2024年7月7日の都知事選は熱い!
小池現都知事、蓮舫氏の他にも、安芸高田市の石丸元市長、NHK党の複数の候補者、はては弁護士界では有名なアディーレの石丸氏等、バラエティに富んだ立候補者となっています。
その中で、特に話題になっているのが小池都知事と蓮舫氏ですが、過去に、小池都知事はカイロ大学の学歴詐称疑惑、蓮舫氏は二重国籍問題と、責められどころがあります。
この学歴詐称疑惑と、二重国籍問題の二つにつき、
- 小池都知事の学歴詐称疑惑は文書偽造罪にあたらないのか?
- 蓮舫氏の二重国籍疑惑は違法にはならないのか?
- 違法である場合選挙の当選等にどのような影響を与えるか?
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等について注意する点をお話します。
櫻井弁護士
本記事は、学校法人中央大学の法実務カウンセル(インハウスロイヤー)として法務全般を担当している、千代田区・青梅市の弁護士法人アズバーズ、代表弁護士 櫻井俊宏と、同青梅事務所の支部長弁護士の菊川一将が解説します。
1 小池都知事の学歴詐称疑惑は文書偽造罪とならないのか?「有形偽造」「無形偽造」
事務員
小池都知事のカイロ大学の卒業証書偽造疑惑……ほんとうかどうかはわかりませんが、穏やかな話じゃないですね。
文書偽造罪は、刑法で規定されている犯罪類型のひとつです(刑法154条以下)。
また、運転免許のような「公文書」か契約書のような「私文書」かでも必要な検討が変わってきます。
文書偽造罪は、実は刑法上意外と難しいもので、「有形偽造」「無形偽造」等の違う形式が存在し、
また、構成要件ごとに常識とは少し異なる定義が存在しますが、ここでは「偽造」という要件に限ってのみ説明します。
文書偽造罪にいう「偽造」とは、2つの類型があります。
- 本来であればその文書を作成できる権限がないのに(権限があるかのように装い)、その文書を作成することです。
例えば、私が早稲田大学の卒業証書をそれっぽく作成することです。
- もうひとつは文書の作成権限がある者が、内容が事実と異なる文書を作成することです。
例えば、早稲田大学法学部の責任者が、私が早稲田大学法学部卒業生である旨の卒業証書を作成することです(菊川は早稲田大学教育学部出身であり、法学部出身ではありません)。
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前者が有形偽造、後者が無形偽造と呼ばれています。なんでこんなわかりにくい呼び方なのかはわかりません。おそらく海外から取り入れたあとの翻訳の時に形式的に訳したせいかなと思いますが。
さて、皆さんが偽造と聞いたときに思い浮かべるのは後者の無形偽造の方が多いのではないかと思います。
しかし、刑法上、私文書偽造罪においては、この無形偽造は原則的に処罰されないこととなっています。
ただし名義人でない者が真正に成立した文書の内容に改ざんを加える「変造」(有形偽造の一種)は処罰されます。例えば、運転免許証の裏面に住所変更の記載を加え、住所が変わったかのような内容にする場合です。
なんだかややこしいですね。
本件でいうと、卒業証書の作成名義人はカイロ大学ですから、あの卒業証書をカイロ大学が作成しており、その内容に虚偽がある(=小池都知事はカイロ大学を卒業していない等)ということでしたら、私文書偽造罪は成立しません(変造罪成立の余地はありますが、措きます)。
翻って、あの卒業証書をカイロ大学以外の何者かが作成したような場合には、私文書偽造罪が成立します(刑法159条1項)。
なお、特に問題になったのは、偽造罪自体の成否というより、その偽造した私文書の行使罪及び学歴詐称による公選法違反の罪ですね。
「行使」についても解釈・論点があって簡単なところではないですが、テレビ局・テレビ番組を介して公開したことがあるとのことですから、「行使」と言って差し支えないのではないでしょうか。
2 蓮舫氏の二重国籍問題は違法ではないのか?
