特定商取引法の改正により、7月6日から、頼んでもいない商品が一方的に送りつけられて届いたら「即、処分」が可能になり、代金を支払う必要もありません。
送り付け商法を規制する特定商取引法の改正について説明します。
学校法人中央大学の法務全般を担当している中央大学「法実務カウンセル」(インハウスロイヤー)であり、新宿・青梅・三郷の「弁護士法人アズバーズ」代表、弁護士の櫻井俊宏が執筆しております。
1 ネガティブオプション
そもそも、ネガティブオプションって何ですか?いったい何が問題なのでしょうか?
新型コロナウイルス感染症が急速に拡大し始めた昨年4月頃「注文していないマスクが自宅に届き、代金を要求された」という相談が、消費者センターに数多く寄せられました。このように、消費者が商品を購入していないのに商品を一方的に送りつけて代金を請求するという販売法を「ネガティブオプション」と言います。
「商品を受け取ってしまった」「封を開けてしまった」ことにより代金を支払わざるを得ない、という消費者の心理を巧みに利用して代金を支払わせようとするもので、悪徳商法の一つです。
(1)ネガティブオプションの手口
手口として多いのが、届いた郵便物の中に商品と請求書が入っているケースです。とくに代引き方式で届いた場合には「玄関先で宅配業者を待たせては悪い」と確認せず支払ってしまいがちです。
また『商品が不要な場合は〇日以内に返品してください。期間内に返品されない場合は商品購入を承諾したものとみなします』と一方的に記した書類が同封されていることもあります。返品するのが面倒といった消費者心理を狙った手法です。
(2)契約成立の法的仕組み
契約は当事者の合意によって成立します。つまり、一方の「申込み」とそれに応じる他方の「承諾」が必要であり、いずれも法的効果と意味を分かった上で行われる必要があります。 販売業者が商品を送り付ける行為は「購入してほしい」という「申込み」にあたりえますが、消費者の「受け取っただけ」という状態は「承諾」にはならず、販売業者が一方的にみなすこともできません。
したがってネガティブオプションではそもそも契約は成立しないのです。
2 特定商取引法による規制
(1)法の目的
特定商取引法は、事業者による違法・悪質な勧誘行為などを防止し、消費者の利益を守ることを目的としており、ネガティブオプションも規制の対象です。
(2)これまでの規制内容
売買契約を結んでいない商品の所有権は販売業者側にあるとの理由で、これまでは14日以内であれば販売業者は返還請求が可能でした。消費者としては14日を過ぎれば商品を自由に処分できますが、それまでは保管を強いられることになり、たとえば海鮮物など保管の難しい商品ではトラブルが多く発生していました。
3 令和3年7月6日特定商取引法改正
これまでの不都合を解消すべく、今回、ネガティブオプションに関する特定商取引法が改正されました。
(1)商品は直ちに処分可能
これまでの「14日間以内」という要件が撤廃されて、商品を一方的に送付した販売業者は、即日、商品の返還請求ができなくなりました(特定商取引法59条1項)。
その結果、商品の所有権は反射的に消費者に移ったことになり、消費者は受け取ったその時から商品を処分することができます。捨ててもいいですし、消費しても構いません。
(2)事業者から金銭を請求されても支払い不要
一方的に送付された商品は消費者が直ちに処分できるものとなります。開封や処分したことで消費者に支払義務が生じることはありません。
(3)売買契約の成立が偽装された商品の送付
注文していない商品が送付されてきて「御注文いただいた商品を送付しました」などと書かれた紙が入っているなど、売買契約の成立が偽装されることがあります。この場合も売買契約は成立しておらず、代金を支払う必要はありません。そして消費者は商品を直ちに処分することが可能です(同59条の2)。
(4)適用除外の対象が縮小
改正前では商品の送付を受けた者にとって商行為となる場合は法の保護の対象から外されていました。たとえば、個人事業者宛に商品が一方的に送付されてきた場合、商品を受け取ると商行為としての申込みを受けたことなり、販売業者側が所有権を失うという規定が適用されず、保管義務が発生することになっていました。
しかし今回の改正では、適用除外の要件が営業のために使用する商品に限定されることになりました(同59条2項)。
例えば建築会社に海鮮物が送り付けられた場合のような、事業には関連しない商品については法の保護が及ぶということですね!
その通りです。また実質的に廃業している法人、事業実態がほとんどない零細事業者は保護されやすくなります。
4 注意点
(1)法改正前に受け取った商品
改正法の施行日が令和3年7月6日です。これよりも前に受け取った商品については旧法が適用されます。したがって14日間保管するなどの旧来の対応が必要になります。
(2)間違って代金を支払ってしまった場合には相談する
一方的に送り付けられた商品について誤って金銭を支払ってしまった場合でも、返還を請求することができます。消費者センターや消費者生活相談窓口が相談対応を行っています。
5 まとめ
以上、送り付け商法に関する法改正について解説しました。 万が一、今後送りつけがあった場合には、本記事を読み返して、的確に行動してもらえればと思います。