俳優やアイドル、企業経営者らの裏の顔を明かし、インターネット上に激震を走らせている暴露系YouTuberで元政治家のガーシーこと東谷義和氏。
「もう失うものがないから、すべてさらけ出したろと思って」と捨て身の様相ですが、ドバイで悠々と過ごしていました。
そのような状況で、参議院選挙に、かなりの得票をもって当選しました。
しかし、その後、ガーシー氏は、参議院の呼び出しに応じないということを繰り返したので、議員を除名されました。
その後は、警察の呼び出しに応じないということを繰り返していましたが、遂には常習的脅迫罪、名誉毀損罪の疑いで、逮捕されてしまいました。
常習的脅迫罪等で起訴されたガーシー氏は、第1回公判において「常習性」を否認しております。
その後、3000万円の保釈金を納入することで保釈が認められました。
今後、ガーシー氏はどうなるのでしょうか?
本記事ではインターネット上で芸能人らの私生活を暴露する行為に関して、弁護士の視点で、
犯罪の成否とその量刑、
国会議員としての不逮捕特権、
さらには民事責任についても言及します。
1 ガーシー氏のような暴露系YouTuberにはどんな罪や犯罪が成立するの?
今回のガーシー氏は、常習的脅迫罪、名誉毀損罪等の疑いで逮捕されました。これらも含め、このような暴露系YouTuberにどのような犯罪が成立するかをまず確認します。
ガーシー氏はインターネット上で芸能人らの異性関係や金銭トラブルなどを赤裸々に語っています。
⑴ 考えられる犯罪
犯罪として、名誉棄損罪、脅迫罪、侮辱罪、業務妨害罪等の成立が考えられます。
① 名誉棄損罪(刑法230条)
【原則】
この罪の特徴は、人の社会的評価を下げるような事項を、不特定多数の人が知りうるような状況に置けば、それだけで名誉毀損罪が成立するという点です。その事項が真実であっても、です。いわゆる「虚名を剥ぐ」行為も名誉棄損罪にあたるわけです。
東谷氏の暴露行為はその内容の真偽はともかく、標的にされた人物がこれまで積み上げてきたイメージ、つまり社会的評価を低下させるものです。
なお、ここでの社会的評価の低下は、その「おそれ」で足り、実際に低下させる必要はありません。
このような内容の事項をインターネット上に流した時点で名誉棄損罪が成立することになります。
※特例※
一方で、民主主義の下では正当な批評や批判は言論の自由として保護されなければなりません。そこで刑法には「公共の利害に関する場合の特例」(刑法230条の2)が定められています。公共の利害に関する事実を、専ら公益を図る目的で発信した場合、その内容が真実である場合には罰しないとしています。
しかし、芸能人のスキャンダルが公共の利害に関する事実とは言い難いでしょう。政治家等の公人はその一挙手一投足が有権者にとって判断材料となりますが、芸能人はそのような立場にはないのです。
また、得た収益で過去の詐欺被害者への返金に充てるといった内容の発言もしており、専ら公益を図る目的でもないようです。
したがって本特例が適用される可能性は極めて低いと考えられます。
名誉毀損罪は3年以下の懲役または50万円以下の罰金です。
② 脅迫罪(刑法222条)常習的脅迫罪(暴力行為等処罰法)
そもそも、「秘密を暴露するぞ。」という発言が脅迫罪にあたるといえるでしょう。
脅迫罪は他人に対する現実的な害悪の告知が犯罪行為ですが、You Tubeのガーシーチャンネルというガーシー氏がコントロールできるもので「暴露する」という害悪の告知も、脅迫罪の可能性がありそうです。
そして、今回の警察による逮捕は、刑法でなく「暴力行為等を処罰する法律」という、典型的には反社会的勢力等を取り締まる法律の常習的脅迫罪(暴力行為等処罰法第1条の3)の疑いによるものであるとのことです。
脅迫罪は、2年以下の懲役又は30万円以下の罰金ですが、常習的脅迫罪は、3月以上5年以下の懲役と比較的重いです。警察の本気がうかがえますね。
政治家が、典型的に反社会的勢力等を取り締まる法律違反の罪の疑いがあるとは、世も末な感がありますね。
今回、ガーシーはこの常習性を否認したので、常習的脅迫罪と脅迫罪では、2年以下の懲役になるか、3カ月以上の懲役になるか、だいぶ量刑が変わってきます。
否認について、そのような主張がされるのか、どちらが成立するのか注目です。
③ 侮辱罪(刑法刑法231条)
