お笑い芸人TKOの木本氏が、投資のために、信頼してお金を預けていた者にお金をだまし取られていたようですね。それどころか、他の芸人からもお金を出させて預けさせており、その総額がなんと7憶円超えとか!?
これは、美味しい話でお金をかき集めてほんの一部だけ配当を出す「ポンジスキーム」という詐欺の典型的手法で行われたと思います。

・一度渡したお金の取返しは困難!?
・ポンジスキームは詐欺罪で捕まりにくい!?
・芸能人等の有名人の名前を看板にする詐欺に注意!
・国際ロマンス詐欺、そして国内ロマンス詐欺にも注意!

について、詐欺被害の予防法を詳しく解説します。

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櫻井弁護士

学校法人中央大学の法務全般を担当している中央大学「法実務カウンセル」(インハウスロイヤー)であり、千代田区・青梅市の「弁護士法人アズバーズ」代表、弁護士の櫻井俊宏が執筆しております。

1 一度渡したお金の取返しは困難!?

本件で用いられた手法は、実に典型的な詐欺の手法があちこちにちりばめられています。

「投資」「ファンド」は典型的な詐欺の手法

まず、「投資」「ファンド」いうものを看板にしてお金をかき集めるということが、正に典型的です。
私も、事件上、「漫画動画の開発」とか、「ナマコの養殖」とか、「有名外国人アーティストの版権」とか、いろいろなビジネスを用いてファンドと称し、お金を集めてきた手法を見てきています。

詐欺とは、前提として、詐欺師達がお金を得ることが最終目的なのです。そして、実際には、得てしまえばどんな手段であってもとりあえず詐欺師の勝ちです。被害者から見れば、【渡してしまったら最後】ということになります。
ここは重要なので、まずは認識してください!

これに対し、この「お金を得てしまえばとりあえず詐欺師の勝ち」ということに関しては異論がある人が多いかもしれません。

①「預けたお金は儲け話が嘘だったら民事的に取り返せばよい。」
②「ただお金を得るだけじゃ刑事的に捕まるよ。」

この①「預けたお金は民事的に後で取り返せばよい」という発想を持っている人は、正に「詐欺師のカモ」と呼ぶのにふさわしいです。

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櫻井弁護士

はっきりと言います!預けたお金は簡単には戻ってきません。

お金を取り戻すのにも費用と手間がかかる

まず、高級な食べ物屋やキャバクラ等で散財されてしまって、詐欺者の手元にお金がなくなっていれば、当然取返しようがないからです。
また、だいたい詐欺グループでは、裏で暗躍する首謀者がいるのですが、その者の手に渡った場合も取り返せません。
更に、海外の預金口座に預けられてしまった場合も対処は難しいでしょう。いわゆる「ゴルゴ13におけるスイス銀行」ですね。

取り返すためには民事裁判で判決を得て強制執行を行わなくてはならないですが、裁判は、ひどい場合は事実関係等を争われて、2年はかかります。
その間に当然お金はなくなってしまいます。

しかも、強制執行をして取り戻すには、相手方の財産がどこにあるか(例えば、預金口座に場合には、どこ銀行のどこ支店に口座がある)ということを記載する必要があります。
そもそも、だまし取られたお金は、背後の首謀者の手元にわたっていたり、海外のよくわからない金融機関に送金されたり、暗号資産化されていたりすることが多いので、特殊な法的技術でなくては取り返せません。

もちろん、そのような高度な対応を弁護士がする場合には、かなりの費用がかかることになります。
また、そのようにお金を消される前に「民事保全」すなわち仮差押等を裁判前の早い段階で行うという手段があるじゃないか、という人もいます。この人は確かに法律を良く知っています。

しかし、民事保全は、実際はかなりのお金を担保として裁判に預けなくてはなりません(通常、取返したい金額の20%以上)。弁護士費用と合わせればかなりの金額となります。

結局、言ってしまうと、預けてしまった後でのお金の取返しは、時間・お金がかなりかかるのみならず、その可能性も低いと言わざるを得ないのです。
だから、最初に渡さないことが超重要ということになります。

2 ポンジスキームは詐欺罪で捕まりにくい!?

 

②の「お金を得ても警察に捕まるよ。」ということに関しては、正に題名にあったポンジスキームのお話になります。

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事務員

ポンジスキームとはなんですか?

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櫻井弁護士

「ポンジスキーム」というのは、例えば、「毎月30万円ずつ配当がでるよ。」という話をして、1000万円を出資してもらう方法です。天才的な詐欺師であった「ポンジ」という人が使っていた方法であるからこの名前であるそうです。

ポンジスキームとは

ポンジスキームを行うものは、例えば、最初の6か月間ぐらいは30万円ぐらいの配当を出します。しかし、それは、最初に預かった1000万円から一部をだしているに過ぎないのです。
いわゆる「自転車操業」のようなやり方ですね。
そして、その配当を出していた期間が過ぎると、急にその者と連絡がとれなくなります。
元出がなく誰でも行うことができる詐欺手法です。

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事務員

この木本氏の件でも、このポンジスキームが用いられた可能性が高いんですね。

詐欺の立証が困難?

