子どもがするのは「扶養請求」、子どもと同居する親がするのは「養育費請求」。

内実は同じであるのに請求する者によって権利の呼び方が変わり、時としてこのズレがトラブルの原因となります。

 本記事では、

養育費の内容
養育費を支払わなくてもよい場合
父母間で養育費を放棄した場合や相殺した場合の効力

について解説していきます。

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櫻井弁護士

学校法人中央大学の法務全般を担当している中央大学「法実務カウンセル」(インハウスロイヤー)であり、千代田区・青梅市の「弁護士法人アズバーズ」代表、弁護士の櫻井俊宏が執筆しております。

1 養育費とは

 養育費とは、子どもが社会的・経済的自立をするまでに必要な費用のことで、生活費や教育費、医療費などが該当します。請求するのは子どもと同居する親(以下、「同居親」といいます)、支払うのは別居している親(以下、「別居親」といいます)です。

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櫻井弁護士

支払う側にしてみれば離婚した相手を援助している気になりますが、決してそうではありません。

離婚しても親である以上は子どもを扶養する義務があり(民法877条)、この義務は親権の有無とは関係ありません。本来であれば子ども自身が親と同等の生活を要求(扶養請求)することができるのですが、未成熟子の場合は同居親が子どもの代理となって別居親に「養育費」という形で請求するのが一般です。

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事務員

したがって、養育費とは子どものための費用であり、離婚した相手への援助ではないことをまず確認して下さい。

2 養育費はいつまで支払う?


 原則として子どもが成人するまで支払う必要があります。令和4年4月の民法改正によって成人年齢が20歳から18歳に引き下げられました。改正以前に「成人するまで」と約束しておれば、想定していた20歳まで、約束が改正後であれば18歳までということになるでしょう。

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櫻井弁護士

これに対して「大学卒業まで」「20歳の誕生月まで」という特別な合意が父母間でなされていたのであれば、それに従うことになります。

 大学卒業までと主張するためには、例えば、子供を大学に入れるという相談をしていたメールや、ファイナンシャルプランナーと子供を大学に入れることを前提に打ち合わせていたことを示す用紙等の証拠が必要となってくるでしょう。

3 こんなときは養育費を払わなくてもよい?

 養育費の額は父母間の話し合いで決められますが、その際参考となるのが裁判所の作成する養育費算定表です。

たとえば別居親の年収が400万円、同居親が200万円、14歳以下の子ども2人いるというケースでは、月額4万~6万円が養育費の相場です。もちろんこれと異なる金額の合意もできますが、支払う側にとっては軽くない負担です。

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櫻井弁護士

そこで、養育費を支払わなくてよい場合はあるのかについて見ていきましょう。

(1)離婚せずに別居している場合

 養育費は離婚後の子どもに対するものと、認知後の子どもに対するものの2種類があります。すなわち、婚姻が継続している間は「養育費」は発生しないのが原則です。

それなら支払わなくてもよいかというと、「婚姻費用」という名目で負担する必要があります。婚姻費用には子どもだけではなく、配偶者が自分よりも低所得の場合はその配偶者の生活費も含まれています。離婚が成立すれば配偶者への扶養義務がなくなり、子どもに対する扶養義務だけが残って「養育費」だけになるのです。

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事務員

したがって、別居中であっても離婚が成立するまでは、養育費相当額プラスα(上記の例だと6万~8万円)の支払いが続くことになります。

(2)離婚時に取り決めをしなかった場合

 父母間で養育費について取り決めをせずに離婚した場合はどうでしょうか?

 養育費が実際に必要かどうか、支払われるのであればその内容や方法について各家庭によって事情が異なるため、権利者が請求したときにはじめて養育費が発生するものと実務上は考えられています。このため、相手が任意に応じれば別ですが、過去の養育費についてまで遡って支払ってもらうことはできないのが原則です。

 そして「請求したとき」とは、対面や電話等で「払ってほしい」と伝えるだけでは不十分であり、調停や審判の申立てといった裁判所での手続き開始等の客観的に明確な意思表示が必要です。したがって、取り決めもなく、かつ、これらの裁判所の手続きもとられていない場合は、原則として過去の養育費の支払いに応じる必要はありません。

(3)同居親が再婚した場合

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事務員

子どもと同居している親が再婚した場合はどうでしょうか?

 

 同居親が再婚したというだけでは子どもに対する扶養義務はなくならず、別居親は取り決め通りの養育費を支払わなければなりません。ただし、再婚相手の収入によって子どもの生活水準が向上した場合には、養育費の減額・免除の可能性があります。この場合、同居親が合意してくれれば問題ないですが、合意してくれない場合は、一度養育費の調停等で養育費が定まったとしても、再度養育費の調停を提起して、話し合う必要があります。

 再婚だけでなく再婚相手との間で養子縁組がなされた場合は、養親が同居親とともに第一次的な扶養義務者となり、別居親の扶養義務は二次的なものになります。このため養育費の減額・免除の可能性がありますが、養親が働けないなど事情があれば減額すら認められない可能性もあります。

(4)自分がリストラされた場合

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事務員

別居親がリストラ等で収入が大幅にダウンした場合はどうでしょうか?