蓮舫氏の二重国籍問題は、日本の国会議員であり、また蓮舫氏自身が他の議員に対していろいろ追及するタイプの議員であったので、特にアンチを中心に注目を集めました。
日本の法律に基づくと、二重国籍に関する規定は以下の通りです。
まず第一に国籍法です。
日本の国籍法では、日本人が他国の国籍を取得した場合、自動的に日本国籍を失うわけではありません。ただし、22歳までにどちらかの国籍を選択する義務があります(国籍法第14条)。
そして、22歳を過ぎた後も国籍を選択していない場合、国から催告を受けることがあり、その場合は国民には選択を行う義務があります(国籍法第15条)。
そして、第二に憲法及び公職選挙法です。すなわち、議員でいるための適格要件を満たしているかどうかです。
そして、この二つの法において、国会議員になるためには、日本国籍を有することが必要です(日本国憲法第41条および公職選挙法)。
このことから、蓮舫氏が二重国籍であった場合、その二重国籍自体が違法であるわけではなく、問題となるのは議員になったときと現在、日本国籍を保持しているかどうかです。
蓮舫氏の場合、台湾籍を保持していたことが問題視されましたが、2017年に蓮舫氏は台湾籍を離脱し、日本国籍の選択を正式に行ったようです。これにつき、蓮舫氏は自分でも理解していなかったとして、故意がなかったと主張しているようです。
国籍法上、14条において、22歳までに国籍を選択しなかったからといって、罰則があるわけではないので、違法ではありません。
また、少なくとも、現在では違法状態は解消されているので、公職選挙法上も、国会議員であること、都知事選に立候補することは違法ではないといえます。
3 仮に文書偽造や二重国籍があった場合、小池氏、蓮舫氏は都知事になれるのか?
蓮舫氏の二重国籍問題については、前述のように一応の解決がされているようです。今回の都知事選選挙で何らかの形で蒸し返されることもあるかもしれませんが…
事務員
小池氏の学歴詐称問題は、今のところはっきりしないところもあります。
万が一私文書偽造罪にあたるとされた場合、選挙に立候補できるのでしょうか?
そして、都知事であったときに発覚しても罷免されないのでしょうか?
この点、立候補については、年齢という積極要件はもちろんですが、そのような事情があると立候補できないという消極要件が公職選挙法11条に記載されています。
その11条1項2号には「禁錮以上の刑に処せられその執行を終わるまでの者」と記載されています。
このことから、もし万が一、今、犯罪行為が発覚したとしても、刑に実際に処されていない限りは、立候補は可能ということになります。
実際に都知事であった際に犯罪行為が発覚した場合は、都知事を罷免されないのでしょうか?
犯罪行為が発覚したから即罷免になるという制度はありません。
地方議会議員には適用される除名の制度も知事にはありません(地方自治法134条以下)。
このことから、犯罪を行った知事を解職させるには、住民の意思によって、リコールで罷免を目指すことになります。
住民投票によって首長をリコールする場合、有権者は3分の1以上の署名で解職の是非を問う住民投票を60日以内に行うことができます。投票で半数の同意があれば、リコールが成立し、首長は失職します。これは都知事も同じです。
ただ、上記の署名は、人口が多い自治体の場合、「40万を超えるときは、40万を超える数の6分の1と40万の3分の1を合計した数以上、80万を超えるときは、80万を超える数の8分の1と40万の6分の1と40万の3分の1を合計した数以上」(地方自治法81条)となります。
東京都の場合、前回都知事選(2014年2月)の総有権者数1068万5343人で計算すると、135万9008人の署名が必要です。また、署名を集める期間も2カ月以内と決まっており、現実的にはほぼ不可能といえます。
ガーシー元国会議員や木下富美子元都議会議員のケースは参考になりますね。
【参考記事】地方議会議員や国会議員を辞めさせる除名・リコール等の方法【ガーシー氏】【木下富美子氏】
4 最後に
最近、自民党も揺らぎ、以上な円安やインフレにより、国民・都民の生活も不安でいっぱいです。
本件記事に述べたようなことも都知事選の争点にもなりえますが、できればそのような足の引っ張り合いではなく、積極的な良い政策を掲げて、堂々と当選した方に良い政治を行ってほしいですね。
そして、政治を変える方法は、投票しかありません。
櫻井弁護士
特に、若者のみなさんには、高齢者優先でない政治を行ってくれる候補者を探し出して、選挙に行ってほしいですね。
【2024.6.3記事更新】
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