更に、このポンジスキームが恐ろしいのは、最初のうちは配当を出していたので、詐欺師達に「運用して配当を出していましたが、途中からうまくいかなくなりました。」と言われると、最初から詐欺の意思があったかどうかは立証が困難であることです。
つまり、捕まらない場合が多いのです。
このことから、ポンジスキーム手法を用いられると、警察もなかなか逮捕はしにくいわけです。
これは、借りたお金を、最初の3カ月ぐらいは分割で返す場合も同じです。
実際に、告訴状を出して、告訴をしても、詐欺の故意が立証できないということを理由として、なかなか捜査をしてくれない場合が多いです。

警察も詐欺罪については、【最も社会的問題である犯罪の一つ】と考えてくれているので、他の犯罪の被害届提出や告訴よりは対応してくれやすいのですが、それは、例えば1000万円単位の被害がある場合などです。
なので、ネットのページであるように弁護士等を中心として「被害者の会」などを結成し、被害額を多くすることもある程度有効ということになります。

なお、詐欺師達の中では、数年後にお金持ちになれれば良いと考えている者もいます。すなわち、海外の金融機関等にだまし取ったお金を隠して、「お金はなくなってしまった。」と嘘を言い、懲役数年の刑を終えて、お金を手に入れて豪遊生活、という者もいるようです。

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櫻井弁護士

このことから、なお取返しは大変ということです。

何があってもお金は渡さないこと!

以上のことから、詐欺に対処するということに関して、一番大事なのは、『何があってもお金を渡さない。』ということです。
詐欺師側は、逆にいうと、なにがあっても渡させようと「今ならチャンスです。あと3日限定のキャンペーンです。」というようにせかして、なんとかお金を渡させようとします。
真っ当とされる販売業の執拗な営業活動もあまり変わらないかもしれませんね…

お金を渡してしまわないように、その際に作成される書面等をよくチェックしましょう。書面がないのは問題外です。
また、詐欺の典型的な類型を幅広く理解して、詐欺であることをいち早く察知できるようになりましょう。

先程出てきた1000万円預けたら月額30万円、というのは、いわば、年間利回り36%です。
一番効率が良いとされる、米国S&P500のインデックスファンドでも平均年間利回り7%なのであり、年間36%など考えられません。
詐欺でしかありえないのです。

美味しい話は疑え

それにしても、例えば投資などというものは自分でやればよいだけなのに、なぜわざわざリスクをしょって人にお金を預けてしまうのでしょう。不思議です。
美味しい話がある場合、むしろわざわざ他の人にその話はしません。
そのような話を持ち掛けてくる時点で、詐欺の可能性は高いと思うのが良いでしょう。

なお、この詐欺に対する刑事的な対処法としては、通称「振込詐欺救済法」において、詐欺師の口座を凍結させる手続があります。

手続自体はその口座がある金融機関への申し出をすれば行うことができる、非常に便利な手続なのですが、相手方が本当に詐欺師かどうかは自己責任で申し出る必要があるので、覚悟をもって行いましょう。

3 芸能人等の有名人の名前を看板にする詐欺に注意!

有名人の名前を看板とした詐欺は多いです。この意味で、木本氏の件も起こるべくして起こったといえます。

というのも、集団的な詐欺の典型的な手法として、有名人を看板として、その有名人の名前でお金を集めることが多いということです。
有名人もやっているからと信頼して、皆お金を預けてしまうということです。

このように、人は、有名な人もおこなっていると安心するのでしょう。このことから、海外のネットワークビジネス等では、超有名ハリウッド俳優や、スポーツ選手が協賛しているのが日常茶飯事のようです。

現に、ネットワークビジネスでもなく、詐欺でもないとは思いますが、2022年11月に破産することとなった仮想通貨取引所のFTXは、あの大谷翔平選手と大阪なおみ選手を広告塔としていたようです。
このようなスーパースターを新進のビジネスに掲げるのがアメリカの手法なのです。

本件も有名なTKOの木本氏だったからこそお金が集まったのであり、加害者も最初からそれを狙って近づいたといえるでしょう。
しかも、ちょうど最近、とある国会議員が暗号資産を宣伝するパーティ-に出ていたということで、これも詐欺的な暗号資産の購入者を募るために、詐欺集団が政治家という有名人の名前を使ったという可能性があります。

更に、大阪の寝屋川市議会議員は、自らの「市議会議員」という名前を信用のために利用して、詐欺を行っていたということで逮捕されましたね。
否認しているようですが、共犯者等の自白等が出れば、おのずと有罪となるのではないでしょうか。
その際には、実刑の可能性が高いと思います。

市議会議員などは、少し選挙運動を頑張れば、後ろ暗いところがあるような者でも当選することができる可能性があるので、要注意です。
現に、弁護士業をやっていると、実は訴えられている市議会議員といった人種は数多く見てきております。

有名人の名前や、有名な企業の名前を看板にする美味しい話こそ、怪しみましょう!

