イーロン・マスクのツイッター大量解雇は許されるのか!?解雇権濫用論と巨大外資系企業【弁護士が解説】

電気自動車等で企業時価総額世界最上位クラスに位置するテスラのイーロン・マスクが、いろいろ右往左往ありましたが、遂にツイッター社を買収しました。
そして、イーロン・マスクは1人役員となり、他の役員を全て解任すると共に、経営立て直しのために、なんと約半数の従業員を解雇したようです!
ツイッター マスクCEO 世界の従業員半数解雇 事実上認める

電気自動車、ロケット等で次々と新境地を開発する天才の目には、今のツイッター社の在り方に疑問を持ち、根本から改革をしようと思ったのでしょう。
このような解雇は、ツイッター日本支社でも認められるのでしょうか?

①日本の解雇権濫用論とイーロンマスクのツイッター社
②イーロン・マスクの整理解雇は認められるか?
③外資系企業の解雇・再就職
④世界経済の実態と大量解雇

等について解説します。

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千代田区・青梅市の弁護士法人アズバーズ代表であり、中央大学の労務全般を担当する法実務カウンセル、弁護士の櫻井俊宏が解説致します。

1 日本の解雇権濫用論とイーロン・マスクのツイッター社

日本では、労働者が働き続ける権利は企業に引退までずっと所属する人がほとんどである「終身雇用制」の歴史から強く保護されており、よほどの理由がない限り、企業による解雇は濫用であるとされ、解雇は無効となります。
これを「解雇権濫用論」といいます(労働契約法第16条)。
つまり、この解雇権濫用論からすると、イーロン・マスクがツイッター社で行った理由なき大量解雇は当然認められないということになります。

このよほどの理由というのは、犯罪行為に匹敵するような事情や、かなり著しい勤務成績の不良等が必要です。
それどころか、犯罪行為があった場合であっても、それが「おにぎりを窃盗してしまった。」というような軽微な犯罪で、実際に犯罪として立件されていないような場合には、懲戒解雇は認められないのが通常です。

例えば、自分の所属する法人の誹謗中傷を繰り返したので、懲戒解雇されたことが有効となった最判平成6年9月8日判例や、客室乗務員としての適性を欠くとのことで懲戒解雇されたことが無効となった大阪高判平成13年3月14日裁判例等が参考になります。

実際にも、私自身が、労働審判で労働者側の代理人をして、コンビニエンスストアで食べ物を窃盗したことについて、真摯に店に謝罪をし、そのときは許してもらったにもかかわらず、懲戒解雇をされたケースがありました。
大手運輸会社によるものです。
私達は、裁判所に異議を唱え、解雇が無効である結論を得ることができました。

もっとも、その業務と関係性が強い問題行為の場合は、解雇が認められやすいです。
例えば、トラックドライバーが飲酒運転をしたという場合には、運転そのものの問題なので、解雇が認められやすいでしょう。

また、問題行為について、就業規則の懲戒解雇事由として、「飲酒運転を行った場合」「郵送物を自分のものとした場合」というように、具体的に記載されている内容の方が、解雇をしやすいということになります。

なので、これより軽い問題行為を従業員が行った場合には、使用者側としては、ますは、そのことに関して注意又は軽微な懲戒処分を出すしかありません。
そして、そのような警告的な処分があることにより、より注意をしなくてはならないという状況を作り出し、それでも違反を繰り返していたというような事情があれば、解雇もできる場合があるということになります。

使用者側としては、とにかくできる処分を粛々と行って、布石を打っておくことが、後に解雇するために重要ということです。

いずれにしろ、ツイッター社の社員が、イーロン・マスクの求めるレベルではないというような理由だけでは、解雇は当然認められないでしょう。

2 イーロン・マスクの整理解雇は認められるか?

他に、イーロン・マスクが解雇として取りうる手段としては、「整理解雇」があります。経営が不振な特別の事情がある場合に解雇できるというものす。

日本の整理解雇は、下記の4要素をもとに判断すると言われます。

①人員削減の必要性
②整理解雇を選択することの必要性
③解雇される者の選択の妥当性
④手続の妥当性

等これらの要素を総合的に考慮して、違法かどうかを判断します。

これにつき、イーロン・マスクの大量解雇は、
①人員削減の必要性は、これまでツイッター社が特に問題なく経営を遂行していたことからすれば、そこまで強くなさそうです。
②整理解雇を選択することの必要性も、就任したばかりで解雇に取り掛かり、他の手段をまずは選択するという「解雇回避努力義務」を尽くしたとは到底言えないので、必要性は低いと言えます。
③全社員の約半分もの大人数を選択することにつき、解雇される者の選択の妥当性があるとは到底思えません。
④イーロン・マスク1人で決めたことと思われるのであり、従業員達と協議した形跡もないので、手続の妥当性も欠いているように思います。

