千代田区・青梅市の法律事務所弁護士法人アズバーズ、代表弁護士の櫻井俊宏です。
総財産数億以上の富裕層夫婦の離婚も20件以上解決しています。
2020年9月23日、幻冬舎の富裕層資産防衛セミナー等を行っている「カメハメハ倶楽部」において、「富裕層向け離婚セミナー」を開催し、ご好評いただきました。
財産が多い富裕層の離婚の場合、財産分与でまず考えなければならない問題があります。
また、夫が敏腕の経営者や医師等であったりすると、堂々と不倫を行い、ときには不倫相手に不動産を買ってあげてしまっている等というケースもあります。
このような富裕層の離婚において、
・離婚における手続の流れ
・財産分与の特別な問題【株式・退職金・2分の1ルール】
・2分の1ルールの例外【ギャンブル等の浪費・特殊な才能・特有財産】
・不倫の問題【有責配偶者】
・養育権・養育費の請求と別居について
等について、幻冬舎で行われたセミナー内容に沿って解説します。
*YouTube幻冬舎ゴールドオンラインチャンネルでも、弁護士法人アズバーズ代表弁護士櫻井俊宏が、医師・経営者等の富裕層の離婚問題について解説しております。
1 離婚における手続の流れ 協議⇒調停⇒裁判
離婚をするには、
離婚協議 → 離婚調停 → 離婚裁判
という流れになります。
1 協議
要は話し合いで離婚の条件を決めることから始めます。
うまく協議がまとまれば、協議書を作って(できれば公正証書がよいです。)、離婚届を提出し、財産を分けて終了となります。
ただ、離婚に至りそうになっているケースは、夫婦間で感情のもつれが強い場合もあり、なかなか話が進まないこともあります。
2 離婚調停
そのようなときは、裁判所に離婚調停を申立てることになります。
離婚事件の場合は、離調停前置主義といって、裁判の前に、まずは話し合いをベースにした調停という裁判所手続を行わなくてはなりません。もともと夫婦だった2人の問題をなるべく円満に解決しようという配慮をもった手続です。
離婚調停とは、調停委員という裁判所から任命された一般人の有識者2人(通常男女1人ずつ)と、当事者双方入れ替わりで話を聴取し、両者の意見を最終的に合致させることを目指す手続です。
入れ替わりなので、双方が会いたくない場合に会わずに話を進めることができます。意見が完全に合致しないと、調停が成立とはなりません。
平日しか行われず、1日2時間程度、1ヶ月半に1回ぐらいあるので、それなりの時間的負担があります。
半年から1年ぐらいで終わる場合が多いです。
弁護士を就けなくても遂行することは可能です。
離婚調停において気をつけること3選
3 離婚裁判
それでも話がまとまらない場合は離婚の裁判となります。
これは訴状や準備書面等の提出する書面の内容が難しいので、まず弁護士がいないと追行はままなりません。
なお、裁判で強制的に離婚をしようとしても、相手の不貞やDV等の理由がなく、「性格の不一致」というだけでは、5年ぐらいの別居等があって夫婦関係が破綻しているというような状態でないと、判決での離婚は認められにくいです。
しかも後でお話しますが、不貞等をした「有責配偶者」が離婚を主張していて、相手方が離婚をしたくないと主張している場合は、少なくとも10年ぐらいの別居が必要となってきます。
この離婚の裁判は通常長くなります。夫婦財産を分ける財産分与の調整が大変だからです。1年~2年かかることも多いです。
離婚調停でまとまらず裁判にまでなる件は、だいたい10件に1件ぐらいです。
2 富裕層の財産分与 株式 退職金 2分の1ルール
まず、富裕層に特有の問題としては、経営者である場合があげられます。
1 法人の場合
その事業が法人である場合には、法人が所有している財産は分与できませんが、株式または持分(医療法人や弁護士法人では、株式ではなく「持分」という言い方をします。)等を分けることが考えられます。
結婚前に設立された法人である場合には「特有財産」といって、その株式等の分与は原則として認められません。
