もらった物は返さなくていい―

あげたものは取り戻せない―

大人であれば誰もが納得するルールですが、別れた男女間では大きな火種となります。

当然のルールとわかっているが別れた彼女に対して譲れないのは、単純な法律問題にはしたくない男の本当は弱気の心理が見え隠れします。

本記事ではそういった男の一見強気の心理について法律で切り込み、具体的そして安全な対処法について解説していきます。そして後半では同棲の生活費についても触れます。

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櫻井弁護士

学校法人中央大学の法務全般を担当している中央大学「法実務カウンセル」(インハウスロイヤー)であり、千代田区・青梅市の「弁護士法人アズバーズ」代表、弁護士の櫻井俊宏が執筆しております。

強気にデート代返せという男の心理とは?大胆に法律で分析!

強気にデート代返せという男の心理とは?大胆に法律で分析!

別れた彼女に対してデート代やプレゼント代を請求するのは「お金」が目当てであるとは限りません。むしろお金ではなくそれ以外の目的が潜んでいる可能性があります

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櫻井弁護士

ここでは考えられる男の心理を、あえて法律上の主張に置き換えてみましょう。

報復|罰金刑のつもり

まず考えられるのが、一方的に別れを告げられた、振られたことに対する報復・腹いせです。

自分は傷つけられた被害者、振った相手は加害者であると考えて、自らの正義を実現するために相手に制裁を加えるというのが動機です。したがってここで請求される金銭は、補償や賠償というよりも罰金刑に近い意味を持ちます。

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櫻井弁護士

そのため請求金額が実際に費やした金額に対応しておらず、極端に多い、あるいは少ないといった特徴があります。

費用を回収したい|契約を解除して原状に戻すつもり

次に考えられるのは、原状回復です。

「結婚等の目的があったが不達成に終わった」「相手の心変わりが原因で交際を続けられなくなった」と考え、相手の債務不履行を理由に一つ一つの贈与契約を解除、関係をリセットして何もなかった状態に戻すという心理です。個々の贈与契約=交際関係という飛躍した発想が根底にあるのでしょう。

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今までの費用明細を示し数十円単位まで請求してくるのはこのタイプです。一見「ケチ」とも思われますが、プレゼントすることが交際している証と考えるため、交際期間中はマメにプレゼントやごちそうをしていた人に多いのも特徴です。

傷ついたことを理解してほしい|慰謝料請求のつもり

報復目的と若干重なりますが、被害者である自分の精神的苦痛を補償してほしいという心理です。

別れは受け入れるが、自分がどれほど傷ついたかを知ってほしい、言い方(やり方)を改めてほしい旨主張し、それに対する償いを求めるという動機があります。金銭を受け取ることでけじめをつけるという考えもあるのでしょう。

したがって請求する金額も精神的苦痛を補償するに足りる程度、つまり現実的な金額を提示して確実な満足を得ようとします。

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ちなみに侮辱慰謝料の相場は10万円程度です。

別れを認めたくない|契約(関係)更改のつもり

もはやお金の請求が目的ではなく、難癖をつけてでも別れを認めない、未練があるという心理です。金銭をめぐってやりとりのある間はまだ交際が継続している、あるいは復縁する可能性があると考えて、とにかく引き延ばそうとします。

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請求額が定まらず相手の出方次第で態度を変化させたり、会っている間はお金の話はむしろ避けたりする傾向があります。

あげたものを返せと言われた時の対処法|裁判を起こされる?

あげたものを返せと言われた時の対処法|裁判を起こされる?

あげたものを返せと言われると、真っ先に心配になるのが裁判を起こされるのではないかという点です。そこで別れた彼氏の主張に法的根拠があるのか、上記の心理別に見てみましょう。

別れた後はプレゼントを返すべき?

報復(罰金刑)

 罰金刑をはじめとする刑罰を科する権利(刑罰権)は国家が独占しており(罪刑法定主義憲法31条)、私人が他人に制裁を加えることは禁じられています。したがって、どんなに酷い振られ方をしても罰として金員を要求することはできず、要求された側も応じる必要は全くありません。

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むしろ返還合意や民法上の規定によらず支払要求してきた場合には、相手に恐喝罪が成立する可能性があります。

費用回収(贈与契約の解除)

 交際中の男女間で交わされるプレゼント等については通常は契約書を作成しないものです。このような契約を「書面によらない贈与」といい、「履行の終わった部分」つまり相手にあげてしまった物については解除できないという民法の定めがあります(民法550条但書)

これは受け取った側の「もう自分の物になった」という確定的な期待を保護する趣旨と考えられており、請求されても返す必要はありません。

 ただし「騙した」(詐欺)、「お互い冗談のつもりだった」(心理留保)といった事情があれば解除ではなく意思表示の取消や無効を主張することによって取り戻せる可能性はあります。

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しかしこれらを立証するための証拠は請求する側が準備しなくてはならず、受け取った側は基本「何もしない」で足ります。

慰謝料請求

 振られた相手は少なからず傷つき、別れ方によっては精神的苦痛を感じることもあります。「慰謝料」「手切れ金」「示談金」等言い方は様々ですが、相手が別れを受け入れており請求額も妥当な範囲であれば、関係を長引かせないために支払うことは一考に値するでしょう。

契約(関係)の更改

 「お互いの関係を見直し、修復したい」という考えは更改契約(民法513条1項)に通じるものがあります。つまり、これまで二人の間で生じた問題点を改善し新たな関係を築くことを申込んできたと考えるのです。もちろん、二人の意思の合致があってこその関係更改ですから、これに応じる義務はありません

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しかしわずかでも歩み寄る気持ちが残っているのであれば、話し合ってみるのもよいかもしれません。

裁判を起こされる?

