配偶者(夫、妻)の不倫が発覚した場合「直ちに離婚!」という方は少数派で、まずは不倫の交際関係を解消してほしいとお考えになる方が多いのではないでしょうか。
話し合いの結果、不倫関係を解消するに至ったならばよいのですが、別れると言いながらズルズルと交際を続けている、あるいは不倫関係解消を頑なに拒否するといった場合、配偶者と不倫相手との関係解消を、法的に強制させる方法があれば是非知りたいとお考えの方も多いでしょう。

今日は不倫解消に向けた法的な措置とその準備、そして弁護士がサポートできるポイントについて解説します。

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櫻井弁護士

学校法人中央大学の法務全般を担当している中央大学「法実務カウンセル」(インハウスロイヤー)であり、千代田区・青梅市の「弁護士法人アズバーズ」代表、弁護士の櫻井俊宏が執筆しております。

1 不倫(不貞行為)の法的位置づけ

「不倫」は一般的に用いられる言葉で、法律上の概念ではありません。不倫に似た言葉で法律上の概念として存在するのが「不貞行為(ふていこうい)」です。
不倫や浮気は意味があいまいで用いる人によって内容がさまざまであるのに対し、不貞行為はその内容や法的効果も定まったものです。

(1)不貞行為とは

不貞行為とは「既婚者が『配偶者』以外の『異性』と、自由意思で肉体関係を持つこと」です(最高判昭和48年11月15日

不倫や浮気が「キスやハグまで」を含むのに対して、不貞行為は肉体関係までが必要です。
ただし「キスやハグ」がまったく問題がないわけではなく、度重なる場合には不貞類似行為にあたるとして次の不法行為責任の対象になり得ます。

また、『配偶者』には内縁関係や事実婚におけるパートナーを含み(最判昭和38年2月1日)、『異性』とありますが、同性間の肉体関係についても不貞行為と認めた近時判例があります(東京地判令和3年2月16日)。

(2)不法行為責任

配偶者ある相手と不貞行為を行った場合、相手配偶者の平穏な家庭・婚姻生活の維持という法的利益を侵害したとして、民法709条の不法行為責任が成立します。

民法709条

故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

具体的には以下の要件が必要です。

①故意又は過失

不倫相手が既婚者であることを知っていたか、または、注意すれば知ることができたことをいいます。

たとえば不倫配偶者が自らを「独身」と説明し、相手がこれを信じるのも無理はなかったという場合には、故意または過失がないことになります。交際当初は既婚者であると知らなかったとしても途中で知るに至った場合は、以後、故意があることになります。

② 加害行為

不倫における加害行為とは、不貞行為のことです。不貞行為とは自由意思による肉体関係を意味すると述べましたが、具体的には性交渉、あるいはこれに類似する行為(口淫、手淫など)をいいます。

一回でも肉体関係があれば不貞行為にあたりますが、回数の多寡は慰謝料金額に反映されることになります。

③ 損害の発生

不貞行為によって平穏な家庭・婚姻生活を壊されたことにより受けた精神的苦痛が損害にあたります。

個々人の精神的苦痛を正確に推し量ることは困難であるため、不倫についての慰謝料金額については相場があり、実際の裁判の場面ではこれに従って運用されています。
一般的には、不定行為の頻度・程度、夫婦生活の長さ、別居や離婚に至ったかどうか等の要素によって、50万円~200万円程度が多いです。
「自分は強く精神的損害を受けたから1000万円の損害を受けた。」と高額の要求を相手方に主張をするのは問題ないですが、裁判では、ほとんど金額が上下することはありません。
【参考記事】不倫の慰謝料請求で過大請求をするのは弁護士費用がかさむ!?

④ ②と③の因果関係

不貞行為の結果、配偶者が精神的苦痛を受けたという関係が必要です。
したがって、すでに夫婦関係が破綻していた場合には不貞行為と精神的苦痛の間に因果関係は認められないことになります。
なお、この夫婦関係の破綻は、別居をしていれば認められるというわけではなく、結婚をしている以上は、夫婦関係破綻が認められるのは結構ハードルが高いです。
「冷え切った家庭」ぐらいではなく、「ほぼなにも、精神的、物理的に接触がない」ような状態が長く続いているような場合だと思っておいてください。

 

以上の要件を満たす場合には、不倫された配偶者は不貞行為両当事者(自身の配偶者も含む)を相手に、自己の精神的苦痛に対する損害賠償請求をすることができます。

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(2)離婚原因

日本では法定離婚のほかに、国際的にはめずらしい協議離婚が認められています。

協議離婚は夫婦の話し合いで離婚を決めるため、その理由に制限はありません。離婚する夫婦のほとんどが協議離婚を選択しますが、相手が応じない、連絡がとれないといった場合には法定離婚の方法がとられます。法定離婚は裁判所に離婚を認めるよう求めるもので、訴えを提起できる場合は次の5つに限定されます。

