遺言書の効力については、自己に有利な内容であれば有効を、不利な場合には無効を主張したいのが遺族の心情です。しかし遺言書の効力は遺産を受け取る側の都合で決まるものではなく、有効か無効かはさまざまな事情を考慮した上で専門的な判断を要します。

このコラムでは遺言書が無効となる場合についてわかりやすく解説し、遺言書が無効である場合の手続きについても紹介します。

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櫻井弁護士

学校法人中央大学の法務全般を担当している中央大学「法実務カウンセル」(インハウスロイヤー)であり、新宿・青梅・三郷の「弁護士法人アズバーズ」代表、弁護士の櫻井俊宏が執筆しております。

【相続の問題を弁護士が解説】遺言の持つ意味と種類,作成方法

遺言書の種類

1 遺言書の種類

遺言書とは、遺産をどのように分けるかなどについて被相続人の最終意思を記載した書面です。

遺言には普通方式遺言と特別方式遺言がありますが、一般的に用いるのは普通方式遺言です。普通方式遺言には、自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言の3種類があり、中でも多く利用されるのが自筆証書遺言と公正証書遺言です。

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令和元年に全国で作成された公正証書遺言は113,137件(日本公証人連合会HPより)、自筆証書遺言について行われた検認手続きは18,625 件(「司法統計年報(家事編)」より)でした。

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へー、そんなにたくさんも遺言書があるとは!おじいちゃんが亡くなったときは遺言書なんてひとつも話題に上りませんでした(笑)

自筆証書遺言は公正証書遺言に比べてかなり少ないですね。

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統計から見ると圧倒的に公正証書遺言が多数ですが、実際には検認手続きを経ない自筆証書遺言も数多くあると思われます。そして遺言書の効力が問題となる多くが自筆証書遺言です。

相続コラム1 自筆証書遺言を作成するには

2 自筆証書遺言が無効になる場合

公証人という法律の専門家の関与なく手軽に作成できる自筆証書遺言は、それゆえ効力が問題となる場合が少なくありません。

そこで自筆証書遺言が無効となる場合について、以下解説していきます。

⑴ 方式の不備

自筆証書遺言は次の要件を満たす必要があります。

① 遺言者が全文(財産目録を除く)を手書きする

財産目録を除いて全文を自書することが必要です。パソコンで書いたもの、コピー、録音・録画データ、さらに代筆は無効です。

用紙や筆記具に決まりはなく、横書き縦書きの指定もありません。ただし用紙の一部が破れていたり、記載した文字が消えていたりなどで判読できない場合は、その箇所が無効となります。

② 作成した日付を正確に手書きする

「令和3年7月1日」「2021年7月1日」というように、年月日を特定できることが必要です。「令和3年7月吉日」では日にちを特定できず無効となります。日付も自書が必要で、ゴム印やスタンプの使用はできません。

③ 氏名を手書きすること

遺言者自身が戸籍上の氏名を正確に自書するのが原則です。

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ただし、芸名やペンネームなどの通称名が記載されている場合、誰の記名かが分かり他人の遺言と誤解されるおそれがなければ有効、そうでない場合は無効と考えられているんです。

たとえば、本名『〇〇正雄』が自筆証書遺言に『〇〇政雄』と記名していたが、生前『政雄』を用いることもあったという事案で、氏名の自書として有効であると認めた判例があります(大阪高裁昭和60年12月11日)。

④ 押印

印を押していない自筆証書遺言は無効です。

使用する印は実印である必要はなく、認印や拇印などでも構いません。また押印自体は遺言者本人から依頼を受けた他人が行うことも可能です。

また財産目録をパソコンなど自書以外の方法によって作成した場合には、片面であればそのページまたは裏面、表裏であれば両面に署名と押印が必要です。

⑤ 訂正および加筆が適切に行われていること

全文の自書が求められる自筆証書遺言では、少なからず書き損じや記入漏れがあることが予想されます。その際の訂正や加筆の仕方については民法968条3項が規定しており、これに従って実務では一定のルールが決められています。このルールに従わない訂正および加筆は、その効力を生じません。遺言書の改ざんを防ぐためです。

訂正や加筆が無効となる結果、訂正や加筆がある前の「誤記や記入漏れがある状態の遺言」が有効として扱われることになります。その場合、以前の遺言内容が正確に読み取れればよいのですが、黒く塗りつぶす、修正テープを貼る、捺印がなく本人が訂正したのか不明などの理由で判読不能になった以前の遺言書は、無効と扱わざるを得ないことになります。

⑵ 共同遺言

同一の証書で2人以上の者が遺言することはできません。

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たとえ夫婦でも同じ書面に遺言を書いた場合は、遺言書全体が無効となるんですね。夫婦なら…と勘違いしやすいところなので注意が必要ですね。

