親権者が書面を用いるなどして、確実に取消の意思表示を行ってください。また取消の意思表示前に課金に関する請求書や購入履歴、支払済であれば領収書等、できるだけ事実関係を詳しく証明できる材料を準備しておきましょう

 取消後は、当然契約がなかった状態に戻さなくてはならない(遡及効)ので、未成年者側は情報財(ゲーム内のアイテム等)を使用し続けることはできず、その消去が求められます。

代金の決済にクレジットカードやキャリア課金等の決済業者が介在している場合はそちらとの交渉も必要です。

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そして忘れてならないのが、子どもに対する親権者としての監督責任が問われ、親が直接損害賠償請求される可能性があるということです(民714条1項)。


5 相談先

身近な相談先としては消費者センター(局番なし188)があります。揃えるべき資料や証拠をいち早く助言してもらえるでしょう。

そして交渉相手が複数ある場合や高額課金の場合には、弁護士に相談することをお勧めします。未成年者取消は上記の準則により期待できる場合もあるのですが、親権者としての監督責任を問われる可能性があります。課金相当額の損害賠償支払義務を負うかどうかも含めて慎重な判断が必要です。

 

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櫻井 俊宏

櫻井 俊宏

「弁護士法人アズバーズ」新宿事務所・青梅事務所の代表弁護士。 中央大学の法務実務カウンセルに就任し7年目を迎える。

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