株式を財産分与として分けることができる場合、その株式を時価で計算します。
すなわち、会社の時価を計算し、その株式の割合に直すということです。
上場会社の場合は時価がわかりやすいでしょうが、非上場の場合は、公認会計士等にお願いして時価を査定をすることになります。
そして、株式を持っている方が、所有株式の時価の半分相当の金銭を渡すことになるのが通常です。
これは株式会社や合同会社等の営利法人だけでなく、医療法人も対象となります。
なお、この時価の計算のタイミングは、離婚時ということになります。
このことから、会社を分けなくてはならない側が、その法人内から他に財産を移すなどして、法人の価値を下げる行為等を行われる恐れがあることを念頭におきましょう。
また,法人が中小企業である場合は、「代表者貸付」といって、代表者が、会社に貸付をしているケースがあります。
これも,配偶者が持っているときは「債権」という財産なので、原則半分ずつ分け合うことになります。
2 個人事業主の場合
②㈱や㈲が名前についていない個人事業主である場合には、法人の株式のようなものがありません。
そこで、そのような場合には事業で使っている動産や建物等の不動産をダイレクトに分け合うことができます。
これらの、事業を営んでいるものの財産分与の場合で分与を受け取る側は、上記の株式や代表者貸付等を調査するため、証拠収集の際に、法人の決算書、代表者個人としての確定申告書、他にできれば定款等を見つけたら写メで撮影する等しておさえておくことが重要になります。
このような資料を隠されたり、更には、預金等を移して財産隠し等をされるような場合は、調停や裁判を行い、「調査嘱託」という手段で開示請求をしていく必要があります。
3 会社員の場合
経営者でなく会社勤めの従業員においては、退職金が原則として財産分与の対象であることを意識する必要があります。
退職金は積立金と同様の性質を有するので、婚姻時から離婚時までの分の相手の退職金の2分の1を請求できるということになります。
ただし、小さな会社であまり信用がない会社の場合や、離婚時に退職が20年以上も先といったような場合には、退職金を受け取ることができる確実性がある程度低いことから、財産分与の対象とならない場合もあるので、注意が必要です。
逆に、公務員等の退職金は、退職金をほぼ確実に受け取ることができるので、財産分与の対象になりやすいということになります。
また、外資系金融会社等に勤めている場合、雇用ではなく個人事業主扱いとして退職金等がない場合も多いので、その点も注意が必要です。
4 専門職・経営者等の場合
半分ずつ分ける(2分の1ルール)とお伝えしましたが、これまでに得てきた財産が、その人の異能、すなわち特に優れた能力により生み出された場合には、半分でないときもあります。
医師等の専門職や、経営者等の場合に多いです。
特に、IT会社経営者の場合に、200億円の価値の株式の財産分与に関して、妻に40分の1の5億円しか財産分与が認められなかった東京地方裁判所平成15年9月26日判決は有名です。
5 借金の取り扱い
⑤その他、富裕層の場合は、プラスの財産だけでなく、金融機関に対する債務が多い場合もあるでしょう。
全プラスの財産から全マイナスの財産を引いて残るマイナスの財産は、基本的に財産分与の対象となりませんので注意が必要です。
3 2分の1ルールの例外 【一方の特殊な才能】【浪費】【特有財産】
2分の1ルールは必ず適用されるのでしょうか。
これについては、下記の述べるように例外もあります。
1 一方の配偶者のギャンブル等による著しい浪費
一方の配偶者に著しい浪費がある場合は、2分の1ルールが修正される場合もあります。
これについては、水戸家庭裁判所の平成28年3月の裁判例が参考になります。
次のような事案です。
・夫婦は共働きで、夫の年収は900万円~1500万円程度、妻の年収が830万円であった。
