連日報道を賑わすビッグモーター社。
預かった車を自ら壊し、保険金を詐取しているという疑惑、
自社の展示場の前の公道にある街路樹に対して除草剤を散布していたという疑惑、
これらの違法な指示をしていた可能性がある業務用LINEの削除を指示している、
等、疑惑のオンパレードです!
特に、個人的には、LINE削除の指示は証拠隠滅として問題ではないかと思っていましたが、その指示直後に、遂に公共団体が動き出しました。国土交通省が、保険金詐欺疑惑や器物損壊疑惑について、立ち入り調査を行うとのことです。
また、2023年9月15日には、遂に六本木ヒルズ本社に、まずは街路樹の器物損壊について家宅捜索が入りました。
2023年11月には、金融庁から保険代理店の資格を取り消されました。
また、11月17日現在、伊藤忠商事による買収の話が出てきております。
そして、遂に、2023年12月半ばには、元副社長の兼重宏一氏の自宅に、街路樹を枯れさせた器物損壊疑惑について、警察の家宅捜索が入ったようです。六本木ヒルズ本社に続いて、ということは、まずはこの問題から捜査が及んでいるような気がします。元副社長ピンチ、なのか!?
ビッグモーター前副社長自宅に警視庁等が家宅捜索 街路樹問題等で器物損壊の疑い
これらの行為につき、犯罪は成立しないのか、上層部は責任に問われないか等について、この問題の背景も含め、弁護士が法的観点の全てを解説します。
本記事では、
・ビッグモーターが行った保険金詐取は詐欺罪とならないのか?車の器物損壊罪は?
・街路樹に除草剤を散布していた場合は犯罪とならないのか?
・LINEの削除の指示は証拠隠滅罪とはならないのか?
・元副社長のパワハラLINEは脅迫罪?賠償請求はできる?
・社長が社員の責任であると会見したことは問題ないのか?
について、解説していきます。
学校法人中央大学の法務全般を担当している中央大学「法実務カウンセル」(インハウスロイヤー)であり、千代田区・青梅市の「弁護士法人アズバーズ」代表、弁護士の櫻井俊宏が執筆しております。
ビッグモーターが行った保険金詐取は詐欺罪とはならないのか?
ビッグモーターの保険金水増し請求の仕組みは以下の通りです。
まず、ビッグモーターは事故等で修理するため預かった車に意図的に更に損傷を加えます。
そのやり方は、これまでメディアで報道されたとおり、
ゴルフボールを靴下に入れて、ぶつけて損傷させる、
ドライバーでタイヤに穴をあける(現場にいた社員のタレコミ動画があります)、
といった手段で、会社ぐるみで行われていたと言われています。
そして、損傷した車を保険会社に示し、本来の事故の損傷よりも過剰な保険金が車の持ち主に支払われます。
ビッグモーターとしては、持ち主から修理代金をより多く受け取れるメリットがあったというわけです。
このようなことが行われていたのは、ビッグモーター社の方で、「1台あたり14万円」の修理費用というノルマが課されていたからという噂もあります。
修理費というのは、事故の被害状態で客観的に定まるのですから、1台あたりの修理費用額の「ノルマ」というのは、なんともおかしな話ですね!
いずれにしろ、このようなことがあれば、実行した各社員に対し、保険会社を被害者とした詐欺罪(刑法246条。10年以下の懲役)が成立すると思われます。
社長・副社長ら幹部も同じ犯罪が成立するのでしょうか。これについては、指示をしていたことが立証されれば、共謀共同正犯(刑法60条)として成立することになります。
しかし、この点に関してはご存じのとおり、社長は、社員が勝手に行ったこと、として、会見において関与を否定しています。
今後、幹部からの指示・奨励のLINE等が出てくれば、もちろん刑事責任を問われることになるでしょう。
更に、各車の持ち主を被害者とした器物損壊罪(刑法261条。3年以下の懲役または30万円以下の罰金もしくは科料)も成立すると考えられます。
保険会社に対する詐欺行為疑惑に関しては、大手である東京海上日動火災株式会社、三井住友海上火災株式会社、損害保険ジャパン株式会社が、ビッグモーター社に対し、調査を要請しました。
2023年の1月から既に調査委員会が調査をはじめていたようです。
しかし、噂では、損保ジャパンは、ビッグモーター社とは特別な関係にあるらしく(少なくとも、以前、損保ジャパンはビッグモーターの大株主であった他、ビッグモーターに損保ジャパンから37人の出向がされていたそうです。)損保ジャパンはあまり厳しい追及にはまわっていないという話があります。
損保ジャパンが、当局に虚偽の説明をしていたという報道もされています。
