裁判の判決で相手方の支払いが決まった後、相手方の財産がわからなくて強制執行がうまくいかない場合に、裁判所を通した民事執行法の財産開示手続(強制執行がうまくいかなかった際、そののちに債務者を呼び出して財産を開示させる手続)があります。
この手続を呼び出された者が無視したり、出頭しても嘘をついたりするとどうなるのでしょうか?

この点、2020年10月20日、神奈川県警は、財産開示手続に正当な理由なく出頭しなかったとして、男性介護士を民事執行法違反の疑いで書類送検しました。

送検容疑は、横浜地裁小田原支部が財産開示のために決定していた8月14日の出頭に、正当な理由なく応じなかったとしている。松田署によると、男性介護士は2016年ごろに東京都内に住む30代の男性会社員から数万円を借りたが、まったく返済していなかった。(10月21日 毎日新聞)

これは2020年4月に改正民事執行法が施行されてから初の検挙だそうです。警察としても、財産開示手続に実効性を持たせることに関して協力的な姿勢を示しているものと感じます。

そこで、今回は改正後の民事執行法上の財産開示手続の制度に関していくつか解説いたします。

1 財産開示手続の概要

1 裁判手続等によって判決などの債務名義を獲得した場合、どのように支払ってもらえば良いのか?

前述のように、判決を得ても、相手方が任意に支払わない場合、債権者は自ら債務者の財産を調査・発見し、強制執行を行わなければなりません。しかし、この調査はかなり大変です。

例えば振込詐欺等の犯罪被害にあい、その損害賠償を請求する場合、相手方はそれまで見も知らぬ人の場合もあり、そのような債務者がどのような財産を所持しているのかは見当もつかないでしょう。
また、元夫が養育費を支払わないが、現在どこに勤務しているかもわからない場合、元夫の現在の勤務地を調査することも同様に困難な場合があります。
まずは、メガバンク等の預金口座を弁護士会を通した23条照会で調べて差押える方法が考えられるでしょう。判決が出ている場合は、メガバンク等も、口座情報を開示することが多いです。
しかし、いざ差し押さえてみたところ、その口座には全くお金がなかった場合はどうれば良いでしょうか。

このような場合、民事執行法上の「財産開示手続」によって債務者の財産を調査することが考えられます。

2 民事執行法第197条 財産開示

民事執行法第197条には以下のように定められています。

第百九十七条 執行裁判所は、次の各号のいずれかに該当するときは、執行力のある債務名義の正本を有する金銭債権の債権者の申立てにより、債務者について、財産開示手続を実施する旨の決定をしなければならない。ただし、当該執行力のある債務名義の正本に基づく強制執行を開始することができないときは、この限りでない。
一 強制執行又は担保権の実行における配当等の手続(申立ての日より六月以上前に終了したものを除く。)において、申立人が当該金銭債権の完全な弁済を得ることができなかつたとき。
二 知れている財産に対する強制執行を実施しても、申立人が当該金銭債権の完全な弁済を得られないことの疎明があつたとき。
第2項以下略

  • かかる要件を満たしたとき、裁判所は財産開示手続の開始決定を行い、手続きを行う期日を指定します(同法198条1項)。例えば、1号の要件を満たすには、1回差押えを行ってみる必要があります。
  • そして、財産開示が開始した場合、債務者はかかる期日に出頭し、その財産について陳述しなければなりません(同法199条1項)。通常、この前にまずは財産目録を提出させることになります。
  • 債務者は正当な理由のない限り、かかる期日に出頭し、財産について陳述しなければならず、これに反すると刑事罰が科されます(同法213条1項4号、5号)

2 財産開示手続を無視するとどうなる?2020年民事執行法改正について

このように財産開示手続は、裁判所の手続きによって債務者の財産を調査することができ、強制執行にあたって有用な制度です。しかし、これまでは財産開示手続の期日への呼び出しを受けても、債務者が出席をしないケースが多く、その実効性には疑問があり、「財産開示手続は意味がない!」という声が多かったようです。逃げ得だったということです。

強制執行は、相手方の財産に関する情報がなくてはならない、預金口座についてはその口座を担当する支店まで調べなくてはならない、給与を差し押さえても会社が変わった場合再度差押をし直さなくてはならない等、いろいろと不便なところがありました。

