河野太郎行政改革改革大臣が「はんこは必要ない」と脱はんこを進めようとしているのに対して,二階俊博自民党幹事長は「脱はんこに反抗しろ」と熾烈に争っているようですね。激化しそうです。
河野太郎行政改革担当相は9日の記者会見で、はんこ使用廃止をめぐり「署名を集めて反抗しろ」とした自民党の二階俊博幹事長の発言を皮肉った。「(はんこと反抗をかけた)二階氏に『座布団1枚』という感じだ。私としては、やるべきことを淡々とやるのみだ」と語った。毎日新聞
この脱印鑑(はんこ)問題について,
・法律的に印鑑は必要と言えるか
・印鑑についての二段の推定とは?
・印鑑の弊害
・国内的・国際的背景
等について解説します。
中央大学の法務全般を担当している中央大学「法実務カウンセル」(インハウスロイヤー)であり、
新宿・青梅・三郷の「弁護士法人アズバーズ」代表、
弁護士の櫻井俊宏が執筆しております。
1 法律的に印鑑は必要と言えるか
法律的にはんこは必要か?
答えはノーです。
民事訴訟法においても,228条4項で「私文書は,本人又はその代理人の署名又は押印があるときは,真正に成立したものと推定する。」とあります。「推定する」とは,反対の立証がない場合はそのように考える,というようなことです。
すなわち,署名のみでも推定が働き,私文書の効果を認めるという効果があるということです。
普通に考えても,署名には筆跡というその人その人の個性があり,証拠力が強いと言えそうです。
2 印鑑の二段の推定とは?
印鑑には「二段の推定」という強い効果が法律上あります。
二段の推定とは,文書上におされたハンコの跡(陰影)が,持ち主が持っている印鑑(印章)と同じであれば,持ち主が押したものと推定され(一段目の推定),更にその文書が持ち主の意思で作成された真正なものであることが推定されます(二段目の推定)。
一段目の推定は,最高裁昭和39年5月12日判例により判例法として効果があり,二段目の推定は,一般的に持ち主が印鑑を押したのであれば持ち主の意思で文書が作成されたと推定されるということから,民事訴訟法228条4項の条文上推定されます。
この一段目の推定は,認印の陰影の場合は,持ち主が持っている認印かはわからないので,実印であることが想定されています。
つまり二段の推定により,印鑑には強い効果があり,署名にはこの効果がありません。
裁判で,契約書の署名に対して相手が「真正なものではない」と反論した場合には,本人の署名であることを証明しなくてはならないことになります。
はんこがなくなる場合には,この点について改正を考える必要があるように思います。
3 印鑑の弊害
印鑑(実印)は,上で述べたように強い効力があるので,実印を盗み出して押した際にも,二段の推定により,その文書が真正なものであることが推定されてしまいます。
これを覆すには,印鑑が盗みだされたことや,他の者が押したことを証明する必要があるわけです。
サインの方がそのような犯罪行為でも行いにくいのであり,なんだか印鑑社会は不合理な感じがしますね。
4 国内的・国際的背景
噂では,印鑑業者達が廃業になるのはかわいそうだ,と国は印鑑維持に努めているようです。
しかし,国際的に見れば,10年程前までは,中国・韓国・台湾等が実印登録制度があったようですが,現在は日本だけだそうです。
これは,サイン主義に移行しているからです。これからは,世界的に電子契約に移行すると思われるので,ますます印鑑の必要はなくなるでしょう。
現に日本では,弁護士ドットコム社が「クラウドサイン」という電子契約サービスを行っています。
もし,印鑑業者達の保護という非合理な理由なのであれば,業者達にも一定の配慮はしつつも,日本が世界に遅れをとらない施策を検討してもらいたいものです。
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