「親権・監護権」という名前はどうなの?親子関係に関する規律の見直し【家族法改正について弁護士が解説第2回】

教養・雑学
櫻井 俊宏

櫻井 俊宏

「弁護士法人アズバーズ」千代田事務所・青梅事務所の代表弁護士。 中央大学の法務実務カウンセルに就任し11年目を迎える。


第1 はじめに

今回は、前注及び第1親子関係に関する基本的な規律(親権・監護権等)に関する議論状況を見ていきます。

下記で整理する見解は、主に法制審部会資料18-1、18-2を参考にしています。

前注
第1 親子関係に関する基本的な規律の整理
第2 父母の離婚後等の親権者に関する規律の見直し
第3 父母の離婚後の子の監護に関する事項の定め等に関する規律の見直し
第4 親以外の第三者による子の監護及び交流に関する規律の新設
第5 子の監護に関する事項についての手続に関する規律の見直し
第6 養子制度に関する規律の見直し
第7 財産分与に関する規律の見直し
第8 その他

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櫻井弁護士

中央大学の実務講師を担当している、弁護士法人アズバーズの弁護士増田大亮(第二東京弁護士会家事法制に関する委員会委員)と、代表弁護士櫻井俊宏の監修でお送りします。

第2 前注1について

1 改正の内容

(前注1)本試案では「親権」等の用語については現行民法の表現を用いているが、これらの用語に代わるより適切な表現があれば、その用語の見直しも含めて検討すべきであるとの考え方がある。
(前注2)本試案で取り扱われている各事項について、今後、具体的な規律を立案するに当たっては、配偶者からの暴力や父母による虐待がある事案に適切に対応することができるようなものとする。

2 そもそも「親権」とは?-「親権」の意味

私たちの民法は、「第4編 親族」の中に「親権」の章を設けています。
もっとも、「親権」の意義について、私たちの民法は、明文で定めていません。そこで、現在、親権」の意義は解釈に委ねられています。
はるか昔、親権とは、ローマ法の家長権に由来する父の権利(父権)として捉えられていました。すなわち、親権は「親の子に対する支配権」という性格を有するものと捉えられていました。

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櫻井弁護士

しかし、18世紀以降、このような考え方は改められるようになりました。

18世紀から19世紀にかけて、親権とは、子を監護する親の権利のみならず義務でもあると捉えられるようになりました。もっとも、このような時代においても、父の親権が本来的なものであり、母の親権は補充的なものにとどまると考えられていました。
20世紀に入り、「子の利益・子の福祉」という考え方が強調されるようになり、父母による親権の共同行使の原則が採用されるようになりました。

「親権」は支配的性格を有していた

私たちの民法も、定められた当初は、家父長制に従い、家制度の規律を目的としていたことから、親権とは家や親のために行われる子に対する権利という支配権的性格を有していました。しかし、戦後、日本国民法が誕生したことにより、個人の尊厳と両性の本質的平等(憲法24条2項)に従い、各国と同様、の利益・子の福祉を重視するようになりました。

子の利益・子の福祉が重視されるべき

なお、「親権」という文字から、親権とは親の子に対する支配権であると考えている方がいるかもしれません。しかし、先ほど述べたように、親権とは親の子に対する権利であり義務であり、子の利益・子の福祉が重視されるべきであることは世界共通の認識となっています。このような考え方が重視された結果、イギリスやドイツでは「親権」という言葉を廃止し、別の用語を用いるようになっています。

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櫻井弁護士

例えば、イギリスでは「親責任(Parental responsibility)」という言葉が用いられています。

私たちの民法は、民法818条から837条にかけて親権について定めていますが、一般的に、親権とは、①身上監護権(820条~823条)と②財産管理権(824条~832条)を意味すると考えられています。

親権の条文構造の図

3 前注1について

前注1が述べているのは、現在、私たちの民法で用いられている「親権」という用語について、他国のように義務性を含んでいる用語、例えば「親義務」や「親責任」といった用語に変更することを提案する考え方となっています。
このような改正が検討されている理由としては、「現行法下においては、親権者でない親が、あたかも子に対して何らの責任も負わないかのように捉えられ、それが養育費の不払の一因となっているのではないかとの指摘」(法制審資料12・5頁)等がなされていることによります。

4 前注2について

前注2が述べているのは、今後、本連載でも取り上げていく各検討事項において、配偶者からの暴力や父母による虐待がある事案に対して適切に対処していくことができるような改正を目指していくという方針を確認するものとなります。
例えば、法改正により、離婚後の子の養育に父母の双方が関与する場合、配偶者に対するDVや子に対する虐待の可能性を配慮する必要があります。そこで、離婚をした後も、配偶者や子がDVや虐待にさらされることのないような仕組みを検討していくという姿勢を示しています。

