近時、オリンピックもあったことや大谷選手の活躍等で、スポーツの世界的な盛り上がりの中、スポーツビジネスは多様化し市場も拡大傾向にあります。
大谷選手は、ドジャースと1000億円を超える契約をしながら、後払い、利息なしというドジャースの経営をおもんばかった契約をしたこと、また、大谷選手の影響力で、多くの日本企業のスポンサーが就いたことにより、ドジャースに既に大きな利益をもたらしています。
中でも、企業とスポーツ選手個人との間で宣伝のために締結するスポンサー契約は選手・企業双方にとって大きな関心事でしょう。また、良いスポンサー契約は、スポーツと経済の活性化につながります。
最近では、チームではありますが、箱根駅伝出場校と企業がスポンサー契約を締結しているケース等も多いです。
我が中央大学の陸上部では、大矢運送という会社と、きらぼし銀行がスポンサーについています。
本記事では、
・スポンサー契約とは ・スポンサー契約の種類 ・スポンサー契約の注意点 ・スポンサー契約書 |
について解説します。
本記事は、中央大学応援団監督としていろいろなスポーツに関わっている、中央大学の法律顧問、千代田区・青梅市の弁護士法人アズバーズ代表弁護士、櫻井俊宏が執筆しています。
1.スポーツ選手と企業とのスポンサー契約とは?
スポーツ業界における「スポンサー契約」とは、スポーツ団体や選手等(以下、選手と言います)が、広告掲出や名称使用といった権益を提供することを約束し、これに対してスポンサーがその対価(金銭または物品)を提供することを約束する契約を言います。
選手とスポンサーの合意によって成立する契約ですが、両者にどのようなメリットがあるのでしょうか。
スポンサー
ブランドイメージの向上
一流スポーツ選手やスポーツチームには「人を惹き付ける力」があり、しばしば憧れの対象となります。
この人気に自社の製品やサービスを結び付けることで、ブランドイメージを向上させることができます。
消費活動への誘引
有名選手の動向は絶えず人々の関心を集め、その注目度は著名人以上かもしれません。
企業はこの認知度や想起回数を利用すれば、製品等の売り上げを伸ばすことができるでしょう。
社会貢献活動(CSR)のアピール
近年では環境問題や社会問題に対する企業の取組みが、Z世代と言われる若年層の購買行動に影響を与えることが指摘されています。
そこで、スポーツ団体等と協働して、スポーツの発展に寄与し、社会貢献を目指すことも企業の重要な責務と言えるでしょう。
選手
資金等の援助
選手が持続的に活動を継続するための支援が受けられます。内容は金銭供与、移動費や合宿費等の負担、ウェアや道具の支給など様々なものがあります。
トレーニング環境の確保
スポンサーが管理・契約している施設で選手が練習することもあります。
高水準のパフォーマンスを披露するにはより良いトレーニング環境が不可欠であり、選手にとっては最重要課題です。
知名度の向上
スポンサーの広告活動を通じて選手の知名度が上がります。有名選手はビジネスパーソンとしての地位を獲得し、若手選手であればスポンサーとの良好な関係を構築して今後の活躍の基盤にすることが期待できます。
このようにスポーツ選手等とスポンサーは、Win Winの関係を期待できるのです。
2.スポンサー契約の種類
民法上「スポンサー契約」という名前の契約はありません(そのような契約は「無名契約」といいます。)。そのせいか、簡潔な契約書を交わすだけで済ませてしまい、後日深刻なトラブルに発展するという事案も見られます。
そこで、まず誰と誰が契約するのか、そして当事者はどのような責任を負うのかを明確に特定する作業が必要です。
契約当事者
まずは当事者を確定させます。
【スポンサー】
・スポンサーとなる企業、団体、個人
【相手】
・選手個人
・スポーツチーム、団体
・選手やチームをマネジメントする会社(マネジメント会社にスポンサー契約を締結する権限があること)
契約の種類・性質
次に、当事者がどのような義務や制約を負うのか、スポンサーシップのうち代表的な契約をついてその内容とポイントを確認しましょう。
サプライヤー契約
【内容】
スポンサーが用具や備品など物品やサービスを選手等に提供する代わりに、選手等が使用する用具やユニフォーム、スタジアム、ウェブサイト等にスポンサー企業のロゴが露出されることを内容とする契約
【ポイント】
提供の数量に制限があるか、単純に市販の商品を提供するのか、選手の体形等にあわせてオリジナルモデルを作るのかといった点の確認が必要です。
請負契約・準委任契約
【内容】
