最近、卒論代行サービスというものがあるようです。大学等の卒論を業者が代わりに書くというものです。
多いところでは費用は数十万円ぐらいになるようです。
これは、バレないのでしょうか?また、卒論提出者や業者は違法とならないのでしょうか。
これについて、各卒論代行業者は「問題ない。」とうたっていますが、業としては問題あるとなってしまうと事業が成り立たなくなってしまうので、当然そのように言うでしょう。実際は、全く問題ないとは言えないと思います。
最近では、違和感のある提出論文や、他人の文章を使っているかどうかをサーチするソフト等もあり、バレやすいと思います。バレた場合にどうなるか解説していきます
・卒論代行に私文書偽造罪、業務妨害罪は成立するの?
・卒論代行に民事賠償責任は問える?
・卒論代行を使うと学内の罰則はあるのか?
・今後の卒論代行に対する対策 Chat GPTを使った場合は?
等について解説します。
学校法人中央大学の法務全般を担当しているインハウスロイヤー「法実務カウンセル」(法律顧問)であり、千代田区・青梅市の「弁護士法人アズバーズ」代表、弁護士の櫻井俊宏が執筆しております。
1 卒論代行に私文書偽造罪は成立するの?業務妨害罪は?
替え玉受験は私文書偽造罪(刑法159条)となります(最高裁平成6年11月29日決定、東京高裁平成5年4月5日裁判例)。ではこれに構図が似ている卒論代行サービスは違法となるのでしょうか?
この点、私文書偽造罪の「偽造」とは、名義人と作成者の同一性を偽ることです。
替え玉受験は、申請した「受験生」という名義人と作成者である替え玉をした「受験者」の同一性は当然偽っているので「偽造」にあたります。
この判例では、むしろ、答案が「事実証明に関する文書」として私文書にあたるかどうかの方が問題となりました。
「事実証明に関する文書」は「社会生活において交渉を有する事項を証明するに足りる文書」を言いますが、結論として、答案は、自分の学力を証明するものとして、「事実証明に関する文書」であるという結論になりました。
これにより、替え玉受験は私文書偽造罪にあたるという結論になったのです。
卒論も事実証明に関する文書といえる?
これに対し、卒論も、事実証明に関する文書といえるでしょうか。
卒論も「事実証明に関する文書」と言えるでしょう。そして、卒論提出者本人の意思のもと提出しているので、偽造とはいえないようにも思えますが、作成者はあくまで代行サービスなので、「偽造」と言えそうです。
これにつき、代行サービス側も対策を練っています。会社によっては、あくまで参考資料なので本人が手を加えて提出してください、と告知し、代行者でなく、提出者本人が「作成者」といえるようになるよう頑張っているというわけです。
こうなると、その書面をどの程度作成した人が、私文書偽造における「作成者」となるかが今後問題となってくるでしょう。刑法上は、答案は、その性質上、本人による作成が強く求められるものなので、本人作成かどうかは厳格に捉えるべきとされています。
もし成立する場合は、提出者本人と業者の共犯となる可能性があります(刑法60条~62条)。
カンニング行為は偽計業務妨害罪も成立する可能性
2011年の京都大学の入学試験において、カンニング行為が偽計業務妨害罪(刑法233条)で立件されています。
このことからすると、カンニング類似の代作行為である卒論代行行為は、偽計業務妨害罪も成立することが考えられると思います。
2 卒論代行がバレた学生・業者に対して民事賠償責任は問える?
卒論代行サービスは、業者と学校の間に契約関係にはないので、学校は、契約責任である債務不履行(民法415条)ではなく不法行為責任(民法709条)を考えることになります。
試験のやり直しや見直しのために費用がかかった場合は、不法行為成立の可能性もあります。
不法行為成立のために告知記載しておく
この場合、不法行為が成立しやすいようにするには、卒論の説明に、「代行サービス含め一切の有料の業者を利用しないこと」を告知記載しておく、もしできるなら、これまでに問題となった各業者に自分の学校の卒論の件は受けないように通知しておく等して、代行業者が代行してはならないと認識させた方が、賠償請求できる可能性は高くなるように思えます。
転記は損害賠償発生の可能性も
また、代行業者自体は、他からそのまま転記している場合も多いと思われます。
他からのデッドコピー(そのままコピーを掲載すること)のコピペを組み合わせているようであれば、もともとの著作物を作成した者は著作権法、民法に基づいて、損害賠償を請求できます。
このようなデッドコピーは、前述のように、それをAIでサーチするソフト等も出現しており、バレやすいと思います。
3 卒論代行サービスを使ってバレると学内での罰則はあるか?
卒論代行サービスを利用した学生は、やはりカンニング同様として、カンニングの場合と同様な懲戒の対象となります。
学生として、停学や、時として退学ということもありうるわけです。
この卒論代行サービスは、ここまでお話してきたようにグレーであり、今後、業者と学校で違法になるかどうかのいたちごっこの対策が繰り広げられる可能性があります。
このため、今後防止していくためには、違反の際の罰則を強いものにする必要があります。学校側としては、事前に違法である旨を厳重に学生達に告知しておいて、退学や年間単位なし等の厳罰に処するべきでしょう。
学校法務についていろいろと考察記事を出しております。
大学における保証人の責任が変わった?【民法改正】
大学内で犯罪が起きたら大学の責任?退学等の懲戒、安全配慮義務
高校・大学の学生寮で退寮処分は違法!?
4 卒論代行に対する今後の対策法
ここまで述べてきたように、これからの卒論代行の違法性における論争のポイントは、
・私文書偽造にあたるかどうかの判断において、どこまで卒論を作成した場合「作成者」といえるかの問題
・どのように卒論代行を事前に禁止告知していくか
という点にあるでしょう。
この卒論代行は、学校の教育システムを根本から揺るがす可能性があるものであり、業者側が「適法である。」とホームページで堂々と言い切って告知している状況は正直異常であると思います。
しかし、システム自体は、受験指導等との境界があいまいであり、決定的に「違法」と言いにくいのも事実です。
これは、既に、教育業界全体であたっていく必要がある問題ではないでしょうか。
しかも、最近、Chat GPTというAIが質問に答えてくれるというアプリも話題になっています。アメリカのオープンAI社が売り出しているもので、マイクロソフト等も関与しているようです。
日本版Chat GPTの回答はまだまだ完全とはいいがたいものですが、オリジナルの米国のものは、論文レベルの回答が返ってくるとの噂です。
そうだとすると、これからはChat GPTの回答をそのまま論文にしてしまうということがこれからは起こりかねません。
すなわち、今後は、見ていないところで作成された成果物で学力を見るということが通じにくくなるということです。
卒業論文も、指導するものが見ているところで創作を進めていってもらうしかないのでしょうか。そうだとすると、昔の中国の科挙のように、非常に長い日数にわたって試験をするしかないということになりかねません。
科学の発達によって、かえって昔の試験様式に戻ってしまうようなことがあれば、皮肉なものです。
そこで、むしろ、教育というものが、そのようなツールをどのようにうまく使っていくことができるかを見るものになってくるのではないかということを現場の人達が言っておりました。
卒論やレポートの代行の台頭が、この教育の変革の第一歩を占うとも言えるでしょう。
【2024.2.20記事内容更新】