更に、保険金の水増し請求は損保ジャパンとしては損になるのですが、バーターとして、損保ジャパンも自動車保険を契約したい人を紹介されていたから、容認していたという噂もあります。
ただ、いずれにしろ、損保ジャパンとしてはこれ以上巻き込まれたくないのか、ビッグモーターとの提携関係は打ち切ったとのことです。
これらの故意の器物損壊をもし各損害保険会社が容認していたとしても、修理金額が大きければそのユーザーの損害保険の等級が下がることによって保険料が上がるので、損害保険会社としては痛くもかゆくもありません。だからビッグモーターに利益を供与するために容認していたのではないかと、官庁は疑っているようです。
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なお、これらの行為については、民事責任ももちろん生じ得ます。 このあたりは、事案と担当者の方針にもよるので、とりあえず、保険の担当者に連絡して、聞いてみるのが良いでしょう。
各自動車を損傷させられた人達は、車の過剰な損傷について賠償請求できる可能性があります。ただ、この点については、実際は保険が支給されて修繕されているので、実質的な損害がなく、損害賠償請求は困難な面があります。
また、車が比較的新しかった場合で、もし大きく損傷させられた場合には、評価損(格落ち。損傷させられたことによって、修理されても車の価値自体が下がった場合に、その価値減損分の賠償請求が認められること。)についても賠償請求できる可能性があります。
このような賠償請求は、比較的に低額の請求でおさまってしまうものの、車について損害保険の弁護士費用特約に加入している場合は、このような故意の損壊についても、弁護士費用を出してくれる可能性があるかもしれません。弁護士費用特約がある場合には、トライしてみる価値はあるように思います。
すなわち、弁護士費用特約の内容が、「交通事故」に限るのあれば難しいのでしょうが、「その車」に関する事故ということであれば、弁護士費用が出る可能性があるわけです。
現に、弁護士法人アズバーズでこれまで受けてきた件では、遊園地の花火が大きく飛び散り車が焦げた件につき、損害保険の弁護士費用特約を利用できましたし、マンションの上から洗剤が誤って散布され、車にかかって色が落ちた件で賠償請求する際でも、弁護士費用特約を利用して賠償請求することができました。
特に、今回の件は、保険会社も腹に据えかねている可能性もあるので、対応してくれるかもしれません。 損保ジャパンも、自分達が潔白であることを示すために、かえってある程度毅然とした対応に出ざるを得ない面もありそうなので、聞いてみる価値はありそうですね。
街路樹に除草剤を散布した場合は器物損壊罪ではないのか?
ビッグモーターの社員が街路樹に除草剤を散布していたという疑惑がありました。
下の記事のように、道路向いの街路樹と比べてみると、、一目瞭然ですね。
ビッグモーターの街路樹への「除草剤散布」疑惑…会見で見せた「激ヤバ回答」
少なくとも、ビッグモーター側は、街路樹や草を刈り取っていたということを、2023年7月25日の会見で既に認めています。
おそらく、自社の「BIG」という看板や、展示車を見えやすくするためだと言われています。
斬新な発想ですね!
除草剤をまいたことについては犯罪は成立しないのでしょうか?
これについては、街路樹ということで、ビッグモーターの敷地内の物に対する行為ではないので、もちろん犯罪が成立する可能性があります。
公共の物に対する器物損壊罪(刑法261条。3年以下の懲役又は30万円以下の罰金)または道路法上の道路付属物損壊(道路法101条。3年以下の懲役又は100万円以下の罰金)が考えられるでしょう。
なお、木も伐っていたようです。
ビッグモーター本部が来るので、本部を満足させるために、従業員達が大慌てで木を伐っていたのを、近隣の人達が見ていたというツイートもありました。
ツイッターより引用
ただ、ビッグモーター社は、これらを「環境整備」と称しており、あくまで環境を改善するためにやったという態のようです。
真正面から犯罪行為を行うのでなく、逃げ道をしっかり作っていますね。
まずは、この街路樹の器物損壊罪について、ビッグモーター本社に捜索が入ったそうです。
そして、ビッグモーター元副社長宅にも警視庁の捜索が入ったようです。
社員が逮捕されるのでしょうか?それとも元副社長ら役員にまでも手が及ぶのでしょうか?
LINEの削除の指示は証拠隠滅罪とはならないのか?元副社長のパワハラLINEは脅迫罪にならないのか?