4 国際ロマンス詐欺、そして国内ロマンス詐欺にも注意

最近、国際ロマンス詐欺というものが増えているとのことです。投資詐欺の一種でもあります。
SNS等で、露出度の高い女性とか、人気があるのかなぜか軍隊に入っているという設定の外国人女性のアカウントで、日本の男に近づき、恋愛感情があるように装って、例えば「良い投資先がある」等と告げ、信じ込ませてお金を振り込ませるという手法です。男女逆もあるのでしょう。
日本人がやっていることもあれば、明らかに片言の日本語を使っている場合もあるので、外国人も行っているようです。
信じられない話ですが、怪しい外国人を装ったロマンス詐欺による被害は急増しているようです。なんとなく外国の人に好意をもたれるというイレギュラーなシチュエーションに舞い上がってしまうのでしょうか。
被害が増えているので、このロマンス詐欺についても、少し説明と注意喚起をしたいと思います。

詐欺の場合、一度お金を振り込んでしまうと、良く身元もわからない者達からの取り返しはとても大変ですが、これが外国人だった場合はなお大変です。
国外にいる者に対する訴訟は輪をかけて大変ですし、裁判に勝ったとしても、相手が払わない場合には、強制執行するための相手の財産調査はより大変だからです。

このことからすると、弁護士が国際ロマンス詐欺の取り返しについての営業を大々的にやっていますが、私はこれも懐疑的に見ています。着手金をもらって、ほとんど仕事をせず、「もうこれ以上は相手のことが調査できないから難しいです。」という感じでおさらばという構図ではないかと疑っています。
初期費用としての着手金が発生しない、完全成功報酬制の弁護士事務所の場合は良いでしょう。

 

なお、ロマンス詐欺というと、「国際ロマンス詐欺」ばかりがピックアップされます。しかし、これまで「国内ロマンス詐欺」といえるような事案もいくつか見てきています。

国内ロマンス詐欺事例の場合は、実際に会って、恋愛と同じような行為を行っていることが多いので、本物の恋愛との区別が難しく、騙されないようにするには格別の注意が必要です。
どのように注意すれば良いでしょうか?

まず、ロマンス詐欺は、お金があるところに群がります。
このことから、私が見てきた限りでは、相続で財産を受け取った直後、離婚の財産分与で財産を受け取った直後などに急激に近づいてくる異性等は注意が必要でしょう。

今まで見てきた事案では、女性が離婚で多額の財産分与を受けた後、保険会社の外交員の男が、その女性に近づきました。
女性が完全にその男の虜になった後、男は、その女性に対し、投資を進めてきました。
居酒屋チェーンをやるから、500万円出資してほしい、月々5万円の配当金を支払うし、最終的に出資金も支払われることになる、という話です。
しかし、そのような美味しい話などあるはずもなく、5万円が2回支払われた後、男はとんずらしてしまいました。
結局は、私達の方で依頼を受け、裁判・強制執行を行い、勤務先の保険会社の給与を差し押さえて、400万円程度までは回収することができました。

また、女性が受け取った相続財産を狙った男が、その女性と同棲し、口八丁手八丁でその女性の数千万円の預金を預かり、返そうとしないという事案もあります。その件では、相談のみだったので、どのようになったのかはわかりませんが、実際に同棲まで持ち込んで行われると、一緒に住んでいる者に対し突然裁判をするわけにもいかず、法的手続に踏み込みにくく、大変ですね、、

 

5 まとめ

その後、本件では、木本氏は、お金を預かった人達に対して、返す目処がたったということを言っているようですが、それ以来、新着情報はありませんね。
数億を返済するのは難しいことではないでしょうか。

私がこの記事で言いたいのは、
・お金を渡してしまったら、法的手続をしようともほとんど戻ってこないこと、
・美味しい話は向こうからは来ない、向こうからわざわざ来るのは危険が高い話であるということ、
・普通の人が思っているよりも、人のお金を違法な手段で得ようとしている人は多いということ、
です。
最近では、直接的に、お金がある人を見ると、その人からなんとしても1回お金を受け取り、返さないということをする人もいます。前述の国内ロマンス詐欺のような事案が正にそのような事案であると言えます。
また、本来到底その人が買えないような不動産を、謎の方法で金融期間から借り入れさせて買わせる不動産屋も複数見てきております。
そのようなケースは、破産するしかなくなってしまいます。

この恐ろしい現実は、弁護士漫画の「九条の大罪」最新7巻でも、ポンジ・スキームで4000万円だまし取られたケースとして掲載されていました。
その犯人を探すために、写真をSNS等のネットで公表するという、「WANTED」な方法もすごかったですが。
このようなアウトロー漫画を読むのも、自己防衛のために典型的ケースを抑えるため、有効だと思っております。

みなさん、とにかく詐欺には気をつけましょう!

【2023.1.12記事内容更新】

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