第3 「第1 親子関係に関する基本的な規律の整理」について

1 改正の内容

第1 親子関係に関する基本的な規律の整理
1 子の最善の利益の確保等
⑴ 父母は、成年に達しない子を養育する責務を負うものとする。
⑵ 父母は、民法その他の法令により子について権利の行使及び義務の履行をする場合や、現に子を監護する場合には、子の最善の利益を考慮しなければならないものとする(注1)。
⑶ 上記⑵の場合において、父母は、子の年齢及び発達の程度に応じて、子が示した意見を考慮するよう努めるものとする考え方について、引き続き検討するものとする(注2)。
(注1)親の権利義務や法的地位を表す適切な用語を検討すべきであるとの考え方がある。
(注2)本文⑶の考え方に加えて、父母(子と同居していない父母を含む。)が、できる限り、子の意見又は心情を把握しなければならないものとするとの考え方がある。
2 未成年の子に対する父母の扶養義務
⑴ 未成年の子に対する父母の扶養義務の程度が、他の直系親族間の扶養義務の程度(生活扶助義務)よりも重いもの(生活保持義務)であることを明らかにする趣旨の規律を設けるものとする。
⑵ 成年に達した子に対する父母の扶養義務の程度について、下記のいずれかの考え方に基づく規律を設けることについて、引き続き検討するものとする(注)。
【甲案】
子が成年に達した後も引き続き教育を受けるなどの理由で就労をすることができないなどの一定の場合には、父母は、子が成年に達した後も相当な期間は、引き続き同人に対して上記⑴と同様の程度の義務を負うものとする考え方
【乙案】
成年に達した子に対する父母の扶養義務は、他の直系親族間の扶養義務と同程度とする考え方
(注)成年に達した子に対する父母の扶養義務の程度については特段の規律を設けず、引き続き解釈に委ねるものとする考え方もある。

2 親と子の関係について-「親権」と「親」という法的地位

第2の2で整理したように、民法は、親権者に対して、①子の監護・教育権(820条)、②子の居所指定権(821条)、③子に対する懲戒権(822条)、④職業許可権(823条)、⑤財産管理権・財産的法律行為の代表権(824条)といった様々な権限を与えています。
一方、子の監護・教育権を定めた820条は、以下のとおり定められています。

民法820条
親権を行う者は、子の利益のために子の監護及び教育をする権利を有し、義務を負う。

 民法820条は、平成23年の民法改正の際、「子の利益のため」という文言を加え、親権者は子の利益のために子の監護・教育をすべきことを明示するようになりました。
また、同改正は、766条1項に関し、「父母が協議上の離婚をするときは、子の監護をすべき者、父又は母と子との面会及びその他の交流、子の監護に要する費用の分担その他の子の監護について必要な事項は、その協議で定める。この場合においては、子の利益を最も優先して考慮しなければならない。」と下線部の文言を加える改正をし、子の監護に関する事項として面会及びその他の交流や監護費用(養育費)の分担を明示した一方、これらを定めるには子の利益を最も優先して考慮すべきことを明記しています。

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櫻井弁護士

これに加えて、民法は、834条以下で親権喪失・親権停止の制度を設けています。

その要件として「子の利益」を害するか否かが基準となっています。

「子の利益」のために定められている

以上のような民法の各定めから、親権制度とは、「子の利益」のために定められているということが読み取れます。
このように、「親権」と名付けられているものの、その内容は個人の尊重と未成年の子の監護養育義務という他益的な性格を伴うことから、親権とは、子を養育保護してその福祉を守るための、親に認められる特殊な法的地位と考えられています。
ところで、私たちの民法は、818条3項本文において、「親権は、父母の婚姻中は、父母が共同してこれを行う。」と共同親権の原則を定めていますが、私たちの国には法律婚をした上で親子関係を築いている家庭もあれば、事実婚をした上で親子関係を築いている家庭もあります。また、私たちの国は、現行法上、離婚をした場合、単独親権となることが定められており(819条1項)、親権を有しない親も存在することとなります。

「親」という法的地位と「親権」との関係

このような法の定めをみると、例えば事実婚の親と子との間や離婚後に非親権者となった親と子とのかかわりがどのようなものとなるのか疑問に思われる方も少なくないと考えます。
この点、私たちの民法は、親権者でなくても親と子の関係において、親が決めることのできるものとして、下記のものを定めています。

①未成年者の婚姻についての父母の同意(737条)
②子の氏の変更(790条等)
③特別養子縁組についての同意(817条の6)

 このように、仮に親が子の「親権者」でなくなったとしても、「親」という法的地位や「親子」であることに基づく子との法律関係は依然として存在することになります。
「親」という法的地位と「親権」との関係については、未だ整理が進んでいない事柄ですが、さしあたり、両者は別物であるということを理解していただければ十分といえます。

