絶えずスマホを気にする夫。ある日、こっそりスマホを覗くとLINEには女性との親密な内容のやりとりが…。すぐその場で夫を問い詰める方法もありますが、メッセージだけでは「ふざけただけ」「特別な関係ではない」と言い逃れられてしまうかもしれません。
このコラムでは不倫慰謝料請求するにあたってどのようなものが証拠となるのか、LINEやメール履歴を証拠とする場合の注意点、そしてそもそも婚姻中でも不倫慰謝料請求できるのかについても解説します。
学校法人中央大学の法務全般を担当している中央大学「法実務カウンセル」(インハウスロイヤー)であり、千代田区・青梅市の「弁護士法人アズバーズ」代表、弁護士の櫻井俊宏が執筆しております。
1 離婚しなくても慰謝料請求できる?
離婚の選択はしないが、ペナルティとして配偶者に慰謝料を支払ってもらいたいとお考えの方は少なくないと思います。
夫婦間の話し合いで不倫をした配偶者が任意に支払うのであれば問題ありませんよね。
ええ。しかし支払いを拒む相手に対して請求するには不倫慰謝料請求の法的根拠が必要です。
(1)精神的苦痛への償い
夫婦は互いに相手に対して自己の性的純潔を保つ義務(「貞操義務」)、つまり配偶者以外とは肉体関係を持たない義務を負っています。この義務が果たされることで平穏な夫婦関係の維持が可能になるのです。もし一方がこの義務に反して配偶者以外と肉体関係をもったために、多少なりとも平穏な夫婦関係を損なった場合には不法行為責任(民法709条)が成立することになり、これによって受けた精神的苦痛に対しては慰謝料請求ができます(710条)。
したがって精神的苦痛が発生しているのであれば、離婚するかしないかに関係なく、慰謝料請求ができることになります。
(2)婚姻継続は減額事由
不倫慰謝料はその金額が法律で決まっているわけではなく、当事者の合意があればどんな金額でも設定可能です。合意できない場合には裁判実務で活用されている慰謝料相場が参考になります。これによりますと、不貞行為を理由とする慰謝料請求の場合、婚姻が継続する場合(およそ50万~150万円)は破綻した場合(およそ150万円~300万円)と比べると低額になる傾向です。婚姻関係が破綻した場合と比べると、権利侵害の程度が軽いと判断されるためです。
とはいえ、同一世帯内で多額の賠償金が支払われることは現実的ではなく、実際には「これくらいなら水に流せる」といった金額に収まることが多いでしょう。
2 証拠の重要性
単に不倫を疑っているというだけでは事態は動きません。次なる局面に向かうためには不倫の根拠、すなわち証拠が必要です。
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(1)離婚請求できる
不貞行為があれば、相手が拒んだとしても裁判で離婚することができますが、裁判では不貞行為の存在は離婚を求める側で立証しなければなりません。たとえ脅しでも、離婚裁判を見据えて準備しているという強硬な姿勢を見せるために、証拠を準備する必要があります。
(2)慰謝料請求できる
不貞行為は不法行為にあたり、これによって精神的苦痛を受けた被害者は慰謝料請求ができます。裁判では慰謝料を請求する側が不法行為責任の成立を立証する必要があります。その際、証拠として重要なのが不貞行為に関するものです。
(3)夫婦関係を見直せる
不倫の証拠を求める作業はきっとつらいものでしょう。しかしうやむやにしたまま夫婦で深く話し合う機会を逃せば再発を防止できず、信頼関係もなし崩しになってしまいます。
離婚しないという選択をしたときこそ、互いに心を開き証拠に基づいた話し合いが重要です。
3 証拠となりうるもの
配偶者に不倫慰謝料を請求するには、不貞行為、つまり配偶者以外との肉体関係(性交渉およびこれに類似する行為)があったことについての証拠が必要です。
ここでは不貞行為に関する証拠について解説します。
(1)具体例
性交渉中の録音・録画データが証拠としては最強ですが、それ以外でも次のような証拠を集めることで不貞行為があったと推認させることができます。
・ ラブホテルに出入りする画像
・ ラブホテルの領収書、クレジットカードの明細書
・ LINEのトーク、Facebookのメッセンジャー、メール
・ 手紙、日記、手帳、メモ
・ 携帯電話の通話履歴
・ 交通系ICカード、ETCカードの通過履歴
・ ドライブレコーダーの映像
・ GPSによる位置情報や移動履歴
・ 配偶者や不倫相手のSNS、ブログ
・ 興信所による調査報告書
・ 第三者の目撃証言
・ 浮気や不倫の自認書、示談書 など
(2)注意点
・ 複数の証拠を組み合わせる
性交渉中の動画など決定的な証拠以外はいずれも「不貞行為があったかもしれない」という間接証拠に過ぎません。言い逃れを許さないためには、証拠は複数かつ多種類が必要です。
・ 違法行為や証拠の改ざん
スマや手帳の盗み見程度を超えて、 盗撮、不倫相手の家に忍び込んでの捜索・盗聴は犯罪にあたる場合があります。また刑事裁判と比べると、民事裁判では不当な手段を用いて集めた証拠も許容されやすい傾向がありますが、著しく反社会的な手段を用いてプライバシーや財産権などを侵害するような方法で集めた証拠は採用されない可能性があります。
さらに改ざんや加工しやすいデジタルデータも証拠として排除されることにも注意が必要です。
他の証拠も複数準備しておく、デジタル以外の方法で保存するなどの対応が大切なんですね!