・請負契約:試合を主宰する競技団体等が会場においてスポンサーが指定する看板を掲出するなどの「仕事の完成」を果たすこと
・準委任契約:スポンサーが準備した商品を来場者に配布するなどの法律行為以外の事務を競技団体等に任せること
【ポイント】
スポンサーランク(資金提供額による露出方法や優遇態様の差別化)や独占的スポンサー(一業種一企業のみ)といった制約の有無を確認します。また大会の中止や延期の場合における措置についても要確認です。
エンドースメント契約
【内容】
選手が企業の商品を実際に着用・使用することで、その知名度を活かして商品やブランド等の品質を保証し、消費者に広く推奨することを内容とする契約
【ポイント】
エンドーサー(選手)がスキャンダルに巻き込まれたり競合他社の商品を使用したりすると、企業の信頼性や商品の評判に悪影響を及ぼす可能性があります。
その場合は、多額の損害賠償の問題に発展するおそれがあります。また、エンドーサーの競技に対する専門性と推奨する商品に対する専門性が一致していない場合は、各当事者のイメージを損ないかねないため、綿密なリサーチが必要となるでしょう。
所属契約
【内容】
スポーツ選手が企業の所属選手(従業員ではない)となること
【ポイント】
スポンサー契約と似ていますが、スポンサー契約よりも両者の結び付きが強い契約です。複数年にわたって選手は企業に所属することで安定したサポート受けることができ、企業も選手が活躍すれば自動的に自社名が露出するというメリットがあります。
ただし、所属選手は複数の企業と契約を締結することができない、年間の出場試合回数を定められる、イベントの参加義務を課せられる等、通常のスポンサー契約に比べ負担が大きくなる場合がある点に注意が必要です。
3.スポンサー契約の注意点
スポンサー契約を締結する際に重要なのは、「契約書の内容が明確である」こと、「双方の権利と義務が明記されている」ことです。特に以下の項目は忘れずに明記します。
・契約期間 ・支払い方法と金額 ・知的財産権の扱い ・パンデミック等の不可抗力事象時の扱い |
さらに各当事者が注意すべきは以下の点です。
選手
・チームや所属団体の規約や契約と抵触しないのか
・自らの競技や練習に過度な負担とならないか
・自身のイメージが損なわれないか
スポンサー
・認知度向上や売上増進のためのスポンサー契約に合理性があるのか
・社会貢献活動の取り組みによって得られるメリットをどのように設定するか
・一種の「投資」であるスポンサー契約に対して、株主等ステークホルダーの理解が得られるか
4.スポンサー契約書の書き方 【スポンサー契約の雛形】
最後に契約書フォーム(雛形)を紹介します。
これはごく基本的な書き方ですので、実際には弁護士と相談して具体的な内容を詰めることをお勧めします。
スポンサー契約書 本契約(以下「本契約」という)は、以下の当事者間で締結される。 スポンサー(企業名) 所在地: [住所] 代表者: [代表者名] (以下「スポンサー」という) スポーツ選手(選手名) 住所: [住所] (以下「選手」という) 第1条(契約の目的) 本契約は、選手がスポンサーの商品・サービスをプロモーションすることを目的として、スポンサーがスポンサーシップを提供し、選手がこれを受け入れることを約するものとする。 第2条(スポンサーシップの内容)
第3条(選手の義務)
第4条(契約期間) 本契約の期間は、[契約開始日]から[契約終了日]までとする。 第5条(契約解除)
第6条(機密保持) 当事者は、本契約に関連して知り得た相手方の情報を正当な理由なく、第三者に開示してはならないものとする。契約終了後においても同様とする。 第7条(知的財産権)
ただし、選手は、スポンサーの商品・サービスのプロモーション活動の一環として、スポンサーのブランドやロゴを使用することが許可される。 第8条(不可抗力)
第9条(適用法および裁判管轄) 本契約は[国名]の法律に基づき解釈される。契約に関連する紛争が発生した場合、[裁判所名]を第一審の管轄裁判所とする。 第10条(その他)
署名欄 スポンサー代表者氏名: 署名: _________________________ 日付: [契約日] 選手氏名: 署名: _________________________ 日付: [契約日] |
今後、スポーツのスポンサー契約が増えて、企業とスポーツが活性化していくといいですね。
【2024.11.12記事内容更新】
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