賃貸借契約の「追い出し条項」は違法!?どのように明け渡してもらえば良いの?【弁護士が解説】

先日、賃貸借契約における明渡に関して、あらかじめ保証契約内で一定の状況になった際には強引に物を搬出して追い出すことができるという「追い出し条項」についての最高裁判決が出ました。
追い出し条項は今後使えないとする内容です。すなわち、賃借人を追い出すには、裁判所を通した手続をきっちり踏む必要があるということです。
この結論は妥当なのでしょうか?
本記事では、賃貸借契約における賃借人の立場の強さを、借地借家法や判例の観点から説明した上で、

賃貸借契約における追い出し条項の有効性
追い出し条項差止判決の妥当性とこれからの賃貸借

等について解説していきます。

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櫻井弁護士

学校法人中央大学の法務全般を担当している中央大学「法実務カウンセル」(インハウスロイヤー)であり、千代田区・青梅市の「弁護士法人アズバーズ」代表、弁護士の櫻井俊宏が執筆しております。


1 賃貸借契約における明渡原則 信頼関係破壊の理論

賃貸借契約についてはいまさら説明をする必要はないでしょう。物の貸し借りの契約です。家を借りるのが典型です(民法601条以下)。
学生時代に一人暮らしをした方は、アパートについて、この契約を結んだこともありますね。
ちなみに、「土地」を借りる場合も賃貸借契約と言います。これを「借地契約」という場合もあります。

この賃貸借契約には、民法の他に、不動産の賃貸借については「借地借家法」という特別な法律があります。
この法律は、全体として、賃借人の居住生活を保護する法律であり、法的にはかなり借りている側の権利が強いものとなっています。
しかも、賃貸借契約を途中で解除して明渡を求めるためには、賃借人が、賃料を数カ月滞納する、賃貸人または近隣の住民に対して犯罪レベルの迷惑行為を行っている(脅迫や暴行)等の、賃貸借契約を継続することは到底難しいと言えるような「信頼関係を破壊する」ような行為が賃借人にない限り、賃貸人は賃貸借契約を解除できないことになっています(信頼関係破壊の理論。最高裁昭和27年4月25日判決。)

例えば、実際に多いのは、アパートが老朽化しており建替をするから出ていってもらいたいと大家が強硬に言ってくるようなケースです。
よっぽど建てられてから期間が経ち、ボロボロになっていて建替の必要があっても、通常は、大なり小なり「立退料」の支払いをしなければ追い出すことはできません。
裁判を提起したとしても、裁判所は、賃貸人に一定程度の立退料の支払義務を認め、それと引き換えに明渡を認める判決が出ることになります(引換給付判決)。

まずは、このように、賃貸借契約においては、借り手側の立場が強いことを認識しましょう。

この点、以前は借地借家法のような法律もなかったので、昔ながらの地主や大家は、その頃の感覚で、自分達の強くない立場を認識しておらずかなり強気な態度で借りている者に対して、明渡等を迫ってくるケースが往々にしてあります。

某鉄道の団体などは、公権力に近い強い立場なので、その高架下の土地建物を借りている者に対して「賃貸借契約を終了しますので、○○までに立ち退いてください。」と、書面でいきなり送ってくるケースを複数見たことがあります。

2 賃貸借契約における「追い出し条項」の有効性

今回の最高裁判例令和4年12月12日判決で問題となった「追い出し条項」とは、

・家賃を2か月以上滞納している、
・賃借人に連絡がとれない、
・賃借物件を相当期間使っていない、
・物件を再び使う意思がないことが客観的にわかる、

といった場合には、賃借人は物件を明渡したものとみなし、内部の動産等を撤去して良いという内容です。
家賃保証会社のフォーシーズという会社が、保証した賃借人が大家に対し債務不履行になった場合に備えて、保証契約内にそのような条項を設けていたようです。

