財産開示という手続があります。
債務者の預金等に強制執行が行われても功を奏しなかった場合に、裁判官が債務者を裁判所に呼び寄せて、財産状況について開示してもらう手続です。
この財産開示手続、結局債務者が来ないで終わり、意味ない手続と言われていたのですが、2020年4月から強制執行に関する民事執行法が改正されました。[/speech_balloon_right2]

これにより財産開示手続は強化されました。
また、強制執行手続も、相手方の財産の情報がなくてはならない、預金口座についてはその担当支店まで調べなくてはならない、給与を差し押さえても会社が変わった場合差押をし直さなくてはならない等、なかなか簡単にはいかない面がありました。

しかし、強制執行自体も強化されました。
以下、財産開示手続を中心に、2020年4月の民事執行法改正について解説します。

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中央大学の法務全般を担当する「法実務カウンセル」であり、新宿・青梅の弁護士法人アズバーズで代表弁護士を務める櫻井俊宏が解説します。

1 財産開示手続は意味ない!?改正法による強化

財産開示手続は、強制執行が一度うまくいかなかった場合に、裁判所に申し立てをすることによって事件化します。
裁判所の命令のもと、債務者は事前に自分の財産一覧表を出し、それをもとに、裁判所と債権者が債務者の財産についての疑問点等を聞き、債務者に答えさせます。

この財産開示手続は、債務者が裁判所に出頭しないことがほとんどでした。
また、虚偽の報告がなされた場合に打つ手がありませんでした。
このように、出頭しない・虚偽の報告をするといった場合でも、30万円以下の過料というペナルティが課されのみでした。しかもこの過料も、裁判官や警察の判断で、実際に課せられることはほとんどありませんでした。
言ってみれば財産開示手続はほとんど実効性のない制度だったわけなのです。

社会的地位のある者でなければ、もっというとただ債務まみれな者にとっては、このような軽微なペナルティは全くおそるるに足りないということです。

しかし、今回の改正により、財産開示における不出頭や虚偽陳述は、6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金の制裁が課されることになりました(民事執行法213条5号、6号)。
これにより、債務者が前科者になることを恐れ、きちんと財産を開示する可能性が高くなったと言えます。

 

2 弁護士への強制執行 弁護士法人

ここまで述べたように、以前の法律では財産開示はなかなかうまくいかないのが普通でした。

しかし、私が手掛けた事件で、弁護士個人が数百万円の不動産関係の支払いにつき不払いに陥っていたときに、債権者の代理人としてこの弁護士に対して財産開示手続を行い、財産を開示させ、更にその他の強制執行もうまくいったケースを解説します。

その弁護士は、1回は財産開示手続の呼び出しを無視したのですが、私が裁判所を促し、裁判所からもう1回出頭命令が出たときに、その弁護士は来ました。
その弁護士は、弁護士会に懲戒処分(業務停止等になってしまう)の申立をされ、制裁を受けることを恐れたからです。つまり、弁護士のような資格がある者にとっては、財産開示は恐れるものとなるということです。

そして,財産開示手続の場で、実際に存在する預金口座の情報を開示してきたので、預金口座に対する差押もうまくいき、まずは100万円程度の回収ができました。預金口座のある銀行から直接こちらに支払われます。

なお、この預金口座は、その弁護士個人の口座でした。
その弁護士は法人の代表者でなく、個人事業主(自分の名前で法律事務所を運営するもの)だったからです。

その弁護士は、今後自分の預金口座に入る弁護士報酬を差押えられるのを恐れたのか、その後、すぐに「弁護士法人」(弁護士専用の会社)を設立しました。
確かに、弁護士法人は、債務者本人であるその弁護士そのものではないので、その弁護士法人の口座は弁護士個人の財産とは別であり、差押えることはできません。[speech_balloon_right2 user_image_url="https://as-birds.com/media/wp-content/uploads/2020/09/CW_6152793-01.jpg" user_name=""]ただ、私はこの弁護士法人設立を”チャンス”と思いました。
他に差押えられるものが現れたからです。

それはその弁護士からその弁護士法人への与(厳密には「報酬」)支払債権です。
その弁護士は、弁護士法人から報酬を受け取る権利があります。
その権利も、4分の1までなら差押えられるのです(民事執行法152条)。

実際、その弁護士の報酬は40万円ぐらいと設定されていたので、月に10万円ずつ差押えることができました。

強制執行が功を奏した事例として紹介しました。

3 裁判所の情報取得手続

前述の財産開示手続をしても何らの財産が見つからなかった場合、裁判所に対する申し立てを行うことにより、裁判所が差押えできる債務者の財産についての情報を調査・取得をしてくれます。

まず、預金口座に関しては、裁判所から各銀行に問い合わせて、預金口座の支店・口座番号等の情報を取得することができます(民事執行法207条)。

また、その債務者が所有する不動産に関しても、裁判所から法務局に問い合わせることによって、その債務者が権利を有する不動産の情報が得られます。

更に、市町村や年金機構から、債務者が給与をもらっている勤務先の情報も調査してもらえます。

4 最後に

これらの改正によって、例えば養育費を離婚した夫が支払わないような場合に、格段に回収できる可能性が増えました。

約束をしたお金を支払うのは当然のことです。
ですが、その当然のことをせずのらりくらりと逃げ回っている人を本当に数多く見てきました。
前述のように弁護士でさえそんなものです。

この民事執行法の改正によって、約束を守らない人が減っていくことを切に願います。

(2022.6.10更新)

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