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事務員

親権がないからといって親ではないという関係にはならないということですね。

3 「1 子の最善の利益の確保等」について

1が述べているのは、親権を有しているかどうかにかかわらず、親として基本的に考えなければならないことについて検討を加えています。この場合の「親」とは、法律上の親子関係のある実父母及び養父母のすべてを含んであり、親権者や監護権者に限定されないと考えられています(部会資料19-2)。
⑴は、たとえ「親権者」でなくとも、親子関係を有する限り、父母は未成年を養育する責務を負うことを明文化しようという考え方です。「養育する責務」は、現実に世話をすることも含みます。

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櫻井弁護士

また、養育費を支払うことも含みますし、面会交流をすることも含みます。

⑵は、平成23年改正から明文において示されるようになっている「子の利益」を重視する姿勢を改めて確認するとともに、日本が批准している「児童の権利に関する条約(子どもの権利条約)」を背景として、子の最善の利益を重視する姿勢を明らかにしようとしています。

(参考)児童の権利に関する条約
第3条
1 児童に関するすべての措置をとるに当たっては、公的若しくは私的な社会福祉施設、裁判所、行政当局又は立法機関のいずれによって行われるものであっても、児童の最善の利益が主として考慮されるものとする。
第18条
1 締約国は、児童の養育および発達について父母が共同の責任を有するという原則についての認識を確保するために最善の努力を払う。父母又は場合により法定保護者は、児童の養育及び発達についての第一義的な責任を有する。児童の最善の利益は、これらの者の基本的な関心事項となるものとする。

⑶は、「子の最善の利益」を判断するにあたって、子自らが示した意見を考慮するよう努めることを明らかにしようという考え方です。現段階での試案は、あくまで「考慮するよう努める」という努力義務のような定め方を想定しており、子自らが示した意見が必ず決め手となるわけではありません。

4 「2 未成年の子に対する父母の扶養義務」について

2が述べているのは、未成年の子に対する親の扶養義務の程度をどのように考えるかということについてです。
私たちの民法において、877条1項は、「直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養する義務がある。」と定めています。このような義務の程度は、生活扶助義務扶養する義務を負う者が自己の生活を犠牲にしない程度で扶養権利者の最低限の生活扶助を行う義務)と言われています。他方、親子関係の扶養義務について、明文の定めはありませんが、親の子に対する扶養義務の程度は、生活保持義務(子が自己と同水準の生活を保持する義務)であると考えられています。
このように、未成年の子に対する親の扶養義務は、直系親族間の扶養義務よりも重いと解釈で考えられていますが、明文の定めはありません。
そこで、2⑴において、親の子に対する扶養義務の程度を明文化しようという考え方が示されました。
他方、⑵は、成年に達した子に対する扶養義務の程度についての考え方が示されています。⑵では、以下のように【甲案】と【乙案】の2つの案が示されています。

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事務員

なお、【甲案】と【乙案】の間に優劣はありません。

甲案 成年に達した子であっても、一定の場合には、父母は、相当期間は生活保持義務を負う
乙案 成年に達した子に対する扶養義務は生活扶助義務と同程度とする

【甲案】は、一定の場合には成年に達した子に対しても、引き続き一定期間は生活保持義務を負うという考え方です。例えば、令和4年4月から18歳以上が成人となったところ、令和3年の学校基本調査において、大学進学率が54.9%であることが分かりました。このように、新成人の2人に1人が引き続き学生生活を送っているのが現状であるにもかかわらず、単に成人になったからといって完全な1人立ちを求めるのは酷ではないかという考え方をすることができます。

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櫻井弁護士

そこで、【甲案】は、いまだ社会的・経済的に成熟していない子に対しても生活保持義務を負うことを明文で明らかにしようという考え方です。

他方、【乙案】は、成年になった以上、社会的・経済的には成熟したと考え、上記のように例えば大学生活を送る子に対しては、奨学金や社会保障といった制度で保障を図ればよいという考え方です。【乙案】においても、親の子に対する扶養義務がまったくないというわけではなく、他の直系親族と同様、成年に達した子に対して生活扶助義務を負うこととなります。

第4 まとめ

前注は、その位置付けにも示されているとおり、今回の改正全体の方針について言及しているものといえます。
特に、今後検討をしていく「共同親権」について議論を深めるにあたって、そもそも「親権」とはどのようなものなのかというスタートラインの考え方を一致させないと、何を「共同」していくのかの議論を進めていくことは難しいと考えます。
また、現行法下においても、配偶者によるDVや、親の子に対する虐待という問題が存在しているところ、改正の議論を進めるにあたっては、このようなDVや虐待からどのように他方配偶者・子を保護していくのか、その仕組みについても併せて考えていくことが重要であるといえます。
第1は親子関係に関する基本的な規律の整理を図っています。特に、第1の1では、前注に引き続き、「親権」とは何か、「親子関係」とは何かという根本的な概念の整理も求められているところですので、どのような議論が展開されていくのか注目すべきといえるでしょう。

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櫻井弁護士

次回は、「第2 父母の離婚後等の親権者に関する規律の見直し」について整理をしていく予定です。

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