弁護士が入った場合に、本人の代理人として相手方に最初に送る書類が「受任通知」です。

「〇〇の依頼を受けて受任しました。… 以後は連絡する場合は当職宛にお願いします。」

というような内容です。この記事では、不貞事件の賠償請求の際の受任通知について、

・不倫をして賠償請求の受任通知が届いた場合
・不倫をされて賠償請求するために受任通知を送る場合

2つのパターンでそれぞれ解説していきます。

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中央大学の法務全般を担当している中央大学「法実務カウンセル」(インハウスロイヤー)であり、千代田区・青梅市の「弁護士法人アズバーズ」代表、弁護士の櫻井俊宏と同事務所所属青梅事務所支部長弁護士、菊川一将が執筆しております。

1 不倫をした側に相手弁護士から受任通知が届いた場合

不倫をした側に相手から受任通知が届いた場合まず不倫をした場合の受任通知の取り扱いと、その後の流れについて解説します。普通は請求する側からが多いですが、請求される側も、代理人を就けて交渉する場合に、弁護士が代理して送ることになります。

これが届くことによって、相手方本人に直接連絡をとることができなくなる効果があります。不倫をした側にこのような受任通知が届いたらどのように対処すれば良いでしょうか。

・不倫をしてしまった場合どのように受任通知が届くのか
・受任通知に記載された期限に間に合わなくてはならないのか
・慰謝料請求を受けた側が弁護士に依頼するには
・不倫をした側が交渉・訴訟をするのに注意する点は

ということについて、解説します。

1 不倫をした場合どのように受任通知が届くのか

不倫をした場合には、加害者宅に突然受任通知が届くことが多いです。
もし、いわゆる「ダブル不倫」をしていて、加害者本人にも配偶者がいる場合には、不倫の事実がバレて家庭崩壊を引き起こしてしまうので、困ったことになります。

このことから、もし不倫をした加害者がまずは被害者本人または代理人弁護士から電話を受けた場合、どうしても配偶者にバレたくない場合には、進め方が難しいので、弁護士に依頼された方がよいでしょう。

また、不倫をされた被害者は、自分の配偶者と不倫をした者の住所を知らない場合も当然あるでしょう。このような場合には、被害者の代理人弁護士は、やむを得ず、相手方が勤める会社の住所がわかる場合には、加害者が勤めている会社に内容証明郵便で受任通知を送ることもあります。
しかし、このような場合、「親展」で送るなどして、加害者といえども、できるだけ相手方のプライバシーに配慮した方が良いでしょう。

このように自分の勤めている会社に受任通知を送られると困るので、もし不倫をした加害者が、被害者本人または代理人弁護士から電話を受け、その際住所を聞かれた場合は応じておいた方がよいでしょう。

もっといいのは不倫した側も先行して弁護士に代理人依頼することかもしれません。そうすれば、今後の通知は弁護士の事務所の方に送って欲しいということを先行して相手方に伝えることができます。

いずれにしろ、不倫の件を穏当に解決するには、ある程度秘密裏に、スピーディーに解決する必要があるということです。

不倫の場合は、最初の受任通知において、請求額として300万円~500万円の請求をされるのがセオリーです(ただし、裁判だと、10%の弁護士費用も上乗せして請求されるのが通常です。)。本来的には不倫の慰謝料は100万円~150万円ぐらいが最終的に認められるのが多いですが、駆け引きのために、多めに請求するのが通常だからです。
このことから、最初は相手方も多めに請求していることを理解しているのが普通なので、100~150万円まで下げる交渉をすることも不可能ではないと思います。

しかし、被害者側に就いた弁護士によっては、加害者側に弁護士が就かない限り一歩も譲らないという強硬な態度を続ける弁護士もいます。このような場合は、自分で交渉しても平行線なので、加害者側も弁護士に依頼をせざるを得ないと思います。

2 受任通知に記載された期限に間に合わなくてはならないか

受任通知には、「7日以内」又は「14日以内に支払え」と書いてあるのが通常です。
しかし、この期限には法的拘束力はありません。一応期限を区切って伝えているに過ぎません。
これを守らないからといって不利になるということもありません。

期限を守らないからということで、相手方が裁判をしてくるとしても、普通はどんなに早くとも更に2週間はかかります。

弁護士に依頼するにしろ、なるべく早く行動すれば問題はありません。

もし弁護士に依頼することを決めている場合は、相手方代理人に電話をして、「弁護士を頼むことになったので、少々回答までお時間をください。」と丁寧に伝えて、弁護士に相談に行けば問題ありません。