まったくの無資産・無収入や生活保護受給者、障害等により物理的に稼働が不可能といった場合は、別居親にも生存権(憲法25条)が保障されており、養育費の支払いは事実上困難でしょう。

これに対して、金額はダウンしたもののアルバイトや不労収入等で一定収入がある、不動産等の資産がある、今は無職だが年齢・健康状態・職歴からみて潜在的稼働能力がある(働こうと思えば働ける)といった場合は、減額はあっても免除される可能性は低いでしょう。

(5)取り決めをしてから5年を経過した場合

 父母間の話し合いで養育費の取り決めをした場合は、その時点から5年を経過すると支払い義務は時効消滅します(民法169条)

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櫻井弁護士

養育費は月払いが通常ですから、5年を経過した分が毎月時効消滅していくわけです。

 これに対して、調停や審判といった裁判所の手続で養育費の内容が決められた場合は、支払い義務の消滅時効期間は10年(174条の2)となり、裁判所外で合意した場合の倍になります。

一方、取り決めをしなかった場合は、3(2)で記した通り、請求されない限り養育費支払い義務は発生せず、したがって時効消滅というものもありません。

4 支払わないとどうなる?

 養育費の内容が具体的に決められているにもかかわらず、支払わなかった場合はどうなるのでしょうか?

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櫻井弁護士

 不払いそのものは犯罪ではありません。

しかし、債務不履行という民事責任が発生し、定められた期限以降の遅延損害金(3%、令和2年3月31日以前に取り決めていれば5%)も合わせて支払う必要が生じます。長期間不払いを続けていると思わぬ額になるかもしれません。

 また、取り決め内容を記載した公正証書、調停調書や審判書、養育費支払いについての確定判決がある場合は、強制執行が可能です。財産を差し押さえる前提として裁判所が「財産開示手続」を行うことがあり、これに応じなかったり嘘の内容を述べたりした場合には、「陳述等拒絶の罪」という犯罪になります。刑罰は6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金(民事執行法第213条1項5号、6号)です。

【参考記事】音信不通の元夫から養育費を差押・財産開示等で回収する方法

5 「養育費は請求しない」との合意はできる?

 「養育費はいらないから離婚してほしい」等、父母間であえて養育費不請求の合意をした場合はどうでしょう?

同じく子どもにかかる費用でも同居親が請求すれば養育費、子ども自身が請求すれば扶養料と、請求者によって異なります。したがって、父母が養育費不請求の合意をすることも可能であり、「騙された」「勘違いだった」等の事情がない限り、合意自体は有効です。

一方、子ども自身の扶養請求はこれとは別に考えなければなりません。不請求の合意をしても、面会交流がなくても、子どもは扶養請求ができます。が、任意に支払ってもらえなければ、結局、同居親が未成熟子に代わって養育費を請求するという形をとらざるを得ません。

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櫻井弁護士

その場合に問題になるのが、父母間の合意がどう影響するか、です。

古くは「扶養の権利は処分することができない」(881条)を根拠に端的に扶養請求を認めている例(東京高裁決S38.10.7)もありますが、近時は「その後事情に変更を生じたとき」は扶養について変更できるという880条を根拠として事情変化を求める例(大阪高決S56.2.16)、「子の福祉にとって十分でないような特段の事情」があってはじめて養育費請求を認める例(福岡家裁小倉支部S55.6.3)等があります。

現時点で最高裁の判断はありませんが、判例の流れとしては、合意当時の事情が変化し子の福祉にとって見過ごすことができないという状況でなければ養育費請求は難しいと考えられます。

6 養育費は相殺できる?

 離婚すると元夫婦の間で様々なお金が行き交い、養育費を負担する側にしてみれば、同じお金なら精算して支払いを簡素にしたいと考えるはずです。では、養育費で財産分与や住宅ローンを相殺できるでしょうか?

(1)一方的な相殺

 財産分与は婚姻中に得た夫婦財産の清算、住宅ローンは金融機関との金銭消費貸借契約に基づくものであるのに対し、養育費は子どもにかかる費用です。このように性質や債務者・債権者を異にする上、養育費は現実的な支払いが求められるため相殺が禁止(差押禁止債権 民法510条)されており、支払う側・受け取る側どちらからも一方的に相殺することはできません。

(2)相殺の合意

 「財産分与として学資保険の契約者名義を変更してもらう代わりに養育費は請求しない」「夫が住宅ローンを負担し、妻子が居住を続けるためその賃料と養育費を相殺する」等、父母間の合意によって相殺をすることは可能です。

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事務員

もっとも口約束だけではその後のトラブルの素です。

相殺条件だけでなく、不払いや第三者への譲渡等、あらゆるリスクに備えて弁護士等の専門家のアドバイスのもと、公正証書化しておくことをお勧めします。

7 まとめ

 養育費を含めて離婚条件をご検討中の方、養育費の変更をご希望の方、不払いでお困りの方、一度弁護士法人アズバーズにご相談下さい。

 

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