民法770条

夫婦の一方は、次に掲げる場合に限り、離婚の訴えを提起することができる。
一 配偶者に不貞な行為があったとき。
二 配偶者から悪意で遺棄されたとき。
三 配偶者の生死が三年以上明らかでないとき。
四 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。
五 その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。

このうち不倫を理由とする場合の多くは、一の「配偶者に不貞な行為があったとき」です。

また、肉体関係までは確認できなかったものの親密な交際をうかがわせる事情があり、もはや夫婦としての信頼関係は破綻していてこのような相手と結婚生活を継続できないという場合には、五の「その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」を主張することができます。

(3)不倫関係解消請求権というものはない

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 法律上、不倫が慰謝料請求の根拠となることや離婚事由にあたるということはなんとなくわかりました。でも、賠償や離婚よりもとにかく別れてほしい場合は、法的にどうこうすることはできないのですか?

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気持ちは分かるのですが、不倫解消請求権なるものは残念ながら法律上には存在しません。また不倫は犯罪でもなく(日本の刑法には姦通罪はない)、刑事罰を求めることもできないのです。

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明らかに人の道に反しているのにやめさせることができないんですか…不倫された側はどうしたらいいのでしょうか?

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 直ちに離別させることはできなくても、不倫関係解消に向けてプレッシャーを与えることで、事実上交際を終わらせることが可能になる場合もあります。

ではここからは、不倫関係解消に向けた活動について解説していきます。

 

2 不倫の交際解消を求めるために 証拠収集等の準備

不倫関係解消に向けて活動には、後述するように、内容証明郵便による通知や示談交渉がありますが、単に「別れてほしい」と表明するだけでは説得力がなく、そもそも相手が話し合いの席に着かない可能性があります。
こちらの言い分に法的根拠を持たせて主張としての合理性を強調し、相手の言い逃れを防ぐには、証拠が不可欠です。

(1)証拠集め

不倫関係を解消させる目的で証拠集めをするのですが、その際、慰謝料請求や離婚請求を目的とする場合の証拠集めのルールが役に立ちます。主張に合理性を持たせるためには、その証拠も法律のルールに沿った合理的なものでなければならないからです。

民事訴訟法上、立証責任は請求する側が負うのが原則です。
つまり、慰謝料請求する側、あるいは離婚したい側が、自分の主張を裏付ける証拠を準備しなければなりません。この証拠が不十分だと請求に根拠がないと判断されてしまい、敗訴の危険を負います。
したがって、交際解消を求めるためには、解消を迫る側で不倫に関する証拠を集める必要があります。

(2)役立つ証拠

証拠として重要であるのが、不法行為責任の成立要件である「故意または過失」と「加害行為」に関するものです。

「故意または過失」については、既婚者であることを知っていたかどうかがポイントになります。メールの履歴や録音会話の内容、不倫配偶者が日頃結婚指輪を装着していたことなどが証拠となります。

「加害行為」については性交渉の現場を目撃した場合やその様子を収録したデータが最も有力な証拠になります。

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生々しいですね…証拠を確保するだけで精神的ダメージを受けそうです。探偵にお願いしても有効ですか?

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もちろん有効です。そのような証拠がなくても、ラブホテルに出入りする様子を撮った写真や、ラブホテルの領収証、親密な関係をうかがわせる写真やメールなどを集めていくことで、不貞行為の存在を推認(不貞行為があったにちがいないと思わせる)させて立証していくことになります。

以上のような証拠以外にも、不倫配偶者の不審な行動を記録した備忘メモや日記も証拠になります。
また、不倫当事者の自白は有力な証拠です。証拠集めが難航した場合でも諦めずに不倫当事者から自白を引き出し、その内容を録音するとよいでしょう。

3 不倫の交際解消を求める方法【内容証明郵便 示談 手切れ金】

不倫を裏付ける証拠が揃った時点で、いよいよ不倫相手に交際解消を進言します。方法として内容証明郵便、そして示談があります。

(1)内容証明郵便による通知

まずは相手に内容証明郵便を送付します。単に口頭や手紙で交際解消を求めるよりも内容証明郵便による通知の方が「その後の法的措置も辞さない」という本気度が伝わり、相手も軽視できません。通知書には慰謝料請求する場合にはその額や支払い方法、また、金銭支払い以外の要求などについて記載します。慰謝料請求をする場合にはこの通知により請求する旨の意思表示をしたことの証拠となり、慰謝料請求権の時効消滅(3年)の期間進行を一旦6か月間止めることができます。