・財産を開示したところ、夫の管理財産は、住宅ローンの他、カードローン等の負債が580万円あった。これらの負債を差し引いて、約200万円だった。
妻の管理財産は1億5000万円であった。
・妻は、夫による送金だけでは不足する生活費を維持するため、倹約に努めていた。
この事案では、2分の1ルールそのままだと,
200万円(夫管理)+1億5000万円(妻管理)/2=7600万円
ずつの取り分となります。
妻は既に1億5000万円分保有しているので、差額の7400万円を支払わなくてはならないことになります。
これは原則現金払いをしなくてはなりません。
この結論は、倹約にも努めてきた妻にあまりにも酷です。
そこで、裁判所は、妻の方が育児を含む家事労働の負担が大きかったこと、妻の1億5000万円の資産ができたことについて、その母親からの金銭的援助や相続も一定程度影響していることから、夫婦財産ができた貢献の割合を、
夫3割:妻7割
と判断しました。
ただし、この事案は、妻の管理財産が1億5000万円と多額であったこと、家事負担が多かったこと、財産が増えた過程・夫の浪費等から、そのまま2分の1とするとあまりにも公平が害されることから、特別に修正された事例であると言えます。
また、裁判所でこれが認められるためには、上記のように妻の家事負担が多かったことや、夫の浪費の事実を裏付ける証拠の提出が必要となってきます。
2 一方の配偶者の特殊な才能により多くの財産が形成された場合
大阪高等裁判所平成26年3月13日判決は、夫が開業医の医師として医療法人を経営していた事案について、医療法人の持分を純資産価額約2億円の7割である1億4000万円とした上で、財産分与の割合について、
夫6割:妻4割
としています。
裁判所は、個人の尊厳と両性の本質的平等から財産分与の割合は原則として2分の1であると言及しました。
しかしスポーツ選手のように高額な収入が将来の生活費を前倒しで支払う意味合いがあるときや、高額な収入の基礎である特殊な才能が結婚前の個人的努力による場合は、そのような事情を航路することが個人の尊厳確保に繋がると判断しています。
この後者の事例と言うことになります。
前者のスポーツ選手の場合は、プロ野球選手等が典型的にわかりやすいでしょう。
プロ野球選手の場合、結婚後に取得した多額の契約金等は2分の1ルールに入らない可能性があるわけです。
なお、この特殊な才能による場合については、なんと夫95:妻5という極端な分け方になった事例もあります。
すなわち、東京地方裁判所平成15年9月26日判決は、夫が一部上場企業の代表取締役であり、約220億円の財産があった事案です。夫の特殊な能力を大きく評価して、
夫95:妻5
として、それでも妻には10億の財産が分与されました。
スケールがすごい事案ですね。
3 一方の結婚前の財産が共有財産に大きく寄与した場合
特有財産とは、夫婦が同居する前から、持っていた財産のことを言います。
夫婦共有財産は、原則として、結婚の同居時から別居時に増えた財産のことを言うので、同居する前から財産は夫婦共有財産ではない、その特有の財産ということです。
ただ、この特有財産主張は、原則として、預金なら預金、物なら物と、同居時から別居時まで形を変えないで残っている場合でないと認定されないので、立証がとても難しいです。
東京高等裁判所平成7年4月27日判決は、夫婦名義のゴルフ会員権の購入代金の大部分が、夫がもともと持っていたお金(特有財産)から多く支出された事案です。
財産分与割合は、
夫64:妻36
となりました。
このように当初あった物が、現金等の流動資産に転換したとしても、特有財産が資産形成に影響したことが明らかである場合は財産分与の割合が修正されることがあります。
しかし、同居時に特有財産主張するために財産が存在していたことの立証は、しっかりとしていく必要があります。
4 不倫(浮気)について 有責配偶者とは?財産分与に影響するの?