4 LINE、メール履歴
証拠となりうるもののうち比較的入手しやすいのがLINEやメールの履歴です。これらを証拠として用いる場合の注意点について解説します。
(1)証拠となりうる内容
記載内容が証明しようとしている事実、つまり不貞行為があったことを示すことが重要です。
「またエッチしたい」
「前回行ったラブホテルよかったね」
「〇〇がいっぱいなめてくれたから体軽いの」
これらの内容は不貞行為があったことを強く推認させます。ただしあくまでも間接証拠であり、他の証拠と組み合わせる必要があります。
「昨日は激しかった」
一般的に不貞行為を連想させますが、内容が曖昧であるため上記内容のような証拠と比べると証明力は劣ります。
「この間は楽しかったね」
「素敵なプレゼントをありがとう」
「愛してる」
親密な関係をうかがわせるものですが、不貞行為を推認させる証拠としては弱いです。ただしまったく無価値とは言えず、他の証拠と合わせることで不貞行為があったことを推認させていくことはできます。
(2)証拠のとり方
LINEやメールの履歴をとる場合の注意点を2つ説明します。
① 不正アクセス禁止法
不正アクセス禁止法は、ネットワークを介して他人のアカウントなどに不正にアクセスすることを禁止しており、違反した場合には3年以下の懲役または100万円以下の罰金刑に処せられます(3条、11条)。
え!じゃあ旦那が寝ているすきに指紋認証を解除させてこっそり見るのもマズイですか?
単にスマホのロックを解除する行為や、スマホ上にすでにダウンロードされているLINEのトーク履歴を見るだけであれば、不正アクセス行為にはあたりません。
しかし、次のような場合は不正アクセス行為に該当する可能性があります。
・ PC版のLINEを使って勝手にログインする(ログイン時に通信が行われます)
・ トーク履歴などのデータを自己のスマホに転送してバックアップをとる など
要するに、インターネットに接続してデータの送受信や通信を行う行為が不正アクセス行為です。最近では、アプリを起動するだけでデータ通信が行われるものもありますので注意が必要です。
② スクリーンショット
スクリーンショットなどのデジタルデータは改ざんや加工が容易なため証拠としての信用度が欠けます。裁判所もこの点を重視しており、スクリーンショットを提出しても証明力の強い証拠としては扱わない傾向です。
そこでメール履歴などを保存する方法としては、カメラでスマホごと撮影することをお勧めします。使うカメラはご自身のスマホでも構いませんが、やはりデジタル方式ではないカメラの利用が賢明です。性交渉をうかがわせる内容のメッセージをできるだけ多く保存し、その際にはメッセージだけではなく送受信者名や送受信日時も合わせて撮影することは忘れてはいけません。
まとめ
不倫慰謝料請求事件で不正アクセスによって取得したメールに証拠能力を認めた判例はあります(東京地裁平成18年6月30日判決)。違法ではあるが夫婦間での行為であるため違法性は低いことを理由としており、民事訴訟では余程のことがない限り証拠能力は否定されないのが現状です。
しかし慰謝料請求が認められたとしても、不正アクセス禁止法違反容疑の取り調べやプライバシー侵害を理由とした損害賠償請求などのリスクがあります。
手持ちの証拠が適切なのか、数は十分か、足りないとすれば何かといった疑問をお持ちの方はまずは弁護士法人アズバーズにお気軽にご相談ください。焦って不正アクセス行為には及ばないことです。