ガーシー氏による「性格が悪い」「吹けば飛ぶようなじいちゃん」等のコメントについては、犯罪として、侮辱罪の成立が考えられます。
侮辱罪も他人の社会的評価を下げるような行為を処罰の対象としますが、名誉棄損罪と異なり具体的な事実の適示は必要ありません。
「バカ」「ブス」といった抽象的な侮蔑表現を不特定多数人が知り得る状態で行えば、侮辱罪が成立します。
上記のようなコメントをガーシーチャンネルのYouTubeで発信する行為は侮辱罪にあたるでしょう。
なお、この侮辱罪は、刑法で最も軽い量刑の罪であり、懲役刑も罰金刑も科せられるものではありませんでした。
30日未満身柄を拘束される「拘留」、または1万円未満のペナルティを課される「科料」しかなかったのです。
しかし、侮辱により女子プロレスラーが自殺された件があったことなどもあり、2022年5月に侮辱罪の厳罰化について衆議院で可決されました。
今のところ、懲役刑も罰金刑も導入される予定であるようです。
④ 業務妨害罪(刑法233条、234条)
ガーシー氏は、問題行動を行った経営者等に「代表を退任しろ。」などと迫っていることもあったようです。これは、犯罪としては、威力業務妨害罪(刑法234条)にあたりえます。
また、ガーシー氏による暴露話配信の後、一部の芸能人のCMが放送中止となるなどの影響が出ているようです。
東谷氏は「つぶす」「作品公開のタイミングを見はからってさらす」とも発言しており、人の勘違いや知らないことを利用して業務を妨害したことになります。これは偽計業務妨害罪(刑法233条)の可能性があります。
そして被害者には当の芸能人のみならず、放送中止に追い込まれた企業も含まれます。
業務妨害罪も3年以下の懲役または50万円以下の罰金です。
⑵ ガーシー氏はなぜ逮捕・起訴されたのか
今回、ガーシー氏は、上記のうち、名誉毀損罪、常習的脅迫罪、業務妨害罪、そして他にも強要罪を理由に逮捕・起訴されました。
親告罪
名誉棄損罪と侮辱罪は親告罪です。
親告罪とは検察官が起訴する要件として被害者からの告訴を必要とする犯罪です。
刑事裁判では被害者のプライバシーも明らかにされることが少なくなく、その辺りを含めて被害者の意思を確認するためのものです。
なお、告訴は起訴の要件ですが、逮捕の要件ではありません。しかし逮捕・捜査の目的は裁判に向けた証拠集めにあります。
つまり告訴がなければ裁判は行われず、したがって逮捕する必要もないというわけです。
そういえば、これまで、東谷氏に暴露された芸能人はおおむね静観の構えですよね。
やはり、芸能人なので、刑事裁判になった場合のさらなるプライバシーの露呈や今後の芸能活動への影響を考えると、告訴には慎重にならざるを得ないのでしょう。
しかし、最終的には、暴露された芸能人の1人とデザイナーが告訴をしたとのことです。そこで、名誉毀損罪の捜査が動き出した他、捜査側も本気の動きになってきたのでしょう。
そして、ガーシー氏は、この告訴を取り消させようとしたSNSで威迫した行為について、証人威迫罪(刑法105条の2。1年以下の懲役20万円以下の罰金)についても、2023年7月に追起訴されているようです。
国会議員の不逮捕特権(憲法第50条)
国会議員であったガーシー氏は、憲法上の不逮捕特権が適用されます。
この不逮捕特権は、議員の自由な活動を守るため設けられており、国会議員であったときには、国会の会期中であれば、東谷氏も逮捕されない可能性が強かったわけです。
もっとも、不逮捕特権の憲法50条は「その院の許諾がなければ」と例外を認めており、議院が認める場合は逮捕も許されるので、立法が司法に足並みを揃える可能性も十分あるでしょう。
最終的には、議員を除名になったので、不逮捕特権はなくなりました。
議員の「除名」については、下記の参考記事を読んでみてください。
【参考記事】木下富美子元都議を辞めさせることはできないの?ガーシー国会議員は?【リコール等】
今思えば、ガーシー氏は、逮捕されることもありえると思ったこそ、立花さんの呼びかけに応じて、不逮捕特権を得るために立候補したのかもしれませんね。
週刊誌とのバランス
かりに名誉棄損罪や侮辱罪の被害者が告訴に踏み切った場合はどうでしょうか?それに、業務妨害罪は親告罪じゃないですし、被害者の意向に関係なく警察は逮捕できるはずですよね?