 結論から言うと、別れた男女間で金銭のやりとりをめぐる訴訟はめずらしくありません。つまり訴えられる可能性はゼロではないのです。しかし訴訟になる事件にはいくつか特徴があります。具体例を紹介しましょう。

東京地判平成28年8月26日

被告(男)に任せていた資産運用(約2800万円)について預託か贈与かが争われた事案。金銭返還請求(一部認容判決)以外にも婚約不履行による損害賠償請求がなされていた(婚約の成立は否定)。

 東京地判平成15年11月27日

被告(男)の「うまく運用する」旨の意向を受けて交わされた株式証券(約260万円)及び金銭(500万円)について貸付か贈与かが争われた事案。被告の借用メモ等が証拠として採用されて貸付と認定、返還請求が認められた。

 東京地判平成18年10月17日

交付された金員(約220万円)の趣旨が、生活援助のための貸付か業務補助のための対価かが曖昧であるため男側が返還を請求できると認識することは不合理とは言えないが、執拗に返還を求めて自宅まで来て面会を強要したのは不法行為が成立するとして30万円の損害賠償請求を認めた。

 【特徴】

 まず目につくのが金額の大きさです。弁護士に依頼し訴訟を提起するには当然コストがかかり、そのコストに見合った訴訟物(請求権)であることが大半です。

 そしてとくに重要な特徴は贈与か貸付かが争われていることです。交際中の男女間ではこの点がはっきりしないことが多く、実際の訴訟ではいずれかを認定するために非常に多くの証拠が提出され、裁判所も丁寧に判断しています。

逆に言うと、訴訟を維持できるだけの証拠が揃っているかどうかが「裁判を起こすか」の分岐点となるのです。

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そして行き過ぎた請求は、逆に訴えられる可能性があることも忘れてはいけません。

別れた彼氏(彼女)に請求された場合の具体的な対処法

別れた彼氏(彼女)に請求された場合の具体的な対処法

 では実際に「返せ」と請求された場合にはどのように対処すればよいのでしょうか。

基本的には「返さない」と拒否すれば足りるのですが、単に無視するだけでは相手の態度を硬化させるリスクがあります。そこで注意すべき点をいくつか挙げます。

費用回収

一旦受け取ったプレゼント等は返す必要がないことを相互に確認しましょう。その際、贈与か貸付か曖昧なものについては過去のメール等を確認しておくと安心です。

慰謝料

慰謝料を支払う意思があるのであれば、金額、支払目的や支払い方法、これ以外に債権債務はないことを確認する「清算条項」を盛り込んだ書面を作成します。

罰金刑

法的根拠が全くない主張ですが、このタイプが最も注意を必要とします。

自分は被害者という意識が強いため、完全な無視は相手をさらに強硬にしてしまいます。そこで決して軽んじていないこと、及び冷静な第三者の目が届いていることを示すために、弁護士に依頼して内容証明郵便を書いてもらうのが賢明です。

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また少しでも危険を感じた場合は迷わず警察署に相談しましょう。適切なアドバイスがもらえるだけでなく、警察は相手に対して注意・警告や禁止命令を出すことができ、場合によっては捜査に移行することもあります。

同棲の生活費を返せといわれた場合

同棲の生活費を返せといわれた場合

ここまではデート代やプレゼント代といった特別な支出について解説してきましたが、今度は生活費という日常にかかるコストはどうでしょうか?

離婚の場合と比較

多くの方が「プレゼント代返せ」よりも「生活費返せ」の方が違和感を持つのではないでしょうか。それは離婚の場合と比べているからです。

夫婦には協力・扶助義務(民法752条)があり、夫婦共同の出費は夫婦が連帯して負担するというのが民法の建前です(「日常家事債務」761条)。したがって離婚時には婚姻期間中の生活費等(婚姻費用)の返還は通常問題とならないのです。

家賃や光熱費はどうなるか

では、協力・扶助義務のないカップルの場合は生活費相当額を返さなくてはならないのでしょうか?

やはりここでも贈与契約があったと考えることになります。食費、家賃、光熱費等、生活にかかるコストを相手のために支払えばその都度贈与したことになり、書面を交わさない場合は「書面によらない贈与」として、支払った後は解除できなくなるのです。したがって別れた後に「生活費返せ」と言われても、「払ってもらったのだから返さない」で済むわけです。

ただし、同棲を続ける中で生活費について話し合う機会があったかもしれません。その際「折半する」「次の給料日まで立て替えて」等の約束があったのに相手が全面的に負担していた場合は、贈与ではなく貸与となる可能性があります。仮に貸与であれば自分が負担すべきであった金額は返さなくてはなりません。

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櫻井弁護士

「生活費返せ」と言われたら、同棲中の生活費の負担について取り決めがなかったかを冷静に思い出してみて下さい。

まとめ|強気にデート代返せという男の心理と対処法

デート代返せという男の心理別に、法律的な観点からいくつか対処法を紹介しました。

実際には様々な考えが交錯し、自身も不合理と思いつつ請求してくるケースがほとんどでしょう。だからこそ冷静な対応を心掛け、場合によっては第三者に協力を求める勇気が必要です。

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櫻井弁護士

以上、参考になれば幸いです。

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