しかし、2020年4月1日から施行された改正民事執行法では、「財産開示」について、また裁判所による財産の調査・情報取得等、いろいろと強制執行方法が強化されています。

そこで、民事執行法の改正に際して、財産開示手続も下記の通り改正されました。

  1. 罰則が強化
  2. 第三者からの情報取得手続きが新たに定められた

1 罰則の強化について

適法に財産開示手続が申し立てられ、裁判所が同手続の開始を決定した場合、裁判所は財産開示手続を行う期日を指定します。
債務者は、事前に自分の財産の目録を提出した上で、かかる期日に出頭し、宣誓をしたうえでその財産の内容を陳述しなければなりません。

正当な理由なく無視して期日に出頭せず、または宣誓を拒んだ場合や、宣誓した債務者が、正当な理由なく陳述を拒んだり、虚偽の陳述を行った場合には刑事罰が課されることになります。

この財産開示手続は、債務者が裁判所に出頭しなかったり、虚偽の報告をしたりする場合でもわずか30万円以下の過料が課されのみでした。しかもこの過料の制裁も実際に課せられることはほとんどありませんでした。

言ってみれば財産開示はほとんど実効性のない制度でした。
弁護士もなかなか申立てない手続です。

実際に申立てをしても、ほとんどの債務者が財産開示を無視して出頭をしない、または嘘をつくといった状況でした。

社会的地位のある者でなければ、もっというとただ借金ばかりある者は、このような軽微なペナルティは全くおそれないわけです。

しかし、この改正民事執行法では、50万円以下の罰金又は6月以下の懲役が刑事罰として課されることとなりました。
懲役刑が定められたことで、債務者が財産開示手続を無視することはより難しくなったと考えられます。

しかし、かかる罰則の強化も、警察等の捜査機関が実際に立件しないとなれば結局財産開示手続の実効性の確保には資さないこととなります。
その意味で、今回神奈川県警が財産開示手続への不出頭を立件し、送検手続をとったことは、財産開示手続が意義のある手続であることを示す上で、非常に意味のあることであるといえます。

2 第三者からの情報取得手続き

1 概要

先述したように、これまで民事執行法上の財産開示手続の実効性は必ずしも高いとは言えず、また、2-1のように罰則が強化されたとしても必ずしも財産開示手続が奏功するとは限りません。
債務者が刑事罰を恐れず、無視して欠席する可能性もあるでしょう。

改正民事執行法では、財産開示手続が奏功しなかったとしても、裁判所への申し立てを行うことによって、第三者機関から債務者の財産状況に関する情報を得ることができる手続きを定めました(民事執行法204条以下)。かかる手続きによって、債務者が有する不動産、債務者の勤務先、債務者の預貯金に関する情報を得ることできる可能性があります。

2 要件

第三者から債務者の財産について情報の開示を受けるためには、いくつか要件があります。のそのうちいくつかピックアップします。

 民事執行法197条1項各号のいずれかに当たること

要件として、まず197条1項各号のいずれかに該当することが必要です。これは、不動産、給与の情報、預貯金の情報を取得するについて共通の要件となっています。

 財産開示手続が行われてから3年以内であること

これも、不動産、給与情報、預貯金それぞれの開示手続に共通の要件ですが、第三者への開示手続を行うに当たってはまず財産開示手続を行っていなければなりません(財産開示手続の前置)。さらに、かかる手続きを行ってから、3年以内に第三者に対する情報開示請求手続きを行わなければなりません。

 給与情報の開示請求に当たっての要件

給与情報の開示請求を行うに当たっては、不動産・預貯金の開示請求にはない要件が課されています。

すなわち、勤務先情報の開示請求を行うことができるのは、生命または身体に関する損害賠償請求権か、婚姻費用・養育費等の権利に関して執行力ある債務名義を有している場合に限られますこれらの債権についての判決等債務名義を有していなければ、給与情報の開示を請求することはできません。

3 影響

以上のように、いくつか要件はありますが、このように、裁判所を介して第三者機関に対して債務者の財産情報の開示を請求することができる手続きが定められたことは大きな意義を有するものと言えます。

これまでの財産開示手続には残念ながら実効性があるとはいえず、債権者代理人が弁護士会を通じて調査を行ったり、債権者が例えば探偵を雇うなどして調査するしかありませんでした。
しかし、第三者機関への情報開示請求が裁判所への申し立てによって行えることになったことで、債務者の財産の調査はこれまでと比してかなり行いやすくなったといえるでしょう。

これまでの調査では発見できなかった方は、この制度を利用して債務者の財産を改めて調査するべきと思います。また、この改正によって養育費について、これまで回収できなかった方も、債務者の給与情報を取得して養育費の回収を行うことが行いやすくなります。


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3 弁護士が債務者の場合は財産開示を無視できない!?