通常、上記で述べたように、賃料をある程度の期間滞納している場合は、賃貸借契約を解除して明渡を請求していくことは当然できます。
一般的には、3カ月分ぐらいの滞納は必要と言われています。
しかし、このようにある程度の賃料の滞納があっても、例えば住んでいる人がいない間に勝手に鍵を変えてしまう等の行為は法的には許されません。勝手にやってしまうと、住居侵入罪(刑法130条)や器物損壊罪(刑法261条)等の犯罪が成立してしまうことも考えられます。
そこで、面倒だと思いますが、1週間以内に賃料の支払いがない場合は賃貸借契約を解除して明渡の裁判をするという内容証明郵便を出して、それでも賃料の支払いや明渡がない場合は裁判を起こすことになります。
そして、明渡の裁判で判決をもらっても住んでいる者が出ていかなければ、更に裁判所を通した明渡の強制執行を起こす必要があります。

内容証明郵便による解除 ⇒ 明渡の訴訟 ⇒ 明渡の強制執行

という三段階の手続が必要ということです。
訴訟から明渡の強制執行までやると、普通のアパートの1室でも、弁護士費用・荷物を撤去する業者に支払う費用等全て合わせるとなんと100万円ぐらいかかります。

このような多大な負担を回避するために、家賃保証会社であるフォーシーズは、このような条項を設けたのでしょう。
しかし、最高裁は、このような条項の存在を認めると、賃貸借契約の当事者でないフォーシーズの一存で賃借人の権利を奪うことになり、著しく不当であるということで、消費者である賃借人の権利を一方的に害することになる追い出し条項は、今後使用することは認められない、としました。

本来、賃借人に義務の不履行があったとしても、物を撤去して明渡を実行するには、裁判所を通した負担の大きい手続を行わなくてはならないことを考えると、この結論はそれとの均衡では妥当であると思われます。

3 追い出し条項差止判決の妥当性とこれからの賃貸借

特に、賃貸借契約は、2020年の民法改正で、連帯保証する際には、根保証契約であるから、連帯保証人が負担する金額について極度額を明記(上限のこと。例えば「500万円まで連帯して負担する。」というような記載。)しないと連帯保証契約が無効であるとなりました(民法465条の2)。
【参考】根保証の極度額設定と賃貸借契約の連帯保証

これに対して、賃貸借契約の現場では、連帯保証人を用意してもらうことによって対応するのではなく、賃借人に保証会社と契約させることによって、賃借人の責任を担保させるように対応するようになりました。
これは、今思えば、民法改正をきっかけとして、自分達保証会社が大量に保証契約を得られるように、フォーシーズ等の保証会社が仕向けたのかもしれません。

いずれにしろ、実務上、ほとんどの賃貸借契約において保証会社による契約で対応されている以上、追い出し条項が認められた際には、多くの賃料が支払えない賃借人が強引に追い出されることによって、その生活基盤がなくなり、社会に混乱に起きる可能性があるでしょう。
その意味では、本判決は、とりあえず無難な落としどころであったのだと思います。

しかしながら、この判決の内容だと、追い出すことができない家賃保証会社の負担が大きいので、保証会社の契約ができるかどうかの審査がより厳重となり、そもそも、最初に賃貸借契約ができなくなる人が増える可能性があります。

また、従来通り、明渡が大変なままだと、そもそも不動産を持っている者が警戒をして、なかなか貸してくれなくなってしまうというジレンマもあります。

どこかで、これらの問題を解決する必要があると思います。
個人的には、明渡の三段階の手続があまりにも大変すぎるので、これがもっとコンパクトかつ費用のかからない手続になると良いのではないでしょうか。
名誉棄損訴訟を行うための相手の情報を開示する手続が融合されてスリムになったのと同様な法改正を望みたいところです。

あとは、大家側としては、契約時に、しっかりとした説明書面を交付することによって、契約期間を終了したときには、そのまま契約を終了させることができる「定期建物賃貸借契約」を有効利用することも一つの方法でしょう。
ただ、これは、高齢の方等が良くわからないうちに定期建物賃貸借契約に移行されてしまう等の問題があったので、2000年3月1日以前からの賃貸借契約は、途中から定期建物賃貸借に切り替えることができなくなったので、注意が必要です。
また、賃貸人側からも一定の要件を満たさないと途中解約できないので、この点も注意の必要があります。

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櫻井 俊宏

櫻井 俊宏

「弁護士法人アズバーズ」新宿事務所・青梅事務所の代表弁護士。 中央大学の法務実務カウンセルに就任し7年目を迎える。

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