協議離婚とは、夫婦間の話し合いで離婚することです。当事者の合意だけで離婚が成立しますが、その手軽さゆえ、思わぬ落とし穴があります。離婚後に揉め事を引きずらないためには離婚協議書の作成が必須です。
本記事では、後悔しない協議離婚の進め方や離婚協議書の作成及びその公正証書化、さらには、問題が生じやすい養育費の決め方について紹介します。
学校法人中央大学の法務全般を担当している中央大学「法実務カウンセル」(インハウスロイヤー)であり、千代田区・青梅市の「弁護士法人アズバーズ」代表、弁護士の櫻井俊宏が執筆しております。
1 協議離婚とは
離婚には大きく分けて、裁判による方法と話し合いによる方法があり、協議離婚は後者にあたります。
⑴ お互いが合意すれば離婚理由は不要
裁判離婚は、民法770条1項で定める不貞行為や悪意の遺棄等5つの事由がない限り認められていません。これに対して、協議離婚は夫婦が合意すればどのような理由でも可能であり、さらに理由すら不要という点に特徴があります。
⑵ 相手が同意しない場合は証拠が必要
理由は不要ですが、夫婦の合意が必要であり、一方が離婚に同意しない場合には協議離婚はできません。この場合は、離婚を求める側がその理由や事実を話して相手を納得させ、同意してもらう必要があります。
ここで重要なのが証拠です。動かぬ証拠を示して相手の退路を断ち、婚姻生活の継続を断念させるのです。
証拠は数や種類が多ければ多いほど説得力が増すので、離婚話を切り出す前から周到に証拠を集めることが重要ですね。
2 協議離婚の進め方
離婚することが決まったら、次は離婚手続きです。
⑴ 協議離婚でありがちな後悔
① 後悔の原因
協議離婚は、離婚に合意した夫婦が離婚届に必要事項を記載し、役所に提出することで成立します。離婚するかどうか以外に、夫婦が決めなければならないのが未成年の子の親権です。離婚届には未成年の子の氏名を記載する欄として夫又は妻の欄があり、どちらの親権に服するかを選択する必要があるのです。未成年の子がいなければ離婚届提出までに決めることはなく、夫婦各自と証人のサインで終了です。
しかし、この「手軽さ」が後悔の元になるのです。とにかく離婚したいという一心で条件そっちのけで離婚を急ぐ場合や、逆に、条件をめぐって利益の対立が激しい場合に手続きだけを先に済ませて問題を先送りすることが原因と考えられます。
なるほど…その結果、必要な支払いが行われない、話し合うにも連絡すらとれないという状況に陥ってしまうのですね。
② 協議離婚の理想と現実
協議離婚は、離婚というプライバシーに国家が介入せず当事者の自主的判断に任せるという優れた制度です。しかし、それは当事者の対等性や離婚後のことについて誠実に話し合えるだけの理性があることを前提としています。
残念ながら、日本の離婚の現実は必ずしもこの前提を満たしているとはいえないのです。
⑵ 後悔しない協議離婚の進め方
では、後悔しないためにはどのように協議離婚を進めていけばよいでしょうか?
① 離婚条件の合意
まず、次の②で紹介する離婚協議書の記載事項について夫婦で十分に話し合う必要があります。離婚するかどうかの話し合いとは別に離婚条件についても話し合うのです。
離婚の合意と条件、話し合いの順序は夫婦によりけりですが、大切なのは、離婚条件を棚上げして先に離婚届を出さないことです。一旦離婚届を出してしまうと、離婚後、相手が話し合いに応じないどころか、音信不通になるおそれもあります。
お互いがヒートアップして話し合いにならない場合でも、別居等の冷却期間を置きながら着実に話し合いを進めていくことが重要です。
② 協議離婚書の作成
以下の離婚条件について記載した離婚協議書を作成し相互に取り交わします。口約束だけでは「言った、言わない」のはトラブルの元です。必ず書面にしましょう。
離婚条件 | 注意点 |
財産分与 | 夫婦の共有財産を分け合った内容を記載します。不動産や預金だけではなく、ローン等の借金も対象です。 |
慰謝料 | 慰謝料の支払いがある場合は、金額・支払方法・期限についても記載します。 |
年金分割 | 年金分割は婚姻期間中に拠出した年金を離婚後の夫婦で按分して不公平をなくす制度で、その割合を合意で決めることができます。 |
親権者 |
未成年の子がいる場合、離婚届を出すには必ず決めなければなりません。
|
養育費 |
通常、親権をもたない親が養育費を負担します。金額、支払方法、期間などを明確に記載しましょう。