⑶ 故人の意思に基づかない遺言

遺言は遺言者の真意に基づくものでなければなりません。錯誤(勘違い)や詐欺(騙された)・強迫(脅された)によって行われた遺言は遺言者の真意と言えず、無効となります。また病人などの手を取って無理に書かせた遺言も無効です。

⑷ 遺言能力を欠く場合

遺言能力とは、遺言の内容を理解してその結果を予想しうる意思能力のことです。遺言能力については民法961条が15歳以上の者は遺言することができるとしています。したがって15歳未満の者が作成した遺言書は無効です。

問題となるのは認知症の場合です。認知症の診断が下りているからと言って、必ずしも遺言能力がないとは言い切れないのです。実際には以下の事情を総合的に考慮し、最終的には裁判官が判断します。

・年齢
・精神障害の存否や内容およびその程度
・遺言前後の言動や状況
・遺言作成に至る経緯(遺言の動機、理由)
・遺言の内容
・相続人または受遺者との関係性 など

⑸ 遺言の内容が不明瞭

書かれた遺言の内容が不明瞭な場合には、記載内容を中心に当時の状況も踏まえて遺言者の真意を合理的に探り、できるだけ有効となるよう解釈に努めます。それでもなお内容の解釈がつかない場合には無効と扱わざるを得ません。

たとえば相続不動産が複数ある場合に所在表記が不十分で、他の資料を検討してもどの不動産を示すのか不明である場合には無効となります。

⑹ 公序良俗違反

社会的妥当性を欠く内容の遺言は公序良俗違反を理由に無効です。

たとえば、不倫相手への全財産の遺贈 (東京地裁昭和63年11月14日判決 )について、また経営者による顧問弁護士への会社財産全部の遺贈(大阪高裁平成26年10月30日判決)について、遺言が無効であるとした判例があります。

3 遺言が無効になると勘違いしやすい場合

以上に対して、遺言書の検認手続きを欠く場合や内容が遺留分を侵害する場合は、遺言書は無効にはなりません。

⑴ 検認手続き違反

自筆証書遺言のうち令和2年7月より始まった法務局における保管制度を利用しない遺言書と秘密証書遺言は、遺言者の最後の住所地にある家庭裁判所にて検認手続きを経なければなりません。検認手続きをせずに勝手に遺言書を開封してしまうと5万円以下の過料に処せられます。

しかし検認は遺言書の効力を判定する手続きではなく、勝手に開封したり検認を拒んだりしても、遺言書の効力には影響ありません。とはいえ、検認済証明書のない遺言書では法務局や銀行で各種手続きをとることはできず、結果的に遺言の執行ができません。うっかり開封してしまった場合にはすみやかに検認手続きをとる必要があります。

相続コラム2 遺言書保管法について

⑵ 遺留分侵害

遺留分とは一定の法定相続人に認められる最低限の遺産の取得分のことで、民法でその割合が定められています。遺留分を侵害する処分は被相続人本人でも行うことはできません。

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では遺留分を侵害する遺言は当然にすべて無効になるのでしょうか?

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実は、そうではありません。民法は侵害部分については遺留分侵害額請求で調整することを予定しており、しかも実際に請求するかどうかは各相続人の任意に委ねています。したがって遺留分を侵害する遺言は無効とはならないのです。

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4 決着方法

遺言書の効力をめぐって意見が対立する場合に決着をつけるには、無効を主張する側から遺言無効確認訴訟、有効を主張する側から遺言有効確認訴訟があります。

⑴ 調停前置主義

遺言無効(有効)確認事件は家庭に関する事件であるため、家事調停の対象になります。家事調停の対象となる事件について訴訟を提起するには、先に家庭裁判所に家事調停を申し立てなければならないというルールがあります(調停前置主義)。

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ただし当事者の意見の対立が激しくもはや話し合いで解決する見込みがないような場合には、いきなり訴訟を提起したとしても、調停には付さずにそのまま訴訟手続きによる審理を行う場合もあります。

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⑵ 遺言無効確認訴訟

遺言無効確認訴訟の結果、遺言の無効であると判断された場合(請求認容判決)には、遺言書はなかったものと扱われます。したがって原則として相続人全員で改めて遺産分割協議をしなければなりません。

遺言は有効であると判断された場合(請求棄却判決)、多くは敗訴した側によって遺留分侵害額請求の手続きに移行することになります。

5 まとめ

遺言書の効力をめぐって争いが生じた場合には弁護士法人アズバーズに一度ご相談ください。その後の紛争処理手続きについてまで一貫してお任せいただけます。

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