弁護士がクライアントの依頼を受け、相手との交渉を始める際、まずは「受任通知」というものを相手方に送ります。
これは誰が代理人として窓口になるか明確にするためです。
しかし、この受任通知を送っても、完全に無視される場合や、ひどいときには、無視されて本人に電話等が執拗に来る場合もあります。
・受任通知の意義
・破産・債務整理の場合の受任通知の特色
・受任通知を完全に無視された場合
・受任通知を無視して本人に執拗に連絡が来る場合
について、解説します。
中央大学の法務全般を担当している中央大学「法実務カウンセル」(インハウスロイヤー)であり、千代田区・青梅市の「弁護士法人アズバーズ」代表、弁護士の櫻井俊宏が執筆しております。
1 受任通知とは何か
先程述べたように、受任通知とは、弁護士に依頼し、弁護士が代理人として窓口になることを相手に知らせる書面です。
通常は、後で「届いていない」と言われないために、また、その書面の内容の中に、法律上の効果が発生するような内容が含まれている場合(例えば「消滅時効の主張をする」という内容)には、法律上の効果発生の事実を証拠で残す必要があるため、内容証明郵便という形式で送られることが多いです。
その中には、「今後は弁護士宛に連絡をし、本人には直接連絡をしないでください。」
というような内容が通常入っており、この内容通り、基本的にこれ以降は本人に連絡してはならないという効果が発生します。
このことから、本人にとっては、相手方から執拗に連絡が来る精神的負担から逃れることができます。
2 破産・債務整理の場合の受任通知の特色
破産等の債務整理の場合は、金融会社に受任通知を送ることによって金融会社からの再三の請求の連絡を防ぐ効果があります。
金融会社によっては、毎日のように取り立ての電話を入れるようなところもあるので、受任通知が送られると、かなり精神的に負担がなくなるでしょう。
しかし、破産や債務整理の依頼の場合、金融会社からの請求がなくなったからといって、安心しきってしまって、弁護士からの連絡に本人が出なくなる場合が良くあります。
このようにされると、弁護士としては、依頼者との信頼関係がなくなり、辞任せざるを得なくなります。
すると、その人の債務は変わらず残っており、本人に連絡してはならないという効果がなくなるので、支払の請求が再開されます。
しかも、弁護士としては、このように依頼者の方に問題があって辞任した場合には、民法にのっとり、初期費用としての着手金等は返す必要がないということになっています。
弁護士との間の委任契約書にもそのように書かれているはずです。
破産の依頼をされている方は、この点に気をつけましょう。
3 受任通知を完全に無視された場合
自分が請求側で、例えば不倫をされたので弁護士に依頼し、受任通知書を送ったが加害者に完全に無視された場合にはどうすれば良いでしょうか。
【参考】
加害者というのは問題を起こした側であり、一般的にやはり問題のある人物であることが多く、無視を決め込む者は少なくありません。
受任通知には、応答義務があるわけではありません。
この場合は、早々に裁判所を介した手続を進め、無理矢理相手方を引っ張り出すしかないでしょう。
例えば、それぞれのケースによって下記のように提起することができます。
・不倫の場合であれば不貞「損害賠償請求訴訟」
・建物明渡請求であれば「建物明渡請求訴訟」
・離婚・相続等の件であれば「離婚又は遺産分割の調停」
裁判上の手続に持ち込めば、相手方が加害者でありながら最初に無視を決め込んだ事実は、裁判官の心証として、相手方に不利に働くでしょう。
4 受任通知を無視して本人に連絡が来る場合
弁護士の受任通知を無視して本人に連絡を執拗に繰り返すような場合があります。
これについては、後に裁判所を介した手続になると裁判官の心証を害すること、双方感情的になり紛争がより激化することから止めた方がよいでしょう。
この代理人無視の行為について、損害賠償請求までは一般的に難しそうです。
大蔵省の通達に背いて、貸金業者が、債務者に代理人弁護士が就いているにも関わらず、本人に請求を続けたケースで10万円の賠償義務を認めた、小倉簡易裁判所昭和61年10月28日裁判例はありますが、このような明らかに違法と思われる事例であっても、この程度の賠償しか認められないということです。
しかも、貸金業者という国に管理された者であることから賠償請求が認められた特殊な裁判例といえるでしょう。
まとめ
交渉は喧嘩ではありません。
良い交渉を行う基本は、過去の経緯はともかく、交渉自体は誠意を持って行うことでしょう。
このことから、受任通知が来た時点から交渉ははじまっているのであり、良く考えた行動が必要であると言えます。
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