ええ。しかし、スクープ系の週刊誌の記者や編集者が逮捕されないこととのバランスから、東谷氏はこれまで逮捕されなかったのでしょう。
「言論には言論で対抗する」(「対抗言論」といいます。)のが民主主義の建前であり、また一億総ネット民の現代においては、被害者にも反論の機会が十分あり、警察という国家権力が私人の言論活動に積極的に関与すべきではないとの考えも根底にあるようです。
ただし、取材・編集・販売と組織的に記事を発表する週刊誌とYouTubeで暴露話を配信する個人の東谷氏を全く同一に扱えるかは議論の余地があるでしょう。
実際にも2017年にSNS上で誹謗中傷された男子高校生が自殺した事件では、誹謗中傷の書き込みをした少年(19歳)が名誉毀損罪で逮捕されています。
SNS上等で誹謗中傷等によって亡くなる方も多くなっている現代においては、ガーシー氏のような暴露系も、人の死につながるような場合も考えられるのであり、警察が最もしっかり対策をしなくてはならないと考えている現代型の問題といえるでしょう。
今後、他の暴露系に対しても断固たる態度でのぞむことが考えられます。
(3) ガーシー氏には今後どのような犯罪の量刑が課されるのか?
前述のように、名誉毀損罪と常習脅迫罪等で立件され、起訴されたとすると、ガーシー氏にはどのような罪が成立するのでしょうか。
常習的脅迫罪は、3月以上5年以下と、下限は詐欺の1月より重いです。このことから、下限は、常習的脅迫罪の3月、上限は詐欺の上限の10年が併合罪で1.5倍となり(刑法47条)、15年になりそうです。
このことから、典型的な反社会的犯罪行為である詐欺を少し超えるような刑が考えられるでしょう。
反社会的態様による詐欺は、主犯の場合、示談がなければなかなか執行猶予とはなりません。
そうだとすると、本件においても、示談がなければ、ガーシー氏が実刑となることは十分考えられるでしょう。捜査側が5個もの犯罪を立件し、強い姿勢に出ていることから考えると、懲役3~5年ぐらいはありえるのではないでしょうか。
今のところ、ガーシー氏が示談に動いているという話はありません。芸能人側も、微々たる金額では示談しないでしょう。
このことから、本件はこのまま実刑という流れになるのでしょうか。
なお、ガーシー氏は3000万円の保釈金を支払うことで保釈が認められました。
身柄拘束から解放されたということです。
通常は、保釈金は150万円~300万円が多いところ、3000万円と高額なのは、ガーシー氏は逃亡等の恐れが大きいからでしょう。
しかし、これまで捕まらないようにドバイから出なかったガーシー氏が、3000万円を没収されるからといって海外逃亡する恐れはないのでしょうか。
カルロス・ゴーン氏の例もあり、注目です。
芸能界の最新問題に関する法的考察を多数執筆しています。
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2 ガーシーに対する民事上の損害賠償は?【対被害者】
次に問われる可能性のある民事責任について解説します。
⑴ 侵害される利益
他人の権利を侵害したとして不法行為による損害賠償支払義務を負う可能性があります。
①プライバシー権・肖像権侵害
芸能人は人から見られるのも仕事のうちといえ、一般人であればプライバシー侵害と判断されるような報道が広く許容されているのは事実です。しかし、本人にとっては見られたくない極めてプライベートな事項や姿態を暴露されるのも甘受しろと言うのは酷でしょう。
携わる芸能活動に全く関係のない私事性の強い事項や姿態については、一般人と同様、プライバシー権及び肖像権が認められるというのが判例の理解です。
その場合の慰謝料ですが、10万円から50万円が相場となっています。
※MEMO※
休業中の著名な歌手の自宅で過ごす姿を窓越しに撮影した写真を週刊誌に掲載した事件では、550万円の損害賠償が認められています(東京地判H27.7.27)。