元専務である新社長が、ビッグモーター社の全社員達に、これまで業務用に使っていたSNS「LINE」の削除を指示したそうです。
「さっそく証拠隠滅?」ビッグモーター新社長、全社員に「LINE削除」指示報道
この証拠隠滅としかとれないような内容をぬけぬけと「改革第一弾」と銘打っているところにも驚きを隠し得ません。
LINEと言えば、副社長から社員に対する「死刑」の文字がたくさん入った「死刑LINE」等も発覚しており、他にも、いろいろ問題あるLINEがありそうです。
MBS毎日放送より引用
実は、元副社長が一番逮捕される可能性があるのは、ばっちり証拠が残ってしまっている、このLINEによる脅迫罪(刑法222条)かもしれません。
これらのことからすると、社員に対するLINE削除の指令は、刑法上の犯罪証拠の隠滅である可能性があり、刑法の証拠隠滅罪(刑法104条。2年以下の懲役又は20万円以下の罰金)にあたるのではないでしょうか。
刑法上の証拠隠滅罪は、自分の刑事事件に関する証拠隠滅は無理もないものとして、他人の刑事事件の証拠隠滅罪を処罰しています。
しかし、これまで述べてきたような保険金不正請求の詐欺罪、器物損壊罪等は、組織ぐるみであった場合は、現場の行った者のみならず、上司や役員等にも共犯として成立する場合が考えられます。
このように、自己だけでなく他人の刑事事件でもある共犯事件の際は、個々の事案の具体的状況に応じて、専ら他人の刑事事件といえるような場合は、証拠隠滅罪が成立しうるとされています(広島高判昭和30年6月4日裁判例)。
このことから、従業員は、いかに業務命令とはいえ、LINEの削除により証拠隠滅罪が成立する可能性があるので、早々に削除するのは止めておいた方が良いように思えます。
それにしても、このLINE削除命令は、警察組織に対して挑戦行為のようにも思えるので、このまま捜査側が黙認するのか、注目です。国土交通省の調査に続いて、警察も捜索差押を次々と断行するかもしれません。
社長が社員の責任であると会見したことは問題ないか?
ビッグモーター社の元社長は、車を壊したこと等に関し、社員が勝手にやったことで、許せない、刑事告訴等も検討すると言っていました。
「社員のせい」というワードがヤフーのトレンドにあがるほど反発の声が上がり、同席者に促され、社長はあわてて「刑事告訴」については発言を撤回しています。
このような一連の所作が、千場吉兆の謝罪関係を彷彿とさせるというSNSの反応もありました。
本件では、ビッグモーター社の中では、かなり広い範囲で車を壊す等の行為が行われていたようであり、組織的な行為であったことを否定するのは難しく、会見内容として、問題があるのは当然でしょう。
既に、社内のビッグモーター離れは進んでおり、社員は7000人ぐらいのうち1000人以上が辞めたようです。
この状況で、いやいや違法行為をやっていたと思われる社員達が全部自分達のせいとされては、ますます社員の辞職は進んでいくことになり、自社の首を絞める行為になりうるのではないでしょうか。
もちろん、この状況で、ビッグモーターと取引をしようという一般顧客は、どんどん減っていくでしょう。
また、いくら社員のせいにしても、通常、社員が業務上やったことは民事上、使用者責任(民法715条)として会社も民事責任を負うことになります。 どちらにしろそのような結果となるのであれば、今回の責任転嫁の会見は悪手のように思えます。
まとめ
この問題は、ビッグモーター社の一族経営ゆえのパワハラ体質に端を発している側面が大きいでしょう。
もし、車破壊や除草剤散布の指令が直接出ていなかったとしても、パワハラを交えて「14万円以上の修理費」等の無茶なノルマを課し、暗にそのような行動を促していたという構図があるからです。
また、社内のパワハラに関しては、元副社長によるパワハラLINE以外にも、ビッグモーター社の店長を務めていた男性が、他の店長らが参加するLINE上で、上司から「会話すら成立しないなら店長下りろタコ」等と暴言を浴びせられ、2021年6月に解雇されたことにつき、2022年8月にパワハラの慰謝料請求や残業代請求として、約2000万円の支払いを求める裁判を提起しているそうです。
この後、この男性は交通事故死しており、裁判は親族が引き継いでいます。
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これ以上に具体的なことはわかりませんが、なんだか闇が多そうですね・・・。
闇と言えば、ビッグモーター社をコンサルして例の「生殺与奪は上司にある」という趣旨の経営計画書を作成したのは、知床遊覧船事件の会社をコンサルしていた株式会社武蔵野の小山昇氏であり、その経営計画書は撤回されたそうです。
社長が変わったからといって、一族経営であることから、元社長は大株主なのであり、元社長や元副社長の意向がこれからも色濃く経営に反映するでしょう。
金融庁から保険代理店の資格の取消しが出てすぐに、遂に伊藤忠商事からの買収の話を出てきました。
ビッグモーター社は、事業としては大きな下地があるのですから、伊藤忠のような大会社の一部門となることによってブラックイメージを払拭できれば、十分な価値を生み出すことができるのでしょうから、この企業価値が毀損したところでの買収は、メリットありかもしれませんね!
それにしても、この問題、元副社長らが今後逮捕されるか、伊藤忠が本当に買収を進めるか、損害保険会社にどのような処分が下るか等、いろいろ法的な見所があり、今後の動きには要注目です!
【2024.1.13記事内容更新】