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賃貸マンションやアパートで「エアコンが壊れた」「給湯器が壊れてお湯が出ない」といったトラブルが生じた場合、大家さんや管理会社がすぐに対応してくれれば問題ないのですが、業者の手配や修理に時間がかかるので数日待つように言われるケースもあります。待つのは仕方がないにしても、「その間の賃料は減額してほしい」と考えるのは無理からぬことです。
2020年の民法改正で、賃借物の一部使用不能における賃料減額に関する条文の改正がありました。改正により借主優位に変わったのでしょうか?改正の内容や、減額の程度・要件について、国のガイドラインや裁判例を読み解きながら解説していきます。
学校法人中央大学の法務全般を担当している中央大学「法実務カウンセル」(インハウスロイヤー)であり、千代田区・青梅市の「弁護士法人アズバーズ」代表、弁護士の櫻井俊宏が執筆しております。
1 賃借物の一部滅失による賃料減額 賃料減額ガイドライン
2020年に民法が改正され、「賃貸借契約」では従来から判例によって積み重ねられてきたルールを条文化したものが多くなっています。「賃借物の一部滅失等による賃料の減額等」(611条)もその一つです。
⑴ 民法611条1項の改正~賃料減額を「請求することができる」から「減額される」に変更
貸主は借主に賃借物を使用収益させる義務を、そして、借主は貸主にその対価として賃料を支払う義務を負います。つまり、賃料は借主が適切に居住できることへの対価であり、破損等により物件が使用できなくなった場合には、その割合に応じて賃料が減額されることになると考えるのが道理です。
この点、改正前の611条1項では、この賃料の減額を借主が「請求することができる」としていました。つまり、借主側から「賃料を下げてください」と声を上げる必要があったのです。しかし、対価関係にある両債務において一方の履行が不十分であるのに、他方は全面的な履行義務を負い続けるのは不公平です。
そこで、2020年の民法改正で「減額される」という文言に変わりました。つまり、借主からの請求を待たずして、使用不能の割合に応じて賃料は当然減額されることになったのです。
なお、賃料減額の原因となる「一部使用不能」とは、物理的な破損だけではなく、設備の不具合によって物件の一部が使用できない場合も含みます。
⑵ いくら減額してもらえる?
では、具体的にいくら減額されることになるのでしょうか?
民法に明確な基準はなく、実際の裁判でも事案ごとに判断されるため、判例上の客観的な基準もないのが現状です。
そこで、ここでは公益財団法人日本賃貸住宅管理協会作成の「貸室・設備の不具合による賃料減額ガイドライン」を参考に賃料減額の目安を見てみたいと思います。
引用:公益財団法人日本賃貸住宅管理協会「貸室・設備の不具合による賃料減額ガイドライン」
ガイドラインの使い方
- A群に該当するか確認する。該当すればA群の賃料減額割合と免責日数に応じて計算をする。
- A群に該当しなければB群を確認する。該当すればB群の賃料減額割合と免責日数に応じて計算をする。
- 免責日数とは、迅速に修理・交換をしたとしてもかかってしまうであろうと考えられる日数を示す。
- 減額の算出方法は日割り計算で行う。
例1
月額賃料10万円、ガスが6日間使えない |
月額賃料10万円×賃料減額割合10%×(使用不能日数6日-免責日数3日)÷月30日
=1000円:減額合計
1000円÷3日(免責日数を除いた使用不能日数)=約333円:一日あたり
例2
月額賃料10万円、エアコンが10日間使えない |
賃料減額割合5,000円(1か月あたり)×(10日-3日)÷月30日
=約1,167円:減額合計
1,167÷7=約167円:1日あたり
上記ガイドラインは一応の目安に過ぎませんが、このように厳密に金額化すると、思ったほど減額されないという印象です。しかも、次に述べる減額ための要件もかなり高いハードルです。順次、見ていきましょう。
2 賃料減額してもらうには? 裁判例
賃借物の一部が壊れただけで、直ちに賃料が減額されるわけではありません。
⑴ 減額が認められる要件
賃借物の一部の滅失等により使用収益できなくなったこと、及び借主に帰責事由がないことが必要です。
① 一部使用不能の程度
どのような場合に「使用収益できなくなった」といえるかは、その程度が社会通念上の受忍義務を超えているかどうかで判断します。
