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こんにちは。新宿・青梅の法律事務所,弁護士法人アズバーズ代表弁護士の櫻井俊宏です。

平成31年4月東京・池袋で暴走した車で母子が死亡し、9人が重軽傷を負った事故の公判が先月に結審し、検察側より禁錮7年が求刑されました。

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本当に痛ましい事故でしたね。月日がたっても公判の度に大きく報道されてますよね。

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そうですね、高齢者による自動車事故が多発していた中での幼い子供を巻き込んだ事故でしたから、誰しも胸を痛めたでしょう。私も、事故後の加害者の態度にはやはり憤りを隠せません。

判決の言い渡しは未だですが、これまでの処理や手続きについて、さまざまな資料をもとに検証してみたいと思います。

1 過失運転致死傷罪の検挙人員

 被告人は自動車運転処罰法5条の過失運転致死傷の罪に問われています。まずは同罪の概要と検挙人員について見てみましょう。

(1) 過失運転致死罪の概要

自動車の運転上必要な注意を怠ったこと(過失)により、他人を死傷させた場合に成立する犯罪類型です。過失とは、スピード違反、前方不注意、標識の見落としなどです。法定刑は7年以下の懲役もしくは禁錮、または100万円以下の罰金です。

悪質な交通違反を重く処罰するべく、平成19年に刑法内に「自動車運転過失致死傷罪」が設けられましたが、業務上過失致死傷罪(5年以下の懲役もしくは禁錮又は100万円以下の罰金)よりも刑罰が重いのが特徴です。さらに、平成26年施行の自動車運転処罰法に取り込まれる形で「過失運転致死傷罪」として現在運用されています。

危険運転致死傷・過失運転致死傷等 検挙人員数の表統計上、自動車運転処罰法違反に占める過失運転致死傷罪の割合が99%以上であることがわかります。

(2) 危険運転致死傷罪との違い

同じく自動車運転処罰法に規定されている危険運転致死傷罪は、飲酒や無免許、制御困難なスピード走行など故意に基づく危険な運転によって死傷事故を起こした場合の犯罪類型です。つまり、過失犯ではなく故意犯です。

法定刑は、死亡の場合は1年以上の有期懲役,負傷の場合は15年以下の懲役です。検挙人員を見ると、自動車運転処罰法違反のうちわずか0.18%です。

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100 km/h近くのスピードで交差点に進入した飯塚被告については危険運転致死傷罪で検挙することも考えられなくもないですが、「故意犯」についての証拠集めや立証の難しさ、法律全体の運用状況などからやむを得ず過失運転致死傷罪を選択したことがうかがえます。

(3)身柄拘束されなかった理由

事故後被告人が逮捕勾留されなかった点について批判が集まりましたが、交通事故事件のほとんどが身柄を拘束しない在宅事件です統計によると自動車運転処罰法違反だけで年間37万件以上の検挙人員があり、その全部を収容できないという現実的な理由があります。

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そんな事情があったんですか。ネットやSNSでは「上級国民だから拘束されないのでは」なんていう声も多かったですね。

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それに、被告人も負傷していて逃亡や罪証隠滅するおそれがなく、逮捕勾留する必要がなかったというのも理由となっていると思います。とはいえ、事故直後に加害者が余計な行動を行っていた等の噂もあり、事件全体の経緯を考えると、逮捕されなかったことについて不服の声が多いのも無理はありません。

2 過失運転致死罪の処理区分別構成比

次に検察による処理を見てみましょう。

交通事件 検察庁終局処理人員の処理区分別構成比グラフ

過失運転致死傷罪では刑事裁判が行われる「公判請求率」が1.3%であるのに対して検察限りで処分を終える「不起訴率」が8割以上で、一般事件と比べても不起訴率の高さが顕著ですとはいえ、これは死亡に至らなかったものも含んでいますので、過失運転致死の事案においては、起訴率はもっと高いでしょう。

一方、危険運転致死傷罪では不起訴率が2割程度であるのに対し公判請求率は7割以上と、一般事件にも増して厳格な手続きが行われています。

上記のように、死亡している場合でも起訴されない場合は確かにあります。しかし、本件では加害者が犯罪を否認していること、被害者と示談をし、民事賠償をすることに対して積極的な態度を示していないことから、当然に起訴はされるものといえるでしょう。

3 審理期間

『裁判の迅速化に係る検証に関する報告書』(第8回)によりますと、地方裁判所通常刑事第一審の平均審理期間3.3か月、平均審理回数2.7回です。

令和2年2月6日の公判請求から結審した令和3年7月15日まで約17か月、審理回数9回の本件では、「否認事件」ということもあり事実関係に争いが多く、慎重に審理が行われたようです。

4 過失運転致死罪の科刑状況

最後に科刑状況も見てみましょう。
交通事件 通常第一審における有罪人員(懲役・禁錮)の科刑状況一覧表
本件の求刑は禁錮7年でした。令和元年の統計上、過失運転致死罪の上限である禁錮7年で処断されたのは1252人中2人だけです。

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実刑となるか執行猶予が付くかは裁判所の判断ですが、数字だけで見ると「重い」求刑と評価できます。

5 まとめ

検察側は証拠集めや立証のハードルが低い過失運転致死傷罪で起訴しつつ、一方で同罪の上限一杯の求刑をしている点から見ると、確実かつ厳しい判決を獲りにきているのではないでしょうか。

判決は令和3年9月2日の予定です一般的には休刑の8掛け(80%、今回だとおおよそ禁錮5年6月)が平均と言われていますが、注目です。

 

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