|
面会交流 |
親権をもたない親が子どもと面会できる権利です。子どもに会う頻度や日時、場所、子どもの受け渡し方法等について記載します。
|
連絡 |
電話番号や住所の変更があった場合にはすみやかに相手に報告するという約束です。
|
清算条項 |
離婚後、離婚協議書に書かれた内容以外の要求をしませんという約束を表すものです。後のトラブル回避のために入れるべき項目です。
|
公正証書 |
作成した離婚協議書を公正証書にすることの約束を表します。後日、公正証書にしないと態度が変わった場合に備えます。
|
③ 公正証書の作成
離婚協議書が整えば、これを強制執行認諾文言のある公正証書にしておきましょう。公正証書とは、公証人という専門家が作成した公文書のことで、記載内容に法的効力を持たせることができます。
たとえば、協議書だけの場合だと、養育費が記載通りに支払われないときは、まずは訴訟を起こして勝訴判決をもらい、その後強制執行手続きをとらなくてはなりません。協議書は裁判上の有力な証拠にはなりますが、それだけでは執行力がないのです。これに対して、強制執行認諾文言のある公正証書があれば、裁判を起こすことなく相手の給与や財産を差し押さえることが可能です。
私文書である協議書とは異なり、公正証書の作成には費用がかかり、原則として平日の昼間に夫婦そろって出向くという負担はありますが、後々のトラブル回避のためには確実に作成しておくべきでしょう。
協議書を公正証書にしてから、ようやく離婚届を出すことになります。ここまでの努力と忍耐こそが、後悔しない離婚のコツです。
https://as-birds.com/media/divorce-16/
3 子にかかる「お金」の問題
離婚条件は「お金」をめぐる項目が中心ですが、中でも難しいのが子どもの養育費です。慰謝料や財産分与が過去の清算型であるのに対して、養育費は現在進行形でかつ未来に続くお金であり、協議当時の事情がその後も続くとは限らないからです。
そこで最後に、養育費の取り決めについて解説します。
⑴ 養育費は原則成人まで支払う
養育費とは、子どもが生活するのに必要な費用のことです。金額について相場はあるものの、一般的には養育費を支払う側の生活レベルと同等の生活を子供が送れるだけの金額と理解されています。
通常は子どもが成人するまで支払いが続きます。現行民法の成人年齢は20歳ですので、現時点で養育費の取り決めをする場合は20歳までを想定することになります。
令和4年4月1日以降は成人年齢が18歳に変わりますよね。その場合はどうなりますか?
令和4年4月1日以降に「成人するまで」と取り決めした場合は18歳までを想定することになるでしょう。法改正を目前に控えた現時点では、無用な争いを避けるためにも、単に「成人するまで」ではなく、「〇年△月まで」「□歳誕生日以降の▽月まで」というように具体的な数字を記載することをお勧めします。
⑵ 合意があれば「大学卒業まで(22歳)」とすることも可能
成人年齢は子どもが自立する目安に過ぎず、合意があれば「大学卒業まで(22歳)」とすることも可能です。
とくに両親が大学を卒業している、あるいは、身内の多くが大学出身であるといった場合は、子どもも大学に進学する可能性が高いといえるでしょう。大学卒業までの支払いは、親と同等の文化的な生活を送らせるという養育費の目的にもかなうことになります。
⑶ 養育費調停、審判
養育費を取り決めたが、その後に養育費を支払う側の経済状況が悪化した、逆に受け取る側の経済状況が好転した、又は子どもの進路に変更が生じた、といった場合のように、離婚後に事情が変化することがあります。
その場合、たとえ公正証書化していても、元夫婦が合意の上で養育費の内容を変更することはもちろん可能です。
ここでも、変更した内容を公正証書にすることを忘れないで下さい。
合意できない場合は、家庭裁判所で調停委員をまじえて話し合う「調停」、調停でも解決できなければ裁判官が判断する「審判」へと進んでいくことになります。
4 まとめ
後悔しない協議離婚をするには、離婚協議書を公正証書にしてから離婚届を提出することが重要です。
当事務所では離婚協議書の作成、公正証書化の手続き、協議への同席も手配しておりますが、個人で作成した協議書の点検も行っております。ご不明な点がございましたら、弁護士法人アズバーズまでお気軽にお問い合わせ下さい。