大学等の学校入試の問題を、後でホームページ等に掲載する場合には、その問題に含まれる写真や小説等の著作権について、どのように準備する必要があるでしょうか?
試験問題に関して著作権による請求を受けない場合について規定する著作権法36条や、写真の肖像権等が問題となってきます。
本記事では、
・入学試験における著作物の利用(著作権法36条の改正)
・入学試験と肖像権 著作権法36条が適用されるか?
・入学試験の試験問題を後にホームページにアップする場合には?
等について詳しくお話します。
中央大学内の法務全般を担当するインハウスロイヤー「法実務カウンセル」も兼務しております、千代田区・青梅市の弁護士法人アズバーズ代表弁護士の櫻井俊宏が解説します。
1 入学試験問題における著作物の利用(著作権法36条の改正)
入学試験において、改正著作権法36条によって著作権の行使が制限されます。
試験というものの性質上、試験が行われるまでの間どのような問題が出るか完全に秘密にしておかなくてはならないことにより、事前に、出題者が、著作権者に対して、著作権の利用についての許諾を得ることが困難であるからです。
この著作権法36条により、試験問題にそのまま他の著作物を使うことができる(そのまま使うことを「複製」といいます。)他、遠隔で試験問題として「公衆送信」することもできます。
なお、試験問題と言っても、著作権という重要な権利が制限されるのであるから、その「試験問題」の定義は厳格にとらえられます。
少なくとも小学校の定期テストはこれに含まれないという判断がされています(東京高裁平成12年9月11日決定。教科書準拠国語テスト事件)。
そして、この36条においても、「営利を目的としている」試験については補償金を支払わなくてはなりません。
学校法人等が行う入学試験については、「教育」という公益目的なので、営利を目的としているものとは捉えれず、補償金を支払う必要がないようです。
予備校や塾の試験は、純粋に営利を目的としているものとして、著作権者に補償金を支払わなくてはなりません。
なお、コロナ禍を経た今後は、公衆送信でも試験を行いたいところですが、公衆送信によって試験を行う場合は受験者の周りの状況がつかめず、受験者の周りの空間になる物を利用したカンニング防止が難しいので、行われるとしても面接試験が中心となるでしょう。
【参照】
第三十六条 公表された著作物については、入学試験その他人の学識技能に関する試験又は検定の目的上必要と認められる限度において、当該試験又は検定の問題として複製し、又は公衆送信(放送又は有線放送を除き、自動公衆送信の場合にあつては送信可能化を含む。次項において同じ。)を行うことができる。ただし、当該著作物の種類及び用途並びに当該公衆送信の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。2 営利を目的として前項の複製又は公衆送信を行う者は、通常の使用料の額に相当する額の補償金を著作権者に支払わなければならない。
2 肖像権とは?著作権法36条との関係
「肖像権」とは、人の姿を無断で撮影されたり、公表されたりしない権利です。
憲法13条の「幸福追求権」の一環であるとされている(京都府学連事件。最高裁昭和44年12月24日)他、民事上保護される権利でもあります。
肖像権には、容貌をみだりに公表されると精神的に傷つくので、それを守るというプライバシー的・人格権的な側面と、特に有名な人の場合、その人の要望の公表が商売上の売上に結びつくことがあるので、その容貌を利用されることによって、商売に使われることを防ぐ経済的側面があります(この経済的側面の権利のことを「パブリシティ権」と呼んだりします。容貌をみだりに公表されると精神的に傷つくので、それを守るというプライバシー的・人格権的な側面と、特に有名な人の場合、その人の要望が商売上の売上に結びつくことがあるので、その容貌を利用されることによって、商売に使われることを防ぐ経済的側面があります。
では、試験問題に有名人の写真が使われた場合、肖像権が侵害されると言えるのでしょうか?
この点、著作権法36条が適用されるので、写真を撮った著作者に対する著作権の侵害とはなりません。
しかし、著作権法36条は、もちろん著作権のみに適用されるのであって、肖像権には適用されません。
このことから、試験問題であっても容貌がわかる写真を使われると、肖像権侵害となる可能性があるというわけです。
では、どのような場合に侵害となるのでしょうか?
この点、有名人の場合は、自分についてのことが世間に公開されることを包括的に承諾しているとみなし、特に人格的利益については大きく制限されうると考えられています。
このことから、撮影の目的・場所・態様・必要性等を総合的に見て、評価等を著しく低下させるような場合のみ肖像権を侵害すると解されています。
下記の数藤雅彦弁護士が作成した資料等は大いに参考となるので、読んでみると良いでしょう。
肖像権ガイドラインの解説
このことから、例えば日本の首相やアメリカの大統領が、単純に背景が白い証明写真のような形で写っているような写真を公表されても、肖像権を侵害されたとはいえないことになります。
逆に、プライベートで行った場所を背景としている写真等は肖像権侵害の可能性はあるということです。
3 入学試験問題を後にホームページにアップする場合は?
入学試験に①小説の文章を載せて、これに基づいて国語の問題を作成している場合、②アメリカ大統領の写真と日本の首相の写真、ドイツの首相の写真を並列に並べて、「どれがアメリカの大統領か?」という問題がある場合、それをその学校のホームページにアーカイブとして載せることは著作権法や肖像権の侵害となるでしょうか?
①小説の文章を載せて、これに基づいて国語の問題を作成している場合ですが、著作権法36条の著作権侵害とならない場合は、実際の試験のときにしか適用されないので、小説を載せることはもちろん著作権の侵害となります。
実務上も、大学入試の赤本等は、著作者の同意がとれない場合、小説の本文の部分に、文章名のみを記載して対応しているようです。
もっとも、問題のほんの一部にのみ文章を使っていて、出典等も明示する等、「引用」(著作権法32条)の要件を満たしていれば、著作権侵害とはなりません。
【参考記事】YouTubeと著作権 漫画等の引用の書き方
また、著作者が亡くなって70年経った場合も、著作権が消滅しているので、利用はOKです。
次に②アメリカ大統領の写真と日本の首相の写真、ドイツの首相の写真を並列に並べて、「どれがアメリカの大統領か?」という問題の場合はどうでしょうか?
前述のように、肖像権としては、著名人なので、普通の証明写真のような写真であれば、肖像権侵害とはなりません。
しかし、①と同様に著作権法36条が適用されないので、著作権侵害の可能性はあります。
写真を撮影した者の著作権を侵害しないように、①と同様、引用の要件を満たす必要があると思います。
写真を囲って、撮影者の出典を明示する必要がありそうです。
4 まとめ
著作権や肖像権は、比較的新しい権利です。
まだ実務上の扱い方が定まっていない場合もあります。
ここまで話したような問題が生じたときは、これらの問題に詳しい弁護士に相談してみると良いでしょう。