こんにちは。弁護士法人アズバーズの所属弁護士、菊川です。
連日のように報道されている,野田市女児虐待死亡事件,本当に痛ましい事件だと思います。
本件では市が情報開示に応じたことの是非や,虐待というそれ自体の悪性,教育機関や公共機関の関与のあり方等々,問題にすべき点はいくつもありそうですが,ここでは「被害女児の母親が傷害罪の共犯で逮捕されたこと」に焦点を当てて法的な説明を試みます。
「見て見ぬふりは加害者と同然」「知ってて放置したなら共犯だ」という,考え方によっては一般の感覚に近いとも言いうる今回の逮捕ですが,法律理論的にお母さんに共犯が成立する理由を説明するとなると,少々難しい話になってきます。
まず,共犯とは,「共同して犯罪を行うこと」を指します。傷害罪の共犯であれば,典型的なケースですと複数人で傷害結果をもたらす暴行を加える行為が該当します。誰が見ても共犯と言えそうですね。
本件では,お母さんは,具体的に暴行や傷害に関与していたわけではない様子。
そうしますと,本件では,お母さんは暴行に関与していない以上,傷害罪の共犯を問うことは難しいような気もします。
しかし,「見て見ぬふりも加害者と同じ」は,感情論のみではなく,理論上も処罰されるべき場合が考えられます。
これは,法理論的には,「不作為による幇助」と言われます。ただし,どのような場合にもこれが該当するわけではありません。
例えば,道を歩いていてコワモテのおじさん二人が凄まじい剣幕で睨み合って,今にも殴り合いに発展しそうな現場に居合わせたときや,遠くの方で野外露出をしている人物を発見したとき,これを制止しないと共犯になるというのはあまりにもおかしな話です。
そこで,理論上(少し不正確ですが),原則として不作為による幇助は共犯を構成しないが,「保証人的地位」にあるとみられる人物の不作為は例外的に共犯とする,という扱いになっています。
これは,要するに,「具体的状況において,ある行為に出ることが条理・慣習・法令・関係性等によって義務付けないし強く期待されている場合」に,当該行為を行わなかった場合,共犯が成立しうるということです。
報道ベースの事実によると,お母さんは,女児に対する暴行がされているのを把握しながらこれを(理由はともかくとして)放置・見過ごしていたようです。
女児は10歳と幼いこと,お母さんは女児の保護者であり,女児に生ずる危険を排除すべき立場にあったこと,刑法上「保護責任者」と見られるべき地位にあることを考慮すると,「保証人的地位」が認められる可能性が高いと思われます。捜査機関は,この関係を見越して,お母さんの逮捕に踏み切ったのでしょう。
ただ,少し調べた程度ですが,どうもこのお母さんもDV被害者であったようです。そうすると,そのDVの程度や精神抑圧の具合,見過ごし以外のお母さんの関与の有無等の事情に照らし,共犯が成立しない可能性もありえます。
経緯はいずれにせよ,本当に痛ましい事件です。学校や公共機関の関与のあり方についても見直し・再検討が求められる気がします。