つまり、ある程度はやむを得ないにしても、もはや賃貸借契約の目的を達成できないと認められる場合に賃料が減額されるのですね。
以下、賃料減額を認めた判例を紹介します。
事案 | 一部使用不能の内容 | 判断 |
雨漏り 名古屋地判S62.1.30 |
・2階部分(住宅)の少なくとも3分の2が使用不能 ・貸主は修繕せず |
賃料の25%の減額
|
窓の破損 東京地判H18.9.29 |
・窓のパッキンがずれ落ち、すきま風や眼前の鉄道騒音が部屋内に侵入した ・通知するも直ちに修繕が行われず、修繕完了までに1年半以上を要した ・その間、友人宅に居住せざるを得なかった |
賃料の50%の減額
|
換気扇の不具合や便器の故障による汚水の漏れ 東京地判H23.12.15 |
・台所の換気扇(油のこびりつき)、及び風呂場の換気扇(埃まみれ)、いずれもモーターの劣化により回転不足で機能せず、煙が充満して部屋にこもる状態 ・便器の取付け部からの汚水が漏れて排水溝まで茶色くにじんでいた |
月額賃料6万円から1万円を減額
|
設備の破損・不具合により建物の使用が物理的・時間的に阻害される割合が大きくなるほど減額の程度も大きくなる傾向にあります。
これに対して、照明器具の故障(東京地判H15.7.28)やエアコンの不具合(東京地判H15.6.6)については、修繕費用が軽微であること、社会通念上の限界を超えるほどの一部使用不能ではないことを理由に、賃料減額を否定しています。
② 立証責任
611条1項はさらに借主に帰責事由がないことを要件としています。ここでは、借主自身が、使用できなくなったのは自分のせいではないことを立証しなければなりません。自分のこととはいえ、「やってない」ことを証明するのは容易でないことに注意が必要です。
なお、実際に証拠となりそうなのは次のようなものです。
・契約書
・入居時及び問題発生時の現場の写真や動画
・他の居住者の証言
・会話のメモ、録音記録 等
⑵ 自動的に賃料が下がるわけではない
そういった要件にもかかわらず「条文にある以上、当然減額されるはずだ」と一方的に主張する借主もいるのではないですか?
そこで紛争回避の観点から、賃料減額に至るまでのおおまかな流れを、国土交通省作成の『民間賃貸住宅に関する相談対応事例集』に従って説明します。
① 契約書の確認
賃貸物が壊れた場合、借主はまず契約書の修繕義務に関する条項を確認します。仮に修繕はすべて借主負担という内容であれば、賃料の減額は問題となりません。
多くの契約書では、通常損耗、経年劣化で壊れた場合には賃主負担、借主の故意過失の場合には賃主負担となっていることが通常です。
② 借主から貸主への通知義務
修繕義務が借主負担でない限り、借主は賃借物の修繕が必要であることを遅滞なく賃主に通知しなければなりません(615条)。貸主がすでに知っている場合は通知不要です(同条但書)。
③ 現場確認
通知を受けた貸主は至急現場に出向き、破損や不具合の状況、及びその原因について確認を行います。その際、借主には貸主の理解を得るよう十分な説明が求められます。確認作業後、貸主は必要に応じて修繕業者の手配等を行います。
④ 協議、決定
貸主は修繕完了の目安をできるだけ早く知らせなければなりません。また、代替手段や代替品の提供が容易であれば、その旨を借主に説明して必要な対応を行います。
これらの対応を尽くしても通常の居住ができない場合に至って、はじめて賃料の減額について双方が話し合うことになります。
3 賃料を減額する具体的な方法
ここまで見てきましたように、賃料を減額してもらうには要件が厳格、しかも、苦労して証明できても多額の減額は期待できません。それならば、話し合いで穏便に済ませるルールを事前に設けておくのが借主にとっても好ましいでしょう。
具体的には、賃貸借契約書における特約です。主要な設備について一部使用不能事由を列挙し、それぞれの減額の割合や免責期間を契約書に定めておくのです。
賃貸借契約書は、通常貸主側が準備しますが、借主側から契約内容を提案しても問題ありません。締結前に契約書の内容をまずは確認し、一部使用不能による賃料減額についての規定が不十分と感じた場合には、その旨をしっかりと主張し、善処を求めましょう。
実際に賃料減額の交渉を行う際のコツを以下に解説します。
4 うまく賃料減額の交渉をするための弁護士流の方法
コロナ禍で多かった、賃借人の賃料減額請求交渉のコツをお伝えします。
