中央大学の法務全般を担当している法実務カウンセル(インハウスロイヤー)の弁護士櫻井俊宏です。論文の著作権等、著作権問題にもよく関わっています。
今年も高校野球は熱い戦いが続いております。
この野球の応援で使われる応援歌は、高校野球の「狙い撃ち」等に代表されるように、有名な曲のアレンジ曲がほとんどです。このようなアレンジ曲を使うことは著作権を侵害しないのでしょうか?
①応援歌を演奏する場合にJASLACに料金を支払わなくて良いのか、②有名な音楽を応援歌のために編曲することは問題ないのか、が問題となると思います。
この記事では以下の3点について解説したいと思います。
・JASRACについて
・野球等のために応援歌を演奏することは問題ないのか?
・有名な音楽を応援歌のために編曲することは問題ないのか?
中央大学の法務全般を担当している中央大学「法実務カウンセル」(インハウスロイヤー)であり、
千代田区・青梅市の「弁護士法人アズバーズ」代表、
弁護士の櫻井俊宏が執筆しております。
1 音楽の著作権を取り仕切る団体 JASRACとは?
音楽の著作権は、ご存じのようにJASRAC(一般社団法人日本著作権協会)という団体が一括して管理しています。
管理している作品は、JASRACのページで検索できます。
これを検索すれば、使おうとしている曲についてお金を支払ったりする必要があるかどうかがわかります。
音楽の著作権にも、文章や絵等の「引用」(著作権法26条)と同じように、「著作権制限」と呼ばれる、著作権を有する者から著作権侵害と言われることを防ぐことができる場合があります。
例えば、対価をもらわず上演する「営利を目的としない上演」(著作権法38条)等があります。
このような場合は、音楽の著作物を使って上演することは違法ではありません。
しかし、例えば漫画内で歌の歌詞を載せるときは、お金を支払って、JASRACに許諾を得ていることを記載して載せるのです。漫画のコマ外に「JASRAC」の記載を見かけますよね。
あれがそうです。
支払う際は、1曲につき、せいぜい数千円ぐらいのようです。JASRAC 料金規程
このJASRACは、カラオケスナックのカラオケの歌唱においても、料金を取ることができるという判例(最高裁昭和63年3月15日第三小法廷判決。クラブキャッツアイ事件)も得ており、これは敗訴しましたが、音楽教室での演奏でも料金をとろうと裁判を続けた最高裁判決(最高裁令和4年10月24日判例)があるぐらい、強行的に料金を徴収しようとする団体です。
JASLACを甘く見て、音楽を安易に公開する形で利用するのは気をつけた方が良いということです。
2 野球等において球場で応援歌を演奏することに問題はないのか?
野球等において、球場で応援歌を演奏することに問題はないのでしょうか?
上で述べた著作権法38条の「営利を目的とする上演」といえるかどうかが問題となるでしょう。
著作権法38条1項を見てみたいと思います。
【参照】
第三十八条 公表された著作物は、営利を目的とせず、かつ、聴衆又は観衆から料金を受けない場合には、公に上演し、演奏し、上映し、又は口述することができる。ただし、当該上演、演奏、上映又は口述について実演家又は口述を行う者に対し報酬が支払われる場合には、この限りではない。
この条文で、「ただし」以降に実演する者の報酬について書いているので、「聴衆又は観衆から料金を受けない場合」の対象者が、主催者であるかのように見えます。このように解釈すると、野球場の場合は、主催者は、料金を受け取っているので、応援団の演奏も著作権法38条の場合に当たらず、著作権を侵害するので、違法ということになってしまいます。
しかし、それでは、特に利益を受けていない上演者が違法となってしまうということは不合理であるので、その上演に関連して主催者が料金を受け取っていない場合には、著作権法38条の場合に当たると考えるべきでしょう。
すなわち、野球場では、主催者は、応援団の演奏によって入場料を受け取っているわけではないので、応援団も特に対価を受け取っているわけではないことから、著作権法38条の著作権制限が適用され、違法とならない場合になるというわけです。
3 有名な音楽を応援歌のために編曲することは問題ないのか? 同一性保持権
そうだとしても、有名な音楽を応援歌のために編曲することはそもそも問題ではないのでしょうか?
この点、著作権そのものではない権利で、「同一性保持権」(著作権法20条1項)という権利があります。
「自分のせっかく作った著作物を自分が好まないようにアレンジして世に出してほしくない」という製作者の気持ちを保護する権利です。
この同一性保持権は、そのような気持ちを保護する存在理由から、その人独自のものであり「著作者人格権」といって、著作者自身だけが持つ権利です。
著作権そのものと違い、「人格権」という名前通りその人独自の権利なので、基本的に誰か他の第三者に譲渡することはできません。また、上記で述べた「営利を目的としない上演」(著作権法38条)のような著作権制限にあたる場合でも、著作者人格権違反は違法となるのです。
そうだとすると、アレンジ曲や歌詞が替え歌の場合はもちろん、編曲の仕方が、元の曲の改変といえるような場合は、著作者人格権に反し、違法ということになるわけです。
すなわち、応援歌の場合は、アレンジが加わることが多いので、その曲の内容自体が違法となるということになります。
このことから、応援歌は、応援団自身が編曲をするのではなく、しっかりとした業者に有料で編曲を委託した方が良いでしょう。
なお、著作権も著作者が亡くなって70年経つと消滅します。
*弁護士法人アズバーズ代表弁護士櫻井俊宏がYouTube幻冬舎ゴールドオンラインチャンネルにおいて著作権等について解説しております。
4 まとめ
以上のように、球場で応援歌を演奏すること自体は通常違法ではないと思いますが、曲をアレンジ・編曲するときには、気をつける必要があります。
とは言え、元の曲がよっぽど有名であったり、アレンジの内容がひどくて原曲の持ち主の気持ちをよっぽど傷つけるようなものでない限り、その被害者がすぐに訴訟等の法的手続をとったりすることは多くはないと思います。
もし、著作権等の知的財産に関するクレームがあった場合は、誠意を持って迅速に対応することが大事です。
【2024.8.10記事内容更新】