不倫をしている場合は、不倫をしている側は「有責配偶者」といって、別居して10年近くたっていないと、強引に離婚をすることはできないように法律上なっています。
このことから、妻が不倫をされたケースで、不倫をした側からできる限り財産を支払ってもらいたい場合、離婚をしないと言い続け、生活費(婚姻費用)を請求していくのが有効です。
この生活費は収入によって決まるので、富裕層の場合はなおさら金額が上がることになり有効です。
不倫をした側は、それなりのお金を、婚姻費用として、毎月ただただ支払っていくのであり、いわゆる「兵糧攻め」を受けることになります。
この状態を脱するために、多くの財産を支払うから離婚して欲しいという内容の提案をしてくることも少なくありません。
このことから、離婚事件においても、不倫の証拠の収集は重要です。
いきなり相手方に不倫の事実を突きつけると、いろいろ証拠が隠滅されてしまうので、気づかれないうちにこっそり固めていきましょう。
特に録音機は、今はペンやフリスクの形をしている見つかりにくい物等が数千円で売られており、簡単に証拠が得られるので、離婚の話し合いのやりとりや不倫の自白等、できるだけ録るように意識しましょう。
一つでも不倫が発覚すれば、相手を有責配偶者にすることができます。
2人、3人と不倫相手を暴くことに必死になると、ただでさえ高額の探偵費用がかさむこともあり、また、いつまでたっても事件が進まなくなってしまう恐れがあるので注意が必要です。
慰謝料は、通常、そこまで大きい金額にはならないので、前述のように、まずは財産分与が重要です。
特に、医師等による不倫は、不倫することに慣れてしまっているのか、経験上、不倫の頻度が多い、相手の女にいろいろ買い与える(医師や経営者はなんとマンション等を買い与えることもあります、、)、職場で看護師と性行為に及ぶ等、不倫の方法が大胆であることが多いので、油断しているうちにどんどん証拠を集めていきましょう。
証拠があると、交渉を有利に進められるほか、裁判に至った場合にはいろいろと使えます。
では、一方の配偶者が不貞をした等の有責配偶者でも前述の2分の1ルールが適用されるのでしょうか?
この点、いずれか一方が離婚原因を作ったことと離婚時までの財産形成とは何ら関連性がないのが通常ですので、有責性が財産分与の割合に影響を与えることはありません。
この点、東京高判平成3年7月16日も有責配偶者(不貞行為)からの財産分与請求を認めています。
したがって「あなたのせいで離婚するのだから、財産は全部もらう」といった主張は通らなくなります。
なお、婚姻費用については、有責配偶者でも基本的には婚姻費用の請求が認められます。しかし、例えば、不貞をしたことが証拠をもって明らかであり、その不貞が離婚の主たる原因であるような場合には、自分の生活費分の婚姻費用の請求が認められない場合もあります(東京家庭裁判所平成20年7月31日審判例等)。
5 子供の養育権・養育費と別居について
子供の養育権は、別居時に一緒だった方に認められる可能性が高いです。
特に、一緒だったのが女性だった場合は、養育権に関する「女性優先主義」があります。直接子供のことをみるのが、女性であることが多いのを前提にしているのでしょう。今では、現実に子供の養育が分業になりつつあり、以前ほどには女性優先主義は強くありませんが、まだ、判断基準としては強いです。
このことから、妻が家を出て別居する際は、子供を養育するつもりがあるのであれば、必ず子供を連れて出ていきましょう。
連れて出ていくことについては、子供自身の明確な意思に反しない限りは、特に法的に問題ありません。
子供の面倒を見ている方が、自分のみならず子供の分も合わせた婚姻費用(生活費)、離婚後も子供のための生活費である養育費として、高額を受け取ることができるので、特に富裕層の離婚の場合有効です。
養育費は、裁判所の調停等の手続の場合、裁判所の算定表において、両者の収入,子供の数・年齢等によってほとんどブレることなく決められます。
なお、相手が自ら支払ってくれない場合は裁判所に申し立てることになりますが、通常、裁判所に調停を申し立ててからの分しか認められないので、養育費の調停を早めに申し立てるにこしたことはありません。
6 まとめ
富裕層の離婚の場合は、以上に述べてきたように特有の問題がいろいろあります。
財産が多いだけに、調べることが多いので、配偶者が気付いていないうちに弁護士等に相談していろいろ準備するべきでしょう。
(2024.4.22記事内容更新)