必ず、初めに送付するようにしましょう。

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(2)示談

①示談交渉の流れ

内容証明郵便による通知を行った後、相手から応答があれば、日時や場所を指定して交渉に入ります。
交渉は直接面会する以外にも電話やメールによっても可能です。電話などである程度話を詰めて、面会では書面にサインだけして終了という方法もあります。いずれの態様をとるにしても、冷静に交渉に臨むことが重要です。
面接交渉する場合には、相手の同意を得て信頼できる第三者(弁護士など)が立ち会うのが望ましいでしょう。

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ここまで準備をしてやっと不倫相手本人に別れるよう言えるのですね。

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そうですね。この交渉では、既に送付した通知書を読み上げて具体的な証拠を示し、不倫関係解消についても話し合います。具体的な証拠を示され、慰謝料請求の準備も整っている状況を目前にして、なおも交際解消を拒む人は多くはないはずです。

②手切れ金

頑なに拒む不倫相手に対しては、不倫解消を目的とする和解金、つまり手切れ金を提示する方法が有効です。

手切れ金については法律上の決まりはなく、受け取る側あるいは支払う側のいずれが提示してもよく、また金額も当事者が納得する額であればいくらでも構いません。10万円程度の場合もあるでしょうし、社会的地位が高く、不倫をしていたことをバレたくない人であれば、数千万円の場合もあります。
その目的もとくに限定はなく、他言禁止や、貞操義務違反に対する慰謝、不倫された配偶者が不倫相手に対して二度と会わないことを確約させることを目的とする場合もあります。
手切れ金は不倫解消に向けた任意の金銭支払いであり、受け取る側と支払う側の合意でその内容が決まります。

不倫相手が頑なに関係解消を拒む場合には、交渉の席に着く前に手付金を支払う意思があることを伝え、金額や条件について話を詰めておくのがよいでしょう。逆に手切れ金を要求された場合には、納得の上で支払うのであれば問題ありませんが、執拗な要求や難癖をつけてくるような場合には恐喝罪のおそれがあります。

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不倫した上お金まで要求するなんてなんという面の皮の厚さ…恐喝罪は立派な犯罪です。すぐに警察か弁護士に相談してください。

③示談書の作成

話し合いがまとまれば、その内容を記載した示談書を作成します。

示談書には当事者の氏名、不倫の事実、慰謝料あるいは手切れ金を支払う場合にはそれぞれの金額と支払い方法、さらに不倫当事者が二度と会わないことを約束させる接近禁止、これが破られた場合の違約金などについての条項を記載します。同じ内容の示談書を2通作成して相互に署名捺印し、保有します。

(3)強迫や強要は厳禁

合理的な証拠や念入りな準備もなく、感情に任せて不倫解消を迫ると、名誉棄損罪、脅迫罪、強要罪、業務妨害罪などで刑事告発されるおそれがあります。配偶者の不倫相手と交渉する際、感情的になるのが最大のリスクであることを肝に銘じましょう。

4 弁護士に依頼するメリット

不倫相手と直接交渉して示談を成立させるのに特別な資格は不要で、個人でも可能です。しかし弁護士に依頼すれば、次のようなメリットがあります。

(1)冷静な対応が期待できる

弁護士は交渉に入るよりも前から、専門知識および実績に基づいて必要かつ有利な証拠を、その収集方法も含めて指南することができます。また、交渉の場では第三者的立場からの冷静な交通整理を期待でき、「不倫相手には会いたくない」という方については弁護士が代理人として交渉にあたることで、一切顔を合わせないということも可能です。

(2)慰謝料請求まで含めた総合的なケア

示談書の作成はもちろん、交渉の結果得られた合意内容の実現に向けてもサポートします。
具体的には慰謝料請求が支払われない場合には執行手続き、接近禁止約束が守られていない場合には違約金の支払い請求なども行います。

5 まとめ

法律上「不倫解消請求権」というものはありませんが、さまざまな法的手段を駆使して、事実上不倫関係解消へと圧力をかけていくことはできます。
ただし、そのためには合理的な証拠と冷静な対応が不可欠です。

そして、最終的には、不倫相手が断念しない場合には、
裁判で慰謝料が認められる判決を得る。⇒それでもやめない場合再度の裁判を提起する。
ということを繰り返し、プレッシャーをかけ続けて断念させるしかないでしょう。
この場合、2度目の裁判の方が、不倫相手の反省がないと見られて、多くの賠償を得られる可能性が高いので、よりプレッシャーになっていくと思われます。

【2023.1.28記事内容更新】

 

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