 

このことから、本解雇は適法な「整理解雇」として法的に認められる可能性は、ほとんどないでしょう。
とすると、イーロン・マスクは、法的に認められるかどうかは関係なく、強引に解雇を押し進めたということになります。
しれっと、合意退職の書面を書かせたかもしれません。そのような場合は、合意退職の契約が成立しているので、労働契約は終了することになってしまいます。

これに対し、ユーチューバーとしても高名な、アトム法律事務所弁護士法人の岡野武志先生は、ツイッター上で、辞めさせられた人に法的措置をしましょうと呼び掛けています。集団訴訟ということになるでしょうか。


ツイッターの記載、岡野武志弁護士のアカウントより引用

もし、辞めさせられた人がツイッター社を訴えて、裁判の判決等で解雇が無効となった場合、その判決時期までの賃金請求が全て認められることもあります。なお、再就職した場合には、解雇を争うという状況と相反するので、6割までしか請求が認められないことになります(最判昭和37年7月20日 米軍山田事件)。

この賠償も、イーロン・マスクの改革の前では当然予定されている負担なのでしょうか。

 

3 外資系企業の転職・解雇の実態

日本では、先に述べた「解雇権濫用論」により、「解雇はできない」のが原則ですが、アメリカでは「解雇できる」のが原則です。人種差別等不合理な原因の解雇や契約の特約に反する等、特別な事情がない限り、解雇は認められるのが原則であるということです。

実際、解雇は日本に比べるといつでも起こりうることですが、スキルを持っている人の再就職も整っているようです。
この、本国の空気が会社内に伝わっているのか、日本においても、外資系・特にIT企業等は、3年ぐらいで会社を変えるということが多いと聞いています。能力主義が通常の日本の企業よりも遥かに強いのです。

一度、ハイテクITのGAFAMの1社(日本支社)の人から相談を受けたことがあります。
退職を勧奨されながらも、もし働くのであれば、社内のプロジェクトを自分で探してきて欲しいと言われ続けたということです。
しかし、社内の各プロジェクトは相手をしてくれず、白い目で見られつつ、やることがないのでやめるしかない空気に追い込まれたということです。こういった会社の従業員の方はスペックが高いですから、
「働かなくても給与がもらえる!」
と喜ぶはずがないという心理を狙っているのでしょうね。
「解雇」などとは言っていないのですから、簡単には「違法」とはなりません。

日本では、「窓際族」「追い出し部屋」という、より直接的な方法で行われた態様ですね。
「追い出し部屋」とは自主的に退職したくなるような部署を作ることです。日本でも、大手ITのS社やP社等もしているということで話題となりました。
最近では、「追い出し部門」まで作っている会社もあるようです。
【参考記事】本社異動で実質リストラ

 

4 世界経済の実態と大量リストラ

世界は、コロナショックが起こった際、経済が不景気とならないよう、大量に市場にお金を発生させました。
このツケが今まわってきており、お金が市場に過多な状態であることから未曾有のインフレが発生しております。

このインフレを抑えるために、アメリカでは、FRBが、これまでないぐらい金利を上げてきました。
ほぼゼロから4~5%まで上がっていきそうです。
これにより、お金を借りにくくなった企業の発展が抑制され、また、アメリカのハイテク企業GAFAM各社は、円安による輸出利益減等の悪影響も受け、のきなみ決算が悪いです。
これにより、特に、GAFAMの「F」であるFacebook(現在「META」という名前になっています。)は、ツイッターの3500人を超える11000人規模の解雇をするとのことです。
メタ社は、コロナ禍におけるGAFAMバブルが崩壊し、メタバース関連業務の進行もいまいちうまく進まず、現在、その時価総額は世界10位以下にまで下がっています。

また、GAFAMの「G」、旧グーグルことアルファベット社も、雇用を急ぎ過ぎて決算の利益状況が悪く、今後の大量リストラが必要ではないかと目されています。

このことから、イーロン・マスクが大量解雇を行おうとすることは、少なくとも経営の視点からは間違っていないのだと思われます。
月額約8ドルを支払えば、「認証バッジ」という公式のアカウントである証明をもらえるように変えるとの報道がありました。

この後、イーロン・マスクのツイッターはどこへ向かうのでしょう。
注目ですね!

【2022.11.18記事内容更新】

 

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櫻井 俊宏

櫻井 俊宏

「弁護士法人アズバーズ」新宿事務所・青梅事務所の代表弁護士。 中央大学の法務実務カウンセルに就任し7年目を迎える。

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