別居後の婚姻費用(生活費)分担請求で気になる4点【弁護士が解説】

櫻井 俊宏

櫻井 俊宏

「弁護士法人アズバーズ」千代田事務所・青梅事務所の代表弁護士。 中央大学の法務実務カウンセルに就任し11年目を迎える。


夫婦が別居状態になった場合の婚姻費用(生活費)の請求はどのようにすれば良いのでしょうか。
何に気をつければよいのでしょうか。


・婚姻費用分担請求の調停・審判について、
・婚姻費用がもらえるのはいつからか、
・住居に関する事情と婚姻費用、
・請求する者が不倫をして出ていったときの婚姻費用、


等について弁護士が解説します。

中央大学の法務全般を担当している中央大学「法実務カウンセル」(インハウスロイヤー)であり、
新宿・青梅・三郷の「弁護士法人アズバーズ」代表、
弁護士の櫻井俊宏が執筆しております。

 

1 婚姻費用分担請求の調停・審判について

婚姻費用を毎月支払ってもらうためには、まずは、裁判所に「婚姻費用分担請求の調停」という手続を申し立てます。

調停委員という一般の知識がある方から選任された2人に対して、30分交代ぐらいで、夫と妻が入れ替わりで話をし、両者の合意となるまで話し合って婚姻費用が決まります。決まった際には「調停調書」という裁判の判決と同様の効力がある書面が、裁判所により作成されます。
だいたい1回2時間ぐらい、1.5カ月に1回ぐらいが通常です。

ただ,裁判所においてはその相場感は下記のページのとおり決まっています。
両者の収入・養育している子供の人数・年齢等によって定まっています。
裁判所の婚姻費用算定表

調停委員もなるべくこの算定表に近づけるようにデータを示して両者を説得するので、調停で婚姻費用の合意が成立することは多いです。

この調停においても、裁判と同様、弁護士を代理人としてたてて、なるべく自分の希望の金額に近づけるためにお力になることも可能です。

なお、調停においても話がまとまらない場合は、「審判」という裁判類似の手続に自然と移行して、証拠を提出する等して調停よりもより細かく相当な婚姻費用の額が裁判官に認定されます。
通常は、上記の婚姻費用算定表に近い形で裁判官により結論が出ます。

 

2 婚姻費用がもらえるのはいつから?

婚姻費用は、いつの時点からの分がもらえるのでしょうか。
もらっていないときの分の全てを受け取ることができるわけではありません。調停・審判いずれの手続で婚姻費用が決まろうとも、原則として、婚姻費用分担請求の調停を裁判所に申し立てたときからの計算された金額を受け取ることができます。
そのときからの計算分を後で受け取ることになるわけです。

このことを知らないと、実際は、調停による和解時からの分で合意してしまうなど、明らかに損をしてしまうことになるので注意が必要です。

このことからすると、夫婦が別居になった場合で、収入が少ない側は、婚姻費用を1か月分でも多く受け取るために、少しでも早く婚姻費用分担請求の調停を行うべきであると言えます。

 

3 住居に関する事情は婚姻費用額にどのように影響を与えるか?

住居費を誰が支払っているか等は、婚姻費用額にどのように影響を与えるでしょうか。

夫が別居して、他の家に住み始めたにも関わらず、妻が住み続ける家のローンを支払い続けていたとします。このローンが例えば15万円ぐらいで,上の算定表に基づくと妻に支払うべき婚姻費用とほぼ同額だった場合,婚姻費用は支払わなくてよいのでしょうか。

答えはNOです。
住宅ローンを支払っていたとしても、一定程度(例えば上の15万円の場合は、その半額程度)住宅ローンの分が婚姻費用として考慮されるだけで、夫はそれ以外にも婚姻費用を支払う必要があります。

 

4 妻が不倫をして出ていった場合には?

不倫をした者が婚姻費用を請求する場合も婚姻費用は請求できるのでしょうか。
この場合でも、通常は婚姻費用を請求できると考えます。

ただ、不貞をして、それが別居したことの主な理由となったケースの、妻の婚姻費用の請求は権利の濫用であるとして、妻独自の婚姻費用の請求を認めず、子の実質的監護費用の請求しか認めなかった裁判例があります。
(平成20年7月31日東京家庭裁判所審判等)

また、札幌高裁昭和50年6月30日決定のように、不貞した方からの請求について「自己の最低限度の生活を維持できる程度の金額とするべきである」として、婚姻費用の減額を認めた事例もあります。

 

5 まとめ

離婚問題というと、離婚それ自体を進めていくことに当然目が行きがちです。
しかし、離婚問題がこじれ始めている場合は、かなりの時間がかかることがあるので、目先の生活費を維持する必要があります。生活費に困っている当事者は、まずはこの婚姻費用分担請求調停の申立を行うのが第一であると言えます。

婚姻費用分担請求をすることによって、相手方が、余分な生活費を支払いたくないから早く離婚しようと思うのであり、そもそもの離婚の問題を促進することにもなります。

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