無視したままでは、裁判をされてしまう可能性が高いので、良くないでしょう。

あと、残念ながら、弁護士が就いていてもその弁護士が怠慢で一向に連絡が来ないという場合もあります…
自分の依頼した弁護士がそのようなことであると、裁判を提起されてしまうので、注意が必要かもしれません。

3 慰謝料請求を受けた側が弁護士に依頼する場合は

不倫をした側がまずは「交渉」(裁判までいっていないケース)を弁護士に依頼する場合、着手金と呼ばれる初期費用は10万円(税別)が通常です。

報酬は通常、相手方の提案から減額できた分の16%です。

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なお、私達の弁護士法人アズバーズでは、不倫をした側の依頼の場合、この減額報酬割合を10%程度で受けることが多いです。
また、相手方が「800万円」とか「1000万円」とか過大な金額を請求している場合は、例えば1000万円の請求を交渉の結果、200万円に下げられた場合、800万円の10%の80万円の報酬は多いと思われるので、更にこの報酬割合のパーセントを下げてお受けする場合もあります。

この不倫をした側の依頼の場合は、証拠がきっちり揃っている必要があるわけではないので、事務所まで来ていただかず、電話だけでご依頼を受けることもできる場合があります。

4 不倫をした側が交渉・訴訟をする際に注意する問題は? 「そもそも不倫をしていない」という主張

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そもそも不倫をしていないという主張は、どのような場合にできるでしょうか。

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基本的には、性交渉があったということで初めて不貞行為となりますが、必ずしもそうとは限りません。

ラブホテルに入ったシーンを写真に取られている場合は、基本的に不貞行為がないという主張は通用しません。
裁判ではよく、「ラブホテルに入ったが性交渉にまでは至らなかった」という主張をする人がいますが、性交渉があったことが、裁判官により自動的に推認されるのが通常です。

キスや性交類似行為でも不貞行為と認定されるのが通常です。
行為の程度に応じて賠償額を減額するのは可能ですが、全面的に否定すると裁判を提起されややこしいことになるので、それは避けた方がよいでしょう。

手をつないで歩いていたことや深夜に面会したという事実はそれ自体が不貞行為というより、性交渉等の不貞があったことが推認され、不貞行為が認定された例があります。
(東京地方裁判所平成17年11月15日裁判例)
(東京地方裁判所平成25年4月19日裁判例)

「不倫したことを認めます。」と書いた誓約書のようなものしかない場合には、不倫をしていないという主張が認められる場合があります。
相手に強要されて、やむを得ず嫌々書いた場合も考えられるからです。
実際私達が追行した事件でも
「一緒にご飯を食べに行っただけでも『不倫』になると思った。」
という主張が認められた場合もあります。

ただし、愛情の感じられるメールやSNSのやりとりとか、どこかに一緒に旅行に行った証拠等、不貞行為を匂わせる付随的な証拠が出てくると、この場合は不倫があったと認められる可能性が高いです。

5 不倫をした側が交渉・訴訟をする際に注意する問題は? 「相手が既婚者であるとは知らなかった」という主張

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相手が既婚者であることを知らなかったという場合はどうなりますか?

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「ないことを証明する」というのは、「悪魔の証明」と言われ、基本的に難しいと言われています。
しかしこの場合には、例えばメールやLINEのやり取りで
「私は独身だから」
というように、明らかに独身だと騙されているようなやりとりがある場合等、普通に交際をしているだけと考えられるようなやりとりがある場合には、証明も可能でしょう。

「お見合いパーティーで知り合ったから既婚者だとは思わなかった」という主張を認めた東京地方裁判所平成23年4月26日裁判例もあります。

交渉段階でそのような証拠を相手方に示せば良いと思います。
本当に既婚者であることを知らなかったかどうか微妙な事案であっても「これでは請求できるかどうかわからない。」というレベルにまで思わせれば、高い弁護士費用をかけて裁判まではして来ないような場合も多いです。

そのような証拠がない場合は、法的な考え方でいくと、被害者側の方で加害者が「既婚者であることを知っていたこと」を立証するという建前なのですが、実務上は既婚者に不貞にあたる行為がある場合には、既婚者であることを知っていたという推定のもと、判断がされることが多いです。