②名誉棄損
他人の社会的評価を下げる言論は名誉棄損罪が成立するだけでなく、損害賠償請求の対象にもなります。
賠償金額については被害者が個人の場合はおおむね10万円から50万円、法人の場合は50万円から100万円と高額化します。
※MEMO※
近時判例では、有名タレントが裏口入学したとする記事を週刊誌に掲載した事件について、440万円の損害賠償が認められています(東京地判R2.12.21)。
③営業利益の損失
作品公開のタイミングを狙って暴露を繰り返し、結果、公開中止にまで至ったような場合については、経済的損失についても損害賠償支払義務を負わなくてはなりません。その場合は会社に対する不法行為となり、損害額は数千万円から数億円に上るおそれがあります。
⑵ 訴えられる可能性
民事訴訟も公開される以上、更なるプライバシーの露呈というリスクが伴います。おまけにプライバシー権侵害や名誉棄損では、海外の訴訟とは違い、日本の場合は、思うほど金額が伸びないのが現状です。そのため民事訴訟も見送るというのが大方の構えのようです。
判例のように500万円前後の損害賠償を勝ち取った例もありますし、経済的損失については黙っていない会社が出てくるかもしれませんね。
ええ。紹介した民事訴訟についても訴えられる可能性がないとは言い切れないでしょう。
実際、裁判で賠償請求が認められたとしても、強制執行をしなくてはなりません。
裁判所を通した強制執行の手続は、法律が改正され、少し強化されましたが、それでも、実際、かなり大変です。
【参考】財産開示手続の改正 無視して不出頭は逮捕される!?
そして、ガーシー氏の財産状態も不透明です。差押対象になる財産が残っているかどうか、わかりません。
このことから、民事訴訟に持ち込むのは躊躇を覚えるのは当然といえるでしょう。
3 訴訟以外の方法 動画の差し止め
では、法的な手続き以外でガーシー氏の暴走を止める方法はなかったのでしょうか?
YouTubeでは、差別的・中傷的な動画の投稿について不適切と判断した場合にはアカウント停止・削除処分することがコミュニティガイドラインに定められています(垢BAN)。
ガーシーチャンネルも、この作用により、現在は停止しているようです。
視聴者が画面上の『報告』をクリックして通報する仕組みになっています。削除するかどうかは運営側の判断に任されており、効果は限定的ではありますが、YouTube等でプライバシー等を害されたときは、まずはこの方法が良いでしょう。これは他のSNSでも同様で、運営によって削除してもらうのが、一番手間とお金がかかりません。
4 なぜガーシー氏の事件は起きたのか?最終的には視聴者のリテラシー
ガーシー氏においては、親が自殺されていること等、心の闇が背景にあるように思われます。
このあたりのことは、中田さんのYouTube大学で、「悪党 潜入300日 ドバイ・ガーシー一味」伊藤喜之(講談社)という本をわかりやすく解説していますので、読む、又は視聴していただくとわかりやすいです。
それ以上に、このような事件が起きてしまう背景には、ガーシー氏が多数の票を獲得していることからもわかるように、他人が秘密にしたいようなことほど人々が注目する上に、それを簡単に公にできるSNSが発達してしまっている、という現代の世情もあると思います。
簡単にいうと、暴露が興味をそそるので、金を産み、更に暴露系が増えてしまうということです。
インターネットの普及で多くの人が情報発信者となった現代、受け手側の冷静な判断がより一層重要になっています。一人一人が幅広い情報源から知見を深めつつ責任ある言論活動を行いたいものです。
【2023.10.30記事内容更新】
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