賃料増減額の交渉は、基本的には強制的にできるという交渉材料があるわけではありません。
このことから,本当に
「出ていく気もある。」
という雰囲気を持って交渉にのぞみましょう。
もし単純に賃料を下げてもらうことが難しいのであれば、
「~月までで良いから,○○円にしてもらえないでしょうか。」
と期間を限定して交渉をしましょう。
ずっと下がったままでは賃貸人も嫌でしょうから、期間を限定すれば、下げてもらえる可能性もあるわけです。
コロナの影響等、支払いが難しい状況が長引きそうであれば、また再交渉すると良いでしょう。
もし、不払いになっても賃借人に居座られると、賃貸人が建物明渡を強制的に行うのはなかなか大変です。
裁判所に明渡請求訴訟を行い、強制執行という手続もしなければならないわけです。
少なくとも終わるまで半年ぐらいの期間がかかりますし、費用についても、少なくとも弁護士費用も入れると100万円ぐらいの費用がかかります。
このことを念頭において、賃借人の側では、賃貸人も「不払いになって居座られたら困るな」と思っていることを念頭において交渉すると、よりやりやすいかと思います。
賃料増減額の交渉がうまくいった場合「覚書」として、簡単にでもいいので、
「…の賃貸借契約につき、~月から賃料を○○円とする。」
という内容を記載し、日付を入れ、両者の住所・氏名を記載し押印しましょう。
5 賃料減額請求の調停・訴訟
賃料増減額の交渉がうまくいかず、賃料減額に関する通知を出した後、賃貸人または賃借人がその請求に応じてくれない場合は、裁判所に、賃料増減額請求の調停という手続を申し立てます(借地借家法26条の2)。
賃料増減額の請求については、賃貸借契約の両当事者という、これからも仲良くしていかなくてはならない同士であるので、いきなり裁判を行うことはできず、まずは話し合いベースの手続である調停を先に行う必要があるということになっています(調停前置主義)。
調停委員という2人の不動産の専門家が裁判官をサポートし、両当事者から意見・事実関係を聴きつつ、専門的な観点から、話し合いにより両者の合意を目指す手続です。
両者の意見が完全に一致すれば、調停成立となり、調停調書というもののとおりに賃料が設定されることになります。
この手続は不動産の件には珍しく、地方裁判所でなく、簡易裁判所で行います。
東京の件でも、霞が関の裁判所ではなく、錦糸町の簡易裁判所です。
そして調停はあくまで穏当な話し合いの手続ですから、この中で両者が同じ条件で合意できない場合には賃料増減額請求の裁判を提起することになります(借地借家法32条)。
この裁判内で、例えば30万円の賃料が裁判所の判決で適正ということになれば、内容証明郵便を送った時点、すなわち賃料減額の意思表示が賃貸人に到達した時点から、30万円という新しい賃料に変更されたものとして計算されることになります(最高裁昭和45年6月4日判例)。
この裁判の中では、通常、鑑定という手続が行われます。裁判所が不動産鑑定士に命じて、その不動産の賃料はいくらが適正額かを記載した専門的な鑑定書を作成させるものです。
これについては、不動産の規模や所在地により、100万円を超えるようなという高額の鑑定費用がかかることもあるので、この裁判を行う場合には事前に注意が必要です(鑑定費用は、最終的には裁判所がその費用を原告・被告に折半ないしそれに近いかたちで負担するよう命ずることが多いですが、一旦は鑑定を申し出る側が全額を立て替えて支払わなければなりません)。
この不動産鑑定士の鑑定書をもとに、裁判官主導で和解の話し合いが行われるのが通常です。
ここで、両者の賃料額に関する意見が一致した場合には和解調書というものが作成されます。判決と同様の効力があります。
両者の意見が一致しない場合には、裁判が進み、賃料額についての判決がでます。
減額の判決が出た場合はその新賃料を支払えば問題ありません。
内容証明郵便送付以降、支払っていた額と違う場合は,差額をどちらかが支払って調整するべきでしょう。
まとめ
611条の文言は変わりましたが、内容は改正前とさほど変わらないというのが結論です。むしろ、契約書の重要性が以前にも増したといえます。
賃借物の一部使用不能でお困りの方はもちろん、これから賃貸借契約を締結するが契約書の内容を確認してほしいとお考えの方、賃料増減額の請求の裁判をお考えの方も、賃料増減額の事案についての対応豊富な弁護士法人アズバーズまでご相談ください。