以上のように、以前の法律では財産開示はなかなかうまくいかないのが通常でした。
しかし、私の事務所では、弁護士個人が数百万円の不動産関係の支払いにつき不払いに陥っていたときに、債権者の代理として、この債務者である弁護士に対してこの財産開示手続を行い、その他の強制執行もうまくいったケースを解説します。

その弁護士は、1回は財産開示手続への出頭要請を無視したのですが、私が裁判所を促し、裁判所からもう1回出頭要請が出たときに、来ました。
その弁護士は、弁護士会に懲戒処分(弁護士会からの罰則、業務停止等になってしまう)の申立をされ、財産開示手続を無視したことについての制裁を受けることを恐れたからです。

そして、その場で、実際、ある預金口座の情報を教えてくれました。
すぐさまこの預金口座に差押の申立をしたところ、うまくいき、まずは100万円程度の回収ができました。
このお金は、銀行から直接こちらに支払われます。

なお、この預金口座は、その弁護士個人の口座でした。
その弁護士は個人事業主(法人ではなく自分の名前で法律事務所を運営するもの)だったから、自分個人の口座と事務所の預金口座が一緒だったのです。
差押えられた預金はちょうど105万円だったので、他の依頼者からの報酬(当時の消費税率は5%)か何かが入金されたところだったのでしょう。

その弁護士は、それ以降、自分の預金口座に入る弁護士報酬を差押えられるのを恐れたのか、その後、すぐに弁護士法人を設立しました。
弁護士法人は、債務者本人であるその弁護士そのものではないので、債務者に対する債権をもってその弁護士法人の口座を差押えることはできないからです。

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櫻井弁護士

ただ、私はこの弁護士法人化は「チャンスだ!!」と思いました。法人になったことにより他に差押えられるものができたからです。

それはその弁護士からその弁護士法人に対しての給与(代表なので厳密には「報酬」)支払債権です
その弁護士は、弁護士法人から報酬を受け取る権利があります。
その権利も、都度4分の1までなら差押えられるのです(民事執行法152条)。

実際、その弁護士は40万円ぐらいの報酬と設定されていたので、それからしばらく月に10万円ずつ差押えることができました。

このことからわかるのは社会的地位のある「弁護士の資格」のように失うものがある者に対する財産開示は、無視することができないので、それなりの効力を発揮するということです。

また、あきらめずに相手の財産を様々な観点から探すことが重要ということです。

最終的に全部を返済してもらえたわけではないですが、強制執行が功を奏した事例として紹介しました。

4 まとめ

以上、民事訴訟法の改正についてその一部を解説しました。

第三者への情報開示手続のうち、不動産情報の開示については、まだ法務局の体制が出来上がっていないため現在整備が行われているようです。その他の制度については現在すでに運用が行われているものと思います。

いくつか要件はありますが、裁判所を介して第三者機関に対して債務者の財産情報の開示を請求することができる手続きが定められたことは大きな意義を有するものと言えます。

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櫻井弁護士

支払うと約束をしたお金を支払うのは当然のことです。
ですが,その当然のことをせずのらりくらりと逃げ回っている相手方を本当に数多く見てきました。
特に,養育費の不払いは多いです。

元市議会議員であるのに、1000万円以上の養育費を不払いにして平然としているなどというケースもありました。

前述のように、「弁護士」でさえそのようなものです。
前述の弁護士の例は、下の東京ミネルヴァ法律事務所の記事のような例とは違い、最初は悪気があったわけではないだけまだマシですが…

この民事執行法の改正によって、約束を守らない人が減り、泣き寝入りする人が少なくなることを切に願います。

【2023.4.5記事内容更新】

弁護士法人アズバーズ

民事執行法の条文

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