6 不倫をした側が交渉・訴訟をする際に注意する問題は? 「被害者の夫婦関係が破綻していたという主張

夫婦関係が破綻していたから、性交渉をしていたとしても、不貞行為には当たらないという主張に関してはどうでしょうか。

まず「夫婦間に性交渉がなくなっていた」という事情だけでは、夫婦関係が破綻していたということにはなりません。
これが認められると、かなり多くの夫婦が破綻していることになってしまいます。
もちろん、破綻の一事情とはなりますが、あくまで一事情に過ぎません。

別居していることに関しても、それだけで夫婦関係が破綻しているということにはなりません。

要はこのような性交渉の存在や、別居しているかどうか等に加え、ひどい暴言や暴力があるか、財産的な助け合いがあるか等、夫婦を構成する事情を総合的に判断することになります。

幻冬舎のYouTubeで慰謝料請求等と合わせて離婚について解説しております。

2 不倫をされて賠償請求するために受任通知を送る場合

不倫をされて賠償請求するために受任通知を送る場合

1 受任通知の送付方法と効果

基本的に、受任通知の送付は、依頼者の方に事務所に来ていただき、依頼を受けた後、すぐに郵送かFAXで行います。
相手方の住所などが知れない場合は、例外的にメールや電話で伝えたり、変わりどころですとSNSなどで行うこともあるようです。

相手方に弁護士が就いていない場合は、通常、相手方から後で「届いていない」と言われないために、届いたことを証明することができる「内容証明郵便」等の書留の方式で送る場合が多いです。
特に、法律上の効果が発生するような内容が含まれている場合(例えば「消滅時効の主張をする」という内容)には、法律上の効果発生の事実を証拠で残す必要があるため、内容証明郵便で送ることになります。

この受任通知ですが、基本的な効果として、

「当該紛争に関する今後の連絡窓口はその代理人とする」という効果があります。

この効果は、相手方にも弁護士がついている場合や、相手方が貸金業者・債権回収業者であった場合には、法的な(あるいは弁護士倫理上の)「本人には連絡してはならない」という拘束力を持ちます。
債務整理事件で、弁護士が受任通知を送ると取立が急に止むのはこの効果によるものです(貸金業法21条)。

2 弁護士が就いていない相手方への対処法

では「相手方が貸金業者等でもなく、弁護士もついていない場合」はどうなるでしょうか?

この場合、上記の効果は、道義上の意味を超えた拘束力は持ちません。
そのため、弁護士が介入しても、相手方からの連絡が止まないこともあります。
ちょっと変わった相手方や、不安定な相手方、心に問題のある相手方に多い行動ですが、これ自体は直ちに違法な行為ではなく、強制力をもってやめさせることは困難です。

ただし、受任通知を送った後は、弁護士は依頼者に対し、相手方からの連絡は無視するように指示しますから、相手方からの連絡は無意味になります。

無視されているとわかっていてもなお連絡を取り続けようとする理屈の通じない相手方もいますが、このような場合には、相手方からの連絡を証拠に残すなどしたうえで、警察に相談にいくことをおすすめしています。
嫌がらせ目的での電話連絡の継続は、それが原因で被害者が病んでしまったような場合は刑事の「傷害罪」を構成する場合もありますので、警察が動く可能性があります。

また、このような相手方の行動は、控えめに言って常軌を逸しておりますので、続く何らかの裁判でも、相手方の心証が悪い状態に持っていくことができる場合があります(裁判官によります)。

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面白いことに、反社会的勢力に近い相手方ほど、被害者であろうが加害者であろうが、弁護士が介入した場合はきちんと対応してきます。
あまり変なことをすると問題になることを経験上わかっているのでしょうか。

反対に、被害者がいわゆる堅気の場合、受任通知を無視した行動をとりがちです。

「俺達の問題に介入してくるな」とは幾度となく聞いたセリフですが、これを述べるのは100%堅気の方です。
お気持ちはわかりますが、おそらくそうした態度や性格も紛争の原因の一端では・・と思わざるを得ないところです。

 

3 終わりに

相手方から弁護士を通じて受任通知が届いたら、とりあえず弁護士に相談・対応をアドバイスしてもらうことをおすすめします。

自分で突っ走ると、後々面倒なことになったり、自分に不利な結果になることがありますから、一度慎重になりましょう。

【2024.2.12記事内容更新】

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